平成29年8月28の産経新聞に面白いエッセーのようなものがあった。経済学者の伊藤元重教授の文章である。金利が変化すると不動産価格がどの程度変化するか、と言うのがテーマである。伊藤氏によれば年間家賃120万円のアパートがあったとする。金利が1%だとして、このアパート経営に投資するに見合う、金額は一億二千万円だというのである。
一億二千万円で金利1%の債権を買えば、年間120万円の金利が入るから、というのである。金利収入はその通りである。しかし、一億二千万円で土地を買い建物を作り、年間家賃120万円で、採算が合うのだろうか、と考えたらよいのである。
120,000千円/1,200千円=100年である。
伊藤教授の金利の計算は間違いないが、果して、土地と建物に一億二千万円投資しても100年経たなければ回収できない、というアパートを建てるものがいるはずはなかろう。こんなことを考えたのは、小生の父がその昔、建設業者に勧められて、使わず余った畑の一部に戸建ての賃貸住宅を建てたからである。子供ながら、建物の建築費だけを家賃で割ってみたら、30年近くかかる計算になった。
安造りの木造だから、30年も経ったら使い物にならないし、それまでの修理費は基本的に貸し主である。つまり30年経つと家は無価値になるから、建築費がちゃらになるだけで、元の木阿弥である。どう考えても賃貸契約は採算に合わないのは、分かり切っている。せいぜい、固定資産税対策にしかならないのである。土地が只であると言う計算ですらこんなものである。実際に賃貸経営をしている知人は何人かいるが、すべて親の資産が只で手に入ったケースだけである。
つまり、余程の田舎で土地が只同然で買えるケースしか、土地と建物を買って割が合いそうなケースはあり得そうもない。だがそんなところでは、割に合う家賃収入は得られないから、結局教授がいう賃貸目的の不動産投資は割に合わないのである。教授の言うケースでは、将来、建物に投資した金額分は消えてなくなり、土地投資分だけしか投資資金は回収できなくなる、ということが考慮されていない。確かに金利1%で投資した場合、元金が確実に残るという保証がないとすれば、教授の説もあながち間違いだとは断定できないのであるが、不正確極まりないことは間違いない。。
相続資産を持つ者に賃貸経営を勧める業者が、自ら賃貸経営をしないのは、そこに理由がある。賃貸経営を勧める言葉は伊藤教授のような論理を元にしたものであろう。教授のような経済のプロが時々空論に近いとしか思えないことを言うとしかの思えないのは、そんな訳である。