頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『教場』長岡弘樹

2013-08-06 | books
「傍聞き」は本当に面白い作品だった。同一作者による連作短編集の舞台は警察学校。終始警察学校の中だけで話が進んでゆく。

<職質>では、生徒が出来の悪い別の生徒ををかばう。それがかばっている本人にばれてしまったら… <牢間>では、婚約者をひき逃げした者を捕まえるために警察学校に入ってきた女性警官が… <蟻穴>では、耳で聞いただけでその車のスピードが分かる者が… <調達>では、元プロボクサーが警察学校に入ってきた。成績が悪くてなんとかしなくてはならず… <異物>では、以前にスズメバチに刺されたのでもう一度刺されるとアナフィラキシーショックを起こしてしまう。パトカーの運転をする講習で車内にスズメバチがいた… <背水>では、生徒の内でナンバー1の成績を残したい者が…

いやいやいや。全篇に渡ってピリリとした緊張感。登場人物の緊張感がこちらにも伝わってくる。ピーンと張りつめた気分で読ませてもらった。各短編のラストは苦いものが多いので、(アメリカ人のように?)ハッピーエンドを求める人向きではないけれど、しかし清々しい余韻を残す。それぞれ違う生徒が主役なのだけれど、担当教官は同じ人物でこの人のキャラ設定もまたいい。

あまりにも非合理的なルールに縛られて、ある空間に閉じ込められると、おかしくなってしまうか、自分に対する「理不尽」を誰か他人に向けてしまうか。学校や家庭、職場も場合によってはそれに近かったすることがある。そういう限界の立場におかれると人間は何をしてしまうのだろうか。(それを知る一つの愚直な方法は歴史を学ぶこと。でも歴史を学ぶのは面倒だなと思う場合、こういう本がその代替物になるかも。)限界な場に身を置くと、その人間の本質が出てくると言うけれど、その本質が見える小説だと思う。まるで自分が「理不尽」空間にいるような一体感。ちょっと違うけれど、映画「愛と青春の旅立ち」の理不尽&観る者との一体感にちょっと近いというと分かりやすいだろうか。

今日の一曲

「愛と青春の旅立ち」のテーマ曲に行くか迷った。短篇の一つはハチが重要な意味を持っている。ハチといえばビー

ということでBee GeesのStayin' Alive(無理矢理)



では、また。

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『バックストリート』逢坂剛

2013-08-04 | books
小説に登場する探偵(もしくは探偵のようなことをする人)の中で、最も好きなキャラ。それは岡坂神策。

御茶ノ水の古いマンションの自宅兼事務所に現代調査研究所という怪しげな看板をかかげ、なんでも調査すると言いつつ、スペイン現代史特にスペイン内戦については、そこらの研究者よりよほど詳しい。「クリヴィツキー症候群」「十字路に立つ女」「斜影はるかな国」「ハポン追跡」「あでやかな落日」などに登場した。

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「クリヴィツキー症候群」は割と最近再読したけれど、やっぱり面白かった。私は小説としてのこのシリーズと、岡坂のキャラと御茶ノ水という土地が好きすぎて、余りにも疲れすぎて何もする気が湧き出てこないとき(年に2回ぐらい)に、自分が岡坂になったという設定の夢想をする。私の専門はスペイン現代史ではないので、そこは私の専門に置き換えて、あとは美女とXXして、神保町のボンディでカレーを食ってさぼうるでコーヒー飲んで、たまに仕事してという毒にも薬にもならない夢想に耽るのだ。我ながらキモイ。

前置きが長くなってしまった。本作は、シリーズではおなじみの同じマンションに事務所を構える桂本弁護士と、飲み食いしつつフラメンコが見られるタブラオに行くと、男女の二人組に尾行されていると気づいたところから始まる。二人が何者か岡坂の方が探ったり、タブラオでフラメンコダンサーと知り合ったり、今回も岡坂は忙しい。1811年に自殺したドイツの劇作家ハインリヒ・フォン・クライスト、ナチス信奉者…ネタは色々あって…

うーむ。やっぱりいい。(バイアスが入り込んでいるのは認める。ええそうです私はバイアス野郎です)

ミステリのようなガチガチの謎解きではなく(謎は提示されるし、それが解けるカタルシスは勿論味わえるけれど)、ハードボイルドなんだなとあらためて思った。

作者の逢坂剛自身が事務所を持つ神保町界隈の薀蓄が結構多いのに、それに辟易するどころか、「あーその店行きたいなー」と思わせるのは筆力なんだろう。(神保町界隈で彼の姿を何度も見かけたことがある。)フラメンコの薀蓄も同様。

また逢坂作品は、読むと「あーこういうことをテーマにした別の作家の小説を読みたいぞー」とか「興味を持ったのでそれについて深く調べてみたいぜ」度がすごく高い。一緒に会話していて横に話を広げてゆける人とは、話していて面白い。だから、そういう風に自分の興味を横に広げるチャンスになるような本も面白いと思うのかも知れない。

今日の一曲

この小説のタイトルだったらこれしかないでしょ。
Backstreet Boys
一番好きな曲、I Want I That Way



では、また。


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『ミステリガール』デイヴィッド・ゴードン

2013-08-02 | books
ぼくはサム・コーンバーグ。妻とうまくいってない。仕事を転々として定職につかず、勤め先の古書店は店じまい、20年書いている小説は金にならないからだ。美しい妻ララは出て行ってしまった。そんなぼくに転機が。就職サイトに登録していたら、探偵の助手にならないかという知らせが。早速探偵に会いに行くと、そこには信じられないほど太った男、ソーラー・ロンスキーががいた。ラモーナ・ドゥーンという女を尾行し調査して欲しいとのこと。もちろん引き受けた。しかし、ぼくは彼女が死ぬところを目の前で見てしまった… 探偵はさらに彼女について調べるように命じる。過去を調べると、夫はゼッド・ノートという映画監督だと分かった。知る人ぞしる伝説のB級映画監督。自殺したそうだ。撮影されたのに公開されていない映画もありマニアの間ではぜひ見たい映画だそうだ。調査の過程でぼくが踏み込んだのはめくるめくB級映画の世界。そして彼女の死の真相は…

うむうむ。こんな小説読んだことがない。ストーリーだけ読むと、軽妙洒脱な描写と会話によるB級映画を扱うB級小説になりそうなのに、B級映画と小説に関する薀蓄を大量のぶちこんだA級小説になった。

一体この小説はどこに向かってるんだろう?駄作か?と一瞬思った私が浅はかだった。終盤での収斂のさせかたは見事。人はたくさん死ぬのに、どこか爽やかという、まるで新垣結衣が「死ね死ね」と連呼しているような作品だった。(比喩がおかしい)

デビュー作「二流小説家」は日本で映画化されたそうだが、全く違うテイスト。ダイエットペプシとダイエット青汁ぐらい違う。(比喩がおかしい)

今日の一曲

ミステリガールと言えばやっぱり
マテリアルガール by マドンナ(強引)



では、また。

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『修業論』内田樹

2013-08-01 | books
現代の教育や部活動に失われつつあるもの。それは修業。40年合気道の修業をしてきた著者が修業についてあれこれ書いてくれて、そしてあれこれ考えさせてくれる。

特に気になった言葉は: 数値化された目標がないとできないトレーニングやスパルタとは違う / 風邪をひけば、生まれてからずっと風邪をひいているかのごとくに振る舞い、子供が死んだら、ずっと子供に死なれ続けられているかのごとく振る舞えば、これが無敵 / 訓練する場は楽屋であって、試合をする場は舞台。(勉強する場は楽屋で、本番の試験は舞台、だとか、恋愛小説を読むのは楽屋で、恋愛そのものは舞台とも言えるかも知れない。仕事に関してはどこまでが楽屋でどこからが舞台なのだろうか。TOEICの勉強をするということは永遠に楽屋であって決して英語を「使う」という舞台ではない…など色々考えさせてくれた)

セミは何年も地中とい楽屋で修業をし、そして数日だけ舞台に出てそして散ってゆく。まさに修業道の鑑。なんつって。

今日の一曲

本とは特に関係なく、May J. でGarden



夏っぽいね。Diggy-MO'の声もいいし、PV全体に漂う80年代もまたいい。冒頭の「さーみんなーここでー」が「サービーナー、ここで」と聴こえて、サビナという外国の地名のことだとずっと思っていたと言うのはここだけの秘密。

では、また。

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