それは、飛行機というものがいかに繊細で脆弱な構造物であるか、ということを腐食で穴だらけになって構造をむき出しにした機体にみることができたことである。毎年恒例になった鳥人間大会に参加する木や発泡スチロールでできた機体を見て、我々は何と繊細で脆弱なものだと思うが、立川で見たキ-54は負けず劣らず繊細で脆弱なものだったからである。それもこれも引き揚げられたままに近い展示だったおかげである。飛行機は繊細で脆弱だから軽くて飛ぶことができることを思い知らされた。遊就館に展示されている零戦も中身を見れば同様なのに違いない。必ずしも全く引き揚げられたそのままとは言えないようなので、小生の無知による誤解もあるかも知れないが、撮ってきた写真を厳選して解説を加えたい。
キ-54というマイナーな機体にもかかわらず、テレビニュースで流されたこともあってか、屋外に2百人以上並び、一時間以上待たされる盛況であった。展示建屋に入るとこのような引き揚げ機体の解説や引き揚げ状況等の映写があったのは親切だった。
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展示建屋は戦前に建てられたという立川飛行機由来のものであった。
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このエンジンにはカウリングが喪失しているが、反対側にはカウリング付きのエンジンがあった。
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機首側面のアップである。日本の戦闘機などの高性能機は昭和十年頃から、リベットの頭が機体表面から飛び出さない、平滑な沈頭鋲が使われていた。しかし、見る限りこの機体には沈頭鋲は使われておらず普通の凸リベットである。米軍機では、P2Vなどで、乱流となる胴体後半には、工数のかかる沈頭鋲をあえて使っていないのを見たことがあるが、この機体はそんな配慮ではないように思われる。低速だからおそらくは工数のかからない全面凸リベットである。端っこに見られる点検孔の蓋には取り外し用のマイナスねじが使われている。
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スピンナーキャップだが先端には、エンジン始動用の棒に溝が切られている。発動機始動車と嚙合わせるためで、日本では陸軍機専用の装備である。模型では1/32スケール位でないと正確には再現できまい。
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着陸灯である。よく見るとお椀型の反射板の中央に電球がついている。これで夜間滑走路前方を照らすのだろう。なお、この機体には左右に着陸灯があった。
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翼端灯である。注意してみると翼外板の内側にさらに金属板が見える。電球の交換のための構造だろうか。右翼だから青色光なのだがガラス板が着色されているのか、その時は確認し忘れた。写真では青っぽく見える。
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補助翼作動用のトルクチューブがむき出しになって見える。上下に張り出したテーパーの棒をワイヤーで引っ張るのだろう。
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羽布は腐って無くなっているが補助翼の骨組みだけ残っている。右下の金属板は、トリムタブである。写真では分からないが、トリムタブは、パイロットが操作できるものである。よく見ると表面には凸リベットがある。
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水平尾翼で、左右を繋ぐ二本の桁がある。リブには軽め穴が開けられている。
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フラップの位置の主翼外板に書かれた「ノルナ」の文字だが小さくて目立たないし、筆書きのようで粗雑である。引き揚げ後にタッチアップしたものかどうかすら分からない。
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右翼後方からのショットでカウリングは残っているが、その後方の外板は失われている。エンジン後方のドーナツ状のリングはエンジンの導風板である。
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胴体側面の、水平尾翼のやや前の位置に書かれたステンシルである。ご存じのように、「ココヲノセル」とは、運搬などで機尾を持ち上げる必要がある時、ここを支点にして支えること、という意味である。通常は支えの棒を突っ込む穴が開いているものだが、この機体には無いようだったと思う。文字は様子から、紙を切り抜いたものをスプレーで吹いたように見える。オリジナルであろう。
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垂直尾翼は取り外されていた。先端の黄色と部隊キークの赤が薄っすら残っている。右下の看板に正確な部隊マークを親切に再現してくれている。説明があったはずだが、どこの部隊か小生は撮影に夢中で確認し忘れた。
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胴体尾端に近い箇所で、水平尾翼のフィレットが胴体側に付けられていることが分かる。水平尾翼も垂直尾翼も引き揚げられてから取り外したようだ。
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尾端部分で、ガラスが失われて、電球が露出している。
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胴体内部を後方から見たもの。壁や天井には桁が露出しているが、元々壁材などは張られていなかったのだろう。前方は操縦席の隔壁とドアらしきものが見える。
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操縦席の窓である。窓枠下部は、胴体外板の上に重ねられ、リベッとで止められていることがよく分かる。。平面窓の中央の縦枠にはリベットが打たれておらず、窓ガラスを抑えているだけのように見える。リベットはここも沈頭鋲ではなく、普通の凸リベットであることが分かる。
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機首先端の上半部である。ここは三次元の曲面のカーブが比較的箇所なので外板の一枚一枚が幅の狭い、細長い板をプレスしたものである。外板の継ぎ目のリベットは一列なので継ぎ手は、突合せ継ぎ手ではなく、重ね合わせ継ぎ手である。前方は外板の腐食による喪失部が多いため、外板の継ぎ目の一本に骨格のリブが一本づつ配置されていることが、透けて見える。
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操縦席は取り外したとみえて、別に展示してあった。操縦席は並列で、操舵輪が二組あるのは、複操縦式なのだが、教官用と訓練生用なのかは不明である。練習機ではなくても、飛龍爆撃機は並列複座の複操縦式である。フットバーは機体内に残されているものか確認しなかった。操縦席は一枚板で、零戦のような軽る目孔は開けられていない。
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看板に書かれている通り、主翼の胴体への結合部である。引き揚げてから分解したのだろうから、結合部のピンを抜いてから、また差し込んだのだろう。同じような結合部がもう1か所あったから片側2か所で結合されているのだろう。
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主翼付根の拡大写真である。特に右方の腐食が激しく、外板が失われてリブが浮き上がっている。赤線は「ノルナ」の範囲を示したものだが、マスキングして正確に直線を引いてあるように見える。
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左主翼で日の丸が残されている。注意してみると、日の丸の円形は正確だが、刷毛跡が見られたので周囲をマスキングして塗装は刷毛のようだ。日の丸を左右に貫通しているテーパーした帯状のものは、主桁のうちの一本の位置だと思う。腐食の激しいのは主桁・補助桁とリブの位置とみられるから、それらの配置がわかる。
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操縦席と機首である。木枠で補強しているのは、そのままでは腐食のため原型を保っていられないからだろう。操縦席内部も横断見学できるのだが、見学者が多く押されてじっくり観察撮影できなかったのは残念だったが仕方ない。
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計器盤である。省略したが取扱説明書からコピーした計器盤の配置が展示されていたが、速度計や旋回指示器などいくつかの計器は左右に二組配置されていた。これは複操縦式のためなのか、練習機のためか小生には知識がない。なお、右席側には左には無い計器がみられたが、右席が主操縦席か教官用なのだろう。キ-54には輸送機型もあるのが、計器盤の配置は同じとみられる。
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着陸灯の拡大写真である。周辺がマイナスねじで止められているのは、ガラス板を外して交換するためだろう。黄色は敵味方識別色で、余談だが、マスキングして塗装してあるのが、マスキングから染み出した失敗部分も見られたのは面白い。
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スピンナーキャップを外したプロペラ軸が見える。プロペラ軸のすぐ上の円盤は、遠心力で開きプロペラ回転数をコントロールするための調速器(ガバナー)であろう。外観図面を見る限り、カウリング外面には気化器空気取り入れ口も滑油冷却器取り入れ口も、露出していないことから、斜めに見える網状のものは、そのいずれかであろうが確認できなかった。
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ここに示したものは展示撮影したほんの一部であり、気化器や伝声管、計器その他の小物も丁寧に展示されていたが省略した。休日で無料だというのに親切に対応していただき、メモ用紙らしきものやペットボトルのお茶までいただいたのは、多くの案内員を動員してくれたのとあいまって、望外の感謝である。いつかこのような展示を再開するようなので興味ある諸氏は行かれたい。マイナーな機体ながら得るものは多い。