私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

白ければよいのか?

2022-04-25 22:01:44 | 日記・エッセイ・コラム

 昔から「肌の白きは百難かくす」とか申します。いま手元に『日本の伝統色』という本があります。それには「日本の色名の最古のものの一つが「白」である。・・・・白は清浄無垢、潔白を表わし、神事に関係ある神聖な色として特別の存在だった」とありますが、これは白練(しろねり)と言う色の説明の中にあり、「白」そのものという色はこの本の250の日本の伝統色の中にはありません。私は中国吉林省の長春市で生まれましたが、この本の中に、長春色という色があるのを見つけて嬉しくなりました。灰色がかった薄い紅色で、中国では四季咲きの花を長春というそうです。大正の初め頃からその落ちついた色が好まれ、女性向きの色として流行したとあります。黒色(くろいろ)という項はありますが、一見「くろ」に見える色はいくつか掲載されていて、どれも美しいものです。

 ウクライナ戦争による避難民の扱いを見ていると、ウクライナ人は白色人種だから得をしている、特別扱いをされている感じをマスコミが与えています。国内の騒乱を逃れて国外に脱出した難民たちは世界に無数にいますが、今回のウクライナ難民のように欧米や日本が暖かく迎え入れている難民は今までありませんでした。皮膚の色が白ければよいということなのでしょうか。日本ではそうなのかもしれませんが、カナダでの私の経験からすると、必ずしも、そうではなく、白人の間にも差別があります。

 1970年代、カナダの大学の私の研究室にポストドックとして英国からやって来た白人男性がいました。名前はデニス・マクウィリアムズ、彼自身の希望に従ってこれからマックと呼びます。奥さんのマーガレットはなかなかの美人で気も強くお喋り、これと対照的にマックは柔和で素直、若い研究者としてよく働いてくれました。当時は、他に、米国白人の妻を持ったメキシコ人のポストドックのパンクラシオ、大学院学生として、インド人女性のアーチャナ、ユーゴスラヴィア人女性のヴィエラも私の研究室にいました。

 ある時、「ヴィエラが、我々ヨーロッパ人は・・・、と話していたのに驚いた」とマーガレットが言ったので、私はびっくりしました。ヴィエラはユーゴスラヴィア(今のクロアチア)のザグレブという、イタリアのベニスからほど近いところにある都市(今はクロアチアの首都)の出身で、私はザグレブを訪れたこともありました。白い肌の人ばかりの公共バスの中で、ただ一人の東洋人として、好奇の視線に包まれたことを今も憶えています。しかし、マーガレットは、ヴィエラがヨーロッパ人を自称することは厚かましいことだと感じたのでした。この優越感を抱いていたマーガレットは自分の夫のマックが嬉々として黄色人種の教授の下で研究に勤しんでいることも不愉快に思っていたかもしれません。やがて彼女はマックと離婚しました。

 学部の学生の中にはウクライナ人も少なからずいました。私が住んでいたエドモントンという都市には大きなウクライナ人コミュニティがありました。気のいい学生さんの家に呼ばれてウクライナ料理をご馳走になったこともあります。私の漠然とした感じでは、カナダの一般白人市民は、ウクライナ人たちを「劣等白人」として見下している印象を受けました。

 過去百年のウクライナ一般庶民の苦難の歴史を振り返ると、心からの同情を禁じ得ません。何度もひどい目にあっています。今、ウクライナに大量の兵器弾薬を注ぎ込んでウクライナ人や職業的傭兵をロシアと戦わせているのは、会田雄次氏のいう“恐ろしい怪物”です。本心では、はっきりとウクライナ人を「劣等白人」と見下している白い怪物です。そして、日本は、その怪物に引き摺り回されて、またもや、敗北を喫しようとしています。今、墓の下で、会田雄次氏は、呻吟の声を発して輾転反側しておられることでしょう。。

 最近、このブログに幾つかの貴重なコメントを頂きました。記事『米欧の傲慢は許されるべきではない』に対してhobby4oldboyさんから

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国連憲章第12条
私見では、ウクライナ紛争関連のロシア非難決議全ては、国連憲章第12条違反のはずですが、なぜ誰も問題にしないのか分からないでいます。
命題1:国連総会に個別の武力紛争に対し法的判断を行う権限や機能はない。
命題2:特に、安全保障理事会が担当中の案件については勧告できない(国連憲章第12条)。
命題3:ロシアのウクライナへの武力行使は、国連憲章第51条「集団的自衛権」を根拠として
実行された(←武力行使開始直前のプーチン演説↑)。
命題4:国連憲章第51条により、ロシアは安全保障理事会に「集団的自衛権」発動を報告した。
命題5:ロシアの報告により、今次ウクライナ紛争は安全保障理事会が担当中の案件となった。
命題6:命題2と命題5から、国連総会は今次ウクライナ紛争に対して、いかなる勧告を行う
こともできない。
これで証明できていると思うのですが....
そもそも、個別案件が国際法上で合法か違法か判断するのは「司法」なので、立法機関相当の国連総会が(司法権を持つ)安保理からの要請なしには安保理の職掌を犯す決議(=勧告)をしてはいけないというのが第12条の趣旨です。安保理で拒否権を持つロシアが同意したはずはないので、安保理としての要請はないはずですから、国際法に反しているのは違法な国連決議を主導した米国のはずですが....

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というコメントを、また、桜井 元さんからは

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ネット上で以下のような記事を読むことができました。すでにお読みでしたら失礼しますが、ご参考までに。一つは、ウクライナでなぜこのような悲劇が生じたのか、その原因を客観的に分析しているもので、非常に説得力がありました。やはり欧米諸国とウクライナのネオナチ政権が平和を破壊した責任は重いと言わざるをえません。

もう一つは、いまのゼレンスキー政権のウクライナがいかに恐怖支配の異常な体制かを伝えるものです。ロシア系住民だけでなく、野党、左派、政権に批判的な人物、戦争継続に反対する者たちが不当に拘束・拷問・虐殺されており、ネオナチ政権だけあってロマ(ジプシー)の人たちもひどい仕打ちを受けています。

「ウクライナは善、ロシアは悪」、「ウクライナに支援を、ロシアに制裁を」、「ゼレンスキーは英雄、プーチンは悪魔」、「アゾフ連隊は救国の戦士、ロシア軍は残虐な侵略者」、「ウクライナは自由と民主の価値を我々と共有する国、ロシアはそうした価値を否定する専制国家」「ロシアは嘘つき、すべてはプロパガンダ」、日本では与党も野党も報道機関もメディアに出て来る専門家もすべてがこの論調でうんざりします。今回ご紹介する記事にある事実はいっさい取り上げられないか、ロシア側のプロパガンダとして一蹴されます。恐怖支配のウクライナで本当のことを言えばどうなるか、軍・民兵・治安部隊のことを悪く言えばどうなるか、日本のメディアはその状況を無視してウクライナ国民の「証言」なるものを流し続けています。真実はいずれ明らかになると思いますが、まさに「戦争プロパガンダの大合唱」と言えるいまの日本の状況はあまりにひどすぎます。平和憲法の理念に反し、紛争の未然防止や平和的解決の努力もせずに、この機に乗じて軍備の増強、兵器輸出、敵基地攻撃能力、核武装、はては憲法改悪まで進もうとするこの国は狂っているとしか言いようがありません。

Retired Swiss Military-Intelligence Officer: 'Is it Possible to Actually Know What Has Been And is Going on in Ukraine?'
Retired Swiss Military-Intelligence Officer: 'Is it Possible to Actually Know What Has Been And is Going on in Ukraine?' -- Puppet Masters -- Sott.net

“One less traitor”: Zelensky oversees campaign of assassination, kidnapping and torture of political opposition
"One less traitor": Zelensky oversees campaign of assassination, kidnapping and torture of political opposition - The Grayzone
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先のコメントで記事タイトル下にリンクを貼ったのですが、うまく表示できずすみませんでした。タイトルから検索して頂ければと思います。

コメントの中で、この機に乗じて平和憲法を破壊する動きに対して「狂っている」と過激な表現をしましたが、これはそうした方向に血道をあげている政治家や専門家たちをさしてのもので、一般市民の方々に向けてのものではありません。市井の人たちは日々、それぞれの生業や子育てや介護などで精一杯で、国際政治やウクライナの情報や憲法九条をめぐる動きなどに時間と労力を割くことなど難しいのが当然ですし、できるとしてもテレビや新聞の解説などで概略を把握することがせいぜいでしょう。それだけでも多忙ななかで政治や憲法に関心を向けることに誠意と良心を感じます。ますます不安定で厳しくなっている経済と雇用環境のなかで、市井の人たちがそうしたことに関心を向けることには一層の敬意を感じます。問題なのは政治家と専門家たちです。誤った報を流し、それで市井の人たちを惑わせ、間違った方向に世論を動かそうとする政治家や専門家たちです。

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というコメントを頂きました。桜井さんのお考えに全面的に賛成です。

 hobby4oldboyさんが指摘する国連でのロシア非難決議の違法性に関連して、ロシアのウクライナ介入の合法性についての次のような記事にも遭遇しました:

https://libya360.wordpress.com/2022/04/23/why-russias-intervention-in-ukraine-is-legal-under-international-law/

関心があれば、ぜひ読んでください。要点は、ロシアの今回の動きは自己防衛行為だということです。事態の本質は、一昔前の“キューバ危機”の場合と全く同じです。米国がソ連のすぐそばのトルコに核爆弾を持ち込んだから、その対抗自衛措置として、ソ連はキューバに核爆弾を持ち込むことにしたのです。この歴史的事実は、今や、明明白白、しかし、当時と現在との決定的な違いは、今の米国にはジョン・エフ・ケネディが居ないことです。いや、たとえ居たにしても、早々と抹殺されてしまったことでしょう。

藤永茂(2022年4月25日)


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7 コメント

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Unknown (一読者)
2022-04-26 03:27:22
ウクライナでナチのシンボルが多用される理由もその辺りにあるのではないでしょうか。ユダヤ人差別が「ユダヤ人の自己嫌悪」を産んだように、スラヴ人差別もまた一部のスラヴ人に対しスラヴ的アイデンティティの否定を促しました。ウクライナの場合ですと、長年ポーランドやロシアといったスラヴの大国(とユダヤ人地主)に支配されてきた弱小スラヴ国家という扱いだったのが、ナチスドイツに占領されると対独協力のための方便とはいえ、オーストリア・ハンガリーの末裔たるガリツィア人として一転それらより上の人種として持て囃されたのです。人種ピラミッドの頂点にいるドイツ人によって「名誉アーリア人」として聖別された事はウクライナ人にとってまさに逆転のチャンスだったのでしょう。現代ウクライナ人がナチの部隊章やらスワスチカやらルーン文字などを愛しつつ「我々はネオナチではない」と否定するのは奇妙な矛盾のように思えます。しかしながら彼らにとってそれらのナチ・シンボルはヒトラーに対する賛意にあらず、ウクライナ人が(格下たる東欧ではなく)西欧の一員として扱われた数少ない栄光の時代のシンボルなのではないでしょうか。期せずしてウクライナ極右の弁護みたいになってしまったので補足しますと、要はウクライナもまた大国に翻弄される歴史の中で西欧の歪んだ人種観を内面化する事でしか自身のアイデンティティの確立を得られなかった犠牲者だという事です。
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ヨーロッパ (大橋晴夫)
2022-04-28 13:36:18
岩田昌征氏の「ユーゴスラヴィア内戦の真相――多民族戦争と階級形成闘争 マスコミが伝えない真実に迫る」(ちきゅう座2022.02.02.)」にある一節を紹介します。
わたしたちはヨーロッパといいますと、第一級文明の地域というイメージ、文化も芸術も、科学も、産業も咲き誇る、というイメージであったかと思います。しかしもう一つ裏に、ヨーロッパには、ヨーロッパという言葉が持つ「ヨーロッパ度」といいますか、「ヨーロッパ性」ということによって諸民族や諸国民に序列を付けるという価値判断観念があるんですね。それが分かっていないと、90年代にバルカン地域で起こった戦争に関して、西ヨーロッパや北米世界の文明的知識人社会がどうしてあれほど、わたしから言わせれば、不正確な判断・行動をしたのかということは、分からないと思います。
この2007年1月に、ルーマニアとブルガリアがEUに加盟しました。その後、クロアチアが加盟するわけですが、その時に、当時のルーマニア首相カリン・ポペスク・タリチェアヌスが、次のように言ったといわれています。「やっとこれで、ルーマニア人とブルガリア人は、二級ヨーロッパ人のカテゴリーに入らないで済む」と。つまり、EUに入るということは、一級のしるしを、やっとぎりぎり手に入れた、というイメージです。
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ヨーロッパの心 (大橋晴夫)
2022-04-29 10:13:38
「嘘につぃて」と「ヨーロッパ」と題する二つのコメントを最近書かせていただきました。あれでよかったろうかと反省していると、ヴァレリーのことが思い出されました。『良く生きる(VIVIR BIEN)』(1)(2014.08.31.)にある「20代の後半から長い間、ポール・ヴァレリーに傾倒した時期が私にはありました。芸術的な面でヨーロッパに深い思い入れを持った期間とも重なります。しかし、今は違います。ヨーロッパ、ヨーロッパの心というものに一定の距離をおいて向い合うことが出来るようになったと思っています。「精神の危機」についても、ヴァレリーの思考の限界と致命的な欠陥を読み取ることが出来るようになりました。」の一節です。科学論に関しては何度か説明に接してきましたが、思考の限界と致命的な欠陥に関しては不明でした。それは藤永さんが40年かけて見据えたもの(コメント・嘘について)の一部を構成しているのかもしれない、と思い始めました。
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「命題1」が間違いらしい (千田)
2022-05-01 15:39:13
「阿修羅」という掲示板に
御紹介のコメントをコピペしたところ、
「命題1」がマチガイだという反論を頂きました。

国連憲章第12条
私見では、ウクライナ紛争関連のロシア非難決議全ては、国連憲章第12条違反のはずですが、なぜ誰も問題にしないのか分からないでいます。
命題1:国連総会に個別の武力紛争に対し法的判断を行う権限や機能はない。
命題2:特に、安全保障理事会が担当中の案件については勧告できない(国連憲章第12条)。
・・・

ロイターの記事が反論の資料です。
↓↓
【資料】国連総会、ウクライナ巡る緊急特別会合を28日開催 安保理が採択(2022/2/27)
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-un-idJPKBN2KW16V

>安保理は25日にロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議案の採決を行ったが、
>常任理事国のロシアが拒否権を行使して不採択となっていた。
>国連総会の開催要請はこれを受けた動き。

>米国のトーマスグリーンフィールド国連大使がによると、総会では早ければ
>3月2日にも同様の決議案の採決が行われる見通し。
>総会で拒否権は行使できない。

つまり「命題1」が間違っているとい事らしいです。
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差別の連鎖 (セコイアの娘)
2022-05-04 09:19:12
カナダの白人が、ウクライナ移民を見下しているというお話、アメリカの白人も同じです。だから、口では「我々はウクライナと共にある」と言っておきながらウクライナ市民にいくら犠牲者が出ても構わない。
それと、一読者さんのご指摘は、なるほどと思いました。
ウクライナでどうしてネオナチが跋扈するのか、この謎の一環が見えた気がします。
ウクライナの宗教も複雑ですが、一部ロシアと同じ正教会でありながら、ローマ教皇を頂点とするカソリックに帰属する東方典礼教会であるというのも、自分たちは西欧の一部であるという願望をバチカンが利用したということでしょうか。
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邦訳の紹介 (山田昇司)
2022-05-04 14:51:24
ブログ「白ければよいのか?」に引用されている記事には邦訳がありますので紹介します。どちらの「寺島メソッド翻訳NEWS」にあります。

1
"One less traitor": Zelensky oversees campaign of assassination, kidnapping and torture of political opposition - The Grayzone

「裏切り者を一人でも減らせ」:ゼレンスキーは、政敵の暗殺、誘拐、拷問といった作戦を指揮・監督していた

http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-893.html


2
https://libya360.wordpress.com/2022/04/23/why-russias-intervention-in-ukraine-is-legal-under-international-law/

ロシアのウクライナ介入が国際法上、合法である理由

http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-895.html
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白ければいいのか (nobara)
2022-05-05 14:40:40
 先生がカナダの大学で研究されていた頃出会った人々のことをお書きになった「老いぼれ犬と新しい芸」を拝読しまして、白人の優秀性を科学的に証明しようと研究している学者がいると書いておられて驚きました。見たところ彼はなかなか成果が上がらないようだとあり、笑ってしまいました。
 桜井様、ご紹介くださった記事(Dan Kobalikによるもの)遅まきながら今から読みます。ありがとうございました。
 リベラル政党が機関紙のトップに「ゼレンスキーの悲痛な叫びをきけ」と書いていて、呆れました。その党はウクライナへの寄付金を1億円以上集めたそうですよ。
 
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