はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

恩送り

2016-09-11 22:30:17 | 岩国エッセイサロンより
2016年9月11日 (日)
   岩国市   会 員   山下治子

 病院へ健康診断を受けに行くと、顔見知りで保健師のNさんも受診されていた。
  「どこか具合でも」
  「しっかり健診を受けましようと言っておきながら、勧める側の者が受けてなかったら、物申せないから」
 真面目な彼女らしく、きっちり仕事を踏まえてのことだった。感心していると、手帳に挟んだ新聞の切り抜きを取り出された。
  「あなたのこの文章、集会などで使わせてもらっていますよ」
 それは、広場欄に掲載された「母の日には『恩送り』」という私の投稿だった。
 辞書に「恩返し」はあるが、 「恩送り」はない。お世話になった方へ親切を返そうにも返せない場合、代わりに誰かにその恩返しを受けてもらう。送られた次の人がまた次の人に送り、たくさんの人たちで送りつないでいく、という意味を持つらしい。
 親代わりのような姉が5年前、教えてくれた。その時、母の日に送り続けた感謝の鉢植えを断って、「その分、義援金として被災地に」とのことだった。以来、私は東日本大震災と先頃の熊本大震災の被災地へ、つもり貯金やつり銭貯金でためたわずかな分を送らせてもらっている。
 私の投稿に共感してくれた人が身近にいたと知って、驚いた。恥ずかしくて、うれしくて、大きな励みになった。

     (2016.09.11 中国新聞「こだま」掲載)

郷愁誘う風景 残して

2016-09-11 22:28:37 | 岩国エッセイサロンより
2016年9月10日 (土)
    岩国市   会 員   角 智之

 「赤い花なら曼珠沙華・・・」。歌にも歌われているように、ヒガンバナは秋を代表する赤い花である。
 この花は、浄土と現世をつなぐと言われ、お釈迦花、天蓋花、ろうそく花など仏教に関する別名が多いのも興味深い。
 田舎で暮らしていた小学生の頃、近所の幼なじみと花束にしたり、花茎を小さく折ってちょうちんを作ったりして遊んだ。
 会社勤めの頃、通勤電車から眺めた水田の石垣に群生した風景は見事で、市街地では見ることのない情景に郷愁を覚えた。
 わが家の近くに群生する場所があったが、団地造成と道路拡張工事でコンクリート整備され、数少ない自生場所が失われた。
 最近、新聞やテレビで報道されているように、小規模集落は村ごと消滅の危機に直面している。
 人々の暮らしと密接に関わったヒガンバナが咲き乱れる棚田の風景を、ぜひ残してほしいと思う。

    (2016.09.10 中国新聞「広場」掲載)