孤帆の遠影碧空に尽き

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フランス  アタル内閣が総辞職 組閣に向けた主導権争い 後任は決まらず政治の混迷はしばらく続く

2024-07-17 23:11:36 | 欧州情勢

(【7月17日 産経】 与党・左派・極右 いずれも過半数に遠く及ばす、主張も全く異なるため、連立交渉は非常に難しい状況)

【マクロン大統領、アタル首相の辞任受入れ 暫定内閣で内政停滞は避けられず】
極右「国民連合(RN)」の過半数獲得が焦点となっていた7月7日に行われたフランス下院選の決選投票。

「国民連合(RN)」の過半数獲得を阻止しるために組まれたマクロン大統領率いる与党連合と左派連合「新人民戦線(NFP)」の選挙協力・候補者調整によって、投票日が近づくにつれ「国民連合の過半数は難しそう」との予測が強まっていましたが、蓋をあけると、左派連合「新人民戦線(NFP)」がトップの182議席を獲得する“サプライズ”。

与党連合は168議席の2番手、「国民連合(RN)」とその共闘勢力は3番手の143議席という結果。

いずれの勢力も過半数の289議席に届かず、単独では政権を担えない“三つどもえの状態”になっています。

とにもかくにも敗北した政権与党のアタル首相は辞意を表明、あとが決まらないマクロン大統領は遺留してきましたが、正式に内閣は総辞職することに。

****フランス“最年少”アタル内閣が総辞職 次期首相が決まるまで暫定的に職務続行****
フランスのアタル首相が率いる内閣は16日、総選挙での敗北を受け、総辞職しました。ただ次期首相が任命されるまでしばらくは職務を続けるとしています。

フランス大統領府は16日、マクロン大統領がいったん慰留していたアタル首相の辞表を受理したと発表しました。

アタル首相は、今年1月、現在の政治体制では最年少となる34歳(当時)で首相に就任しました。

しかし、今月の議会下院にあたる国民議会選挙で与党連合が敗北したことを受け、辞表を提出していました。

ただ、次期首相が任命されるまでは限定された範囲で職務を継続するということです。

国民議会選挙では、左派連合、中道の与党連合、極右の「国民連合」で議席を分け合い、連立協議も進んでいないことから、次期首相の見通しはたっていません。【7月17日 TBS NEWS DIG】
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あとがきまらない状況で、アタル内閣は次期首相が任命されるまでは限定された範囲で職務を継続する暫定内閣を続けますが、新たな法案の提出などはできず、内政の停滞は避けられない状況、しかも、そうした状況がしばらく続くこと(少なくともパリ五輪が閉幕する頃まで)が予想されています。

今回、マクロン大統領がアタル首相の辞任を受け入れたのは、議会戦略によるものと見られています。
フランス憲法は議員と大臣の兼務を禁じていますが、閣僚は内閣を辞任すれば議会で与党議員として投票などができます。さらに、暫定内閣はすでに辞任した状態のため、内閣不信任の対象にもなりません。

【大統領の狙う多数派工作も困難 左派連合も内情は複雑】
とは言うものの、マクロン大統領にとっても、フランス政治にとっても、異例の混迷状態に突入していることは間違いありません。新議会は18日に開会します。

マクロン大統領としては左派連合を切り崩して社会党など穏健派を取り込み、更に右派の共和党も取り込んで多数派を形成したいところですが、話は簡単ではなさそう。とにかく、左派連合の中核政党であるメランション氏率いる急進左派「不屈のフランス」は政権から排除したい思いです。

第一党になった左派連合は当然ながらマクロン大統領に「首相」ポストを要求していますが、こちらも内部事情は複雑。

組閣に向けた主導権争いが行われていますが、現在のところ目途がたたない状況です。

****フランス下院、続く主導権争い 連立なお見通せず 18日開会、内政停滞の危機****
フランスで国民議会(下院)総選挙を受けた各党の連立協議がなお難航している。どの勢力も過半数を獲得できず、マクロン大統領は自身の与党連合に有利な形での連立を模索しているが、第1勢力となった左派連合はマクロン氏陣営が主導権を握ろうとする動きに対して反発。新議会は18日に開会するが、内政停滞の危機が高まっている。

「勝者はいない。強固な安定多数を築こう!」 マクロン氏は10日に公表した書簡で、安定した大連立政権の樹立を各党に求めた。(中略)

欧州メディアによるとマクロン氏が模索するのは、新人民戦線の切り崩しだ。構成政党のうち、社会党など比較的穏健な左派政党と協力し、与党連合と特に政策面で相いれない中核政党の急進左派「不屈のフランス」の排除を目指す。同時に中道右派の共和党も取り込みたい考えとされる。

ただ、不屈のフランスを率いるメランション氏は「敗北を受け入れろ」と主張し、マクロン氏主導の政権樹立を警戒。社会党も「マクロン氏の政策を受け継ぐ政権は組まない」との姿勢を崩していない。不屈のフランス抜きで左派と連携するのは難しそうだ。

多数派形成の見通しがたたないため、内政を担う新首相の指名も困難な状況。フランスでは、大統領が議会多数派の意向を踏まえて首相を指名する仕組みで、マクロン氏は連立の枠組みが定まるのを待って指名する考えとみられる。

一方、各党の政策が微妙に異なる新人民戦線側も、マクロン氏に提案する首相候補を明確に一本化できていない。(後略)【7月17日 産経】
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【“極右が常態になった”状況で国民連合台頭 マクロン大統領の“賭け”の真意は?】
そもそも今回の下院選挙は、欧州議会選挙で極右「国民連合」に大敗を喫し、支持率でもダブルスコア状態でリードされていたマクロン大統領が突如、起死回生策として打ち出した“賭け”と言われています。

そのあたりの“マクロン大統領の賭け”の背景、それと、決選投票では候補者調整に敗れ、現在の多数派工作では蚊帳の外に置かれていますが、第1回投票では1位となった極右「国民連合」がなぜここまで国民にうけいれられるまでになったかを整理しておきます。

****“極右”が普通になっていく世界 28歳の極右党首とマクロン大統領の“賭け”【報道1930】****
5年に一度の欧州議会選挙が行われ、予想されていた通り極右政党の躍進が目を引いた。とはいえ現職のフォンデアライエン委員長を支持する政党の集まりが過半数を維持できる見通しでEUがすぐに何らかの方針を変更することはなさそうだ。

しかし、フランスでは事情が違う。マクロン大統領の政党が極右政党に大敗した。しかも圧勝した極右政党の党首は“極右アイドル”と呼ばれ熱狂的な支持を集める28歳の若者だった…。

「権力を握ったことのない唯一の政党は“極右”」
(中略)『国民連合』を実質率いるのは大統領選でマクロン氏と戦ったマリーヌ・ルペン氏だが、現在の党首はジョルダン・バンデラ氏28歳だ。バンデラ氏はSNSを駆使して若い世代の支持を集め、TikTokのフォロワー数は140万越えという、まさに“極右アイドル”だ。

「フランスの消滅は既に様々な地域で始まっている…(中略)国家の安全の脅威となる外国人の軽犯罪者・重犯罪者・イスラム主義者を国外退去させる。(中略)マクロンのヨーロッパに対抗しよう。一切譲歩してはいけない。フラン人であれ、これからも永遠に…」
移民排除、イスラム排除、自国ファーストを訴える熱弁に若者中心の支持者たちは国旗を振って歓声をあげていた…。この熱狂は何なのか? 極右を研究する専門家に聞いた。

「バンデラ氏の人気は非常に高い。彼がまだ28歳で、フランスの政治の基準からするととても若いという事実が関係してる。調査では18〜24歳の支持率が29%だった。

若者は自分の将来についてかなり心配している。2年前に年金改革があり、若者は67歳か68歳まで働くことが必要になった。68歳まで働いてキャリアの終わりに受け取る年金はそれほど多くない。

彼らは何か他のことを試したいのだ。共産主義も普通の選択肢だが、権力を握ったことのない唯一の政党は“極右”だ。それで試してみよう。もし上手くいかなければ私たちは行動を起こして変化するという考え方になる」

“極右が常態になった”
去年12月のフランスの世論調査では“国民連合は危険ではない”と答えた人(45%)が“危険である”と答えた人(41%)を上回った。

日本で極右と言えば、極端な愛国主義、国粋主義、ファシズムのイメージだが、フランスではそれが危険ではないと思う人が主流になりつつあるようだ。

そもそも極右の定義とは何か…。ヨーロッパ政治に詳しい東野教授に聞いた。
「あえて極右という言葉を使うなら、テキストの80%で生活を守るとか(ソフトな政策)であったとしても残る20%にうまくイスラム排斥、移民排斥とかが入ってるのであれば“それは危険”でヨーロッパでは排除すべき思想なんです。定義の問題ではなく“極右”というネガティブな言葉を使い続けることで、こうした排斥主義的な人がいますよっていう注意喚起をしている…」(中略)

筑波大学 東野篤子 教授
「マリーヌ・ルペンのお父さん(国民連合初代党首)の頃とはだいぶ洗練されてきて、いいじゃない、大丈夫じゃないと思わせるような極右が今の極右」

選挙の度に“極右の台頭”と言われ続けているうちに〝極右が常態になった”のかもしれない。ニュース解説の堤氏は言う
「今の極右はポピュリズムなんです。分かりやすく言えば人々の耳に聞こえのいいことを言ってちょっとだけ反移民とか混ぜ込んでいく。(中略)根底にあるのは自国第一、そこはトランプ氏に似てる」

「政権運営させてコケさせる」
欧州議会選挙で大敗を喫したマクロン大統領は、驚くことに議会の解散を発表、フランス総選挙を今月中に実施するという賭けに出た。

日本なら逆風時は解散を少しでも先延ばしにするところだが、マクロン大統領は「皆さんに選択権を返すことに決めた」としてその夜の解散に踏み切った。

元朝日新聞ヨーロッパ総局長で、現在東京大学・特任教授の国末憲人氏は言う。
「今回の欧州議会選挙は国に直接関係ないので割と気軽に投票できた。国内の総選挙や大統領選になると(国民も)気を使うと思う“やっぱり右翼はやめておこう”って…」

一方、マクロン大統領には彼なりの勝算があって解散するのだと教授は言う。もちろん裏目に出る可能性もあるが…

東京大学先端科学技術研究センター 国末憲人 特任教授
「マクロンはリスク取るの好きなんです。それを恐れない人物。リスキーだけどやる。(中略)任期はあと3年あるがこのままやってると国民連合に人気がどんどん高まる、と思ってます。で3年間レームダックになるよりも一か八かに出た方がいいという判断…」

東野教授もマクロン大統領の目論見を4つ挙げた。
筑波大学 東野篤子 教授
「一番大きいのはフランスの選挙で極右が大勝ちすることはよくあるんですが、大勝ちした後に揺り戻しがあるんですね。“こんなに極右が勝ってしまってはマズい”って…。
2番目は、マクロンは国民連合が上手く政権運営できるとは思ってない。なのでもし過半数取って最悪ルペン氏やバルデラ氏が首相になってしまっても、政権運営させてコケさせる。
3番目として、フランスの大統領権限は絶大なので、たとえ議会で過半数取られてもやっていけるという自信ですね…。
4番目にはマクロンの視点はあくまでも2027年の大統領選挙。そこにルペンは出る気マンマン。だからなんとか国民連合に失敗をさせておく。それでルペン大統領誕生の芽を摘んでおく…」

それにしても大統領が46歳。首相が34歳。ライバル党首が28歳。登場人物の中で最年長のルペン氏でも55歳。それに比べて日本は…、と考えるとイデオロギーを度外視して羨ましい…。(BS-TBS『報道1930』6月10日放送より)【6月13日 TBS NEWS DIG】
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【「右でも左でもない」中道路線(マクロニズム)の失敗】
解散総選挙発表当時から、少なくも選挙予測に関しては“賭け”は失敗しそうだと言われていました。
実際、マクロン与党は大敗し、議席数を大幅に減らした訳ですから、その意味では“賭け”は失敗したと言えます。

ただ、当初の議席予想からすれば、マクロン与党の議席減は“まだまし”な数字になっていますし、決選投票では左派連合との候補者調整で国民連合の過半数獲得を阻止しています。

しかし、極右・国民連合に代わって、急進左派を含む左派連合が1位となるという想定外の結果を招いたという点では、やはり“失敗”でしょうか。

****賭けに負けたマクロン大統領の四面楚歌****
<「極右」首相とマクロン大統領の野合政権の誕生という最悪の事態は辛うじて回避できたが、あと3年の任期を残すマクロン大統領はレームダック化し、フランス政治は混乱と停滞の時代に入っていくだろう>
(中略)
この「極右」と「反極右」の戦いの決戦は、3年後の大統領選挙に持ち越された。本番は大統領選挙となる。国民連合の大統領候補であるルペン前党首にとっては、総選挙で勝利とはならなかったが、最大野党のポジションは、大統領選挙を狙うには極めて好都合だ。

マクロニズムの失敗
今回の総選挙では、マクロニズムの失敗も明らかになった。他の欧州諸国でも見られる、中道勢力の弱体化と「極右」(右派ポピュリスト勢力)の強大化が進んだからだ。

マクロン大統領は、「右でも左でもない」中道路線(マクロニズム)を志向してきた。それは実際には、「左の心」(社会主義者の価値観:社会的連帯、進歩主義、多文化主義など)と、「右の頭」(新自由主義者の経済政策)の両輪で、中道層を厚くすることを目指したもので、当初はそれが功を奏し、左右穏健派政党(社会党・共和党)の失墜をもたらした。

しかし、「左の心」については、移民問題や治安の悪化などで、十分に発揮できなかった一方、「右の頭」については、富裕税の廃止や年金改革などで、十分に発揮してしまった。

このため「金持ち優遇のエリート」として庶民の強い反発を招き、そうした反発を我がものとしてマクロン批判を徹底的に展開した国民連合の増長をもたらしてしまったのだ。

それやこれや、マクロン大統領の危険な賭けは、自分自身の四面楚歌の状況を招いただけの失敗に終わったようだ。【7月9日 Newsweek】
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【左派連合勝利・・極右が勝利したほうがマシだったとの指摘も】
マクロン大領の心のうちは知り様もありませんが、フランス政治・社会・経済の安定を願っているなら、今回の左派連合が1位という結果は、極右政権誕生よりももっと懸念すべき事態かも・・・という指摘も。

マクロン大統領同様に、国民連合・ルペン氏にとっても本番は次期大統領選挙。もし極右政権となっていれば、ルペン氏は次期大統領選挙を睨んで、過激な変革は行わないだろう・・・それに比べて急進左派が主導する左派政権となると・・・という議論です。

****【フランス総選挙】極右が勝利したほうがマシだった? 左派連合の“逆転勝利”で待ち受ける混乱***
(中略)
経済政策に意見反映
左派連合は、71議席の不服従のフランス、64議席の社会党、33議席の環境派、9議席の共産党、3議席のその他からなっている。不服従のフランスは「フランスのバーニー・サンダース」(米国民主党左派の政治家)と呼ばれるジャン=リュック・メランションが率いる、反EUや反イスラエルなどの主張が際だった勢力である。

左翼連合はさすがに、EUやNATOからの離脱をマニフェストに入れなかった。だが、経済政策では、この不服従のフランスの意見を大幅に採用したマニフェストを発表しており、

1.2023年の年金改革法を撤廃して64歳からになった年金支給を60歳に戻すこと 2.公務員給与と福祉給付の増額 3.最低賃金の14%引き上げ 4.基本食品やエネルギーの価格凍結
をうたった。民間の試算によれば、これらのコストは1500億ユーロを超えると予想されている。富裕税の復活や大企業への課税強化に財源を求めるというが、到底不可能と見られている。

またLGBT関係では、性別の変更を裁判所の関与なしに市役所で可能にするとか、移民・難民に寛容な方策の採用なども約束している。

連立政権は極右と極左を利するだけか
そこで大統領は、過半数がとれなかったという理由で社会党などに左派連合の公約の多くを放棄させて、大統領派や右派との連立政権を組織しようと画策している。(中略)

たしかに、上記の三勢力の議席を合計すると296議席となって過半数は確保できる。だが、社会党内の左派が造反する可能性もある。また、発足してもこれまでのマクロン路線と対して変わらないものになるだろうから、国民の不満はたまり、極右と極左を利するだけだろう。

もちろん、不服従のフランスのメランションか他の人物に任せて大混乱を引き起こさせてから、社会党に離脱させるとか奇手はあるが、その場合に経済にもたらす打撃は耐えがたいものになるだろう。

むしろ極右のほうがましだった?
そうなると、むしろ極右のRNが勝利したほうがましだった、という気持ちも心をよぎる。なぜなら、その場合は29歳のバルデラ党首が首相になり、2027年の大統領選挙でマリーヌ・ルペンを勝利させるために経済を大混乱させるようなことは避けただろうからだ。

RNは、もうEUや共通通貨ユーロからの離脱は言わないし、NATOとの関係の変更についても慎重だ。ウクライナ紛争でも、マクロン大統領よりはだいぶ後ろ向きだが、ロシアの肩を持っているわけでない。そもそもウクライナのNATOやEUへの加盟にはマクロン大統領だって実質的には反対だったのである。トランプ大統領が復権したら、むしろ、極右政権のほうがトランプと上手にやっていけるかもしれなかった。(中略)

なぜRNは異端扱いされるのか
RNがどうして極右と呼ばれ、体制外の異端扱いされるかといえば、つまるところ、第二次世界大戦でレジスタンス勢力こそが現フランス共和国を創ったという歴史的事情による。

このため、マリーヌ・ルペンの父親で創始者のジャン・マリー・ルペンがナチスを肯定するような発言をしていたことを理由に、RNを排除するのみならず、RNを切り崩すために穏健派を招き入れるとか、RNの政策を一部採り入れるといったことも拒否しているのである。

このことは、かえってRNの組織を切り崩されない強固なものにしてしまってい
るように見える。RNが30%を超えるフランス国民の支持を受けているとなれば、RN全体を連立相手などとはしないだけで良く、分裂を誘って受け入れるほうが賢明ではないかという気がしないわけでもない。【7月17日 八幡和郎氏 デイリー新潮】
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とにかくしばらく混迷が続くこと、今回総選挙は“スタート”に過ぎず、マクロン大統領もルペン氏も目を向けているのは次期大統領選挙であるということは間違いないところです。
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