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かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

10.神剣草薙 その4

2008-03-15 22:45:37 | 麗夢小説『麗しき、夢』
「それを、鬼童殿ばかりでなく、あの崇海も狙っていた、と言うことですな」
「そうですね。もっとも私の法螺に引っかかるところを見ても、崇海殿はまだその秘密を解いてはいないのでしょう」
「不老不死の術とは、何か薬でもあるのだろうか?」
 円光の質問に、鬼童は考え込んだ。
「残念ながら、私にもまだ判然としません。そもそも徐福が封印したのが何なのかはっきりとはしないのです。何かがあることには違いないのですが・・・」
 その時だった。三人の耳に、隣山から響くような老人の哄笑が届いた。再び結界に注目した三人に、崇海の罵声が飛んだ。
「ふははははは! 所詮は若造だな。ここに徐福が何を封じたか、そんなことも知らずにやって来たのか! 愚か者め!」
「どう言うことだ! 崇海!」
「貴様に答える義理はない! どうしても知りたくば付いてくるがいい。冥土の土産にとくと見せてくれようぞ」
「何をいっても、そこから逃れる術はありませんよ、崇海殿!」
 鬼童が少しむっとしたのを確かめた崇海は、鬼童らを睨み据えてこう叫んだ。
「だから若造というのだ! わしがいつまでもこんなちゃちな結界に、大人しく捕まっているとでも思ったか!」
「大口を叩くのもいい加減にせんか!」
 榊の怒声をせせら笑った崇海は、手探りで鎧武者を探り当てると、その袖を引いて一言、鎧武者はたちまち手にした大長刀を鞍につけ、腰の剣に手をかけた。
「何だ、あれは?!」
 すらりと引き抜かれた太刀は、鉄とは異質な青銅製の青い錆を身にまとい、その異様な形を見せつけた。剣はまるで蛇を模しているかのようにうねうねと波打っているのだ。だがそれがまっすぐに天に向かって差し上げられたとき、青い蛇はたちまち金色のいかづちと化して光り輝いた。同時に膨大な力が吐き出されたのであろう。途端に結界の光が揺らぎ、水晶が耳につく高音を発しながら、遠くからもはっきりと判るほどに、激しく振動し始めた。
「見るがいい! 草薙の剣の力を!」
 遠く響いた崇海の声に、鬼童は自分の耳を疑った。
「草薙の剣?!」
「いかん! 結界が持たぬぞ!」
 鬼童のつぶやきを、円光の悲鳴に近い警告がかき消した。草薙の剣は、双刃の刀身をきらめかせながら、暴力的なまでに気を放出した。榊のような心得のないものにも、剣から奔出する力と結界がぶつかりあって、金色の火花があちこちではじけるのが見えた。
「草薙の剣とは、一体何なんだ?!」
 事態の急変についていきかねた榊が、鬼童の袖を引いた。鬼童は、さっきまでの余裕もすっかり失せ、緊張した面もちで榊を見た。
「宮家三種の神器の一つ、神剣、草薙の剣です」
 三種の神器と聞いて榊も思い出した。平氏都落ちの折り、わずか御年八つの安徳帝の玉体と共に西国へ持ち出したのが三種の神器である。内、印爾と鏡は壇ノ浦の合戦の際に取り戻すことができたのだが、ただ一つ草薙の剣だけはその行方が杳として知れなかった。恐らく平氏の公達の一人が抱いて入水したのだろうということで、既に朝廷では新しく鋳造することに決定している。それが何処をどうめぐったのか、今この目の前に姿を現そうとは、榊もその奇縁に驚き見入るばかりであった。
「しかしどう見ても曲がりくねった骨董品にしか見えぬのに、あの力は一体どうしたわけだ?」
 榊の問いに鬼童はやや投げやりになって答えた。
「草薙の剣はただの古剣ではありません。元の名を天の叢雲の剣といい、あの形も、上古、素戔嗚尊が八叉の大蛇を退治した時にその身から切りだしたのがそもそもの由来です。その力は、日本武尊東征のおりには一振りで一里四方の草をなぎ倒し、尊に勝利をもたらしたといいます。それ以来草薙の剣と言われるようになったのですが、宮家の血筋で力のある者がその束を握るとき、剣は絶対無敵の神剣としてその威力を発揮するのです。あんなものを持っているとは、崇海め、侮っておりました」
 鬼童は、手の出しようもなく無念のほぞを噛みしめた。
「しかし、そうだとすると、あの鎧武者は帝の血を引く者だと言うことになるのでは?」
「そう考えるより無いでしょう。我ら凡俗が手にしたところで、恐らく絹一枚満足に切ることは叶いますまい。それをあのように使うことができる以上、間違いないと思います。具体的には、宮家の血を引く者・・・。帝の御子か清和帝の血を引く源氏、あるいは桓武帝の血を引く平氏の縁の者でしょうか」
「平氏・・・。智盛!」
「あり得ますね」
 平氏と聞いて榊の眉がつり上がった。勿論その他の可能性も鬼童は並べていたのだが、もう榊の頭に平氏以外の選択肢は残っていない。
「もしそうなら、いよいよ逃がすわけには参らぬ。何とかならんのか、鬼童殿!」
「申し訳ありません。大きな口を叩きましたが、どうもこれまでのようです」
 鬼童は、初めとはうって変わった陰鬱な表情で榊の意気を挫いた。最後の頼みの綱、と視線を向けられた円光も、首を振って榊の期待を裏切った。
「くっそーっ! ここまで追いつめながら、手をこまねいて見ているしかないのか!」
 榊の怒りも虚しく、遂に結界はその最後の時を迎えた。

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