頭の中は魑魅魍魎

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なぜ父は遍路に『冬の光』篠田節子

2015-12-13 | books
父が死んだ。四国から東京行きのフェリーから転落したらしい。自殺のようだ。父は長年サラリーマンをしていたが、役員にはなれず子会社に出向。祖父の介護のために仕事もやめてしまっていた。父が死んでも母は悲しまない。父は大学時代の恋人と不倫関係にあって、母にそれが分かってからもう関係と絶ったと言っていたのにそのあとまた関係が続いていたのがばれてしまったからだ。なぜ父は死んだのだろうか。不倫相手が仙台で被災したからだろうか。彼女の追悼の意味で、四国でお遍路さんをしていたのだろうか… 父の過去をめぐる娘の旅…

おっと。最初はあまり好きなタイプの小説じゃないなーと思って読んでいた。父親と不倫相手の大学時代の話などあまり興味がひかれないなーと思っていた。しかし、父親のお遍路さんのあたりから、ぐっとぐっと読ませる。途中からは一気に読んだ。意外な収穫。

これこれこういう本だと説明しにくい。生と死を考える本だとも言えるし、人の一生なんてはたから見ても中身は分かりはしないということを伝えてくれる本だとも言える。あるいは、娘による父親再発見のお遍路ロードムービーと言ってもいい。まあ面白かったことだけは確か。不思議な小説だった。

父親がお遍路の時に出会う女性のキャラクターがこの小説には欠かせない強烈なスパイスになっている。

でも売れないだろうな。こういう○○という分かりやすいテーマがない本だと。ううむ。「愛する父が殺されてしまい、娘がその謎を解く」だともうちょっと分かりやすいだろうし、「中高年のドロドロ不倫物語」というのもある層には受けると思うけれど。でも「1Q84」のような説明しにくい本でも売れるときは売れるか。ううむ。

冬の光

今日の一曲

タイトルそのままで。手嶌葵で"Winter Light"



では、また。
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