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こんな3日にも渡って「紙の月」のことを書くことになるとは我ながら思いませんでしたが、今日もその話です。
というのも昨日の最後に「ふつーの人が一番の悪党なのかも・・」なんてことを書いたのでちょっと付け加えたくなりまして。
この話のなかで刑事事件と呼べる犯罪をおかしたのは言うまでもなく主人公の女性です。
では何千万という横領というと(この話の元となった実際の横領事件は何千万どころかなんと9億円です!)ぶるるっと身震いして、「自分からは遠い話」「私は絶対にそんなことはしない」・・・と、言い切れるのかなぁ、と思いまして。
この「紙の月」の優れた点は、原作の角田光代さんの作品がしっかりしているからなのでしょうが、このごくごく普通の、普通どころかどちらかといえば気が弱くて目立たないほどの主婦が、どんどん悪事の深みにはまっていく点にあります。
一番恐い、と思ったのは回想シーンでこの主人公の女性がお父さんの財布からお金を盗んで多額の寄付をするところがあるのですが、この主人公はそれをむしろ“正義”だと思っているのです。
彼女が通っていたのはカトリックの女の子ばかりの学校だったようです。
そこで今で言うユニセフの「フォスターペアレント」みたいなものでしょうか、発展途上国の両親を失った子どもたちのために寄付をして彼らからの近況などの手紙が送られてくる、というものを学校として推奨し、クラスごとに寄付を募るシーンがあります。
最初のうちこそクラスごとに寄付を競うかのように盛り上がっていたのが、だんだんその熱も冷め、寄付金の額があまり集まらなくなってしまいます。
そんなときに彼女は机の上に置きっぱなしになっていた父親の財布を見つけ、そこからちょうどこれまでだったらクラスで集められていた寄付金の金額を抜き取り、1人で寄付します。
その父親の書斎の豪奢なつくりから、たぶんお父さんは裕福でお金には困っていない人だったのでしょう。
だから余計に彼女は罪悪感もなかったに違いありません。
しかし、学校でそれが問題となり、シスターが全校生徒の前で、
「もう学校として寄付金を募ることはやめにしました。それはある生徒が1人で多額の寄付をしたからです。」
と言います。
すぐさま彼女は「ハイ!」と手を挙げて、「それの何がいけないのか?」という反論をします。
「ではあなたはそのお金をどこから手に入れたのですか?」
と問い詰めるシスターに対して、
「父の財布から盗みました。」
と正々堂々と悪びれずに言う主人公。
そこからパッと物語は切り替わって現代に戻るのですが、このときのものの考え方の素地が彼女のなかで脈々と育っていたとしたら・・という伏線になっていたわけですね。
確かにたとえ身内であろうと「盗み」は悪いことに違いありません。
しかし、かたや一生懸命生きているのにその日の食事もままならないような生活をしていて、かたやたいして労苦も味わっていないようなのに毎月高収入を得ているとしたら、その高収入を得ているほうから貧しい人にお金を流してなにがいけないのか?と彼女は幼い心で正義に燃えたのでしょう。
これが何でも自分の頭で深く考えようともしない事なかれ主義の子どもだったらこんなことにはならなかったはずです。
皆が寄付をやめていったら、「もういいんだ~ 私もやめちゃおう、っと。」とやめるだけのこと。
そこに深い考えなんてないでしょう。
けれど彼女はより貧しい人、可哀想な人のために立ちあがろうとする心がちゃんとあったわけです。
どっちが悪党なんだ?
私が普通の人が一番の悪党なのかも、って昨日の最後に書いたのはここです。
“普通の人”はマスを指します。
一番のボリュームゾーンです。
マスは付和雷同する人が多いからマスとなるわけです。
彼女のように結果的には盗みを働きましたが、「ん? 何か世の中平等じゃないんじゃないか?」「これっておかしくないか?」と自分の力で考える人はマスにはなりません。
彼女が最初に恋人である大学生の若者に学費を「私が払ってあげる」と言いだしたのも、そのときには「貢ぐ」とか「お金を出したら、よりこの若者は私を好きになるんじゃないだろうか」とか「離れられなくなるんじゃないだろうか」ということを思ったのではなくて、純粋に前途ある若者があと1年大学に行けば、まともに就職できるのに今学費が払えないがゆえにその岐路に立っている、と思ったからこそ善処してあげたい、と手を差し伸べる気持ちがあっただけではないでしょうか。
もちろんその「善処してあげたい」は、どんな貧しい若者にも発揮されるということではなくて、好きになった男だったから、ということはあったでしょうが。
昨日書いたデパートの化粧品売り場での出来事もそうですが、こうしてきっかけになったようなこととかを1つ1つ見ていくと、その時点では突拍子もなくおかしな人間だったということではなくて、「あぁ、私もそうしたかもしれないなぁ。」という気にさせるところがこのお話の恐いところです。
悪党=犯罪者、ということならもちろん彼女は犯罪者ですが、悪党=性根の腐ったヤツ、ということで言えばほんとに彼女はそういう人間だったんだろうか?と考えさせられます。
純粋な魂で、他の人に惑わされずに自分でものごとは考え、自分で決めようとするところがあったからこそ、大勢に流されるようなマスの人よりはつまづきのリスクも増えるのかも、と思ったら同情を覚える部分も多々ありました。
それより昨日も書きましたが、大島優子演じる同僚の若い女性のほうがしたたかなぶん、大事件も犯さないかもしれないけれど、ほんものの悪党っていうのはこのくらいの“冷めた現実主義者&拝金主義者”のことなんじゃないか、って思ったんです。
それにしても・・・
いったん彼女が悪事に手を染めてからも「これならまだまだ返せる」と本気で思っていた金額を軽く突破してしまったとき、彼女のなかで何かが壊れたのでしょう。
逆にやめられなくなってしまいます。
そこらへんの心境はよくわかりません。
ドラマの方では、「恐くなって早く私を捕まえて」としょっちゅう考えていた、というところがあるようです。
これなどは自分で自首する勇気もなければ、これ以上悪事を犯さないという勇気もないけれど、早く見つけて欲しい、私にこれ以上の犯罪をおかさせないでほしい、という他力本願な願いがあったと読み取れます。
そういう心理ってちょっとわからないなぁ・・・
ここまででかくなってしまった犯罪をおかした張本人でないとわからない境地なんでしょうねぇ。
よく「警察24時」みたいなドキュメンタリーを見ていても、追っている刑事が逃げている犯人を、「あいつのためにも早く捕まえてやらなきゃいかん。」という言い方をするときがあります。
なんで犯人に寄り添ったようなことを言うんだ?と不思議でしたが、犯罪者って「捕まえてくれ、捕まえてくれ。」と願いながら逃げているというそんな心境なんですね。
めちゃめちゃ感動したわけではありませんでしたが、いろいろと考えさせられる映画ではあったので、3日もこの話題で書いちゃいました。
誰もの心の中に「悪」はひそんでいるんだ、と思います。
でもそれを外側に向けて露呈させるかどうかという一線を踏み越えるかどうかは、一線どころか万里の長城くらいあると思いますけれどね。
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