米海軍の艦爆SB2Cヘルダイバーは、12.19m×13.72mのエレベータに2機搭載できるように、主翼を折りたたんだときの全幅を5.18m以下にするという要求であった(世界の傑作機No.40による)。そこで全長が11.17mとなった。この数字は97艦攻、天山、九九艦爆、彗星などに比べて大きい数字であるが、全長不足による縦安定不良の改修に手間取った。
これは、前掲の日本機が、1トン前後も軽いことにより、問題が無かったのである。ちなみに最後の艦攻、流星は全長11.49mとヘルダイバーを超えているから納得できる。更に大型のアベンジャー雷撃機は全長12.48mもある。ところが多くの設計変更を加えた結果、量産機のヘルダイバーは折りたたみ時全幅6.94mと要求が無視されている。
無理して寸詰まりにして安定不良を起こした上に、エレベータに2機搭載すると言う要求も満たせなかったことになる。ここからは小生の推測だが、全幅が増えた原因はふたつある。アベンジャーは12.48mの全幅ながら6m以下と言う折りたたみ時の全幅を実現している。
それは、グラマン社得意の、折りたたみ部の主翼を一度90度回転させてから、後方へ折りたたむ機構だから、折りたたみ部の主翼幅が大きくても、全高は折りたたみ前の全高以下に収まるという優れものである。これに対してヘルダイバーはオーソドックスに折りたたみ部を上方に跳ね上げる方式である。一方で、主翼の試験結果から揚力係数不足が判明し、面積を4m2近く増やす羽目になってしまった。
すると、折りたたみ翼幅制限を守ろうとすると全高が高くなってしまって、格納庫内の高さ制限に収まらなくなってしまったので、折りたたみ時の翼幅制限を解除せざるを得なくなったと言うストーリーが成り立つ。安定の改修などに相当な時間をかけているので、実際にはこんなに単純に時系列を追って進んでいたわけではあるまい。しかし、原因としてはおおむね、こんなところであったと思う。
米海軍の無体な要求から、実用化が大幅に遅れることになってしまったが、結局はドーントレス艦爆の後継として量産されて活躍したのだから、結果オーライなのであろう。小生も日本陸海軍の航空行政批判は多くしているが、どこの世界にも、そのような無体はあるもので、心して批判しなければならないと思う次第である。小生はヘルダイバーのバランスの悪い寸詰まりのスタイルは実好きなのである。もっとも、大和を始めとする日本海軍艦船を多数沈めた、にっくき奴ではある。