はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

何歳に見えるの

2015-10-25 18:41:31 | はがき随筆
 先日、近くのスーパーで、2㍑のお茶3本とミルクなどを買った。レジの方に「大丈夫ですか。ゴロゴロは持ってきてないんですか?」と聞かれた。「えっ! ゴロゴロって……」。店員さん、ニッコリ。「はい、あのゴロゴロです」と、引く格好。
 私はショックで荷物が持てなくなりそうだった。買い物した物などを入れて引いて歩く車は、失礼ながら私の頭では70代以上の方のものだった。
 帰ってから、じーっと鏡を見て考えた。「母ちゃんは何歳くらいに見えるの?」。18歳の娘に聞いたが「グフフ」と笑われた。
  鹿児島市 萩原裕子 2015/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな生命

2015-10-25 18:39:39 | はがき随筆
 がん健診に行った。椅子に順々に座って待っていた。
 ふと足元を見ると、小さな黒い糸トンボが疲れたように床に横たわっていた。指で羽をそっとつまむと、かすかに足を動かした。
 「生きている」
 となりの人も
 「本当、生きていますね」
 そのまま外に出て、そっと離すと、トンボは羽をばたつかせて、静かに飛んでいった。
 小さな生命が救われた。がん健診も命を救う営みだ。よかった。よかった。
  出水市 畠中大喜 2015/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載

運動会

2015-10-25 18:37:59 | はがき随筆
 秋、運動会のシーズンです。心ワクワクする人が大部分じゃなかったでしょうか? しかし私は徒競走が大の苦手、いつもビリでした。親もそれを見るのが心苦しいみたいで、昼前に弁当を持ってきて、食べ終わったら、こっそりと帰りました。高学年になって、ビリがいるからトップがいると開き直り、気にならなくなりました。
 もう一つ嫌だったのは、戦後、十七里遠行の復活。貧乏でそれどころでない私は、サボりの言い訳に苦労しました。
 それが今では、スポーツ大好き人間になっています。不思議です。
  鹿児島市 津田康子 2015/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

取り越し苦労

2015-10-25 18:37:25 | はがき随筆
 旅行にでも行きたいと思う秋日和。これも平和に暮らしているからだと思う。だが、なぜか取り越し苦労が先に立つ。
 飛行機にはトラウマがあり、不安な気持ちや心細さを味わった私は飛行機での旅行を逡巡している。そんなとき娘に「何を迷っているの。考え過ぎじゃない。行くなら今でしょう」とシャレで背中を押され、気持ちは段々と変わっていった。
 〝歳月人を待たず〟。今だからこそできる楽しみに出てみようと意を決したのです。何事もその気になれば決断できるものだと、余力を振り絞り航空券の購入に出掛けた。
 鹿児島市 竹之内美知子 2015/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

脱 皮

2015-10-25 06:53:59 | 岩国エッセイサロンより
2015年10月23日 (金)

岩国市  会 員   角 智之

家内が屋根に落ちた枯れ葉の掃除をしていると、樋のくぼみでヘビの抜け殼を見つけた。
 この地へ引っ越して38年、ヘビを見かけることはまれだが、屋根まで登った痕跡を見たのは初めてだった。新築と同時に植えたハナミズキも大きくなり、  この枝を伝って登ったのであろう。ヘビは嫌われものだが、抜け殼を財布に入れておくと金がたまるといわれている。
 白蛇は弁天さまの使いで、縁起をかつぎ手厚く保護されてきた。干支のうち脱皮をするのはヘビだけだ。面倒な病気を抱えるこの体を巳年生まれのよしみで、脱皮させてほしいと願う。
  (2015.10.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

がん健診

2015-10-25 06:47:40 | はがき随筆
 去る8月、乳がんと子宮がんの検診通知が届いた。気が重いながら、75歳で申し込んだ。
 既に予定日は満員。特別なコースだけに皆さん受診申し込みは早く、ぐずぐずしているのは自分だけか。当日は折からの台風15号接近で、ひどい雨。役場前に検診車3台が待機し、女の係員が傘をさして、車内の入り口へ案内された。
 結果は何と出ようが受けて立つ覚悟。思い切り乳房を押さえられ。秘所も恥じるすべはなく終了した。後日、異常なしとの結果報告。76歳の誕生日目前、安心と喜びで自分の体にそっと触れ「ありがとう」と独り言。
  肝付町 鳥取部京子 2015/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載


家庭教育学級

2015-10-25 06:46:08 | はがき随筆
 小3の長女の小学校で家庭教育学級に関わって2年目になる。今年はくじ引きで運営側になってしまい、毎月参加者集めや準備に苦労している。
 昔は簡単に人が集まったのではないか。保護者、特に専業主婦の母親対象に月1回、手芸や子育てに関する講座を開講すれば,社交の場としても重宝されたかもしれない。以前、公民館の方があいさつで「お集まりの有閑マダムの皆さん」と語りかけたことを思い出す。
 働く母親が増えた今、無理に仕事を休ませ、会費を払って出てもらうことに心が痛む。時代に合った制度見直しが必要だ。
  鹿児島市 津島友子 2015/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載


主将

2015-10-25 06:44:51 | はがき随筆
 鉾立山の頂に入道雲が漂う候。私の誕生日に合わせて孫が来鹿した。道中、姉弟でいざこざがあったらしく、長男が「ばあば、僕、一人っ子がよかった」と悩みを告げる。
 事の起こりは、空港内で放浪。機内での窓側席の争奪の仲介役に疲れたとのこと。「私も長男だから気持ちは分かるが、大人になれば姉弟がいて良かったと思うよ」と諭す。「そうかな」と言いながら海洋公園プールへ。運動苦手の長男が姉弟に泳ぎのコーチをし、2人を束ねている主将ぶりを見た。この小さい束が将来、多くの束をまとめる力になると信じる。
  出水市 宮路量温 2015/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載

いとおしき虫たち

2015-10-25 06:42:57 | はがき随筆
 菜園の縁に植えたニラが今、小さな白い花が球状になって花盛り。毎年、この花の上を腹の先に小さなトルコ石を付けたように美しいアオイトトンボが群れ飛んでいた。サツマイモのつる返しをする度に、青紫色に光るトカゲがあわてて逃げる姿がおかしかった。今年はトンボもトカゲも見当たらない。庭の奥の茂みでゆっくり羽を閉じたり開いたりしたハグロトンボは3年前から見なくなった。
 年々、小鳥や虫たちの姿が少なくなった。人の営みや気象のせいだろうか。律儀に毎夜、風呂の窓ガラスに現れたヤモリがいとおしく思えた。
  出水市 年神貞子 2015/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載