11月5日(木)、新型コロナ感染拡大後初めて映画を観に行った。映画観るなら平日の初回上映の観賞と決めていた。「TOHOシネマズ 上野」での、『罪の声』(土井裕泰監督作品)の9時15分上映の観賞者数は20名ほど。「3密」のうち「密閉」のみが心配だったが、映像に“換気は十分行っています”との字幕が流れ安心したのだった。
塩田武士著『罪の声』は、グリコ・森永事件をモチーフとし、第7回山田風太郎賞を受賞し、2016年版「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位に選ばれていた。二度読みしたこの本の感想は2020/07/11のブログに書き、小栗旬・星野源主演での映画完成を待ち望んでいた。
実に良い映画だった。見終わって大満足。
映画前半は、自分の声が犯罪に使われた謎を知ろうと行動を開始した、テーラー曽根俊也(星野源)と、大日新聞文化部記者阿久津英士(小栗旬)が出会うまで。原作はそこまで長い展開があるのだが、脚本(野本亜紀子)は要領よくまとめられていた。
漸くTailor曽根にたどり着いた阿久津と、自分が犯人家族の一員であることを知られまいとする曽根が出会うところから後半が始まる。
二人が初めて会った時、物凄い剣幕で曽根は阿久津を追い返そうとする。そこへ帰ってきた曽根の妻と娘。ビックリする二人に対して、新聞記者阿久津は曽根の立場を配慮した態度をとった。曽根は阿久津のその態度に好感を抱き、以後二人して真相に迫ろうと行動を共にする出発点となった。私はこの出会いの一瞬が特に印象に残っている。
辿りついた真実は二人にとって重いものだった。犯行に使われた子どもの声は3つあったが、曽根の声以外は犯人グループの一員生島の娘望と息子総一郎の声だった。仲間割れした一方から生島一家は追われる身となり、望は将来への夢を断ち切られ、不慮の事故で死亡していた。総一郎は地を這うような生活を30年以上も続けなければならかった。彼が、介護施設で療養中の母に何十年ぶりかで再会するシーンは胸に迫りくるものがあった。
真実は曽根をも苦しめるものだった。ロンドンへ逃走中の伯父(宇崎竜童)曽根達雄が事件の主犯格で、自分の声を録画したのは、何と母真由美(梶芽衣子)だった!伯父と母は偶然にも三里塚闘争などで知り合っていた。二人とも大企業や警察への反感から「奮い立っての行動」と語った。
主犯達雄がロンドンで生活していることを知った阿久津はロンドンに飛び、達雄を問い詰める。一方母の真意を問いただす曽根。この二つの画面が交互に現れるラストが圧巻だった。この二人や生島ら犯人ブループの行動は家族、とりわけ子どもたちの不幸へと繋がっていた。映画もそこがメインテーマだ。
毎日新聞でのインタビューで小栗旬は「(主演ながら)目立たないことが一番重要だと思っていた」と語っているように、控えた演技に見える一方、曽根演じる星野源の、戸惑う心理的葛藤が見事に表現されていた。私の記憶に長く残るだろう作品で、上映時間2時間22分は長くは感じられなかった。