「新参者」東野圭吾 講談社 2009年(初出小説現代2004年8月~2009年7月号)
週刊文春でもこのミステリーがすごいでも国内1位だった話題作。
日本橋人形町界隈の近くで起こった事件。何の事件が起こったのかそれすらなかなか読者に分からせないまま、人形町の様々な店にやって来る刑事加賀。聞き込みと証言から段々と分かってくる真相。連作短編集なので各章ごとに独立したミステリになっていると同時に続き物にもなっており、最後にストンと収斂した先は・・・義理と人情を絡めて描く。
いやいやいや。巧い。巧すぎる。評判が良い割に造りが地味なのと、東野圭吾作品にあまり高い期待出来ないかなと思って読まないでいた。そんな、読まなかった自分を叱りたい。こらっ。
人形町とはいい場所を選んだものだ。東野さんは確か大阪の出身だったのでどうしてこの場所を選んだのか分からなかったが読んでいくうちに、人形町が最もこの作品に相応しい場所だと分かる。私自身が昔人形町界隈でおつとめしていたことがあるので(刑務所?)読んでいるとあああそこのことかと思う。しかしよーく思い出すと、そんな店があったかも知れないが自分は行かないから記憶にあるはずがない。のに書き方の巧さは、<ここ知ってるでしょ?>を思わせてしまうのだよ。
すまぬ。ネタバレを避けて隔靴掻痒なレビューになっている。加賀の解決の仕方に「こんなうまくいくはずねえじゃん」とは思わない。ミステリってそういうもんだから。
この「新参者」がある意味奇跡のような作品である。事件の加害者、その方法、動機、それが最終章で明らかになるのはありふれているだろうが、そこに到るまでに何度も山を作り、落とし、また山を作りして、それぞれの山を読めるものにして、さらにそれぞれに山が最後に一つに収まる。その様は魔術のようだ。凄い。まあ平たく言うと、容疑者が浮かんでは消えていくわけなので初期に出て来た容疑者は真犯人ではない(=2サスの法則)がそのまま適用できるのだが、それもそれでいいのだ。ミステリってそういうもんだから。
物語の創作をしている人は試しに、最後の真相が分かってから、そのネタを元に自分で、最初から物語を書こうとすればこの凄さが分かると思う。こんなん出来るわけないよ。東野圭吾ってそういうもんだから。
しかし、刑事加賀が登場したという、過去の作品「卒業」「眠りの森」「どちらかが彼女を殺した」「悪意」「私が彼を殺した」「嘘をもうひとつだけ」「赤い指」の全てを読んだはずなのに、何一つ覚えていない私。それもまた凄いと思う。私ってそういうもんだから。
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