私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ぬちどうたから(命どう宝)

2020-04-15 22:37:38 | 日記・エッセイ・コラム

 『A New Humanity, A New World』(新しい人間性、新しい世界)と題する記事の翻訳を掲げる前に、ジョン・ピルジャーが3月12日に発した我々への警告を訳出します:

http://johnpilger.com/articles/a-pandemic-is-declared-but-not-for-the-starving-the-preventable-sick-the-blockaded-the-bombed

「世界的流行病(パンデミック)が宣言された。しかし、それは不可避ではない饑餓から24,000 人の人々が毎日死んでいることに対してではなく、また、予防可能のマラリアにかかって毎日死んでいる3,000 人の子供たちに対してでもない。公的資金による健康保険制度から排除されたため、10,000 人が、毎日、死んでいるからでもない。米国による貿易封鎖で救命に必要な薬品類が輸入できないために何百人ものベネズエラ人やイラン人が毎日命を落としているからでもない。イエーメンで、米国と英国が、武器売り込みで儲けながら継続させている戦争の故に、毎日、殆どが子供たちの何百人もが爆撃され、餓死に追い込まれていることに対してでもない。パンデミックだと大騒ぎする前に、これらの人々に思いを馳せよ」

 ピルジャーの言う通りだと、私(藤永)は思います。そして、私の思いは、悲しいほどにも美しく強い沖縄の言葉、『ぬちどうたから(命こそ宝)』に帰って行きます。

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https://libya360.wordpress.com/2020/04/03/a-new-humanity-a-new-world/

新しい人間性、新しい世界  オウエイ・ラケムファ

オウエイ・ラケムファはアフリア労働組合団結組織(OATUU)の前事務総長である。OATUUは、アフリカの54の国家総ての労働組合の連合体で組合員の総数は約2千5百万人。

 

想像してみてほしい。あなたは他の681人の乗客と一緒にクルーズ船に乗っていて、乗客の何人かが、治療法もワクチンもない高い伝染性のウイルスを保持していることを知ったと想像しよう。たとえ治療法があったにしても、あなたは洋上に浮遊していて、あなたの船の停泊を受け入れる国はないから、治療は手に届かない。だから、あなたの船は一つの監獄であるだけでなく、荒れ狂う波に身を投げる他には逃れようのない、ウイルスに汚染された実験室になってしまっている。したがって、あなたは高伝染性力ウイルスの蔓延の恐怖の中でじっと耐えることを強いられることになる。それは悪夢だが、それは何週間も続いている現実であり、目を覚ませばお終いというわけには行かない。

これが、英国のクルーズ船 MSブレーマーに乗っていた乗客が味わった神経の擦り切れるような経験だったのだ。乗客の668人は英国連合王国からであり、他はイタリア、コロンビア、オーストラリア、カナダ、アイルランド、オランダ、ノールウエイ、スエーデン、日本からだった。乗船者中、5人は新コロナウイルス Covid-19 保持者、他の28人の乗客と27人の船員はコロナウイルスに感染したらしい症状を示して隔離された。

この船はドミニカ共和国、バルバドス、バハマ連邦から停泊を拒否された。強大國米国は何ら助けの手を伸べなかったが、小さい島国キューバが、この国も新コロナウイルスを経験中なのだが、このクルーズ船を、連帯を表す行為として、マリエールの港に着岸するように招いたのであった。

恐怖から解放された乗客たちは、訪れる予定でなかった一つの国に感謝の投げキスをしながら、バスと救急車のキャラバンでハバナ空港のターミナルに運ばれ、英国連邦へと飛び立った。

英国外務大臣ドミニク・ラーブは“キューバ政府の迅速な措置に心から感謝する”と声明を発してこの謝意の表明に加わった。

乗船者とその家族たちに対するこのキューバの行動は多数の命を救った忘れ難い勇敢な行動であった。こういうのを、国際外交では、ソフトパワー外交と呼ぶ。しかし、キューバの人々を知っていれば分かることだが、彼らはそんなつもりでやったのではない。言うなれば、助けを求める人々に出会った時には、例え自分の命を賭けてでも、救ってやろうとするのが彼らの性格と伝統なのだ。それが大地震後のハイチでの対コレラの戦いにおいて、また、リベリアやシエラ・レオーネといった国々が抹消されそうになった2014年のエボラ大災害の際に、キューバ人たちが実行したことであった。

我々アフリカ人は、また、アパルトヘイトが南アフリカとナミビアを絞扼し、さらにアンゴラを絞扼すべく攻め込んだ時、我々を助けに来たのはただキューバ一国だけだったことを忘れることは出来ない。キューバは5万5千ほどの兵力を投入し、戦闘でキューバの若者たちの数千人を失ったが、効果的にアパルトヘイト軍事力を粉砕し、人種差別主義者たちに、彼らの邪悪なシステムを撤回して、ナミビアと南アフリカに独立を与えることを余儀なくさせた。過去56年間に、無償で働く40万人以上の保険医療のプロフェッッショナルを164の国に送り込んで来た。

イタリアは今やCovid-19パンデミックの中心であり過去一週間の死者平均は400である。世界のほとんどすべての国は自国だけを保護し、その資金、医療要員、医療資材を自国民のために蓄え込んでいる。それと対照的に、小さい国キューバは何千もの医療のプロフェッッショナルを動員して、 Covid-19に荒らされている国々に送り出している。この土曜日、キューバは52人の医師と看護師を、ウイルスとの戦いの援軍として、ヨーロッパの先進国であるイタリアに送った。ヨーロッパ連合の常任イタリア代表であるモリチオ・マサリは、これまでイタリアがコロナウイルスに対する戦いを助けてくれとヨーロッパ連合諸国に泣きついても何の答えもなかったと抗議していたところだったのだ。

キューバの“白衣の軍隊”のイタリアへの展開は、 Covid-19と戦うために派遣されている6番目の旅団だ。それはすでにグレナダ、ニカラグア、スリナム、ベネズエラ、ジャマイカに派遣されている。

140人の医療プロフェッッショナルがキューバからキングストンにジャマイカに到着した時、ジャマイカの保健大臣クリストファー・タフトンは“危機に際して、キューバ政府、キューバの人々 ・・・ はすっくと立ち上がって我々の訴えを聞き入れ、対処してくれた”と、こんな口調で彼らを歓迎した。

キューバ人たちは不屈のファイターであり、それらの国々で、如何に状況が悪化しても、背を向けることはないであろう。彼らにとっては、戦場で——軍事的であれ、医療的、人道的任務であれ——撤退とか降伏の選択肢はない。

感謝の念あらわなイタリア人たちの拍手に迎えられたキューバ人到着のビデオを観るのは、私にとって感極まることだった。それは、イデオロギーや肌の色、開発の度合いの違いにすら関係なく、すべての人間は一つだ、ということの決定的な表明であった。英国船MSブレーマーの乗船者を救助し、医師たちをイタリアに送ったキューバ人の行動は、また、財政的に貧しい低開発国が富裕な先進国の救助に乗り出すこともありうることを示す教訓でもある。

たった110860平方キロメーター、人口1134万の島国、長年砂糖とタバコの輸出に依存し、1960年10月19日以降、米国による経済的、商業的、財政的封鎖の下にあるキューバだが、この国がほとんど100%の識字率を持ち、世界で最も発達した医療組織の一つを持っていることは教訓的なことだ。実際、中国が Covid-19の患者の治療に効果的に使った医薬品の一つは、キューバが1981年にデング熱ウイルスと戦うために生産したインターフェロン・アルファ2b である。

長年の間、キューバは米州機構(OAS)から疎外されて孤立していた。しかし、真剣な関わり合い、意志の力、一貫性、発展的思考を通して、キューバは米州機構のほとんどの州を味方につけた。

キューバは、アフリカの、とりわけナイゼリアの我々に、自立に代わるものはないこと、つまり、基礎的な施設を建設し、人民に投資すべきことを教えている。ナイゼリアの資源を彼ら自身と彼らの西欧の主人たちの私物と化しているエリートたちに、局地的な能力を発達させる以外に手はないことを教えている。もし彼らエリートたちが、医学的治療が必要な時にはいつでも海外に行けばよいと考える代わりに、医療システムを国内で整備していたならば、コロナウイルスが、社会的身分に関係なく、すべてのナイゼリア人を外国に行けなくしてしまった今、エリートたちは、壊れかけたオンボロの病院の入院患者になることはなかっただろうに。

キューバというお手本はまぐれで得られたものではない。それは、詩人のホセ・マルティ(1853-1895)や“ブロンズの巨人”として知られるアントニオ・マセオ(1845-1896)のような建国の父たちが置いた礎石の上に建てられている。のちの世代では、フィデル・カストロ、ラウル・カストロ、カミリオ・シエンフエゴス、ハイヂ・マリア、セリア・サンチェスなど、これらの人々は、人類は一つであり、その資源は共通善のために、特に貧者、弱者、周辺者が恩恵を受けやすいように配備しなければならないと説いたのだ。

キューバの哲学はエルネスト・チェ・ゲバラのような人物の思想に埋め込まれている:“一人の人間の命はこの世で一番の大金持ちの持ち物すべての百万倍以上もの値打ちがある。”  “私たちは、生を享けた人間への愛が実際の行動へ、模範として、原動力として働くように、日々努力しなければならない。”というチェ・ゲバラの忠告そのままに、キューバ人たちは生きているのだ。

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これで翻訳は終わりです。キューバの人々に対するこの著者の思い入れは深く、いささか感情的(感傷的とは言いません)に過ぎるかもしれませんが、一読に値する文章です。もっと具体的に詳しい論説がありますので、こちらも一読をお勧めします:

https://dissidentvoice.org/2020/04/cuba-from-aids-dengue-and-ebola-to-covid-19/

この記事の後半はContrasts: Cuba and the United States と題されていて、キューバと米国との対比が詳しく行われています。目から鱗の情報が満載です。

 

藤永茂(2020年4月15日)


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3 コメント

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異端 (セコイアの娘)
2020-04-17 06:37:28
藤永先生、おはようございます。
この異常事態の中、如何お過ごしでしょうか?
いまや新型コロナをめぐる言論でネットも溢れかえっていますが、忘れ去られている点が2点あると思います。
まず、この新型コロナの危険性が意図的に誇張されているのではないかという疑問。そして、人々の不安を煽った先にあるものはなにかという疑問。この点に関して、私は櫻井ジャーナルと全く同じ意見を持っています。詳細は省きますが、アンソニーファウチ、ビルゲイツといった面々と新型コロナ危機との関連を調べれば調べる程、これは自作自演の対テロ戦争のネクストステージではないかと思えてきます。アメリカのリベラルもどきにとっては、スローガンがPC(ポリティカリーコレクト)からソーシャルディスタンスに変わっただけだとも言えます。
もう一点、決定的に忘れ去られているのは、この世界には、ロックダウンなんて贅沢はできない人達の方が圧倒的多数であるという事実です。インドで、出稼ぎ労働者が突然のロックダウンによって、徒歩で家族をつれて200キロ以上も歩いて帰省する、ケニアでロックダウンで働けなくなり、食料を求めて援助に殺到する。ロックダウンとは一体誰のためなのか。その日稼がなければ、翌日食べる物がない人達は、餓死してもかまわないという前提なのか。
ファウチ自身が、新型コロナの死亡率は通常のインフルエンザと変わらない程度に低いと研究結果を発表しています。だとしたら、ロックダウンによる犠牲と新型コロナ感染による犠牲とどちらが大きいだろうか。
アメリカでも、反ロックダウンデモが起きています。ですが、マスメディアは、一切無視しています。
私のような意見は、異端中の異端だと思います。が、世の中の意見が、異端の存在をゆるさず、突き進んだ結果が何であったか、日本人として忘れてはいけないはずです。
キューバは奇跡です。
アメリカの新型コロナ死者が世界一になったそうですが、それは新型コロナが問題なのではなく、高リスクである既往症があっても医者にかかれない、あるいはホームレスであるといった理由によるものです。人災です。ロックダウン、ソーシャルディスタンスといったスローガンの中に、私は「魂の中の嘘」が見えます。
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私もセコイアの娘さんのご意見に賛成です。 (和久希世)
2020-04-21 14:37:21
「PCR検査を徹底して経済封鎖するのは、本当に真の解決方法なのでしょうか? 」
という記事を書きましたら、
何となく浮いた感じになって、さみしく思っていたところですが、
このコメントや「新型コロナ、致死率は0.2%未満か by スタンフォードの実験」
https://blog.goo.ne.jp/deeplyjapan/e/0dbb4317ddc2efcb47fe6a44d1e8bb24
を見せて頂き、自分の考えがそれ程外れた考えではないのかもしれないと,自信がつく思いです。
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Unknown (寺島メソッド翻訳ニュース運営者)
2020-04-22 10:24:17
初めてコメントさせていただきます。


先生が教えてくださる、中南米やロシャバ革命での民衆運動の力強さに、いつも元気をもらっています。
人間というものは、隣の人が悲しんでいた悲しいものだ、という当たり前のことを思い出させてくれます。

特に今回のコロナ騒ぎの中での、キューバとアメリカの対照的な振る舞いには、考えさせられるものが多いです。

先生が末尾で紹介されていた記事を、私たちの翻訳グループが、訳出しました。

差し出がましいようですが、一読いただければ幸いです。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-246.html

作られたインチキコロナ騒ぎに騙されて、奴らの思い通りにさせないために、本当に連帯すべき相手が誰なのかを見極められるために、これからも微力ながら、大手メディアが取り上げない、世界のニュースを紹介していきたいと思っています。
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