孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  エチオピア系ユダヤ人、差別へ抗議デモ

2015-05-15 22:16:35 | 中東情勢

(警官による「人種差別」などに抗議し、デモを行うエチオピア系市民ら=テルアビブで2015年5月3日、ロイター 【5月5日 毎日】)

【「焦土作戦」で勝利したネタニヤフ首相による右派連立政権発足
イスラエルでは、3月17日の総選挙で大勝したネタニヤフ首相率いる右派リクードを中核とする連立政権が発足しました。

****イスラエル>ネタニヤフ新連立政権が始動****
イスラエルで14日夜、右派系を中心とする計5党(61議席)からなる新連立政権が発足した。

国会定数(120)の半数をわずかに上回る議席で、1人でも欠ければ過半数は維持できない。政権維持のため、ネタニヤフ首相は対パレスチナ、イラン問題で従来以上に強硬姿勢を強める可能性がある。

首相は15日朝の閣議で「イスラエル国民への貢献に集中して取り組む必要がある」と語り、3月の総選挙により高まった政党間の対立を解消するよう呼びかけた。

新政権はネタニヤフ首相率いる右派リクード(30議席)、中道右派クラヌ(みんなの党、10議席)、宗教系極右「ユダヤの家」(8議席)などで構成する。【5月15日 毎日】
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選挙前、一時劣勢が伝えられたネタニヤフ首相は、パレスチナ問題やイラン核問題など安全保障面の「脅威」に争点を絞り、アメリカ議会でオバマ大統領のイラン政策を批判し、更に、「右派政権は危機に直面している。アラブ系の投票者らが群れをなして投票所に向かっている!」といった国民の恐怖心をかき立てる戦術を取りました。

そうした“禁じ手”とも言える戦術で手にした勝利ですが、結果として、アメリカ・オバマ政権との溝は深まり、欧州諸国のパレスチナ国家承認の流れも加速させそうです。

****イスラエル首相再選の大きな代償 「焦土作戦」で勝利したネタニヤフ首相、国際的な孤立に拍車****
激しい戦いとなったイスラエルの総選挙は、不人気な首相が連続3期目の任期を獲得するうえで不安を煽る政治がそれなりに奏功することを裏付けたように見える。だが、ベンヤミン・ネタニヤフ氏の勝利は大きな代償を伴う。

今回の勝利はすでに、明らかに焦土作戦の勝利だ。ネタニヤフ氏はこの作戦において、イスラエルと外国をつなぐ橋を次々と燃やし、極右の仲間を出し抜いてきた。

さらに、イスラエルがその領土を占領しているパレスチナ人と解決策を交渉するかもしれないという残された希望を打ち砕き、すでに疎外されているイスラエル国内の少数派アラブ人にイスラエル市民以下の存在という汚名を着せた。(後略)【3月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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そのあたりの話は、3月20日ブログ“イスラエル・ネタニヤフ首相の「2国家共存」否定にアメリカが強い不快感 アラブ系政党が第3党へ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150320)で取り上げたところです。

ネタニヤフ首相の連立交渉は期限を延長するなど難航したようですが、国際的にも孤立し、パレスチナ対応でも強硬姿勢をとる右派政権ということで、中東和平については期待できないというのが一般的な見方です。

****<イスラエル>右派連立政権発足へ 和平進展は期待できず****
・・・・過半数ぎりぎりの連立で、当面は薄氷を踏む政権運営となる。中東和平に積極的な政党は加わっておらず、和平進展は期待できそうにない。(中略)

パレスチナとの中東和平に積極的な政党は参加していないため、昨年春に頓挫した和平交渉が再開される可能性は低い。ユダヤ人入植地建設をさらに拡大させればパレスチナ側の反発は必至で、治安の悪化も懸念される。

当初は右派系6党(計67議席)が連立に加わる見込みだったが、4日になって世俗派極右「わが家イスラエル」(6議席)を率いるリーベルマン氏が連立への参加拒否を表明した。宗教系右派との対立や閣僚ポスト配分への不満が、背景にあったとされている。

連立合意した政党の中でも、中道右派のクラヌは、宗教系3党との間で対立する点を多く抱えている。ネタニヤフ首相は、双方の間で難しいかじ取りを迫られそうだ。

ただ、首相は6日深夜の会見で「61から始まる。やるべきことは山積している」と語り、野党勢力の取り込み工作を続ける考えを示唆した。

地元メディアによると、リーベルマン氏や「わが家イスラエル」の議員らを説得しようとする可能性がある。また、中道系政党との連携を模索する動きもあると伝えられている。

イスラエル総選挙は3月17日に実施され、6日が連立合意の期限だった。【5月7日 毎日】
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およそ和平は期待できないようにも見えるネタ二ヤフ首相ですが、国会演説では「私たちは治安を守り、平和を追求する」と強調しています。どんな政治家でも「平和」を口にします。たとえ、やっていることが「平和」とは逆方向でもあっても。

差別されるエチオピア系ユダヤ人
イスラエルが抱える国内問題としては、当然ながら、今回選挙でも敵対勢力扱いをした少数派アラブ系市民との関係がありますが、それ以外にもイスラエル社会には“差別”問題があるようです。

今朝のTVで、エチオピア系ユダヤ人差別の問題を取り上げていました。
例によって、出勤準備をしながらのチラ見で内容はわかりませんが、10日ほど前に報じられていた件かと思われます。

****<イスラエル>エチオピア系市民ら「人種差別」抗議デモ****
イスラエル最大の商業都市テルアビブで3日夜、「人種差別」などに抗議するエチオピア系市民らによる数千人規模のデモがあり、一部が治安当局と衝突、地元メディアによると60人以上が負傷し、40人余りが逮捕された。

4月末にエチオピア系兵士が路上で明確な理由もなく警官の暴行を受け逮捕されたことが引き金で、背景には「二級市民」のような差別を受けてきたとするエチオピア系市民の強い不満がある。

テルアビブで当局に対する大規模な抗議運動が起きるのは異例。ネタニヤフ首相は3日夜、声明を出し、事態沈静化を呼びかけた。

地元メディアによると、デモ隊の一部は投石したり商店を破壊したりし、治安当局は催涙弾や放水で鎮圧した。

デモ参加者の大半は1970年代以降にエチオピアから移り住んだ移民の第2世代。「我々は黒人でも白人でもない。人間だ」と訴え、「暴力警官こそ逮捕されるべきだ」と主張した。警察は兵士を暴行した警官を解雇する方針。【5月5日 毎日】
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エチオピア系ユダヤ人・・・あまり馴染みがない人々です。【ウィキペディア】では以下のように説明されています。

****ベタ・イスラエル****
ベタ・イスラエル(Beta Israel)とはエチオピアに住むユダヤ人の呼称。エチオピアの非ユダヤ人からはファラシャと呼ばれるが、ゲエズ語では「流浪民」・「異邦人」の意味で、ベタ・イスラエルからはファラシャという呼称は「侮蔑的である」として忌避される。

エチオピア国内のベタ・イスラエルの85%以上にあたる110,700人を越える人々が帰還法によってイスラエルに移住した。帰還法は、ユダヤ人を両親や祖父母に持ち、或いはユダヤ人の子孫である者はイスラエルに居住でき市民権を得られる、という法律である。

イスラエル政府は1984年のモーゼ作戦や1991年のソロモン作戦などを実施し、内戦下のエチオピアで飢餓やデルグ政権下の中央革命捜査局による迫害に苦しんでいたベタ・イスラエルをイスラエル国内に移住させた。ベタ・イスラエルのイスラエルへの移住は少数ながら現在でも続いている。【ウィキペディア】
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そもそも、「シバの女王」にさかのぼるエチオピアの国の成り立ちが、古代イスラエルのソロモン王に結びついています。

****シバの女王****
シバの女王はシバ王国の支配者で、ソロモンの知恵を噂で伝え聞き、自身の抱える悩みを解決するために遠方の国家からエルサレムのソロモン王の元を訪れたとされる。(中略)

その統治期間はソロモン王とほぼ同時期の紀元前10世紀頃と推定される。シバ王国の所在については有力視される2つの説があり、エチオピア説によればその名をマケダ(あるいはマーキダ)と呼び、イエメン説によればビルキス(あるいはバルキス)と呼ぶ。ただし、両説ともこれを裏付ける考古学的発見は未だ皆無である。

ヘブライの神話では、ソロモン王とシバの女王からネブカドネザルが生まれたと伝えられる。エチオピア説ではさらに、ソロモン王とマケダの間に生まれた子をエチオピア帝国の始祖メネリク1世であると位置づける。しかもソロモン王がシバ王国を訪問したとされた。【ウィキペディア】
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ただ、エチオピアで信仰されてきた「ユダヤ教」は、一般的な「ユダヤ教」とは異なる部分も大きいようです。

****エチオピアの「ユダヤ人」の「人権問題」?****
エチオピアには古代キリスト教の文化習慣が色濃く残っていると言われるが、それはその地域のキリスト教への集団的「改宗」以前の「ユダヤ教」と通底するものとされている。だが、はたしてそれはいわゆる「ユダヤ教」と言えるのかどうか。

ユダヤ教は、何をさしおいても、バビロニア・タルムードを抜きには語れない。神殿崩壊と捕囚、そのディアスポラの地において編纂された聖典タルムード(律法に対するラビたちによる膨大な解釈文書群)こそが、ユダヤ教文化を形作ってきたと言える。そのタルムードが成立したのは6世紀頃と言われている。

それ以前にキリスト教化したエチオピアにおいて、現在でも「ユダヤ人」が残っている/いたとしても、彼らが信奉しているのは、「トーラー」(モーセ五書:旧約聖書の最初の五書)であって、タルムードは一切受容されていない。

それゆえに、イスラエルのラビたちの多くは、「ファラシャ」と呼ばれるエチオピアの「ユダヤ人たち」を認めていない。また、ユダヤ教徒を自任する者とキリスト教への改宗者を自任する者との線引きも限りなく曖昧にならざるをえない。

そうした中で、イスラエルは過去二度に渡り、大規模なファラシャのイスラエルへの移送作戦を実行している。1982~84年にかけての「モーセ作戦」と、1991年の「ソロモン作戦」として知られているが、それらはいずれも、エチオピアの貧困や政治混乱の中から「ユダヤ人を救い出す」という名目の「人権問題」として対外的には位置づけられていた。

それぞれの作戦で、約1万人と約1万4千人が「救出=移送」されたことで、ほぼすべてのファラシャ=「ユダヤ人」がイスラエルに移住をし、エチオピアにはもう「ユダヤ人」は残っていないとされた。

そして、イスラエルに「救出」をされたファラシャたちは、他のユダヤ人移民と比べて格段に厚遇をされて、イスラエル社会への適応を促されている、と公式見解では言われる。だが、、、(後略)【2005年12月6日 早尾貴紀氏 パレスチナ情報センター】http://palestine-heiwa.org/note2/200512061758.htm
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肌の色が違うだけでなく、信仰内容も異なるとなると、容易に“差別”がにじみ出てきます。

今朝のTVでも、エチオピアから“救出”された人々が、実際は人を避けるような入植地に追いやられているとか、今回の抗議デモでも、アラブ系住民の暴動鎮圧と同じような催涙弾などが使用されている・・・といったことが取り上げられていたようです。

“一つには、イスラエル社会の中でのファラシャへの根深い差別の問題だ。住居や進学、就職などなど、生活のあらゆる場面において、エチオピア出自のユダヤ人たちは差別を受けていると感じており、ときには国会前や首相公邸前などでデモや集会を持つ。”【同上】

エチオピア系ユダヤ人に対する差別の問題は、以前からずっと存在していたようで、ネット検索すると過去のいろんな問題が出てきます。

****イスラエル社会の最下層を構成する エチオピア系ユダヤ人****
  
●1996年1月末、エチオピア系ユダヤ人はエイズ・ウイルス感染の危険性が高いとして、「イスラエル血液銀行」が同ユダヤ人の献血した血液だけを秘密裏に全面破棄していたことが発覚した。
更にイスラエル保健相が、「彼らのエイズ感染率は平均の50倍」と破棄措置を正当化した。

●これに対して、エチオピア系ユダヤ人たちは、「エイズ感染の危険性は他の献血にも存在する。我々のみ全面破棄とは人種差別ではないか!」と猛反発。
怒り狂ったエチオピア系ユダヤ人数千人は、定期閣議が行なわれていた首相府にデモをかけ、警官隊と激しく衝突した。

イスラエル国内は騒然とした。あるユダヤ人たちは言った。
「この騒ぎは、かつてのアラブ人たちによるインティファーダ(蜂起)に匹敵するほどのものであった」と。(中略)

●『読売新聞』(1996年1月30日)は、「ユダヤ内部差別露呈」として、このことを詳しく掲載した。

「今回の事件は、歴史的、世界的に差別を受けてきたユダヤ人の国家イスラエルに内部差別が存在することを改めて浮き彫りにした。イスラエルヘの移民は1970年代に始まり、エチオピアに飢饉が起きた1984年から翌年にかけて、イスラエルが『モーセ作戦』と呼ばれる極秘空輸を実施。1991年の第二次空輸作戦と合わせ、計約6万人が移民した。

だが、他のイスラエル人は通常、エチオピア系ユダヤ人を呼ぶのに差別的な用語『ファラシャ(外国人)』を使用。

エチオピア系ユダヤ人の宗教指導者ケシムは、国家主任ラビ庁から宗教的権威を認められず、子供たちは『再ユダヤ人化教育』のため宗教学校に通うことが義務づけられている。

住居も粗末なトレーラーハウスに住むことが多くオフィス勤めなどホワイトカラーは少数に過ぎない。同ユダヤ人はイスラエル社会の最下層を構成している。」

「ヘブライ大学のシャルバ・ワイル教授は『とりわけ若者にとって、よい職業や住居を得ること以上に、イスラエル社会に受け入れられることが重要だ』と、怒りが爆発した動機を分析する。

デモ参加者は『イスラエルは白人国家か』『アパルトヘイトをやめよ』と叫んだ。『エチオピア系ユダヤ人組織連合』のシュロモ・モラ氏は『血はシンボル。真の問題は白人・黒人の問題だ』と述べ、同系ユダヤ人の置かれている状況は『黒人差別』によるとの見方を示した。」
 
●『毎日新聞』は次のように書いた。

「ユダヤ人は東欧系のアシュケナジーム、スペイン系のスファラディム、北アフリカ・中東のユダヤ社会出身のオリエント・東方系に大別され、全世界のユダヤ人人口ではアシュケナジームが過半数を占めている。

イスラエルではスファラディム、オリエント・東方系が多いが、少数派のアシュケナジームが政治の中枢を握っている。」

「エチオピア系ユダヤ人は、イスラエル軍内部でエチオピア系兵士の自殺や不審な死亡が多いと指摘するなど、イスラエル社会での差別に苦情を呈してきた。たまっていた不満に献血事件が火をつけた格好だ。」(後略)http://inri.client.jp/hexagon/floorA1F/a1f1303.html
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2013年1月には、イスラエル政府が5年前からエチオピア系のユダヤ人女性らに予防接種だと偽るなどして避妊薬を強要していたことを初めて認めた、結果的にエチオピア系ユダヤ人の社会では、過去10年間で出生率が50%も減少した・・・・といったことが話題になっています。

上記の避妊薬強要の実態・真偽は知りませんが、そういう話が出ること自体がエチオピア系ユダヤ人の置かれている社会的地位を物語るものでしょう。

迫害を逃れて建国したはずのイスラエルで、一部の人々への差別・迫害が起きるという悲しい現実・・・TVではそんんなコメントもあったような。
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