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日米の射撃指揮装置(GFCS)の決定的な能力の差

2020-04-30 15:53:42 | 軍事技術

  元自衛官の是本信義氏が。「海軍」の失敗という著書で、日米の射撃指揮装置の能力の差について説明している。日米最高の戦艦の大和とアイオワが戦ったらどちらが勝つか、という設問である。多くの軍事関係の刊行物では、両艦の武装や装甲の優劣、速力などのカタログデータを比較して、大和やや有利、と言うのが相場である。ところが氏は明快にアイオワの完勝である。と断ずる。アイオワの場合、距離の誤差の小修正と方向の小修正を最初の弾着でおこなうので、夾叉弾を得るのに試射1回、3分45秒かかる。大和は、試射3回、8分15秒を要すると言うのだ。この時間が短ければ先に命中するばかりでなく、艦の進路の変更などの影響が少ないから更に有利である。この差は、弾着観測結果を次弾発射のデータに反映するシステムの優劣に起因している。

さらに測距をレーダー観測とすれば、光学式測距儀のような距離による誤差がなくなる。それどころではない、そもそも射撃盤(計算機)の能力には格段の差があるし、日本海軍では射撃盤による砲の自動操縦システムを持たなかったから即応力には大きな差が出る。このような指摘は護衛艦で砲術長をしていた氏ならではの視点である。

同じく、是本氏の「日本海軍は滅び、海上自衛隊はなぜ蘇ったのか」にも明瞭な指摘がある。第二次大戦中の主力の射撃指揮装置のMk37より性能が劣る米軍から供給されたGFCS(射撃指揮装置)を搭載した護衛艦の砲術長として、5インチ速射砲で標的の吹き流しを射撃したと言う。VT信管ではなく、時限信管を用いていたにもかかわらず、初弾から命中したと言うのだ(P54)。他の個所でも護衛艦が次々と標的に命中させて、技量の高さに米海軍の教官たちが驚いたと言う逸話を書いている。VT信管を使っていない事はもちろんであるが、技量を問題にしたのはレーダーではなく、光学照準だったからであろう。要するに当時の日本海軍の九四式高射装置とMk37の性能差の隔絶は言うまでもない。

氏は同時に、日本海軍の12.5cm高角砲と米海軍5インチ両用砲の命中率の左は、0.3%対30~50%であったと言う驚くべき統計を示す。命中率の比率は最大約167倍という驚異的な差になる。米海軍に比べれば、日本海軍の高角砲は全く当らないのに等しい。これは日本の高角砲員の実感と一致する。一方で米海軍砲員が、打てば当たる、と豪語している証言もある。是本氏はVT信管とて、目標に接近しなければ有効ではないから、日本海軍がVT信管を使用しても何の役にも立たなかったろうと断言しているがその通りである。

VT信管は弾道を敵機の方に向けてくれるわけではないのである。米軍のレーダー照準にしても第二次大戦当時のレーダーを今の時点のレベルで比較すべくもないから、過大評価は禁物である。VT信管はマリアナ沖海戦から使用されているが使用されたのは5インチ砲だけで、それも弾数の僅か20%程度である。それ以前の日本が勝利したとされる珊瑚海海戦でも、南太平洋海戦でも、艦艇の喪失トン数こそ米海軍が大きいが、艦上機の被害は日本海軍の方が大きい。

Wikipediaによれば、南太平洋海戦での喪失艦上機は日本92機、米74機で、搭乗員となると、148人と39人と更に差が開く。これは、互いに防空戦闘機と敵艦隊の防御砲火をくぐって戦った結果である。日米の射撃指揮装置(GFCS)の決定的な能力の差は、戦記を数多く読むとよく分かる。同じく戦艦に対する攻撃にしても、日本機は対空砲火により接近する事すら困難であった、と証言されているのに、米海軍は戦闘機による機銃掃射さえ平然と行って、対空火器要員をなぎ倒している。戦艦に対してですら、米海軍は対空砲火の威力の無さを知っていたのである。シブヤン海海戦で大和は戦闘機による機銃掃射で主砲身内に飛び込んだ機銃弾が砲弾の信管を破壊し、砲塔内で小爆発を起こした(*)という情けないエピソードすらある。

米海軍では大東亜戦争に参加したほとんどの駆逐艦が、主砲に対水上と対空の兼用の両用砲を備えている。しかも、対水上能力に不満が残る、と言われた位対空能力を重視している。実は、米海軍は軍縮条約で第一次大戦時に大量建造した、駆逐艦をスクラップにすると同時に建造した駆逐艦には、ほとんど全て両用砲を備えていた。付け焼刃で対空兵装を重視したのではない。

戦前の早い時期から、計画的に、対空兵装を充実させていたのだった。日本初の防空駆逐艦である秋月型でも、高角砲のカタログデータが優れているだけで、GFCSは相変わらずの劣った九四式高射装置である。秋月型ですら戦前からの米駆逐艦よりはるかに対空戦闘能力が劣っているのだ。ましてや、その他の駆逐艦には高角砲はもちろん九四式高射装置すらないから、対空射撃能力はない。艦隊防空どころか、自艦さえ守れないのである。

 日本海軍の防空体制への批判の最大のものは、米国が早期に輪形陣を取り入れて空母の周囲に濃密な護衛艦艇を配置したことであろう。これに対して日本海軍は、戦艦などを空母から離して配置していたため、脆弱な空母護衛のための有効な対空砲火陣を張れなかった、というのである。だが輪形陣を組んだところで桁違いの対空火器の命中率ではやはりどうしようもなかった。日本機は単独航行の米駆逐艦への攻撃にも苦慮していたのに、F4F戦闘機に撃沈された日本駆逐艦すらあったのである。

巷間の出版物に米軍の対空砲火の効果を射撃指揮装置の能力差に求めずに、レーダーやVT信管に求める傾向が強いのは、GFCSという地味なものの開発を軽視して、主砲の口径や戦艦の装甲厚さといったカタログデータに表れやすい物を重視した日本海軍の技術開発方針と類似したメンタリティーを感じる。 

*Gakken Mook GARAシリーズ、戦艦「大和」の真実

 

 


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