今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

327 呼子(佐賀県)・・・朝市にイカを尋ねてつまみ食い

2011-03-27 23:54:07 | 佐賀・長崎
岬の突端に建つ宿だというのに、潮騒も風の音も響いて来ない。余りの静けさに窓を開けてみると、凪いだ海面を月光が照らしていた。冬至の夜の月はほぼ満月で、漆黒の空の暗さを際立たせている。対岸の岬には小さな集落と港があるようで、赤い灯火が海面に反射している。玄界灘とは荒々しい海に違いないと思い込んでいたのだが、実際は冬の夜がただ静かに過ぎて行くだけだった。ここは佐賀県唐津市の呼子(よぶこ)である。

一夜明けるとそこは、断崖の上の緑地なのだった。崖に添って「呼老連」の手になるらしい珊瑚樹の植栽が続き、丘陵の傾斜地を利用した遊具がクロマツ林に点在している。昨夜、海上に浮かんでいた月の位置よりやや東南の空が白み始めると、真っ赤な朝日が顔をのぞかせた。やはり対岸は小さな漁港であった。その向こうに印象的な山影が霞んでいる。振り返ると大きな残月が、光を失って留まっていた。焼骨の色が思い浮かんだ。

        

呼子とは珍しい地名のように思うが、それは私が東国の人間だからだろう。呼子といえばイカや朝市で、西国の人々には馴染みの深い漁港であるに違いない。地名の由来は諸説があって、遠来の私には解しようがないけれど、ここはそれよりまずイカである。日本人は世界一のイカ好き民族で、世界の年間イカ漁獲330万トンのうち、100万トンを消費しているというのだから。

かくいう私もイカは大好きで、煮ても焼いても結構だが、スルメでも塩辛にしてもイカならすべて歓迎だ。ただイカにはたくさんの種類があって、日本近海だけでも120種以上も分類されているということを「呼子のイカ」というホームページで知った。東京辺りで日常的に口に入るイカはスルメイカで、私はそれで十分に満足しているのだが、天下に名高い呼子のイカはヤリイカなのだそうだ。本当にそんなに味が違うのだろうか?

        

本当だった。宿に注文しておいた「イカ尽くし」の、なかでも活け造りは本当に美味かった。スルメイカよりずっと柔らかく、甘い旨味がしっかり味わえる。イカにしてはいささか高価ではあるけれど、美味いことはこの上なく旨かった。おいしいイカといえば、伊豆七島の神津島から持ち帰ったアカイカの塩辛も絶品だった。冷蔵庫に入れたまま失念していた瓶詰めが、賞味期限を過ぎてより熟成したのか、旨味のかたまりになっていた。

呼子のもう一つの名物、朝市に出かけてみる。日本三大朝市の一つなのだという。ちなみに三大とはどこかと尋ねると、能登の輪島と飛騨高山だという。三カ所目を房総の勝浦と呼子が競っているようなのだが、呼子では当然「ここが三大の一角」ということになっている。

        

港の岸壁道路をひとすじ山側に入ると、奇麗に舗装された道の両側に魚屋、肉屋、時計店、電気店、化粧品店などが並ぶ商店街が延びている。その店先を露天が陣取り、賑やかに朝市の開始である。露天のほとんどはイカやウニなど近海の海産物を並べている。漁師のおかみさんだろうか、逞しい体つきでウニを並べていた。入り江を挟んだ加部島を、暗いうちに出発して売りに来たのだという。都会では失われた生活感が、実にいい。

天然の入り江から船を自在に漕ぎ出し、倭人伝の昔から漁を続けて来た土地なのだろう。時には倭冦と恐れられ、秀吉の軍勢の先兵も勤めただろう。豊かな漁場の玄界灘で逞しい暮らしが続いている。(2010.12.22-23)
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