『旗本夫人が見た江戸のたそがれ』

2011-07-02 09:52:42 | 本の話
文春新書『旗本夫人が見た江戸のたそがれ』
深沢秋男著

副題は(井関隆子のエスプリ日記)です。

幕末、十一代将軍家斉~天保の改革のころに
江戸九段坂下に住んだ旗本の奥方、井関隆子の
日記を紹介していただける本です。

かなり余裕がある生活を送られたようですね。
350坪のお屋敷だそうです。

上流社会に入るかどうかは分かりませんが
一般庶民とはレベルが違っていたことは事実でしょう。

上流?とはいえ、江戸時代の人々が生き生きと甦ります。
例えば、花火見物。

本の中でも詳しく紹介されています。

現代では想像もつかないほど人々の心を掴んだ花火の
イベントに、隠居生活の人間でも筆が躍動しています。

楽しみが多い現代人と、ふだんは楽しみが多くなかったが
落差の非常に大きな楽しみを持てた江戸時代の人々と
本当はどちらが幸せなのでしょう?


著者の深沢秋男さんは、日記から読みとれることとして
「井関隆子には(近代の眼差し)がある」と書いています。

西洋の人の日記としても読めるような、個人の独立した意識が
あるようですね。

人の歩みは洋の東西を問わず同調するように発展する面がある
比較文化史的にそう言えるのではないでしょうか。

もちろん日記には心に浮かんだ和歌を書きつけるなど
古来の「和のこころ」も豊かです。
であるからこそ西洋に通じるほどのセンスを持ちえたとも
言えるのですね。


人脈のおかげで井関隆子は徳川政権の裏事情や大奥の様子
などをかなり正確に知ることができたようです。
将軍家斉没後の人事や天保の改革の実態など、
この日記を通して新しい歴史が開けそうだとのこと。

「書くということ」それ自体に自己を見出した隆子は
期せずして後世の役に立ったのです。