これは1932年のアメリカ南部アラバマが舞台の1962年に製作された作品である。
主演はグレゴリーペック。彼は、往年の男優の中では日本人にはどの世代にも映画ファンじゃない人にももっとも知られている男優ではないだろうか?「ぐれごりぃぺっく?知らん」と思っている人でもあの「ローマの休日」の…と聞けば「あ~!」となるだろう。
彼は、ほとんどの作品で人々の「良心」と呼べるような役を演じているが、この作品でも誰に対しても誠実で毅然とした態度で間違いを正すことのできる父親を演じている。ま、面白味はあんまりないタイプのお父さんだけど、子どもたちにとっては絶対的な安心感を感じさせてくれる人で、そういう役をやらせたら右に出る者はいないといっても過言ではない俳優だった。(2003年に亡くなっている)
このアラバマ物語はアメリカ南部で行われる黒人差別を描いている。正義の人であるアティカスフィンチ(グレゴリーペック)が、白人女性をレイプした罪に問われている黒人青年の弁護を引き受ける。この裁判シーンはとても素晴らしく、心に訴えるだけでなくサスペンス的な要素もふまえていて映画史に残る裁判シーンだと言えると思うのだが、この作品の魅力はそれだけではない。
物語そのものがアティカスフィンチ弁護士の小学校に上がりたての娘スカウトの目を通して描かれ、近所の子どもや兄のジェムとの交流や、彼女の経験を通して父親と黒人差別をする白人の姿なども描かれる。学校の友達の父親がその差別集団に加わっていたりするところを彼女たちは目のあたりにする。逮捕された黒人をリンチしようと集団で出かけた先で、自分の息子の学校の友達に会い、彼はあきらめて帰って行ったが、そのことで彼は黒人差別を止めるだろうか?そのあたりの語られない人の行く末が気にかかる。
そして、その話と平行して、近所に住むブーという家族に監禁されている(と言われている)謎の子どもの正体を暴こうと恐る恐るもその家に近づく子どもたち。そういう子どもたちの純粋な行動と大人たちの汚れた思惑がうまく対比されている。そして、そのブーの正体が明かされたときのスカウトの行動には真の心の優しさが表されていて心打たれる。
派手な作品ではなく、展開もそんなにドラマティックではないのだけど、必ず正義が勝つわけではない世の中の無情さとその流れに流され自分が強い人間になったつもりで思い上がっている連中とその中でも誠実に生きようとする人たちの姿を子どもの目を通して自然に描くことである種のリアリズムをうまく生み出していて心に残る作品である。
オマケ1原題は「To Kill a Mockingbird」で原作の邦題は「ものまね鳥を殺すには」となっているらしいです。この題名にはきちんとした意味があり内容とリンクしていて映画のセリフの中にも出てくるので注目してみてください。映画の邦題は(昔は特に)製作者の意図を反映できない場合があるので残念です。
オマケ2ここに出てくるブーの役であの名優ロバートデュバルが出ていてビックリした。見ているとき「まさか」と思ったが、やはり彼だった。あとで調べるとこの作品がデビューだったらしいです。