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書評・満鉄調査部事件の真相・新発見史料が語る「知の集団」の見果てぬ夢

2020-02-05 21:36:39 | 歴史

小林英夫・福井紳一・小学館

 あれほど共産主義が忌避されていたはずの戦前の日本で、かくも多くのマルクス主義に囚われていた愚か者たちが跋扈していたと言う事実を知らされる一冊である。彼らの信念は確かなものであるにしても、実際には単に他国のために働き、自国を破壊して同胞を不幸に追いやろうとした愚か者であるに過ぎない。そもそもコミンテルンは彼らをソ連のために利用するために接近したのであって、彼らの理想は口実に過ぎない。関東軍の顧問であった小泉吉雄は、ゾルゲ事件の尾崎秀実にコミンテルン極東支部員のロシア人を紹介された。その後尾崎の指令により、日ソ戦争勃発の際には、輸送妨害、通信施設の破壊などの反戦活動の他、関東軍司令部を爆破することを約束していたのである。(P208)

筆者は「・・・尾崎がソ連、中国、日本の反戦勢力の結集を図る動きをすることは十分可能性があり得るからである。」(P256)と書くが、満鉄のマルクス主義者も同じ心情だとしたらとんでもない間違いである。コミンテルンは日本人の反戦思想を利用するために、ソ連や中国にも反戦勢力があるかのように装い、各国で呼応して反戦活動をして政府に戦争を止めさせようと言い、結果的に日本軍だけを妨害させてソ連の勝利に貢献させようとしたのである。

また「企画院事件」では勝間田清一も逮捕されている(P252)。勝間田は戦後、社会党委員長となる骨がらみのマルクス主義者であるし、戦後もソ連のスパイに利用されていて、日本を不幸にするための活動ばかりした人間である。もし、勝間田の理想が実現したとしたら日本には親ソ政権が出来であろう。ちなみに勝間田清一は小生の同郷で、小学校の遠足で国会議事堂に行った時、国会議員の勝間田が同郷の小学生の前で演説したのは、忘れ得ない。子供の頃だから偉い人だとしか思わず、同胞を売ろうとしていたことには思い至るはずもなかった。

 親日で有名なライシャワー大使ですら日本には親ソ政権が出来たら、米国は日本を再占領したと後日明言している。日本の社会主義勢力は怖ろしいものがあったのである。驚くべきは花房森の手記(自供)には共産主義社会の建設過程には天皇制は「武器」として利用価値があるが、全世界に共産主義社会成立後は、利用する価値がなくなるから、「天皇制」は廃止すべきである、と書いてあることである。多くの本にはコミンテルンの指令に「天皇制」廃止が書かれていたために、受け入れることが出来ずに転向者が出たり、指令を隠したと書かれているが、この手記を見る限りそう単純ではなさそうで、本気で天皇をなくそうと考えていた人間は相当いたのではあるまいか。

満鉄調査部事件の取り調べは拷問が禁止されており、手記は転向を約束した部分と仲間の告発で構成され、ストーリーは共通している(P197)という。だから自発的に書いたのではなく、憲兵の誘導によるものであろうと筆者は書くが、問題はそれにとどまらない。満鉄のマルクス主義者は日本で左翼活動をし、転向して満洲に渡ってきた。それがまた左翼活動をし、「手記」による転向によって重罪には問われていない。しかも戦後左翼活動をするという懲りない人々である。

確かにホワイトハウスにも多数のコミンテルンのスパイはいた。しかし戦後検挙され大規模なレッドパージが行われた。スパイ活動により死刑になった科学者夫妻すらいる。アメリカでは共産主義者は撲滅されたのである。せいぜいベトナム反戦活動家が間接的にソ連に利用された程度である。西ドイツでは共産党を非合法化するという思想統制すら行っていた。

さらに問題なのは検挙者のほとんどが東京帝大と京都帝大の出身者(P15)であることである。帝大は日本の中枢を担うエリートを育成するために作られた。ところがその帝大が他の教育機関より、圧倒的に多くの売国奴を輩出していたのである。民主主義でも自由主義でもマルクス主義でも、西欧から来た思想を無批判に受け入れてきた維新以後の病巣がここにある。これに対抗すべき日本思想と言うべきものは、過激だが貧弱なものしかなかったのである。

ところで筆者であるが「アジア太平洋戦争」などと言う言葉からお里が知れる。「彼らの『見果てぬ夢』は、『戦時中の夢』といってしまうには、あまりに大きな犠牲であった。なぜならナショナリズムの調整を通じた東亜の共同体の形成という東アジア各国が目ざさなければならない大きな目標が、この事件を契機にその芽を摘まれ、それがふたたび日の目を見るには半世紀以上の時間が必要だったのである。・・・グローバリゼーションの嵐が吹き荒れる二一世紀初頭の今日・・・『東亜共同体』という、すでに半世紀前に、少数者であれ満鉄調査部員を含む心ある人々の手で企画され、その実現に向けた動きが出ていたことの先進性と鋭角的な問題提起が、いまふたたび日の目を見る状況になってきているのである。」(P263)と書くのだ。

彼等はコミンテルンのスパイとなって、日本と中国を共産化しソ連の衛星国化しようとすることに利用されていたのに過ぎない。彼らの理想としていたのは共産主義である。共産主義の間違いが明白となった現在、どうして「いまふたたび日の目を見る状況になってきている」のであろうか。東アジアの軍事大国中共は飽くなき領土欲をむき出しにして日本ばかりではなく、ベトナムやフィリピン、インドとも争っている。ウイグルやチベットを侵略史民族浄化をしつつある。何が「東亜共同体」であろうか。筆者が否定するグローバリゼーションとは米国主導の世界であろう。だがそれに取って代わるものは、著者の想定しているであろう現代の帝国主義の中共との連携ではあり得ないのである。著者の詳細な調査と考察は見るべきものがあるが、根本の認識が完全におかしい。従ってデータとしてだけ価値がある。

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