はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いもうと

2013-11-05 23:09:48 | はがき随筆
 「妹がほしいな。おいしい物食べてね。トイレに行かないでいれはいいんだよ」。幼稚園児の頃、よくそう言って、私がせがんだと母に聞かされた。その願いが天に通じたのか、10歳違いの妹を授かる。雛壇の前にちょこんとお座りをした器量よしの赤ちゃんは私の自慢だった。ワルガキが妹をいじめた時には、私がしっかりお灸をすえてあげたものだ。
 そんな妹に、晩年の母のことで大いに負担をかけてしまう。本当にゴメンな。私のことを「お兄い、お兄」と慕ってくれた妹も54歳。体に気をつけて、夫婦仲良くね。兄は願っています。
  霧島市 久野茂樹 2013/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載

巨人の星

2013-11-05 22:46:03 | はがき随筆


 元巨人軍監督の川上哲治さんが亡くなった。93歳だった。52歳の私が知っているのは巨人V9監督としての川上さん。赤バットで“打撃の神様”と称された現役時代を知らないが、私と同じ熊本県人であるため、少年時代から「川上」といえば野球を連想していた。
 川上さんも太平洋戦争で召集された。沢村栄治投手ら多くの野球人が戦死し、川上さんは野球ができる幸せを語っていた。私の少年時代の人気スポ根アニメ「巨人の星」に登場する川上さんは既に監督で、主人公星飛雄馬の父一徹とはチームメートだった。
 10月24日にあったプロ野球のドラフト会議で県内からも横田慎太郎(鹿児島実業高)、二木康太(鹿児島情報高)両選手らが指名された。高校野球を担当する支局の記者も元高校球児で鹿児島に赴任以来、ドラフトに指名された選手らを追ってきた。いずれも「取材にははつらつと応じ、気持ちよかったですよ」と絶賛、プロでの活躍を楽しみにしているようだ。
 私も甲子園で活躍した球児や有名選手を見てきたが、中には取材慣れをしているのか、あるいは「勘違い」をしているのか、こちらの取材に答えず、完全に無視する者もいた。こちらが聞きたい内容は「試合を振り返って」とか「将来はどんな選手になりたいか」など一般的な質問だったのだが……。「スポーツは人間教育」だと思っている私に一部スポーツマンの態度は異様に映った。監督ら指導者はどんな教育をしているのかなと。
 指宿市であった全国高校駅伝競走大会県予選表彰式に出かけた。体育館前で、男女の選手たちが私に元気よく「こんにちは」と一礼してくれた。選手たちは私の肩書など知らない。柔道ならば「礼に始まり、礼に終わる」。懐かしい気持ちになった。それぞれ、今の気持ちを忘れずに大きな世界を目指してほしい。
 鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2013/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載

奄美大島

2013-11-05 22:38:46 | はがき随筆
 奄美空港近くの食堂で食べた名物の鶏飯はおいしかった。
 「この米は奄美でとれたものですか」と、店主に聞くと「いえ、島外の米です」と返答された。やはりそうか、と思う。
 長島中の元同僚5人で訪ねた奄美大島の海は、青々として美しい。四、五百㍍の濃い緑の山も川もあり、本土と何一つ変わらないように見える。大島紬の資料館も見学し、紬織の苦労も知ることができた。アカショウビンにも出会えた。
 ただ、水田がなく、ざわわと鳴る砂糖キビの、昔の薩摩藩の圧政など知らない葉音が、私は何となく悲しかった。
  出水市 小村忍 2013/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載








心温まるお手紙

2013-11-05 22:32:18 | はがき随筆
 突然の電話がかかってきた。1日おいて、大きな封筒が届いた。それは、この欄で掲載された、私の「苦悶の日々」への、励ましの手紙だった。
 「自分を頼る誰かがいる。その思いを胸に、今日も生きる」。書道の先生を思わせる。達筆で書かれたこの文が、私の胸を揺さぶる。そして、真綿に包まれたようなぬくもりを、手紙に感じた。
 肝付町の鳥取部京子さん。心温まるお手紙に、ほのぼのとするご自筆の絵に、鼓舞されました。がんたれ息子を頼る誰かのために、私は怒ることを、封印しようと思います。
  出水市 道田道範 2013/11/3 毎日新聞鹿児島版掲載

「支えられながら」

2013-11-05 18:09:55 | 岩国エッセイサロンより
2013年11月 4日 (月)

  岩国市  会 員   横山 恵子

 振り返ると山あり谷あり、いろいろあった。まさかという衝撃も。早くに両親を亡くした元同僚の「この世は修行するためにある」という言葉は心に染みた。夫は手すりを持って、やっと歩ける状態。案じつつも、聖人君子の介護とはいかない。周りの支えと励ましで元気をもらい、また頑張れる。
 夜半に夫の起きる気配で目が覚めた。明かりをつけ、トイレの介助。雨音がしていたが、やんだかなと戸を開ける。少しでも夫の癒やしになれば、と植えた花。白、ピンク、赤色の日々草が暗闇に浮かぶ。励ましてくれているのか。
  (2013.11.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載) 岩国エッセイサロンより転載