4月30日の午前2時ごろ、ワシントンのキューバ大使館が自動小銃によって銃撃されました。建物の壁や柱に多数少なくとも30以上の弾痕が残っていますが、当時、内部にいた10人の大使館員は無事でした。マイアミ・ヘラルド紙
https://www.miamiherald.com/news/nation-world/world/americas/cuba/article242436251.html
によれば、市の警察当局は、Alexander Alazo 、42歳の男性、を犯人として拘束したとのことです。銃声を聞いた市民からの通報によって警官が現場に赴いたようですから、犯人は急いで逃げ去ることはしなかったと思われます。ホワイトハウスは勿論ご承知の筈ですが、何の沙汰も聞こえてきません。キューバ政府は正式に事件の解明を要求していますがマスメディアはほとんど全く無視しています。この事件を真剣に取り上げているのは、私のいつものご贔屓サイト:
https://libya360.wordpress.com/2020/04/30/shooting-at-cuban-embassy-in-washington/
です。キューバ共和国外務大臣ブルーノ・ロドリゲス・パリージャは同4月30日正午にはハバナの米国大使館から代理大使(女性)を呼びつけて、厳重抗議を行いました。その一部をコピーして冒頭部分を訳出します:
I stated our strongest protest for the grave terrorist attack perpetrated against the Cuban embassy. I asked her: How would the US government react to such an attack against any of its embassies? I remember the unfair actions and threats made by the US Government without a minimal explanation or evidence on the so call “acoustic attacks” supposedly against American diplomats.
It is the obligation of all States to take all appropriate steps to protect the premises of a diplomatic mission accredited to that country against any intrusion or damage and to prevent any disturbance of the peace of the mission or impairment of its dignity or its normal functioning, as established by the Vienna Convention about Diplomatic Relations of 1961.
I demand utmost cooperation from the US government authorities to clarify the facts and the assurances that such incidents will not happen again or remain unpunished, including this incident that has just occurred
This attack against the Cuban embassy in the United States has in any case been encouraged by the increasingly hostile rhetoric against our country that has both publicly and systematically involved the US Secretary of State as well as high officials of that Department in charge of relations with the Western Hemisphere, and even the US embassy in Havana.
It is impossible not to establish a connection between such action and the strengthening of the aggressive and hostile policy that the US applies against Cuba, or the tightening of the blockade, which includes non-conventional measures even in times of the COVID-19 pandemic, which affect the whole planet.
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(私はキューバ大使館に対して行われた由々しきテロ攻撃に対して厳重な抗議を通告した。私は彼女に問いただした:米国大使館に対して、それが何処にあるにしろ、このような攻撃が行われた場合に、米国政府はどのように反応するであろうか? 在キューバの米国外交官達に対して我々が行なったとされるいわゆる“音響的攻撃”に関して、最小限の説明も証拠もなしに米国政府がとった不当な仕打ちと脅かしの数々を、私は確と覚えている。)<翻訳終わり>
上の“音響的攻撃”は普通「ハバナ症候群」と呼ばれています。例えば
https://www.asahi.com/articles/ASN365HQ7N35ULBJ00P.html
を見てください。和文ウィキペディアにも出ています。エクサイトというニューズ・サイトには「キューバの大使館で働く外交官の脳が構造的に変化するという謎の症状。やはり音響攻撃によるものなのか?」という見出しの記事もあります:
https://www.excite.co.jp/news/article/Karapaia_52277418/
私はこの事件の真相を追究しようとは思いません。しかし、一つの妄想を抱いています。「キューバの大使館で働く外交官の脳が構造的に変化するという現象」は、全く別の理由で起こり得るし、また、実際に起こっているのでは、という空想です。
前回のこのブログで2016年の、やや古い、Andre Vltchek の記事を「マスコミに載らない海外記事」が翻訳して下さったことをお伝えし、一読をお勧めしました:
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-8c8b27.html
2016年といえば、最初に「ハバナ症候群」の発症が報道された年です。
「マスコミに載らない海外記事」には、これに続いて、キューバと米国との歴史的関係についての最近の記事の翻訳が掲載されています。これも是非読んでみて下さい:
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-98234e.html
写真で見ると、ハバナの米国大使館は大きな建物です。そこで勤務する数多い大使館員の中には、しなやかな心を持った、あるいは、多感で鋭敏な若い人々も少なくないと想像されます。それらの男女は、去る4月22日付のこのブログの記事『キューバは奇跡です』で紹介したNHK番組『世界ふれあい街歩き』に描かれたキューバの街、キューバの人々の日常を目の当たり目撃し、Andre Vltchek が見たキューバの現実に肌で触れる機会がない筈はありません。米国大使館館員として着任前に米国内で頭の中に叩き込まれていたキューバという国、キューバ人という人間集団についての固定観念が、次第に崩れ、知性的にも、感情的にも、“脳が構造的に変化する”ことがあっても何の不思議もありません。これが「ハバナ症候群」についての私の妄想です。
藤永茂(2020年5月3日)
彼は一般民衆の視線から異議申し立てができる稀有なジャーナリストでした。私にとってオーウェルのような存在でした。彼の記事に感動し、涙し、憤ったことは数えきれません。
非常に残念です。