はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆9月度

2015-10-27 16:34:41 | 受賞作品
 はがき随筆の9月度月間賞は次の皆さんです。

 【優秀賞】4日「風雪」伊尻清子=出水市武本
 【佳作】17日「象形文字」堀之内泉=鹿児島市大竜町
 ▽23日「彼岸花」古井みきえ=札幌市東区


 「風雪」は、義父が植えた榊の木を見ながら、30歳で硫黄島で戦死した義父や、その後の家族の苦節の70年を思いやった文章です。昨今まるではやり言葉のように戦後70年といいますが、その中にはいろいろの悲しみが多く籠もっていることを考えさせられます。
 「象形文字」は、息子の書いた「見」の字が昆虫みたいに見えるという、面白い発見です。成長して、まともな(?)字を書くようになるだろうが、象形文字さながらの字を書く感性は持ち続けていてほしいという、親心あふれる文章です。
 「彼岸花」は、子どもの頃は、矢筈岳から不知火海へ流れる米ノ津川の近くで育った。とくに彼岸花には思い出がある。死者は還って来ないという親鸞上人の教えもあるが、彼岸花にはなぜか両親の笑顔が見えるという内容です。彼岸花は何かを感じさせる不思議な花ですね。
 この他に3編を紹介します。
 的場豊子さんの「えべっさあ」は、いつも笑顔で怒った顔を見たことがない恵比寿さまのような方が、94歳で亡くなられた。最期は周囲の人に感謝の言葉を残されたと聞く。このような最期に憧れる一方、別の最期を望んだり、迷いの多い人生ではあるという内容です。
 竹之内美知子さんの「雲」は、秋空を見上げていると、浮かんだ雲が北海道の島々の形に見えた。と、見ているうちに形が変わっていき、サクランボがのった氷菓子に見えた雲で、冷蔵庫の白熊を思い出したという楽しい文章です。
 小向井一成さんの「ウカゼと停電」は、久しぶりの台風襲来で、停電程度で右往左往している。今は便利な生活に慣れきっているが、かつての台風には緊迫感があった。こういう機会に、便利になって失ったものと得たものとを、本格的に考え直してみたいという文章です。確かに、テレビで洗濯物の干し方まで教える喜劇的な状況は、改めてもう一度考え直してみる必要がありそうです。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)2015/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載

最新の画像もっと見る

コメントを投稿