私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

リビア挽歌(1)

2011-08-24 11:13:23 | 日記・エッセイ・コラム
  桜井元さんから、前回のブログ『中東/アフリカの女性たちを救う?(2)』に、長く重い内容のコメントを戴きました。それにお答えする気持で以下の記事を書きます。まず、桜井さんのコメントをお読みになって下さい。
  いま、「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国」(日本外務省による呼称)、英語では The Great Socialist People’s Libyan Arab Jamahiriya という一つの国が、私たちの目の前から、姿を消そうと、いや、抹殺されようとしています。「ジャマーヒリーヤ」はカダフィが作った合成語で「大衆による国」といった意味だそうです。私たちがこの国について殆ど何も知らないままに、歴史の一頁がめくられようとしています。しかし、この地域の人たちが、今からアメリカと西欧の傀儡政権の下で味わう事になるに違いないと思われる悪性の変化を予測するに充分な基本的事実の幾つかが明らかになっています。石油産業、治水事業、通信事業などが国営で、原則として私企業にコントロールを許さなかったことが最も重要な事実でしょう。つまり、WB(世界銀行)もIMF (国際通貨基金)も好き勝手に切り込めなかった国であったことが、米欧の軍事介入による政権打倒が強行された理由です。社会的インフラ整備、教育、医療,生活保障などに注がれていた国家収入は、外国企業と米欧の操り人形であるリビア支配階級の懐に流れて、一般市民のための福祉的出費は大幅に削減されるのは、避けられますまい。カダフィの息子たちに限らず、これまでのジャマーヒリーヤ風の政策を続行しようとする政治家は、オバマ大統領が早くも約束している“民主的選挙”の立候補者リストから、あらゆる手段で排除しなければなりません。前回のブログで指摘したように、ハイチやルワンダがその典型的な例を提供しています。暗殺も極めて有力な手段の一つです。
  反カダフィ軍のトリポリ制覇のニュースに接して、私の想いは、過去に逍遙します。チトーのユーゴースラヴィア、サンカラのブルキナ・ファッソ、ルムンバのコンゴ、・・・・・、その土地の人々がせっかく何とかまとまって平和に生きようとした試みを米欧の悪の力は一つ一つと地表から消し去って来ました。現在に戻って、ムガベのジンバブエ、イサイアスのエリトリア、・・・、こうして考えを巡らして行くと、カストロのキューバがどんなに奇跡的な歴史の例外であるか、あったかが、痛切に胸を打ちます。
  テレビのスクリーンで、「カダフィは倒れた。自由を取り戻した」と、新品らしい自動小銃を天に向かって発砲しながら叫び躍る若者たちにとって本当に大切な自由とは何でしょうか。空腹からの自由、失業からの自由、医療費の心配からの自由、教育費からの自由、・・・、これらを失って、いわゆる言論の自由という何の腹の足しにもならないものを手にいれることで彼らは新政権下の“民主主義的自由”を謳歌しつづけることが出来るでしょうか。考えてみると、ここに数え上げた四つの基本的自由はアメリカ本国の数千万の下層階級の人々には与えられていません。自国の民草にも与えない自由をアメリカが、“人道主義的立場”から、自腹を切ってリビア国民に与えるだろうと信じる人は世界に一人もいないでしょう。最近の米国内の状況を見ていると、パトリオット条令の下で、言論の自由も消えつつあると思われます。
  この「リビアの春」は本当の春ではありません。北アフリカの青年たちはもう一度立ち上がらなければなりません。そう言えば、トリポリで火器を乱射しながら自由獲得を謳歌している人たちの中に、アフリカ黒人らしい黒い肌の人たちがほとんど見当たらないのも気になります。

藤永 茂 (2011年8月24日)


ジャンル:
ウェブログ
コメント (14)   トラックバック (1)   この記事についてブログを書く
« 中東/アフリカの女性たちを... | トップ | リビア挽歌(2) »
最近の画像もっと見る

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
貴方はアホですか?貴方には欧米列強支配か独裁者... (gza07437)
2011-08-25 11:35:33
貴方はアホですか?貴方には欧米列強支配か独裁者の強権支配かの二者択一しかないのですか?カダフィーの独裁が是であるなら、日本の社会主義的なガチガチの官僚統治機構も地上の天国に等しいものになりますね。貴方からすれば日本は改革の必要性など一切ないというのですか?
日本は世界的にみればとてつもなく恵まれた国です。ですかみんな日々のありようには数多の不満を持っています。遅々とした歩みですが変革しようという動きもあります。リビアの国民が我々と同じ不満を持ったとしても何ら不思議ではありません。それを貴方は神の如き高みから「お前らは騙されてるんだよ!」と嘲笑い否定するのですか?
勿論貴方の仰る通り、カダフィー後のリビアが欧米ロシア、中国、その他周辺国も絡んだ脆弱な各勢力間の覇権争いで混乱状態に陥るのは必至です。しかしそれは彼らが選んだことであり、我々は彼らの意思を尊重するしかありません。貴方からすればリビア国民の意思ではなく、欧米列強がそのように唆した結果なんでしょうけど。
gza07437さんへ (@kumaboon)
2011-08-25 14:11:50
gza07437さんへ
貴方は「闇の奥」は読まれたのですか?
もっとアフリカや中南米の近現代史を学んでからお越し下さい。ついでに日本の戦後史も。
@kumaboon さんへ (gza07437)
2011-08-25 15:42:11
@kumaboon さんへ

私はオリバー・ストーンの「サルバドル」を見て以来、中南米の近現代史に興味を持つようになりました。アメリカ帝国主義のラテンアメリカ諸国への苛烈な干渉が筆舌に尽くし難いものであったことは十分過ぎるほど承知していますよ。アメリカがスクールオブジアメリカズで反共の名のもとに暗殺部隊を養成していたことなどゲシュタポと変わらぬ犯罪行為です。
現代もアメリカはこの蛮行について何ら直視も反省も謝罪していないことにハラワタが煮えくりかえるような怒りを覚えます。そして現代の左派政権が大半を占めるラテンアメリカの現状をみていると何ともいえない感慨を覚えます。勿論コロンビアやメキシコなど今でも治安が不安定な国はありますけど、それでも冷戦期のゴロツキ暗殺部隊が跳梁跋扈していた時代を考えれば隔世の感があります。そして将来的にはチャベスの提唱するような緩やかなラテンアメリカ共同体のようなものが形成され、アメリカからの過度な干渉を刎ねつける力を付けてくれることを願っています。

チャベスの名が出たので言っておけば、少なくともチャベスは不貞の輩に銃口を向けても無辜の民衆には向けません。これがカダフィーとの最大の違いなんでしょう。








補足 (gza07437)
2011-08-25 16:06:10
補足
@kumaboon さんへ

私はオリバー・ストーンの「サルバドル」を見て以来、中南米の近現代史に興味を持つようになりました。アメリカ帝国主義のラテンアメリカ諸国への苛烈な干渉が筆舌に尽くし難いものであったことは十分過ぎるほど承知していますよ。アメリカがスクールオブジアメリカズで反共の名のもとに暗殺部隊を養成していたことなどゲシュタポと変わらぬ犯罪行為です。現代もアメリカはこの蛮行について何ら直視も反省も謝罪していないことにハラワタが煮えくりかえるような怒りを覚えます。ついでにアメリカ人が被害者として自分達の911についてはこれ以上はないくらい嘆き悲しむくせに、チリの911についてはそれが何を意味するか知らない加害者のしての自覚の無い身勝手さ、ダブルスタンダードな冷血さも許せませんね。

そして現代の左派政権が大半を占めるラテンアメリカの現状をみていると何ともいえない感慨を覚えます。勿論コロンビアやメキシコなど今でも治安が不安定な国はありますけど、それでも冷戦期のゴロツキ暗殺部隊が跳梁跋扈していた時代を考えれば隔世の感があります。そして将来的にはチャベスの提唱するような緩やかなラテンアメリカ共同体のようなものが形成され、アメリカからの過度な干渉を刎ねつける力を付けてくれることを願っています。

チャベスの名が出たので言っておけば、少なくともチャベスは不貞の輩に銃口を向けても無辜の民衆には向けません。これがカダフィーとの最大の違いなんでしょう。
gza07437さんへ (山椒魚)
2011-08-25 16:19:42
gza07437さんへ

日本は10年以上自殺者が3万人以上出ている国です。もしかしたら今度のリビア内戦の死者数よりも多いんじゃないんでしょうか。(リビアの死者数の詳細なデーターを知りませんが。)おそらくカダフイに虐殺された人の数よりこの10年間で日本で自殺した人の数の方が多いいと思いますよ。

この様な日本がどうして社会主義なんでしょうか。強固な官僚主義=社会主義ではありませんよ。
今の日本は上から下まで、右から左まで唯金主義=拝金主義の社会ですよ。「共助」を理想とする社会主義とは全く別物ですよ。

リビアは今まではカダフイの個人独裁社会から、唯金主義のリバイアサンが支配する社会に変るわけですよ
gza07437さん (櫻井元)
2011-08-25 20:51:03
gza07437さん

言葉を慎しみなさい。
浅はかに、他者の論も理解できず、口汚く吼えるだけ吼えるのは愚かしく恥ずべき行為です。藤永先生の文章、その思想のどこに、「欧米列強支配か独裁者の強権支配かの二者択一しかない」と読み取れるのですか。

いろいろな立場からのコメントはあってしかるべきと思いますが、建設的なコメントではなく、藤永先生のブログを荒らす目的としか思えない「為にする」「低次元の」コメントは許されません。

人様を批評するには、最低限のモラルをお持ちなさい。批評する相手の主張を正確に把握すること、それから、批評する相手の人格を尊重すること、以上です。
櫻井元さんへ (Unknown)
2011-08-25 23:29:16
櫻井元さんへ

私は荒らす意図など毛頭ありません。確かに言葉が過ぎました。それはついては藤永さんに謝罪します。非常に申し訳ありませんでした。

私が何も理解してないと仰いますが、私が疑問に感じたのは藤永さんが「今からアメリカと西欧の傀儡政権」と表現されていることです。ざっくりといってしまえば間違いではないのでしょうがとても違和感を覚えます。

少なくともアメリカはあの共和党ですらリビアへの武力介入については「「アメリカはこのような些事に関わる余裕はない」とオバマ政権を批判していたくらいです。オバマからもあまり積極的に介入したいという様子は窺えませんでした。アメリカはむしろカダフィー政権の存続すら望んでいたはずです。オバマは英米にせっつかれ、流れに抗えなくなって武力介入に踏み切ったようにしか見えません。今回の政権崩壊でアメリカは自分達の権益を失ったともいえます。アメリカは主犯ではなく従犯といって良いでしょう。今回のアメリカのリビア介入をイラクやアフガニスタンと同じ論調で叩くのはやや短絡的なのではないでしょうか?ディテールとして前者と後者では明らかに違います。反ガダフィー派やアメリカを批判することは間違いではありません。しかし当て擦り的に貶めるのはどうかと思います。

それから私はNATOの空爆には反対でした。外国勢力による政権転覆が後々禍根を残すのはアフガンやイラクの例をみるまでも自明です。NATOの空爆無く反政府勢力が例え鎮圧されたとしても流れる血が空爆より減るのならしょうがないとすら思っていました。

しかしそれでもカダフィー打倒に立ち上がった反政府勢力の志には敬意を払っておりました。藤沢さんの「今からアメリカと西欧の傀儡政権」という表現が彼らの志を冒涜するようにみえて、思わずあのような失礼な無礼な振る舞いをしてしまいました。重ねて申し訳ありませんでした。
訂正 (gza07437)
2011-08-25 23:33:58
訂正
櫻井元さんへ

私は荒らす意図など毛頭ありません。確かに言葉が過ぎました。それはついては藤永さんに謝罪します。非常に申し訳ありませんでした。

私が何も理解してないと仰いますが、私が疑問に感じたのは藤永さんが「今からアメリカと西欧の傀儡政権」と表現されていることです。ざっくりといってしまえば間違いではないのでしょうがとても違和感を覚えます。

少なくともアメリカはあの共和党ですらリビアへの武力介入については「「アメリカはこのような些事に関わる余裕はない」とオバマ政権を批判していたくらいです。オバマからもあまり積極的に介入したいという様子は窺えませんでした。アメリカはむしろカダフィー政権の存続すら望んでいたはずです。オバマは英仏にせっつかれ、流れに抗えなくなって武力介入に踏み切ったようにしか見えません。今回の政権崩壊でアメリカは自分達の権益を失ったともいえます。アメリカは主犯ではなく従犯といって良いでしょう。今回のアメリカのリビア介入をイラクやアフガニスタンと同じ論調で叩くのはやや短絡的なのではないでしょうか?ディテールとして前者と後者では明らかに違います。反ガダフィー派やアメリカを批判することは間違いではありません。しかし当て擦り的に貶めるのはどうかと思います。

それから私はNATOの空爆には反対でした。外国勢力による政権転覆が後々禍根を残すのはアフガンやイラクの例をみるまでも自明です。NATOの空爆無く反政府勢力が例え鎮圧されたとしても流れる血が空爆より減るのならしょうがないとすら思っていました。

しかしそれでもカダフィー打倒に立ち上がった反政府勢力の志には敬意を払っておりました。藤沢さんの「今からアメリカと西欧の傀儡政権」という表現が彼らの志を冒涜するようにみえて、思わずあのような失礼な無礼な振る舞いをしてしまいました。重ねて申し訳ありませんでした。
石油で得た利益を自国の為に使う政権は正しい。 (kenshin)
2011-08-26 18:33:33
石油で得た利益を自国の為に使う政権は正しい。
また、地下資源などなくて貧しいと言われている国であっても自国の国民と共に生きようとしている政府を持つ国は幸せである。NATOをコントロールするのは加盟国の国の意志ではない、だからアメリカが云々などではなくある悪意の意志があるのです。
一国の幸せを破壊して、自ら欲望の為に世界中を哀しみのなかに沈める意志です。
>「今からアメリカと西欧の傀儡政権」と表現さ... (Executor)
2011-08-30 00:51:06
>「今からアメリカと西欧の傀儡政権」と表現されていることです。

すでに、反体制は幹部が、
「反政府派のアブデルジャリル・マヨーフは「西側」と友好的な関係を結ぶとする一方、ロシア、中国、ブラジルとは「政治的な問題」があるとしている。つまりBRIC諸国からイタリア、フランス、イギリスなどへシフトすると示唆している。」
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201108250000/

それに対して、
「南アフリカのヤコブ・ズマ大統領はAU(アフリカ連合)が反カダフィ派政権を承認しないと発言している」
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201108280000/

という情況ですよ。
はやくも反体制の「正体」が明らかになりつつあるのですが。

コメントを投稿

日記・エッセイ・コラム」カテゴリの最新記事

トラックバック

中東再分割のモデルとしてのリビア (マスコミに載らない海外記事)
wsws.org Bill Van Auken 2011年8月24日 月曜にフィナンシャル・タイムズのウェブ・サイトに公開された、“カダフィ没落、アラブの春をよみがえらせる”と題するフィリップ・ゼリコウのコラムは、リビアにおける、建前上の“人道的”介入