私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

サパティスタは強くなり大きくなりつつある(3)

2019-05-08 23:38:23 | 日記・エッセイ・コラム
 自習のつもりでサパティスタ運動の歴史を辿る予定でしたが、ベネズエラに対する米国の仕打ちが眼に余るひどさなので今回はそれを取り上げます。
 4月30日の早朝に起こったことは典型的なクーデターの企てで、それは直接に米国が立案計画し、実行したものであり、その失敗は30日中に明白になりました。これが単純な事実です。
 しかし、マスメディアに接している限り、この明白さはボヤけてしまいます。 例えば、ニューヨークタイムズやBBCは大量の報道を流しますが、米国が仕掛けたクーデターが無残な挫折に終わったことをはっきりと読み取ることはできません。報道の饒舌さもプロパガンダ戦争の一つの戦術ということでしょう。以下にその例を挙げておきますので、興味のある方は読んで見てください:
https://www.nytimes.com/2019/05/01/us/politics/trump-venezuela-maduro-guaido.html?emc=edit_th_190502&nl=todaysheadlines&nlid=681465930502
https://www.nytimes.com/2019/05/01/world/americas/venezuela-protests-guaido-maduro.html?action=click&module=RelatedCoverage&pgtype=Article®ion=Footer  
https://www.bbc.com/news/world-latin-america-48137781
しかし、報道の饒舌さに加えて、さりげない誤報や断定も問題です。その一例:5月1日の朝日新聞朝刊の記事は「独裁支配を強めるマドゥロ大統領と反マドゥロ派の対立で政情不安が続く南米ベネズエラで30日、暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長が首都カラカスの空軍基地に入り、兵士らに反政権に決起するよう呼びかけた。政権側は鎮圧する構えだ。軍はマドゥロ氏の有力支持基盤。呼びかけに応じて離反が進めば、同氏には大打撃となる」と始まります。まず“グアイド国会議長が首都カラカスの空軍基地に入った”というのは誤報です。寝返りをした少数の軍幹部に騙されて空港付近に集まった下級兵士の数は約百人、空港警備の国軍は彼らがカルロータ空軍基地内に入るのを難なく阻止し、寝返りした幹部二十人ほどは、これはやばいと早々にブラジル大使館に逃げ込みました。“独裁支配を強めるマドゥロ大統領”という断定は全くホワイトハウス・ラインです。叛乱分子に対する追求処罰の手緩さだけを見ても、マドゥロ大統領は世界中に幾らも見かける独裁的指導者にはとても及びません。マドゥロ大統領はその支持勢力から突き上げられるような煮え切らない面さえ持っています。一方、米国側の「ウソ・ニュース」攻勢は凄まじいものです。
 米国の操り人形グアイドは4月30日朝5時頃クーデターの行動を始めましたが、同日、米国のマイク・ポンペオ国務長官は「マドゥロ大統領は今朝キューバへの亡命を試み、飛行機も用意したが、ロシア政府によって引き止められた」と公言しました。また悪名高きジョン・ボルトン米大統領補佐官は「キューバは衛生医療要員と称してして2万5千人の軍人や情報機関要員をベネズエラに送り込み、マドゥロ政権とベネズエラ軍をコントロールしている」という途方も無い嘘をばら撒いています。キューバがベネズエラを牛耳っているという馬鹿馬鹿しく、毒々しい主張に対する清涼剤として次の記事の一読をお勧めします:
https://libya360.wordpress.com/2019/05/06/cuban-troops-saving-lives-in-venezuela/
表題は「キューバ“軍”ベネズエラで人命救助」です。冒頭にはベネズエラの山岳寒村を背景に衛生医療要員らしい三人の女性の写真があり、キャプションには「2万人を超えるキューバ人協力隊員、その61%は女性、がベネズエラにとどまって、この姉妹国家の人々の人命を救い、その福祉の確保に努めている」とあります。記事本文の最初と最後の部分を訳出します:
「米国大統領ドナルド・トランプは最近、“完全完璧な”封鎖と“最高レベルの経済制裁”を組み合わせて、キューバに脅しをかけ、ジョン・ボルトンはキューバがニコラス・マドゥロの政府を“コントロール”していると非難を浴びせてきた。この虚言は、羞恥心のかけらもなしに、ヤンキー政府の高官たちによって繰り返され、ドナルド・トランプは“2万人のキューバ軍兵士をベネズエラから撤退させよ”とキューバに命令した;キューバがベネズエラから“手を引く”なら、米国とキューバの新しい関係が開けるぞ、との約束を掲げながら。」
「キューバの衛生医療協力隊員はベネズエラの24の州、335の自治体に分布されている。彼らはあらゆる共同体に住み込み、1500以上のヘルス・センターでサービスを提供し、そのサービスを最も必要とする人々と毎日の生活を共にしている;それが貧しい山村であれ、上流階級の地区であれ。患者は政治的な所属や宗教信仰について質問されることもなければ、サービスに対する支払いを求められることもない;誰もが同等に取り扱われる。・・・・・・・・これらが我々の武器であり、ベネズエラにおいて、生命と平和を保証する我が“軍”なのである。そして、我々は、人間の福祉を思いやるそうした努力に着手しようとする人々の断固たる味方である。」
こうしたことを遂行するキューバという国の存在は、まさに、現代の奇跡であり、米国という巨悪に対する貴重なantidote です。イラク戦争の時、米国の制裁措置で医薬品が欠乏し、イラクの数十万人の子供達がこの犠牲となって死亡したことはよく知られています。現在、米国の凶悪強盗的な制裁による医薬品の欠乏で死んだベネズエラの子供の数はすでに4万人に達しているという報告があります:
https://dissidentvoice.org/2019/04/40000-dead-venezuelans-under-us-sanctions-corporate-media-turn-a-blind-eye/
 ところで、ポンペオやボルトンは、米国国軍の直接侵攻によるマドゥロ政権の打倒の可能性をしきりにほのめかしていますが、米国の介入躊躇の本当の理由は、ベェネズエラ国軍の戦闘能力の評価にあるのではなく、ウゴ・チャベスがタネを蒔いたベネズエラの“サパティスタ”の大きな成長にある、というのが私の推測です。

藤永茂(2019年5月8日)
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