孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

格差社会の現況 G20は富裕層課税の取り組み推進で合意したものの、その実現は疑問

2024-07-26 23:35:46 | 民主主義・社会問題

(【2022年11月7日 日経“超富裕層に増税検討 財務省「1億円の壁」是正目指す”】)

【現代の大富豪が君臨するインドは、英植民地時代のインドよりも格差が拡大】
どんな国、どんな社会でも格差・貧富の差はあるものですが、インドなどは「一握りの桁外れの大金持ちと、毎日の食事にも事欠く絶対的貧困に喘ぐ多くの貧困層」という格差イメージがあり、同時に、多くのインド国民が「世の中はそんなものだ」と諦観しているようなイメージも。

****インド上位1%への富の集中が過去60年で最高、ブラジルや米国上回る****
インドでは2023年末時点で、最上位1%の超富裕層が保有する資産が同国全体の富に占める比率が40.1%と1961年以降で最も高くなり、富の集中度はブラジルや米国を上回っていることが、世界不平等研究所の調査報告書で分かった。

最上位1%が所得全体に占める比率も22.6%と1922年以降最高に達した。

インドは1992年に外資へ市場を開放した後、大富豪が急増。フォーブスの世界長者番付を見ると、資産10億ドル超えのインド人は1991年に1人だったが、22年は162人となった。アジアの大富豪トップ2はいずれもインド人実業家だ。

今回の調査報告書には、こうした現代の大富豪が君臨するインドは、英植民地時代のインドよりも格差が広がっている、と記されている。

世界不平等研究所は、教育の機会が提供されていないことなどの要因により、一定の人々は低賃金労働から抜け出せず、所得階層の下位50%や中間層40%の資産増加が抑え込まれているとの見方を示した。

14年に経済発展と改革を掲げて誕生したモディ政権に対しても、過去2期の間に格差が一段と拡大したとの批判が出ている。【3月21日 ロイター】
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もっとも、冒頭記述のなかの諦観云々の後半部分に関しては、必ずしもそうとは言い難いこともあるようで、金持ちの「やり過ぎ」は一般国民の批判を呼ぶようです。

****インドの大富豪の息子 結婚式に900億円…市民から怒りの声も****
まるでアカデミー賞の授賞式のようにポーズを決めるセレブたち。実は、これはインドの財閥リライアンスを率いる会長ムケシュ・アンバニ氏の息子、アナント氏(29)の結婚式です。

結婚式はインドのムンバイで12日から4日間開かれ、スポーツ選手や映画スター、実業家など多くの世界的な著名人が出席しました。

数カ月前から行っているイベントも含めた全体の費用は、英ガーディアン紙によると、なんと900億円を超えると報じられています。

豪華な結婚式の一方で、こんな声もあります。
女性 「彼らがやっていることはあまりにもばかげている。そんなに誇示する必要はない」
男性 「貧しい人々の状況についても考える必要があります。彼らが何百万ドルも費やしている一方で、貧しい人々は食べるのに苦労しています」

会場付近の道路が4日間にわたって閉鎖されるため、多くの市民から怒りの声が上がっているということです。(「グッド!モーニング」2024年7月15日放送分より)【7月15日 テレ朝news】
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【「世界の不平等はおぞましいレベルに達している」】
格差が問題視されるのはその「程度」に加え、富める者はますます豊かになり、貧しい持たざる者はそこから抜け出せないという「格差の進行」、そして貧しい層は教育・就労機会にも恵まれず「貧困の再生産」が行われるという問題です。

「富める者はますます豊かになり、・・・」という一般的なイメージは、あながち間違っていないようです。

****世界の上位1%の超富裕層、10年で資産6480兆円増 オックスファム****
世界の上位1%の超富裕層は、過去10年間で資産を42兆ドル(約6480兆円)増やした。国際NGOオックスファムが25日、発表した。

オックスファムによると、この42兆ドルという数字は、世界の下位50%が保有する資産の約36倍に相当する。

その一方で同NGOは、こうした超富裕層は「資産の0.5%未満に相当する税金しか支払っていない」と指摘している。

超富裕層への課税については、ブラジル・リオデジャネイロで25日から始まる主要20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議での主要議題となる見通し。

参加するフランス、スペイン、南アフリカ、コロンビア、アフリカ連合は課税に賛成しているが、米国ははっきりと反対を表明している。

会議での議論についてオックスファムは「G20にとって真の試金石」と表現しており、超富裕層の「極端な富」に最低8%の課税を実施するよう求めている。 【7月25日 AFP】
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オックスファムはブラジルで開催中のG20財務相・中央銀行総裁会議に先立ってこの分析を発表し、「不平等はおぞましいレベルに達している」としています。

【G20 富裕層課税の取り組み推進で合意・・・ではあるが・・・・】
アメリカのイエレン財務長官は富裕層への世界的な課税に反対する意向を表明しています。ただ、累進課税には賛成しています。

****米財務長官、富裕層への世界的な課税案に反対表明****
米国のジャネット・イエレン財務長官は23日、富裕層への世界的な課税に反対する意向を表明した。富裕層への世界的な課税は、今年の20か国・地域議長国のブラジルが提唱し、フランスも支持している。

イタリア・ストレーザで開催中の主要7か国財務相・中央銀行総裁会議に出席しているイエレン氏は記者団に対し、「すべての国に同意を求めて、気候変動とその影響に基づき各国に利益を再配分するような国際交渉には賛成できない」と述べた。

また、自身もジョー・バイデン米大統領もこのような世界的な富裕税には賛成できないが、累進課税には賛成していると述べた。

バイデン政権は2025年予算で、保有資産1億ドル(約157億円)以上の「0.01%の超富裕層」について、所得に最低25%の課税を行うことを提案している。

イエレン氏はこれを引き合いに出し、「よって米国内の超高所得者に最低限の課税はもちろん、合理的な水準の課税を行うことに異論があるわけではない」と説明。米政府は「低所得国や新興市場国が財政支援を必要としていること」を認識していると述べた。

ブラジル政府が提案している世界の富裕層への課税は、フランスの経済学者ガブリエル・ズックマン氏の研究に触発されたもの。

ズックマン氏は、世界のビリオネア(保有資産10億ドル以上)3000人にその財産の少なくとも2%に相当する課税を行えば、年間2500億ドル(約39兆円)を確保できると主張している。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は23日放映された米CNBCテレビのインタビューで、世界的な富裕税は「国際的に有意義な議論」だとし、ブラジルと共にこの構想を「推進する」と述べた。

ブリュノ・ルメール仏経済・財務相も、世界の富裕層に対する最低限の課税案は、G7財務相・中央銀行総裁会議の優先事項の一つだと述べた。 【5月24日 AFP】
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オックスファムは「世界の億万長者らに課せられる税率は資産の0.5%未満だ」と指摘しています。

7月25日、ブラジル・リオデジャネイロで開幕したG20財務相・中央銀行総裁会議で、世界の超富裕層に効果的に課税するため協力して取り組むことで合意したものの、富裕層課税を実現する難しさを指摘する声もあるようです。

****G20、富裕層課税の取り組み推進で合意 実現に懐疑的見方も****
20カ国・地域(G20)は25日、ブラジル・リオデジャネイロで開幕した財務相・中央銀行総裁会議で、世界の超富裕層に効果的に課税するため協力して取り組むことで合意した。26日に共同宣言を出す見通し。

議長国ブラジルが富裕層課税を提案し、共同宣言を優先事項として推進していた。

ロイターが確認した共同宣言は各国の「課税主権を十分に尊重した上で、超富裕層の効果的な課税を協力して推進することを目指す」とした。

ベストプラクティスの交換や租税原則を巡る議論の促進、税逃れ対策のメカニズム検討といった協力が考えられるとした。

ブラジルは資産が10億ドルを超える個人に年間2%の税率で課税し、世界中の3000人から最大2500億ドルの税収を得るという案を土台に議論を呼びかけてきた。

同国のアダジ財務相は記者団に、学者や経済協力開発機構(OECD)、国連といった国際機関が参加するより広範な検討プロセスがこの日始まったと指摘した。

ただ、G20参加国からは富裕層課税を実現する難しさを指摘する声も聞かれた。(後略)【7月26日 ロイター】
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富裕層課税は世界各国が協調して取り組まないと、該当者が資産をより税率の低い国に映してしますといったこともあるように思われます。

現実に富裕層課税が多くの国で導入されるのかどうか・・・はなはだ懐疑的にもなります。

【日本の格差の現況は?】
ところで、日本の格差問題。
日本はかつて「一億総中流」と評される「平等な社会」だったが、格差社会になってしまった・・・というのが一般的イメージでしょう。

格差の分析にはジニ係数が頻用されますが、そのジニ係数の長期的推移を見ると、格差が拡大している流れが見られます。また、先進国の中でも比較的ジニ係数が大きいとされています。

****先進国のなかでも、深刻なほど「所得格差」の大きい日本…なぜ日本でこんなにも格差が拡大しているのか?****
90年代に上昇したジニ係数
(中略)

1970~1980年代は安定成長期だったので、所得分配に大きな変動はなく、ジニ係数は0.31~0.34であった。それが1990年の数値を見ると、0.36に急上昇し、大幅に所得格差が拡大したことがわかる。

原因の一つとしては、1980年代後半のバブル期では株価と地価の高騰があったので、資産家の金融所得が高くなり、所得格差の拡大の余韻が残っていたことが挙げられるだろう。

1990年代には「失われた30年」とされる不景気が始まり、低所得者の数が増加して所得格差は拡大に向かっていった。21世紀に入る頃、それがますます深刻となり、ジニ係数は0.38を超えた。

表1-1では1950~1960年代の高度成長期の数字は示されていないが、この時代は平等主義の時代、あるいは格差の小さい時代であったことは皆の知る事実なので報告していない。

結論として、戦後から20世紀末にかけて日本は一気に所得格差において相当程度の拡大が進行して、今もそれが進行中と解釈できる。(中略)

再分配所得の国際比較 2019年

先進国として評価すると、アメリカほど高くはないが、他の多くの国よりもジニ係数が高く、所得格差は大きい国である、と判定してよい。これはとても重要な事実で、日本は先進国のなかでもかなり所得格差の大きい国になっている。【5月17日 橘木俊詔氏 現代ビジネス】
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もっとも2010年以降で見るとあまり大きな変化は見られません。

****2010年代に日本の所得格差は拡大したか。また、税制でどれだけ格差が縮小できたか****
(中略)
結論から言うと、所得税・住民税や社会保険料を課される前で、年金や児童手当や失業手当などの給付を受ける前の所得(これを当初所得という)でみると、2010年代を通じて、所得格差は、わずかな変動はあるが、拡大してもいないし縮小してもいないといえる。冒頭の表の列(1)の(等価世帯)当初所得のジニ係数をみると、2010年に0.4827だが、2020年には0.4889と、ほぼ変わらない。

ただし、重要な留意がある。それは、JHPS(日本家計パネル調査)には、(税務統計などで把握される)所得上位のトップ1%という超高額所得者は含まれていない。そのため、ここでは、超高額所得者を除いたところでの所得格差を意味する。(中略)

では、(等価世帯)可処分所得のジニ係数はどうなっているか。それは、冒頭の表の列(5)にある。これをみると、所得格差はわずかに縮小しているといえる。2010年前後の(等価世帯)可処分所得のジニ係数は0.34前後だが、2020年に近づくにつれ、0.34には戻らなくなり、2020年には0.3160と分析期間で最低となっている。(後略)【3月27日 YAHOO!ニュース】
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もっとも、ジニ係数といった統計数字の意味するところを正確に理解するのは私のような素人には難しいところも。
「統計でウソをつく」のは容易なことです。

日本で格差社会が進行しているというのは誤った常識だという指摘もあります。

****「日本は格差社会」は大間違い…多くの日本人が「格差が広がっている」と錯覚している納得の理由****
格差社会は本当か
「日本は格差社会なのか」——。まずはこの極めて基本的な問いかけから考えてみたい。

格差がまったく存在しない社会というのは存在しないので、一般的に「格差社会」という言葉に込められた意味としては、多くの人が許容できる範囲を超えて貧富の差が激しくなってしまった社会、あるいは不平等の水準よりもこの「なってしまった」の部分に着目し、過去と比較して著しく格差が拡大した社会を指すといっていいだろう。(中略)

日本はかつての「一億総中流」だった平等な社会から、厳然たる格差社会になってしまい、しかもその格差は広がり続けているというのが、恐らく多くの人の受け止めだろう。メディアでも多くの政治家の言説でも、日本が格差社会であること、また、その格差がさらに拡大していることは、ほぼ自明の事実として扱われている。

格差拡大の原因としては、中曽根康弘政権(1982〜1987)の国鉄や電電公社の民営化や、小泉純一郎政権(2001〜2006)の派遣労働対象業種拡大といった新自由主義的経済政策で、意図的に弱肉強食化が進められたとの見方もあれば、誰かが意図をもってもたらしたというよりは、経済全体がグローバル化する中で、日本の労働者も中国をはじめとする低賃金国と競争せざるを得なくなり、必然的に賃金が下のほうに引っ張られていって起きたという見方もある。

ジニ係数は絶対か
格差に関するデータをおさらいしておくと、最も一般的に用いられるのは所得に関する「ジニ係数」である。

ゼロから1までの間で、ゼロは完全な平等(全員が同じ所得)、1は完全な不平等(一人がすべての所得を独占し、ほかの全員は所得がゼロ)を意味する。経済協力開発機構(OECD)によると、ジニ係数(所得再分配後)で見た日本の不平等度は、OECD38ヵ国中、11番目に高く、格差は大きい部類に入る。

ただし、ジニ係数が格差に関する唯一絶対の指標なのかというと、そんなことはない。

ジニ係数の問題点として指摘されるのが、人口の大半を占める「普通の人」に関する所得のばらつきを測るには有効だが、上位1パーセントや0.1パーセントといった「かなりのお金持ち」がどの程度その他の人々と比較して所得を得ているかといった格差を見るには適していないというものがある。

また、不平等度を見るには、所得よりも資産の偏在度合いを見たほうがいいとの考え方も当然あり得る。

日本は「格差社会ではない」
こうした観点から、日本は(少なくとも国際比較においては)格差社会とは言えないと主張する専門家が一定数いるのも事実だ。

たとえば一橋大の森口千晶教授は、上位0.1パーセントの超富裕層、1パーセントの富裕層の所得が国全体の所得に占めるシェアの日米比較や、日米大企業の役員報酬の差などから、「世界的なトレンドとは異なり、『富裕層の富裕化』は観察され」ず、「現在の相対的貧困率が国際的にみても歴史的にみても高い水準にあるという理解」も「正しくない」と分析する。

その上で、日本は「アメリカ型の『格差を容認する社会』になったのではなく」、男性正社員が一家を養うという古いモデルを前提とした社会保障システムが、非正規雇用の増加や非婚率の上昇といった社会変化に追い付かず、「なし崩し的に『格差の広がった社会』になったといえる」と結論付けている(内閣府「選択する未来2.0」2020年4月15日・第6回会議提出資料「比較経済史にみる日本の格差 日本は『格差社会』になったのか」)。

森口氏に改めて見解を尋ねてみた。森口は「『格差社会』という言葉が先行して、多くの人が日本も格差社会になったと思っている」と語りはじめた。その上で、世の中の大半の人が格差を良いことだと思っていないという点で「日本は格差社会なんかじゃないんですよ」と断言した。「貧困層が拡大し、固定化されているのは事実だ」と認めつつ、「多くは高齢化で説明できる」として、世の中の格差論がイメージ先行であることに不満を漏らした。

また、『21世紀の資本』で一世を風靡したフランスの経済学者トマ・ピケティらによる「世界不平等研究所(World Inequality Lab)」がまとめた「世界不平等報告書」も、日本は所得格差に関しては1980年代以降、増大傾向にあるとするものの、資産格差については「とても不平等だが、西ヨーロッパ諸国より不平等というわけではない」と指摘。「1995年以降、資産のシェアはほぼ安定している」として、富の偏在が広がっているとの見方を否定する。【4月21日 井出壮平氏 現代ビジネス】
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ジニ係数といった統計数字だけでは見誤るものがある・・・ただ、「生活実感」というのも得体のしれないもの・・・日本の格差の現状を把握するのは難しいものがあります。

「ワーキングプア」がNHKで放映されたのが2006年。
以来、高齢者世帯、ひとり親世帯など、日本社会における「貧困」が大きな問題になっているのは間違いないでしょう。
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