田中啓文著"辛い飴 永見緋太郎の事件簿"を読みました。
表紙がちょっと見ると恐い感じがします。よくよくみれば
男性がテナーサックスを吹いている場面だとわかります。
JAZZを演奏する唐島英治クインテットが出会ったちょっと
不思議な出来事をテナーサックスの永見が鮮やかに推理
するという話です。
語り手はリーダーの唐沢です。
永見はサックスの練習をしているか部屋に閉じこもって
いるというあまり活動的ではない人物です。
連作短編集です。JAZZについてもいろいろ書かれています。
"苦い水"
昔知られていたトロンポーン奏者の安来は酒びたりに
なっています。
ストリート奏者に落ちぶれています。
今は力量がない安来がビッグバンドに高給で迎えられます。
このバンドが結成されたのにはわけがあります。
安来は酒を断つと決心しますが、決心したら止められる
ものではないのに、決心で止められるんだというふうに
書かれているのがちょっとひっかかります。
"酸っぱい酒"
名古屋の栄にマウンテンというライブハウスがあり
そこで伝説のブルースマンが歌ったと語り継がれています。
ブルース歌手のチエは4年前そこでブルースマンに
出会ったといいます。もう一度会いたいと唐沢たちと
いっしょに名古屋へ来ます。
一度きり歌った伝説のブルースマンの正体は誰でしょう。
"甘い土"
ある島の伝統の祭りを紹介するテレビ番組に唐沢と永見が
レポータとして出演することになりました。
祭りで演奏される大貝楽(だいかぐら)という雅楽が感動する
すばらしさだと前年島を訪れた民族学者の室田に教授が
発見しました。
島に行くと怪しげな人物が入り込んでいて人々が分裂
していました。
宝物が埋っていると村長に信じ込ませてしまいました。
"辛い飴"
JEFF CANDY AND HIS FIVE DROPS という一流のグループが
60年代のシカゴにいました。
不運にも契約不履行で莫大な借金を負い借金を返すため
苦労をしています。
そのメンバー全員が生きていることがわかり日本で
コンサートを開くことになりました。
契約は同じメンバー全員でやってくることとなっています。
事前に送られてきたテープの内容はとても聞けたものでは
ありません。企画者はどうなることかとはらはらです。
やって来た彼らの演奏は人々を興奮させました。
以下ネタバレです。
実は彼らは交通事故にあって楽器を交換したのです。
トランペットは口を怪我して吹けません。
テナーは左腕を切断しました。ドラムは両足がだめです。
トランペットはピアノに、テナーはトランペットに、
ドラムはベースに、ピアノはドラムに、ベースはサックスに
楽器を換えたった一月で別の楽器を自分のものにしました。
並大抵の努力ではありません。
別の楽器になっても前の楽器のように演奏しようとしていて
それが新鮮な味を出しています。
"酸っぱい球"
唐沢が野球場でアメージングクレースを演奏することに
なりました。4番打者金本のテーマソングです。
時々へんな音がどこからか混じって聞こえます。
野球をぜんぜんしらない永見は無理やり連れてこられます。
この音は実はサインが読まれていて相手に知らせている
のだと永見が見破ります。
野球はわかりません。この話はよくわかりません。
打つ側へのサインってあるのですか?ホームランを狙えとか、
どちらの方向へ打てとかサインで指示するのですか?
それを知って投手は打たせない球を投げれるものなんですか?
ちょっと不思議に思ってしまいました。
"渋い夢"
地方の会社の社長がジャズファンで自宅の敷地にライブが
出来るスペースを作ってしまいました。
定期的に東京からミュージシャンを呼んで演奏会を
開いています。
唐沢のグループが行くことになりました。
その建物内で物がなくなることが続出しており楽器は
持って歩くように注意されます。
社長は価値ある楽器を収集するのが趣味です。
自分で演奏することはなく持っていることに意義を
感じています。
そこには日本に3台しかないピアノが置かれています。
皆が席をはずした間にこのピアノが消えました。
はたして何のため、どのようにして大きなピアノは
消えたのでしょう。
"淡白な毒"
あるレコードがネットオークションで高値で売買されて
います。
最初期の盤のみを収集している誰かがいるようです。
よーく聞くと人の話し声が収録されています。
この話を聞かれたくないため回収を図っているのです。
この話は塩を奥さんに盛ったというアシモフの
短編の話と似てます。
永見の性格はあまりぱっとしたものではありません。
でも何となく好感が持てる人物です。
推理力は抜群です。
ジャズメンの話でとても楽しかったです。
本の題名になっている辛い飴が一番好きです。9/12