はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花の名で脳トレ

2015-10-27 16:41:38 | はがき随筆
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 ピンクと黄色の花が隣り合わせで咲いている。昨年カミさんに教わって覚えた花の名前が出て来ない。「あのピンクと黄色の花は何ていう名前だっけ」と聞いて見た。「あれはね、ピンクの方が……ええと、ちょっと待って、あれ、出てこない」
花のことはなんでも聞いてと豪語するカミさんが空を見上げた。「じゃあ黄色の方は?」「あーあ、黄色も忘れたみたい」。直ちにパソコンで調べた。ピンクが「ベラドンナリリー」、黄色が「パキスタス・ルテア」と分かった。ところが1時間たったら忘れていた。花の名で脳トレ本格化の老夫婦でした。
 西之表市 武田静瞭 2015/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載

画像は武田さんのブログより

しぶとく生きる

2015-10-27 16:41:15 | はがき随筆
 芸能界のみならず、身近なところでも訃報が相次いだ。
 年頭、近しい友人のご主人が亡くなった。持病はあったものの、突然のことだったらしい。
 3月に人間ドックを受けた私は、初めて肺に影があるので要請密と言われた。3度も4度も検査を受け、やっと経過観察となった。父の家系にがんが多いので「いずれは私も」と思っていたが、いざとなると弱気になる自分がいた。
 更に、9月に2人の悲報に接し、たまらなく落ち込んだ。
 健診だけは毎年受け、とりあえず(でよいから)元気で生きていこうと思ったのである。
  鹿児島市 本山るみ子 2015/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載


蝸牛

2015-10-27 16:40:26 | はがき随筆
 華奢な見かけの割に蝸牛は強い。鋭い歯は、根葉どころか、コンクリートまでかみ砕く。長い触覚を左右に振りながら前進する姿は大名行列の露払いのようだ。
 乾燥した日が続くと、殻口に障子紙のような膜を下ろして雨を待つ。晴読雨耕が身上だ。
 紫陽花の季節限定のイメージがあるが、意外なほど寿命も長い。我が家の蝸牛は同時期に飼い始めた青虫よりもカブトムシよりも長生きしている。
 それでもカルシウム製の殻はもろく、道ばたで踏みつぶされているのを見かける。蝸牛の天敵は人間なのかもしれない。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/10/25

さようなら母校

2015-10-27 16:39:52 | はがき随筆
 鰯雲の浮かぶ秋の日。母校泊野小の閉校運動会に、卒業後56年ぶりに恩師と教え子が集まった。運動会が懐かしく「サシカブイ ジャッタナー」とわんぱく坊主とおてんば少女の封印されていたものがどんどん開封された。師を囲んでの昼食では、先生が、「私の力不足で何も教えることはできなかったが、皆さんがこうして仲良き事は教師として幸せいっぱい」とご高齢の目に涙がにじんでいた。すると誰ともなく「♪兎追いしかの山~」の大合唱。
 母校は137年の歴史に幕を下ろすが「ふるさと」への郷愁を改めて強く感じた。
  さつま町 小向井一成 2015/10/24 毎日新聞

はがき随筆9月度

2015-10-27 16:34:41 | 受賞作品
 はがき随筆の9月度月間賞は次の皆さんです。

 【優秀賞】4日「風雪」伊尻清子=出水市武本
 【佳作】17日「象形文字」堀之内泉=鹿児島市大竜町
 ▽23日「彼岸花」古井みきえ=札幌市東区


 「風雪」は、義父が植えた榊の木を見ながら、30歳で硫黄島で戦死した義父や、その後の家族の苦節の70年を思いやった文章です。昨今まるではやり言葉のように戦後70年といいますが、その中にはいろいろの悲しみが多く籠もっていることを考えさせられます。
 「象形文字」は、息子の書いた「見」の字が昆虫みたいに見えるという、面白い発見です。成長して、まともな(?)字を書くようになるだろうが、象形文字さながらの字を書く感性は持ち続けていてほしいという、親心あふれる文章です。
 「彼岸花」は、子どもの頃は、矢筈岳から不知火海へ流れる米ノ津川の近くで育った。とくに彼岸花には思い出がある。死者は還って来ないという親鸞上人の教えもあるが、彼岸花にはなぜか両親の笑顔が見えるという内容です。彼岸花は何かを感じさせる不思議な花ですね。
 この他に3編を紹介します。
 的場豊子さんの「えべっさあ」は、いつも笑顔で怒った顔を見たことがない恵比寿さまのような方が、94歳で亡くなられた。最期は周囲の人に感謝の言葉を残されたと聞く。このような最期に憧れる一方、別の最期を望んだり、迷いの多い人生ではあるという内容です。
 竹之内美知子さんの「雲」は、秋空を見上げていると、浮かんだ雲が北海道の島々の形に見えた。と、見ているうちに形が変わっていき、サクランボがのった氷菓子に見えた雲で、冷蔵庫の白熊を思い出したという楽しい文章です。
 小向井一成さんの「ウカゼと停電」は、久しぶりの台風襲来で、停電程度で右往左往している。今は便利な生活に慣れきっているが、かつての台風には緊迫感があった。こういう機会に、便利になって失ったものと得たものとを、本格的に考え直してみたいという文章です。確かに、テレビで洗濯物の干し方まで教える喜劇的な状況は、改めてもう一度考え直してみる必要がありそうです。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)2015/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載