はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

白鳥のうた

2018-09-15 17:59:19 | はがき随筆


 白鳥は哀しからずや空の青
海のあをにも染まずただよふ
 中学の音楽の授業で若山牧水のこの歌を知り、とりこになりました。
 歳月は流れ、60代で趣味の大正琴の演奏に出会い、課題曲の一つが白鳥の歌でした。私は思いを込めて一生懸命取り組みました。
 中学以来六十余年、毎日新聞の地域面が宮崎、鹿児島と合同になり、宮崎生まれの若山牧水への思いが強くなりました。
 幾山河越え去り行かば寂しさの 果てなむ国ぞ今日もたびゆく
 9月17日は牧水の90回忌ですね。
 熊本県玉名市 大村土美子(79) 2018/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載

神のお導き

2018-09-15 17:51:23 | はがき随筆
 夫が「体のどこそこが痛い、お陀仏が近い」とこぼす。「それは皆一緒」。気合いを入れて励ます私。生き方上手は、目前の課題を先送りせず、解決を急ぐこと。昨今のニュース、事件や事故の多さに驚愕する人々。「この世に神様は?」と疑問を持ち、哀願して祈る。神は人様優先にて、善意を施す人の心に宿る。やがて自然と悩み事も消え、幸運に恵まれる。これぞ神の助けと考える。人から嫌味を言われて立腹する事もあるが、報復は逆効果。いずれ相手が反省する時はくる。神の導きだろう。思いのままの発言は控えた方が大事とわが胸に刻む。
 鹿児島県肝付町 鳥取部京子(78) 2018/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆8月度

2018-09-15 17:41:11 | はがき随筆
月間賞に窪田さん(宮崎)
佳作は柏木さん(宮崎)
久野さん(鹿児島)
増永さん(熊本)


はがき随筆の8月度月間賞受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】16日「特攻飛行機の思い出」窪田恵子=宮崎県延岡市
【佳作】6日「肥薩線真幸駅」柏木正樹=宮崎市
▽29日「幸福感」久野茂樹=鹿児島県霧島市
▽21日=「翁長知事を悼んで」=増永陽=熊本市中央区

 「特攻飛行機の思い出」は、一編の小説を読むような、象徴的な余韻とを感じさせます。特別攻撃隊に編入された子息の出撃を畑から見送りたいと、一人暮らしのご婦人が言ってこられた。やがて出撃のとき筆者の家族と共に旗を振って見送られた情景、その後の空襲、そして連絡のとれないその方、どの一こまをとっても戦争の悲劇以外の何物でもありません。私たちを襲う人生の不条理さについて考えさせられる文章です。
 「肥薩線真幸駅」は、日常生活の中のちょっとした出来事にも、幸福感をもてる楽しみが書かれています。知人に誘われて、JR肥薩線28駅の中で唯一宮崎県にある「真幸駅」に行ってみた。驚いたことに、その駅名は自分の名の「正樹」と音読みが一緒だった。それに「幸せの鐘」まで備えてあったので、少しの幸せを願って、鐘を二つ鳴らして帰ってきた。人々の喜怒哀楽のこもった「古い駅舎」が無くならないといいですね。
 「幸福感」は、病院で見かけた心温まる光景が描かれています。介護施設のヘルパーさんに車椅子で連れてこられた老女が、ヘルパーさんのエプロンに、「幼女が、母親に甘えるように」頭を預け、それを許す「清楚な女性」との穏やかな光景。昨今、被介護者の介護者へのハラスメントが報道されていますが、「心に満ちてくる幸福感」に包まれた筆者の気持ちに同感できます。
 「翁長知事を悼んで」は、翁長前沖縄県知事への追悼の文章であるとともに、沖縄の状況へのどうしようもない怒りが籠められています。沖縄の抱えている不条理と不平等に対して、前知事は、その解決に向けて命を賭して戦った政治家として、歴史に名を残すだろうとう評価です。たしかに閉塞化している今の社会に、ある種の風穴を開けるのではないかという期待をもたせる存在でした。
 この他、日高達男さん「健気に振り子時計」、竹之内美知子さん「花束との出会い」が、記憶に残りました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

思い出

2018-09-15 17:09:21 | はがき随筆


 春に植えたトマトが熟れ、調理しながら遠い日を思い出す。終戦の翌年、小学5年生でまだ疎開してきた同級生が数人いた。食糧難で学級園にはトマト、キュウリを植え、成長を観察しながら収穫を心待ちにした。当時肥料は町道に荷馬車が通った後、あちこちに馬糞が落ちていたのを、2人1組になって、掃除用のざるやちり取りを持って拾い集め、トマトの畝に入れた。赤く熟れたとまとがたまると、先生はくし形に切ったトマトにソースをかけ、それを皆で食した。そのおいしかったことは今も忘れない。このシンプルな食べ方は今も私は好き。
 鹿児島県出水市 年神貞子(82) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

スマホ

2018-09-15 16:58:08 | はがき随筆


 「変えなきゃよかったね」
 「おまえが欲しがるからだ」
と言われるかと思ったが「うん、わからん」とだけ。あとは黙ってスマホとにらめっこの夫。2年前、金婚式を迎えて何かに挑戦とスマホに変えてみた。
 わからないまま操作しながら、わかったことは教えあおうとお互いの成果を期待するも、なかなか進歩はなかった。
 そして2年が過ぎた。そろそろ内蔵電池も寿命みたいだ。
 夫も私も現状は電話とメール中心である。高額の利用料も考えると、また元の機種に戻そうか迷う日々である。が、戻るのは後退みたいで癪である。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(74) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

たのしい音読

2018-09-15 16:52:17 | はがき随筆
 毎週日曜日を楽しみに待っています。日曜日の別刷り「日曜くらぶ」の時代読み物、逢坂剛さんの「道連れ彦輔居直り同中」です。楽しいし深井国さんの挿絵は大好きです。
 読んでいるうちに絵の中から主人公の彦輔や藤八やりくの旅姿が飛び出して声が聞こえるようです。松林の海辺の音が聞こえ、波打ち際の舟がゆれてるように見えます。絵に吸い込まれる感じです。素晴らしい絵を鑑賞できるのがとてもうれしい。
 岩田専太郎さんの絵に夢中になった青春時代を思い出しました。絵は不思議な力があるように思います。
 熊本県八代市 相場和子(91) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


2人の78歳

2018-09-15 16:44:25 | はがき随筆
 「人生七十古来稀」と言われた時代はいつのことであったのだろう。自分もそれに近い年齢になり、さて、どう生き続けていくか問う日々が続く……。2人の78歳の生きざまを最近ニュースで知る。一人はあるスポーツの組織の会長である。まさしく昭和時代の悪しき習慣、そんたくを引きずり権力を保持した人である。もう一人は平成の時代に根付いたボランティア精神の塊みたいな人で、3歳の幼児を救出した男性である。
 この2人が同年齢とは皮肉なことであるが、この二つの事件が、社会貢献への道しるべを教えてくださったと思慮する。
 鹿児島市 下内幸一(69) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


停留所の光景

2018-09-15 16:37:21 | はがき随筆
 家の近くのバス停は総合病院内にあり、さまざまな光景を見る。特に高齢者のご夫婦をよくお見かけする。
 パスを降りるや、やっと歩かれるご主人を尻目にさっさと車椅子を取りに行かれる奥様、2人で車椅子置き場に行かれ座布団を敷いて座り心地を確かめながら奥様を車椅子に案内されるご主人らさまざまである。
 どのカップルも素敵なことが分かる。さっさと行かれた奥様はご主人を早く車椅子に乗せて楽にしてあげたいことが一番の気配り。乗せた笑顔で分かる。
 長い思いやりの積み重ねの上に成り立っている阿吽の夫婦。
 宮崎市 杉田茂延(66) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


猛暑の老年太り 

2018-09-15 16:31:13 | はがき随筆
 左手親指と中指で右手首を軽く握れていたのが、難しくなった。体重計に乗ったら、なんと2㌔増。猛暑、酷暑続きのこの夏、老年太りとは……。
 太平洋戦争時を腹ペコで過ごした世代。今でも食べ物を残すなど罪悪感さえある体質が染みついている。そのおかげで暑さの中でも食欲は落ちず、むしろ筋肉が増えたらしい。
 内臓脂肪、高血糖などの言葉がちらつくものの、特に不調も感じないし、まあ放っとくか。何かにつけて目減りするばかりの年金暮らし。人はぜい肉と笑うかも知れないが、悪くない、と開き直る。
 熊本市東区 中村弘之(82) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


挑戦する心

2018-09-15 15:57:30 | はがき随筆
 「高齢になったら新しい事に挑戦しよう」との標語がある。
 この言葉に少々触発され絵筆を握る。はがき大の用紙に絵を描き言葉を添える。絵てがみとは画法が異なるので、私自身は「はがき絵」と呼ぶ。
 このはがき絵をみんなの広場欄へ時々送る。掲載されると創作意欲は更に増す。不採用だとどこが不備だったのか自己診断をする。これが難しいのだが自分なりの結論に至らないと、次へとつながらない。
 はがき絵を送り始めて2年弱。まだまだ初心者だ。壁は高いが楽しい気分に挑戦する心を混ぜながら、絵筆を動かす。
 宮崎県延岡市 源島啓子(75) 2018/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載


やれやれ

2018-09-15 15:51:03 | はがき随筆
 夏休みである。孫娘は18歳、長身でやや美形。一緒にデパートに出かけた。
 まずは化粧品売り場へ。「今が一番きれいな時なのよね」とつい一言。ピカピカの素顔はみるみるうちにどこへやら。大きめの口は流行のピンク色でより鮮やかに。
 グリーンのタイトスカートは裾にスリットがある。即座に「座るときはお膝に注意よ!」と口に出る。
 昼になった。さながらスマホ行列だ。やっと好きな中華を食べ、コップにべったりと口紅の跡を残して家にたどり着いた。
 熊本市中央区 木村恵子(87) 2018/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載


月と西郷星と

2018-09-15 15:42:22 | はがき随筆
 真夜中の心地よい冷気をまとい空を見上げる。明るいのは、あんなに近い距離でレモン色の火星がおしゃべりしているからだろう。おおらかでのどかで心が安らぐ。
 それにひきかえ、わたしたちの星は騒々しい。弱い人をいじめたり、核を盾におどし合ったり殺し合ったりしている。自然が憤りをあらわにしはじめたようで、この星ぶっこわれてしまう。かぐや姫さん、西郷どん、どうにかならない? 困ってるの。
 ブツブツ愚痴ったら、西郷星と月がカラカラと笑った。温かい響きがテレパシーで届いた。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(81) 2018/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

彼のとんだ災難の日?

2018-09-15 15:27:18 | はがき随筆
 施設にいる母にふんわりしたのを着せたいと、コインランドリーを使っている。その日もホカホカの洗濯物を取りこんで帰ろうとすると「奥さん使い方がわからんので、教えてください」。初老の男性から声かけられた。1人で不安だったらしい。
 「あら~大変でしたね。まず布団の重さを洗濯します。ドアレバーでロックしたら100円を10枚入れてスタートボタンを押します」。知ったかぶりで実演した。「まだ何も入っていないのに……」と彼の声。「あっ」既にドラムの中は泡だけが勢いよく回っていた。同時に何度も何度も頭を下げる自分がいた。
  宮崎市 津曲久美(60) 2018/9/9 毎日新聞鹿児島版掲載