はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

スポットライト

2017-03-08 16:14:54 | 女の気持ち/男の気持ち
  3校目に赴任した中学校は荒れていた。3年生最初の授業では全員2階の美術室に入ってはいるが、チャイムが鳴っても私は全く無視されていた。とっさに教卓の上に立った私は「おー、よく見える」と全員を見まわした。
 前任校で特別支援学級の担任だった私は、階下の特別支援学級の生徒の姿を話した。「花園の水やりを約束すると、雨の日も水をやって約束を果たすぐらい純なんだ」。私たちには何が大切か熱弁した。「あんたは、えらい!」机に足を投げ出し腕組みした「男番長」が言った。
 ある日の休み時間、向かい側2階の2年生の教室から「せんせー」と1階1年生の教室の私に向かって手を振る女生徒たち。「先生もてるね!」と冷やかす1年生たち。「あの8人が問題の生徒たちだ」と生活指導主任が指示した8人だった。
 8人が3年に進級すると私は3年生の生徒指導係になった。8人は私としか会話をしなかったらしい。涙なしには聞けないつらい話を聞いた日もあった。
 「文化祭で劇をやろう」。8人のいる3年生に声を掛けた。「新男番長」はスポットライトの係に、8人の中のMは劇の主役になった。私は演出係を応援した。スポットライトを浴びたMのせりふはよく通った。
 幕が下りると私は舞台裏へと急いだ。「先生、どうだった?」とM。「良かった、とても良かった!」と私は両手を握りしめた。
 共に活動した喜びは広がり、彼らを素の顔に戻した。学校は落ち着きと静けさを取り戻した。
  鹿児島県出水市 中島征士 2017/3/2毎日新聞「男の気持ち」爛掲載

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