はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

旅立ち

2008-01-24 11:56:50 | はがき随筆
 夫の好きな冬コスモス、オンシジウムは何ごともなかったように美しい。
 12月の再手術後、予定より2日早く20日に退院。夫は待ちきれない表情で喜び、医師たちにあいさつした。新しい暖房器具を求めたり、珍しく外食に誘ったり、すべての事を終え帰宅したのは夕方近くだった。
 退院の荷物は玄関に置き、夕食は久しぶりに落ち着いて満足の様子だった。ベッドに入り「暖かい、気持ちいいなー」。その声が最後だった。
 30分後、夫は救急車も間に合わず、黄泉の国へ旅立った。
   薩摩川内市 上野昭子(79) 2008/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度入選

2008-01-24 11:41:35 | 受賞作品
 はがき随筆12月度の入選作品が決まりました。
△出水市大野原町、小村忍さん(64)の「川内川物語」(25日)
△志布志市有明町野井倉、若宮庸成さん(68)の「千代美と遼太郎」(7日)
△鹿児島市真砂本町、萩原裕子さん(55)の「娘の成長に感謝」(22日)
の3点です。

 年も明けました。
 小村さんは川内川を13年間にわたって調査し「川内川物語」という本にまとめました。書き出しの<なぜか、川内川は元気をくれた>にひかれます。調査から出版までの努力がにじみ出ています。<本は今年の大きな思い出になった>という文章のまとめの言葉もいいですね。
 若宮さんは、猫の千代美と犬の遼太郎と楽しく暮らしてきました。特に奥さんの姿がよく描かれて楽しい風景が目に浮かびます。「千代美と遼太郎」はどこの家庭でも見かける猫、犬が家族として書かれていますが、楽しいですね。
 萩原さんの「娘の成長に感謝」は、娘さんの成長ぶりを心から感謝する筆者の広く素直な書きぶりに感動しました。娘さんの言葉もたいしたものですね。
小野美能留さんの「寝床から」(24日)は、9年にわたる病院生活をたのしく明るく過ごしている様子を描いています。雑俳と称している句も、読む人に心境が伝わってジンとしますね。「ありがたい」(9日)は、山岡淳子さんが電気炊飯器を新しく購入したことをきっかけに、母親との対話が弾みます。末尾に、筆者自身の言葉で<古い炊飯器さん、今までありがとう。……>とあり、温かい表現がいいですね。
 小村豊一郎さんの「冬の落日」(18日)は、心境をストレートに表現しています。題目どおりしみじみとした文章ですが、生命力を感じさせられました。生命力を感じさせられました。上野昭子さんの「ブルーの海」(6日)のスタートは幻想的な情景を描いています。現実は、手術により不自由な体となっても有意義な人生を過ごそうと意欲をかきたてます。
 12月度は自分を見つめる文章が多く寄せられました。12月は自分を振り返ることが多いのでしょうか。
(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
 係から 入選作品のうち1編は26日午前8時20分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
 

山芋を掘る

2008-01-24 11:14:54 | はがき随筆
 山芋堀に樋之谷へ。この時期の山芋のつるは30㌢ほどの間隔で、枯れてばらばらに落下している。
 Yさんは「ここにつる端が落ちてると次のつるはこの辺にありそうなものじゃが。隠れていないで返事しろ。全く苦労かけやがっておれの息子みたいじゃな。うん、根元を見つけたぞ。ひょっとしておれって天才かも」と30分もこの調子である。
 焼酎を飲み、どうでもいいことでくだくだと他人に絡む飲んべえを鹿児島では「山芋を掘る」と言う。Yさんに同行して、そのいわれに納得。彼は、山の芋は掘るが、山芋は掘らない。
   出水市 道田道範(58) 2008/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

初日の出

2008-01-24 11:06:46 | はがき随筆
 薄暗い都井岬灯台。満員の中に、しばらくすると日の出方向に波が輝き、周りがざわめく。カメラ、ビデオが動く。薄い雲を押し開くように円形の黄金色が輝き、日の出が始まり、光が帯のように走る。一瞬、息をのむ静けさの後、新春の喜び声がどよめく。この感動は人々に強い心象風景として長くとどまり生き続ける。偶然か、左側より色鮮やかな船体の「さんふらわあ」が日の出の中に白跡を残しながら進んでいる。この光景に新しい歓声が。隣の若いお母さんのみどりごが驚き、瞳を開けニコッとほほ笑む。妻が「可愛い。良かったネ」と優しい声。
   鹿屋市 小幡晋一郎(75) 2008/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載