今、Sちゃんは満4歳。秋がくれば5歳になるところです。
この手紙は、祖父の私から15年後の孫Sちゃん宛てに書いています。
この手紙を読んでくれる頃、Sちゃんあなたは、20歳になっています。
そんな15年後のあなたを、今の私はうまく想像できません。きっと、お母さん似の優しくて魅力的な女性になっているに違いないと思っています。
そのころの私は、果たしてどんな境遇にあるでしょうか。おばあちゃんはどんな生活をしているでしょうか。
実のところ、自分たちの15年後について、予想はできていません。
生きているか死んじゃっているか。私にかぎって言えば、死んでいるかもしれませんよ。なにしろ私は病気勝ちでしたから……。
今日のこの手紙では、そのことには触れません。
土曜日のことについて話をしたい。
いつもの通り、私とおばあちゃんの二人で、Sちゃんたちの家に行きました。
あなたとお父さんは、K駅まで迎えに出てきてくれましたね。そしていつものコースで家に戻りました。
でも、いつもと違うことがありました。
Sちゃんが手を握ってくれたことです。あんなに手を繋いで歩いていたあなたなのに、いつの間にか手を握ってくれなくなっていました。理由が分からなかったので、私はとても淋しかった。でも理由は簡単でした。おじいちゃんがあなたの手を強く握るため、痛かったのですね。
私はただ手を出していればよかったのです。あなたは自分の力でおじいちゃんの手を握ってきました。今までは、手や指が痛かったんだね。
いつまでもあなたを赤ちゃんと思っていたのです。成長しないおじいちゃんでした。
お昼ご飯を食べてすぐに、私だけが帰りの支度をし始めました。あなたは妙な顔をしていました。いつもなら私たちが帰るのは、夕方の5時ごろでしたから、不思議に思ってのでしょう。
その日にかぎって、私には用事がありました。昔の仲の良い仲間たちと、お酒を呑む会合があったのです。
「じゃあ、また来るね」
私は玄関に立っても、あなたは見送りにこなかった。
「Sちゃん、おじいちゃんをお見送りしよう!」
お父さんが言っても、あなたは寝室から出てきません。
「お見送りしないと、おじいちゃんは来てくれなくなるよ!」
お父さんが何度言っても、あなたは部屋から出てきませんでした。
私が部屋へ行ってみたら、あなたは目に涙をいっぱい溜めて、部屋で立っていました。
本当にゴメンね。私が突然に帰る支度を始めたので、あなたは戸惑ってしまったんだね。
これからはそんなことをしません。用事があるときは、初めからしっかり話をします。
15年後のSちゃん。これは2009年6月20日のあなたでした。
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