石持浅海著"リスの窒息"を読みました。
ずいぶんひどい話です。
中学生が大人達を相手に犯罪を仕掛けます。
相手は新聞社です。
有名市立中学へ通う栞は友人の聡子を連れて家へ帰ります。
その2階で見たものは裸で殺されている母と家庭教師と
その横で自殺している父でした。
凄惨な場面をみた直後であるにもかかわらず栞は警察へ
届けることなく大学卒業までの学費と生活費を得るため
狂言誘拐を思いつき実行に移します。
交渉先に選んだのは秋津新聞社編集局投稿課の読者投稿欄
「スピーカーズ・コーナー」です。
縛られ片方の靴下を口に入れられ頬を膨らませた栞の写真と
学生証が添付された身代金を新聞社に要求するメールが
送られてきました。
投稿課には中島課長、細田、馨がいました。
立脇編集局次長、狩野社長室長、鴨志田編集局長、吉野
社会部長、石崎警視庁担当記者等新聞社の上層部の面々が
投稿課へ集まりました。
以前に秋津新聞では情報提供者を死なせてしまったことが
ありさんざん世論に叩かれました。
新聞社を非難した先鋒が週刊誌の道標社です。
メールのCCが道標社になっていて何が起こっているのか
道標社に筒抜けです。
栞は新聞部で新聞業界について詳しいのです。
鴨志田は当時の事件で自殺を企て精神科にかかっています。
今回の事件でまたもや心のバランスを崩してしまいます。
「警察へ知らせるな」は脅迫状の常套句ですが知らせるべきと
いう声に上層部はいろいろ言い訳をして知らせようとしません。
社長は海外でやはり最終判断を現場にいるものに任せると
逃げを打っています。
三千万円を要求するメールが届きます。
栞の服が脱がされていく写真が添付されています。
冷静なのは投稿課の者です。特に細川が冷静です。
彼は元社会部記者で昔の事件の時の関係者です。
警察へ知らせないのはともかく、両親と連絡を取るなり
家の住所を知ろうともしていません。
やっと住所を知ろうとします。
現代は人の個人情報を知ることは難しいものなんですね。
新聞社ならそれ相当の方法を知っていそうな気がしないでは
ありませんが、取った方法は社内で学校に子弟を通わせて
いる社員を調べることです。
でも住所録は作られていません。
夫が教師をしている社員が見つかりやっと住所がわかります。
身代金を払うことになります。
身代金を取りに来たのは誘拐された当人の栞です。
新聞社までやってきます。
友人の聡子が捕まっている、持って帰らないと殺されると
いいます。
結局は捕まります。
計画がずさんですから成功するはずがありません。
新聞社内の優柔不断さは現実にこんなふうなんだろうなと
思わせます。
何かが起こった時にしょっちゅう判断が遅いとマスコミに
叩かれている政府や企業はこんなことやっているのでしょう。
それにしても新聞社の対応はかなり間が抜けています。
中学生が起こした事件で大人を翻弄して恐ろしいです。
栞の両親の起こしたことも無責任です。
もしお金を手にしても中学生が一人暮らしして生きていく
なんてすると言ったところで許されないでしょう。
高校生になってさえ許されないかもしれません。
その間お金はどこへ隠しておくのでしょう。
銀行に預けておけるものでしょうか。
無茶な計画です。
でも中学生の起こした事件です。
たいした罪に問われないのです。
殺人まで犯そうとしていてその直前で捕まって却って
よかったです。
彼女らの未来はどうなるのでしょう。
何もしない方が断然よかったでしょうに。
つい先日まで養護施設で育った人たちの施設を出た後を
追った記事が新聞に連載されていました。
18歳で施設を出て何も持たない人が大学で勉強しようと
したらものすごい苦労をしなくてはいけないことが書か
れていました。
学資が欲しいという栞の望みは切実なものだと
伝わってきます。