「神様のカルテ」夏川草介 小学館 2009年
本屋大賞2010ノミネート作品。
他のノミネート作品は「1Q84」村上春樹、「神去なあなあ日常」三浦しをん、「植物図鑑」有川浩、「新参者」東野圭吾、「天地明察」冲方丁、「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子、「船に乗れ!」藤谷治、「ヘヴン」川上未映子、「横道世之介」吉田修一 未読なのは植物図鑑と横道だけ。今回は結構読んでいる。しかし、いい本を本屋さんが売り出していこうという当初の目的から大きく逸脱したノミネートだと思う、と言っている人は非常に多いので繰り返さない。
さて「神様のカルテ」は現役の医者が書く小説。舞台は長野県松本市。信州大学医学部を連想させる信濃大学の医局がイヤで外に出た内科医、一止。医者になって5年。医者不足で大変な当直のときには救急医としてはたまたガンの末期の患者と接し忙しすぎる日々を送る。大学病院に紹介したのに戻ってきた患者さんとのふれあいの中から大きな事を感じる・・・
いやいや。これは良かったっす。面白かったし、良かった。まずなんと言っても文体がいい。友人Kは夏目漱石的な文章だと言っていたが、私はあまり詳しくないので分からない。しかし漱石かぶれの主人公の台詞が何ともいいし、リズムも悪くない。文語で喋る友人なんていたら面白いと思う。二つ目に、人物造形が実に巧い。細君(そんな言葉使ったことないな)の可愛いハル、大学の友人、アパートの仲間の男爵(そんなあだ名つけないよね)と学士(いつの時代のあだ名なんだ)たち。三つ目にストーリー。クスッと笑える箇所は非常に多い。糖尿病の三人や、絵を描いたら20円という辺りが印象深い。
最大の読みどころは後半のとあるガン患者との接し方にある。Kも泣いてしまったそうだが、私も同じだ。天才桂枝雀は「笑いは緊張と緩和にある」と言った。それまで感動させるというより笑わせる部分ばかりがあってこその、ラスト近くの感動が生きるのだろう。
思えば人生なるものは、特別な技術やら才能やらをもって魔法のように作り出すものではない。人が生まれおちたその土くれの下に、最初から埋もれているものではなかろうか(203頁より引用)
そうだそうだそうだ。本当にそうだ。
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