はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「ニホンズイセン」

2010-03-06 12:02:35 | 岩国エッセイサロンより
2010年3月 4日 (木)

    岩国市  会 員   稲本 康代

 この季節、あちこちの庭や川土手にうつむきがちに咲いている花が見られる。私の大好きなニホンズイセンである。控えめな姿もかわいらしいが、その香りは心を落ち着かせる。

 昨年、知人の案内で上関町のスイセンの群生地を訪れた。小高い丘の一面、スイセンのかれんな花々が咲き満ちて、言葉に表せない感動である。と眼下に原発問題でゆれる祝島があった。反対派と推進派に二分されている町。こんな優しい花があふれている丘の下で……。

 言いようのない感情が渦巻いた。今年もまた、スイセンたちは海風に吹かれながら祝島を眺めているだろう。
  (2010.03.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「こうふん」

2010-03-06 11:59:58 | 岩国エッセイサロンより
2010年3月 3日 (水)

岩国市  会 員   井上 麿人


料理教室に通っている。エプロン、包丁は自前。講師は近所のおば様たちだ。だが、レシピは横文字。名前が覚えられない。

 エビの皮むき、胸肉のそぎ切り……、しょうゆ味が好みなのに味付けはペッパー、パプリカ、ガーリック。塩はいつも少々。

 「素材の味を楽しんでください」と教えられる。チョー薄味。芋でさえ、裸で味の勝負を強いられているこの教室では、否定的な口吻は慎んでいる。

 長生きをしたいだけの健康法などごめんだが、周りに負担はかけたくない。食に関する敬虔な思いを妻に話していたら「芋の皮をむいて!」ときた。

   (2010.03.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載