はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆8月度

2021-09-20 19:27:59 | はがき随筆
 月間賞に鍬本さん(熊本)
佳作は片寄さん(宮崎)、田中さん(鹿児島)、増永さん(熊本)

はがき随筆8月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

 【月間賞】30日「なつかしいあの頃」桑本恵子=熊本県八代市
 【佳作】28日「古いノート」片寄和子=宮崎県延岡市
  ▽13日「コロナと空襲」田中健一郎=鹿児島市
  ▽18日「白昼夢」増永陽=熊本市中央区

「なつかしいあの頃」は、古い写真帳から、往時の子供たちの可愛さを回顧し、子育ての幸せを感じる内容です。写真からの回顧は時たま見かける素材ですが、この文章には、子供たちの描写の的確さと、子どもの表情に感応する筆者の感性の繊細さ、それに、老境にいたってかえって増す親子の情愛が、よく描かれているために選びました。
 「古いノート」は、母親の脳梗塞での瀕死の数日間を綴った、古いノートを読み返した時の印象が書かれています。母親の病状の記録は当然のことですが、それ以上に、病院から見える朝日夕日や桜の開花などに、今読み返せば、命に向き合う日々の喜びと祈りとが感じられるという内容です。景色の持つ象徴性がいいですね。
 「コロナと空襲」は、コロナ禍の昨今、人生における恐怖として記憶しているのは、昭和20年の鹿児島の空襲である。空襲警報、防空頭巾、防空壕、焼夷弾、母校の焼失、空腹、ある世代には、今でも忘れられない恐怖感である。それに比べれば、コロナなぞ何のそのと言いたくなるという内容ですが、皆さんはどういう印象をお持ちでしょうか。
 「白昼夢」は、興味深い内容です。何万年か後の人類の滅亡後を見て、その原因を考えた夢が書かれています。一つは地球温暖化によるもの、もう一つは、核兵器によるもの。自らの愚かさによって絶滅した人類についての悪夢が、現在の人類の愚かさの部分への痛烈な風刺と皮肉になっています。短い文章に強い内容が込められています。
 他に珍しい素材の文章が目立ちましたので列記します。若宮庸成さん「光」(原子爆弾)▽高橋誠さん「天気菅」(ストームグラス)▽中村弘之さん「虫の勉強」(虫愛づる姫君)▽北窓和代さん「野良仕事」(不耕起栽培)▽逢坂鶴子さん「何も知らずに」(戦時中の八幡製鉄の煙幕)⏤⏤。それに、浦西里歩さん「ありがとう」(実習看護師)は、感じのいい文章でした。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦




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