毎日のできごとの反省

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やぶにらみ書評・「グリーン・ミリテク」が日本を生き返らせる・兵頭二十八

2012-06-29 14:29:52 | 軍事

やぶにらみ書評・「グリーン・ミリテク」が日本を生き返らせる・兵頭二十八

                               メトロポリタンプレス

 

 タイトルが奇妙なのだが、兵頭氏らしい鋭い指摘が多い。

・1979年の中共のベトナム侵攻は、日本ではベトナム軍が侵略した中共軍を追いだした、との説が一般的である。氏によれば孫子の兵法にのっとり、一撃で撤退をする計画を実行したのに過ぎない、というのである。

 しかもベトナムに教訓を与える事にも支那の国内の引き締めにも成功したと言うのである。確かにこの事によって、中共の国内外への威信も落ちず、経済発展を始めたのもこのころからだから、氏の指摘は正しいのであろう。

・中共は米国全土を射程に入れたICBMを一貫してわずか20基程度しか持たない。これでは米国はこれら全部を先制攻撃で破壊できる。従って中共は米国と全面的に対峙するつもりはない、というのである。これはソ連が全面的に対抗しようとして崩壊したことからの教訓だそうである。

・他にもいい指摘は多いのだが、兵頭氏らしい(?)ミスもある。バケツに水をいっぱい入れて全部凍らせると氷はバケツからはみ出すが、再び溶かせば元の水位に戻る、と言う。当たり前の話である。驚いた事に兵頭氏はこれを地球温暖化で北極大陸の氷が全部溶けても海面は少しも上がらないことの証明にしているのである。

 もう読んでいる方にはお分かりなのだが、くどいのを承知で説明する。水位の比較は氷が溶ける前ととけた語で比較しなければならないのであって、水が氷った時と溶けた後の比較は意味をなさないのである。全部凍っていれば水位はバケツの底である。氏は、氷が溶ければ水位は上がる、の証明をしてしまったのである。証明は、バケツに水を途中まで入れて、氷塊を浮かべたと仮定して氷が全部溶けても、水位はみじんも変化しないことをアルキメデスの原理によって示せばいいのである。北極大陸は海に浮かんだ氷塊だからである。

 残念ながら兵頭氏には物理や工学と言った方面にこのようなミスが見られる。他のミスの例は「技術史としての第二次大戦」の小生の書評をご覧いただきたい。

・ミスの指摘が長過ぎたが、世界情勢を兵頭氏らしい意外な視点から書いたものが多いので一読の価値あり、と言っておきたい。小生は公私ともにミスが多い人間なので弁解で言うのではないが、瑣末なミスでものごとの価値を誤断するものではないと思う。


書評・特攻の真意・大西瀧治郎和平へのメッセージ・神立尚紀・文藝春秋

2012-06-10 13:17:00 | 大東亜戦争

 特攻の凄惨な実相を最もよく書いた本の1冊であろう。だから何度か読むのを諦めかけた。大西の最後についても最も詳しく書かれている。読むのに辛い多くの事が書かれているので、個別の内容には触れない。大西の真意についても触れない。

 ただ1箇所興味あるデータがある。ある調査では、特攻機の命中率はフィリピン戦で26.08%、沖縄戦で14.7%であったということである。通常の爆撃でも米艦船の防空網を突破しても実際に爆弾が命中する確率は低い、ということに比べれば驚異的である。

 もし通常の攻撃で日本が米艦船を効果的に攻撃しようとするならば、空母に防空用の戦闘機だけを搭載し、防空網を強化した上で戦艦の砲撃によって攻撃を実施すべきであったろう。戦艦の砲弾の命中率は5%にも満たないが、多数の砲弾を浴びせることができる。それでも米艦隊の防空網は大戦末期には鉄壁と言っていい状態だったのに比べ、日本艦隊のそれは脆弱だったから、極めて困難だっただろう。果たして何割の戦艦が効果的な射撃ができる2万メートル以内に接近できただろうか。

珊瑚海海戦の時点ですら米艦船の防空網は効果的であった。経験から攻撃隊の搭乗員はそれを知りぬいていたにも関わらず、指揮官たちはその戦訓を学ぼうとしなかった。まして効果が低く、被害時の人的損失が膨大な陸攻による艦船雷爆撃を漫然と続けていた指揮官たちは論外である。