陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

佐田岬 メバルの眼

2008年02月24日 | slow gourmet

佐田岬漁港にある金沢旅館に泊す。
昔ながらの料理旅館だ。

佐田岬沖で採れた一本釣りの魚と
豪華伊勢えびの磯づくし料理。

本日の献立は
黒うに、なまこの酢の物。造りは
伊勢えびの造りに岬(はな)あじ、岬さば
黒メバルにほうぼう、鯛にはまちであった。
それにメバルの煮付けに焼き物は岬あじ。
揚げ物は明日葉などの山菜の天ぷら
それに先付けに握り寿司が3貫ついた。
もちろんご飯に味噌汁、デザート付きだ。

「こりゃあ、食べ切れるかな。」

と驚くほどの豪華版。
その日採れた魚は全部出すのだそうだ。

岬あじ、岬さばは、対岸で採れる
あの関あじ、関さばと同じ海域の魚だ。
ただ岬ブランドは、関ブランドよりも
知名度、付加価値ともまだ及ばない。
こんな義理と人情の漁師町の世界にまで
格差を生じさせる流通・マーケティング理論。
地域ブランディングの巧拙が
築地を始めとする各魚市場で
その価値格差を生む現実。

「いやな世の中だねえ~。しかし
今日はそんな仕事モードの考えはよそう。」

そんな無粋な理論なんか隅へやって、今宵は
ただ眼の前の新鮮な魚を堪能すればよいのだ。
と、箸をつけようとした瞬間…!

「ん…!」

このメバルの眼は何だ!

眼が明らかに違う。只者ではない眼光鋭い眼だ。
舟盛の上の魚で、今までこんな眼をした
オトトにはお目にかかった記憶がないぞ。
新鮮だという証以上の気迫を感じる澄んだ眼!
それは一級なやつだけが醸し出すあの眼と同じだ。
佐田岬の魚はやはり違うのだ。なにより
あの速吸瀬戸でもまれ育ったサムライなのだ。
たかが刺身にある種の畏怖を感じつつ
かしこまって恭しくも最初の箸をつけた。
やはり上物であった。

連れ合いが言う。
小学校六年の時に父に連れられて
ここに来てある旅館に泊まったことがある。
その記憶は、道が細くてあまり宿がなく
出された料理もあわびとさざえばかりで
子どもには美味しくなかった思い出だった。

女将さんは応える。
40年前ならうちともう一軒位しかなかった。
あの当時は伊勢えび漁法が
まだここでは知られてなかったから
ご馳走はアワビとサザエだったんです。
でも子どもには美味しくないわねえ。

帰りに庭に自生しているあした葉をもらう。
ざわざわ採りに行ってもらった。
みずみずしい青葉色がまぶしかった。

渡辺文雄の揮毫した書が掲げられてあった。
「くいしん坊!万才」での取材だったらしい。
1970年代のことだろう。
渡辺さんはとても書が上手だったという。
ひとつひとつ違う文言で書いてくれたそうだ。

いい宿だなあ。
女将さんも気さくで素晴らしい。
この旅館とあのめばるの眼は
きっと終生忘れられないだろうな。

佐田岬!万歳。

■磯料理 金沢
愛媛県西宇和郡伊方町正野33の2
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