雑記帳

日常の出来事や、読んだ本のあらすじや感想など書いています。

楽園のカンヴァス

2012-05-20 19:47:23 | 

原田マハ著"楽園のカンヴァス"を読みました。
読んでいる最中に山本周五郎賞を受賞したとの新聞記事を
見ました。おめでとうございます。
絵画の話ということは知って読み始めました。
絵画の話はちょっと気が重くって最初のうちはなかなか
物語の中へ入れずに読んでは止め、また読むといった
調子でした。
中盤になってからはどんどん読み進められました。
絵をみるのは若いころは好きでした。
今はめったに見ません。
アンリ・ルソーの絵が主題の話です。
表紙の絵が"夢"という絵だそうです。
ルソーの絵のいくつかはたぶんあちこちの美術館や
展覧会でみていると思います。
図書館へ行った時に子供向けのルソーの絵の本があった
ので借りてきました。(はじめてであう絵画の本8ルソー)
森や動物の絵はとても惹き付けられます。
でもルソーは生きているうちはぜんぜん評価されずに
失意のうちに亡くなっています。
それがわかりません。
自分でこの絵はいいと評価しているつもりでも実際は
その時代の雰囲気の中で他人の評価、世間の評価で
いい絵、駄目な絵と感じているのでしょうか。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレータのティム・
ブラウンと早川織枝が関わった、ルソーの世に出ていない
絵画「夢をみた」の真贋を見極める7日間の出来事です。
最初と最後にその7日間から十五年後の二人が描かれています。
織枝はルソー研究を止め美術界から消え、それでも絵から
離れずに大原美術館で監視員をしています。
西洋人の血をひいた15歳の娘がいます。
この7日間でティムと織枝との間に恋が芽生えたのかと
思わせられました。

ティムの上司はトム、どちらもブラウンです。
ティムも織枝もルソーの研究者です。
ティム宛に謎の絵画コレクターのコンラート・バイラー
からスイスのチューリッヒへ招かれます。
ティムは上司のトム宛のもののミスタイプだろうと
思いますが誘惑に負けてトムも自分も休暇中というこ
ともあってトムに成りすまして出かけます。

バイラーは95歳、車椅子生活をしています。
すばらしい美術品に囲まれて生活しています。
バイラーの屋敷でティムは織枝に出会います。
MoMAにある「夢」とほとんど同じ「夢をみた」というルソー
が描いたと思われる絵画を見せられました。
違いはソファーに横たわる女性の伸ばした手が指差して
いるか、握っているかです。
ティムと織枝は7日間毎日90分ずつある文章を交互に
読んでこの絵の真贋を最後の日に講評することに
なりました。
バイラーが認めた講評をしたものにこの絵の権利が
譲り渡されます。

ティムに、この講評に勝って絵の権利を手にしてそれを
譲り渡せといってくる男が現れます。
織枝の後ろにもそんな男がついている模様です。
インターポールの女性、ジュリエットもティムに
近づいてきます。

毎日ルソーの生涯を描いた文章を二人は読みます。
誰が書いたものかわかりません。
「夢をみた」の絵の下にはもう一つ絵が隠されていて
それはピカソの初期の青の時代に描かれたものだと
思われています。
評価が定まっていないルソーの絵よりはピカソの絵の
方が重く見られています。
ルソーの絵は誰の手に渡っても剥される可能性が大きいです。
ルソーの絵を愛している二人ははたしてどうするか。

最後の結末はなんかあっけなかったです。
丁々発止と二人の議論が開始するのかと思いました。
あっさりとしたものです。
それでもバイラーにとっても、二人にとっても一番いい
解決方法になりました。
裏で暗躍していた人々はぎしぎし歯軋りしていること
でしょう。

読み終わってすぐはいったいこれはどういった話なの
だろうとわけがわかりませんでした。
なぜバイラーは二人を呼び寄せ対決させなければ
ならなかったのでしょう。
そんな必要は無いように思えました。
彼はこの絵のいきさつが充分わかっていたはずです。
しばらくしてこういうことなのかなと思いました。
バイラーには信頼できる人がいないのでしょう。
長年バイラーの法定代理人を務めるコンツでさえ信頼
できる人間ではありません。
体も自由に動きません。
ルソーを大切にしてくれルソーの絵をはがさないで
くれる人を見つけ出しその人にルソーの絵を託そうと
したのでしょう。
絵はある人に託されました。
充分に信頼できる人です。
でも「夢みた」はどうなるのでしょう。
バイラーが望んだような未来となるでしょうか。
どこかの倉庫の片隅に埋もれ忘れ去られることになる
のかもしれません。

本のラストはティムと織枝が再会する場面です。
どうして十五年も待たなければならなかったのかと
思いますがきっと必要な年月だったのでしょう。

ほんとうにピカソの絵は下に眠っているのでしょうか。
そこをはっきりさせずに可能性だけで動いている人達は
おかしなものです。
X線ですぐわかるわけですからもしピカソの絵がなければ
絵は傷つけられることはないので何も心配ありません。
バイラーが対策をしないではいられないのはピカソの絵は
ある、ということなんでしょうね。