孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  キャメロン首相の政権維持で、EU離脱を問う国民投票が現実課題に

2015-05-08 23:09:04 | 欧州情勢

(8日、ロンドンで、保守党本部にサマンサ夫人と到着し親指を挙げてみせるキャメロン首相 【5月8日 読売online】)

保守党は単独過半数確保、SNPはスコットランド“総取り”】
7日に投票が行われたイギリス総選挙は、“2大政党の大接戦で、いずれも過半数をとれない「ハングパーラメント」(宙吊り議会)は必至”という予想に反して、与党保守党が単独過半数を制して大勝しました。

まだ最終議席数は確定していないようですが、“日本時間午後10時時点の各党の獲得議席数は、保守党330(改選前302)、労働党232(同256)、スコットランド国民党(SNP)56(同6)、自由民主党8(同56)”【5月8日 毎日】とのことで、最終的には保守党はもう少し伸びるかも。

キャメロン首相は「私はイギリスの国を一つにまとめあげ、政権を率いていきたい」と再度政権を担う意向を示していますが、予想外の大敗となった野党労働党のミリバンド党首は英メディアによると、責任を取る形で辞任の意向が伝えられています。【5月8日 産経より】

連立に埋没する形で独自性を発揮できず大敗した自由民主党のクレッグ党首と、獲得議席が1議席にとどまった英国独立党のファラージ党首(自身も落選)も、辞任を表明しています。

与党保守党の単独過半数獲得と並んで、今回選挙の特徴はスコットランド国民党(SNP)の大躍進です。
これまで労働党が地盤としていたスコットランドから労働党を叩きだし、59議席中56議席を獲得(従来議席数は6議席)、ほぼ“総取り”状態です。

全国レベルでは支持は少なくても、地域的に票を集中できれば大きな議席を得られるという、小選挙区制の特徴でもあります。逆に、広く薄く全国的な支持を一定に集める自由民主党やイギリス独立党などは、結局議席を伸ばせないということにもなります。

SNPの躍進は予想通りと言えば予想通りですが、“本当にそこまでいったか・・・”という感があります。

選挙戦では大人気で「スコットランドの女王」とも称されるスタージョン党首ですが、彼女自身は選挙には出馬していないそうです。(なお、保守党サイドからは「最も危険な女性」とも言われています)

****<英総選挙>SNP躍進 スタージョン党首、「独立」へ信念****
英総選挙でスコットランド国民党(SNP)が保守、労働の2大政党に次ぐ第3党になるのが確実だ。スコットランド独立を目指す地域政党を引っ張ってきたのは女性党首、ニコラ・スタージョン党首(44)だ。

スタージョン氏は1970年、スコットランド南西部アーバインで、電気技師の父と看護師の母との間に長女として生まれた。核廃絶運動に共鳴し16歳でSNP党員になりグラスゴー大学で法律を学んだ。家族で最初に大学を経験したのが彼女だった。

大学を卒業した92年、総選挙に出馬したが落選、97年総選挙でも敗れた。弁護士をしていた99年、スコットランド議会選に立候補して当選して以来、同議会選に連続当選している。そのためスタージョン氏は一度も国会議員を経験しておらず、今回も総選挙には出馬していない。

スコットランドなまりの英語を話す親しみやすさと、スコットランド独立への強固な意志が評価されて党内で存在感を高め、2007年にSNPがスコットランド議会の与党となると自治政府副首相としてサモンド首相を支えた。

昨年9月の住民投票でスコットランド独立が拒否されサモンド首相が辞任したのを受け同年11月、自治政府首相(SNP党首)となった。保守系メディアから、「真面目過ぎる」「面白みに欠ける」とも酷評されるが、周辺からは「ユーモアのセンスもある」との声もある。

スコットランド議会議員になった際、女王への忠誠宣誓をせず、「スコットランドの主権」に忠誠を誓ったほどスコットランド独立への思いは強い。今回の党躍進で、独立への意志をさらに固めたのは間違いない。【5月8日 毎日】
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なお、スタージョン党首は投票終了段階では、「いい夜になることを祈っているが、(出口調査の)58議席というのはあり得ないと思う」とツイートしたとか。

EU離脱を問う国民投票実施へ スコットランド独立問題再燃も
今回選挙は第1段階であり、EU離脱を問う国民投票の実施など、むしろこれからがイギリスにとっては将来を決める正念場ともなります。

具体的には、キャメロン首相と、第3党に躍進して再度独立問題を持ち出すこともありえるSNPスタージョン党首のせめぎあいとなりそうです。

SNPは、EU離脱を問う国民投票の実施や核政策に反対しています。スタージョン党首は筋金入りの核廃棄論者とのことです。

****キャメロン首相 待ち受ける課題は****
総選挙の結果、キャメロン首相が再び政権を担う見通しとなりましたが、2期目の課題は少なくありません。

EUとの関係どうする?
注目を集めているのは、新政権がイギリスとEUとの関係を見直すことになるのかどうかです。現在はEUに加盟しているイギリスですが、キャメロン首相は2017年末までにEUからの離脱の賛否を国民投票で問う方針を示しています。

イギリスには、EUのほかの国々から年間におよそ20万人が移り住んでいますが、移民の数が増えた結果、国内の雇用が奪われたり、医療や学校などの公共サービスが圧迫されたりしたという批判の声が国民の一部からは聞かれます。

また、EUが経済活動に課しているさまざまな規制への不満もあり、キャメロン首相は、こうした国民のEUに対する反発に応える形で、国民投票実施の方針を打ち出しました。

ただイギリスがEUから離脱してしまうと経済の停滞を招くとして、経済界を中心に強い反対意見があります。また、野党の労働党や、今回の選挙で躍進したスコットランド民族党も国民投票の実施には反対です。

このため、新政権が反対を押し切って実際に国民投票の実施に踏み切れるのか、また、実施する場合どのタイミングで行うのかに注目が集まっています。

スコットランド問題 どう向き合うか
今回の選挙ではイギリス北部スコットランドの独立を目指す政党がスコットランドのほとんどの選挙区で勝利し、今後、独立を求める機運が高まるとみられることから、キャメロン首相の新政権がどう向き合うかに関心が集まっています。

スコットランドの独立を目指すスコットランド民族党は、地域の59の小選挙区のうち、56で勝利し、改選前の6から議席を大幅に増やしました。

躍進のきっかけは去年9月に実施されたスコットランドの独立の賛否を問う住民投票です。独立は否決されたものの、スコットランド民族党が住民投票を主導したことが評価され支持が広がりました。

住民投票後に就任したスタージョン新党首は、保守党中心の連立政権が続けてきた緊縮策を終わらせることが最優先と訴え、中央政府に不信感を抱いていたスコットランドの住民の間で支持を広げました。

今回の選挙での躍進を受けてスタージョン党首は、「われわれの仕事はスコットランドの住民の権利を守ることだ」と述べ、再び独立の賛否を問う住民投票の実施を目指すものとみられています。

スコットランド民族党は、キャメロン首相が唱えるEU=ヨーロッパ連合からの離脱の是非を問う住民投票や新たな原子力潜水艦の建造には反対していて、新政権がスコットランドの問題にどう向き合うかに関心が集まっています。【5月8日 NHK】
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上記のようにSNP・スタージョン党首は保守党続投、EU離脱を問う国民投票の実施、新たな原子力潜水艦の建造には反対という立場ではありますが、政治の世界では往々にしてあるように、本音はまた別物とも。

むしろキャメロン首相続投、EU離脱の国民投票実施という流れになった方が戦いやすい・・・というのが本音とも見られています。

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英政界では、「スタージョンの本音は、キャメロン続投」という見方が根強い。

「キャメロンが続投すれば、保守党内の欧州懐疑派が『欧州連合(EU)脱退の国民投票を早急に実施せよ』と強く要求する。国民投票で『脱退』が多数になった場合は、SNPが『それなら私たちはEUにとどまりたい』と、もう一度スコットランド住民投票を求めることができるだろう」と、英国人政治記者は言う。

もちろん、そうなれば英国の分裂は鮮明になる。【選択 5月号】
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リスクが大きい“国民投票”】
それにしても、キャメロン首相は今回勝利を喜んでいいのでしょうか?

EU離脱については、キャメロン首相自身は離脱に反対とのことですが、世論や党内右派に配慮する形で“政権維持の場合、17年末までにEUからの離脱の賛否を国民投票で問う”という方針になっています。

政権を維持できなかった場合はもちろん、「ハングパーラメント」で他党との連立という形なら、何らかの理由をつけて国民投票回避もあり得ましたが、単独過半数となると、もはや“やるしかない”状態です。

キャメロン首相はEUと交渉して譲歩を勝ち取って、国民の信を問う・・・との方針ですが、EU側がイギリスに特別待遇を認めるとは思えません。“出て行くなら、勝手にどうぞ”といったところではないでしょうか。

そうした状況で国民投票を行って、どういう結果が出るのか・・・・“国民投票で問う”と言えば民主的でいさぎよい感もありますが、その結果はあまりに大きなリスクを伴います。

スコットランド独立の住民投票でも、キャメロン首相は“独立が支持されるはずはない”とたかをくくり、投票に打って出た結果、独立機運の高まりに青くなった経緯があります。

EU離脱についても、今のところは残留支持が離脱を上回っているようですが、その差はわずかにすぎず、国民の感情・気分・ムード次第では、スコットランド独立問題の二の舞にもなりかねません。

(今年に入ってからの世論調査では、1月から3月までに行われた10回中8回は残留派が離脱派を上回っている、逆に言えば2回は離脱派が残留派を上回った・・・という数字になっています。)【3月30日 木村正人氏 BLOGOSより】

それでも結果的に残留支持になればともかく、離脱となった場合は、イギリス経済・政治は厳しい現実に直面することになるでしょう。

更に上記のように、そうした場合はSNPが「スコットランドはイギリスから独立してEUに残る」という主張を持ち出すことが想定されます。

最悪の場合、EUからは離脱して政治・経済的に孤立し、スコットランドは分離独立するということにもなりかねません。

キャメロン首相は今回勝利を喜んでいいのでしょうか?
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