毎日のできごとの反省

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日本農業異見

2020-06-30 22:21:47 | 政治経済

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 私の田舎は父の代まで専業農家だった。父は長男(私の兄)が県庁勤めするとまもなく亡くなったから、それからは母が細々と続けてきたが老いてからは止めた。その母も80台半ばに亡くなったから誰も農業はしていない。その間広かった田畑は次々と道路や公園などの公共施設に売ってしまって、僅かな田圃が残っているだけである。今も稲作をしてあるところは自前ではなく人に貸して作ってもらっているだけである。残りは休耕田となっているから形式的には兼業農家である。だから減反奨励金を受け取っているのであろう。 

 祖父は耕運機が発売されるといち早く買った。母が大変だから、と言った。祖父は寡黙で朴訥だったがやさしかった。その代わり馬が売られて行った。夜、白熱電球を煌々と点けて最後の飼葉を食べさせてからトラックに乗せられた。その時の潤んだような大きな馬の目は悲しい想いと共に忘れ得ない。母は農家の生まれの癖に体が弱く、農繁期を過ぎると必ず一週間ほど寝込んだ。祖父はそんな母を気遣ったのである。

 祖父が耕運機を買ったのは、収入を増やすのではなく、楽をするためであった。農業機械があるからと言って、農業規模が増えなければ収入は増えない。農業機械を買う経費だけ収益は悪化するのである。その上に農業機械は1台が年間に数日しか稼働しない。そして当時の耕運機などは、3年もすればガタガタになって買い替えた。農業機械や肥料を買うのはもっぱら農協を通してである。米は農協が全部買いあげてくれる。こうして儲かったのは農協だけである。近くの農地がいつの間にか農協に買われて運動場のような広場がある農協の出先ができた。太ったのは農協だけである。

 一級上の近所の女の子が高校を卒業して農協に入った。その子が親に連れられて夕方、農協貯金に入って下さいと我が家を訪れた。こうして多くの農家の子弟は農協に採用されて兼業農家になった。高価な農業機械を買って、子弟を教育するためには現金がいる。こうして多くの農家が兼業農家になっていった。農協は農家の上に君臨している。TPP参加の問題が起きると多くの農家が反対した、と言うのは正確ではない。かつてTPP問題のときに報道されたテレビをよく思い出して欲しい。TPP反対の先頭に立っているのは農民ではなく、JA全中すなわち全国農業協同組合中央会である。

TPPに参加すれば、日本の農業は合理化しなければ立ちいかなくなる。合理化のためには、農協の独占的利益によって効率が悪くなっている日本農業を改革しなければならなくなる。多くの中小規模兼業農家は独立して経営する能力が無いから、農協に頼らざるを得ない。その状況を打破しなければ農業の合理化は成らない。現在農地を取得できるのは農家だけである。株式会社が農地を取得して農業が出来るようにすれば、会社にとって農協は不要である。

 そうすると農協は崩壊する。農協は子弟を雇っている事や農協に頼る農家をまとめて、政治活動を行い自民党の農水族議員を育てた。農水族議員は米価の逆ザヤや、補助金等を農家に垂れ流し、結果的には農業の効率化を阻止した。旧来の農業をしていて済むから改良努力をしないのである。農協が農業技術の改良をしているのはもちろんである。しかしそれは既存の農業政策の枠内であり、逆ザヤや補助金を前提としたものである。

 TPPに参加したら日本の農業は崩壊する、と言われてきた。しかし我が実家の現況を見るとわかるが、日本の農業の多くは既に産業と言える状態ではなく、崩壊している。産業の体をなしているように見えるのは、多くの税金が農家と農協につぎ込まれているからである。日本の工業が興隆したのは保護によってではなく、自由貿易によってであった。繊維の自由化によって崩壊したはずの繊維産業は、化粧品ばかりではない、最新の旅客機を作る高強度炭素繊維を開発してよみがえった。日本の農業の再生は農地の利用を農家に限定するのではなく、株式会社に開放することである。じいちゃんばあちゃんの三ちゃん農業に技術開発、品種改良や営業活動ができようはずがない

 農協はその点は農協がやっている、と言うであろう。そこも盲点である。自分で生産をする会社ならば技術開発、品種改良や営業活動は死活問題である。農協はあくまでも農家とは別個の組織である。だから農協にとっては死活問題ではない。産業は顧客のニーズが育てる。そのニーズに農協は第三者としてしか関係できないのである。そこに効率の悪さがあるし切実さもない。

 しかも農水族に頼ると言う一見、一番楽で効率的な方法がある。しかも農協は特権的地位を利用して観光や金融など本来の任務以外に肥大化してしまっている。今や農協の目的は農家の育成ではなく、農協組織の維持である。農協は戦後農地解放によってできた中小農家の育成の時代には大きな役割を果たした。しかし既にその役割は終わったのである。

 我が家の新しい墓地は、遥か遠くにできたので皆車で行かなければならない。母が死ぬ直前に、あそこまでも我が家の田畑だったといった。それほど広大な地主だった我が家が落ちぶれたのは、戦後の農地解放によってではない。病気がちだった曾祖父の治療費のために土地を切り売りしたことや、分家に土地を貸すと居住権でむしり取られ、戦後の農地改革以前に、既にようやく専業農家がやれる程度に落ちぶれたと聞いた。

 かつては地元の豪族であった痕跡は、わずかに戦国時代のいくつかの古文書と槍の穂先位しか残っていない。刀もあるが、何と祖父が鉈代わりにするために半分に折った上に切っ先を成形したので見る影もない。侍だったはずの我が家の心は、長いうちに農民となっていた。

その農民の子弟の小生が農業再生のためにはTPPは有効であると主張する。ショック療法でしか農業の再生はないと思うのである。

 

 



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2 コメント

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JA株式会社 (テレビとうさん)
2020-07-01 08:09:50
最初に「侍」が生まれたのは、農家が自分の土地を守る為に転身したり雇い入れたから、と聞いています。それがいつの間にか「侍に支配」されるようになり、明治以降は「侍」が「議員」になりました。

戦前は「地主」が「小作農」を使っていたので、ある程度の「権力」が有りましたが、戦後は実質的には「地主」は「農協」に、「小作農」は「小作農」のままなので、戦前の「地主制度」を揶揄する為に戦後に名付けられた「寄生地主制度」が、現在では名実ともに「JA全中」が「寄生地主」になりました。

地場農協はそれなりに「有益」な面もあるので、農協を農業従事者に株式を配分して株式会社化する事と、日本人限定にして新規参入を促進すれば、現在の経済システムとの整合性は取れると思います。

但し、文化財保護の面から「古式農法」の保護は欠かせません。
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コメントありがとうございます。 (猫の誠)
2020-07-01 16:54:48
小生には昔の小作制度の方が合理的に思えます。農協は、農地解放で増えた小作農から搾取しているのに過ぎないからです。農業自体を会社化して、技術開発、営業、その他の仕事をすることが肝要かと思います。今の農協は中小の兼業農家を利用して、本来業務以外の金融などで肥大化しています。親戚にも何人も農協職員がいますから人質だと思っています。
 文化保護の観点から古式農業を奨励する意見ですが、、レトロと言われる蒸気機関車も、発明当はハイテクだったのです。稲の手植えを経験した小生のには、この広大な田圃゛を手植えすると思うとぞっとします。年間わずかしか使わない農業機械の金銭負担はすごいものです。都会育ちの人にはわかりません。
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