平成27年の12月31日の正論に防大の佐瀬昌盛名誉教授が、かつて野坂昭如氏が外国に攻められたら「一人一人が抵抗すればいい、・・・市民が蜂起してさまざまな次元による戦いを、しぶとく継続することだ」と書いていたことを批判した。戦時国際法で捕虜となる資格は「軍服を着用し、訓練され、かつ、上官の指揮下にある戦闘員のみに対して適用される」とされていることを根拠に批判しているのである。
民間人が勝手に敵軍に敵対行為をすれば、捕虜となる資格はないのである。すなわち負けて降伏して捕獲された後に、処刑されても国際法上、文句は言えないのである。市民が蜂起する、というのはかくの如く恐ろしいことなのである。
日本は昭和28年に「捕虜の待遇に関するジュネーブ条約」に加入した。佐瀬氏の言説はこれに基づいている。この条約には捕虜の待遇や権利など、他にも捕虜を人道的に扱うべきことが書かれている。市民が勝手に戦えば、これらの権利は全て剥奪される。佐瀬氏の文章のタイトルは「戦時国際法の国民啓発が必要だ」というのである。
しかし、佐瀬氏もよく知るように、先のジュネーブ条約の127条には「締結国は、この条約の原則を自国のすべての軍隊及び住民に知らせるため、平時であると戦時であるとを問わず、自国においてこの条約の本文をできる限り普及させること、特に軍事教育及びできれば非軍事教育の課目中にこの条約の研究を含ませることを約束する。・・・以下略」
つまり戦時国際法の国民への周知は、単に国民啓発が必要なのではなく、条約上の義務なのである。さらに教育機関によって戦時国際法の研究を国民ないし軍人にもさせなければならない。かつて野坂氏が間違っていたように、日本の平和教育とは、戦争の現実から目をそらすことなのである。日本政府は明白にジュネーブ条約に違反している。
あのろくでなしの「日本国憲法」ですら、日本国が締結した条約は誠実に遵守しなければならない旨、書いてあるではないか。