孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国新疆のウイグル族問題  当局の徹底した抑圧のもとで忍び込む過激思想

2015-05-25 22:07:33 | 中国

(こうした漢民族のダンスイベントは武装警察によって警備されているそうです。【5月25日 AFP】)

過激派の分離独立運動か、当局による文化的、宗教的な抑圧の結果か
中国・新疆ウイグル自治区における「暴力事件」は、相変わらず頻発しています。

****新疆で連続自爆、6人死亡か=ウイグル族抑圧政策に不満―中国****
米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)は13日、中国新疆ウイグル自治区ホータン地区ロプ県で11日夜と12日朝に連続して検査所を狙った自爆事件が発生したと伝えた。容疑者を含む6人が死亡、4人が負傷したという。

自治区内の地元政府は、ひげをたくわえたり、頭部をスカーフで覆ったりするウイグル族の習慣や文化に対する抑圧政策を強化している。ウイグル族の間では、ウイグル族を監視する検査所に対する不満が高まっており、これが事件につながったとの見方が出ている。

11日夜には容疑者が検査所に爆弾を投げ、この容疑者と警官2人が死亡した。地元警察が厳戒態勢を敷く中、12日朝には同じ検査所で、容疑者2人が体に縛り付けた爆弾を爆発させ、2人と警官1人が死亡し、警官4人が負傷した。

RFAによると、容疑者3人は18~20歳の地元住民で、検査所まで歩き、手製爆弾で事件を起こした。事件発生後、地元警察は容疑者の親族を含めて200人以上を拘束。「計画的かつ組織的な事件」とみて捜査を進めているという。

中国メディアはこの自爆事件について報道していない。【5月14日 時事】 
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今回事件も中国国内では報じられていないように、こうしたウイグル族関連の事件は当局の厳重な報道管制下にあって、その真相はよくわかりません。

一連の「事件」について、中国当局は“イスラム過激派や分離主義者によるテロ事件”としていますが、その実態はウイグル族への抑圧政策に対する住民の抵抗と当局側の過激な鎮圧行動ではないかとも思われるものも多々あります。

****ウイグル住民「中国警官隊がデモ隊を射殺」、昨年7月の事件めぐり証言****
恐ろしく暴力的な出来事が、エリシュクで起きた。分離独立を主張する組織による攻撃なのか、それとも当局による市民虐殺なのか。答えは、イスラム教徒が多数を占める中国西部・新疆ウイグル自治区を悩ます闘争や当局による鎮圧、相反する主張などで覆い隠されている。

中国当局によると、2014年7月に過激派集団がカシュガル地区ヤルカンド県エリシュクの警察署を襲撃し、住民と「テロリスト」合わせて96人が死亡した。

一方、外国メディアの取材に初めて応じた住民らは、政府による新疆ウイグル自治区への弾圧に対し抗議行動を起こした数百人が、残酷なやり方で鎮圧されたと話している。

抗議の際、妊娠中だった妻と共に自宅で身を潜めていたマームティさんは、「抗議運動に加わった人は皆、死んだか、投獄された。あれ以来、消息が分かる人は誰もいないし、どこにいるのか誰も知らない」と語った。

この事件以降、さまざまな主張が飛び交っていたが、新疆ウイグル自治区に関する情報を独自で確認するのは困難だった。AFPは外国メディアで初めて、現地での取材を行った。

住民たちの証言によると、くわや斧などの農具を手に、500人を超えるウイグル人が、突撃銃で武装した警官隊の元へと向かった。マームティさんは、警官隊が群衆に「下がれ」と命じ、そのすぐ後に発砲が数時間、断続的に続いたのを聞いたという。

「あの日に外に出ていった人は誰も戻ってこなかった」。報復を恐れ名字を隠して取材に応じた農家のユスプさんは、こう語った。「大混乱だった。多くて1000人が消えたかもしれない」

抗議行動を起こしたのは、イスラム教を信仰するトルコ系少数民族のウイグル人。文化的には、漢民族が多数を占める中国よりも中央アジアとの共通点を多く持つ。

10年の国勢調査によると、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の割合は46%。1953年の時点では75%だった。

資源が豊富な新疆ウイグル自治区はロシアなどに支配された時代や、独立の動きがみられた時代もあったが、1800年代終わりからは、おおむね中国の統治下にある。近年は暴力事件が頻繁に起きている。

中国政府は、新疆ウイグル自治区などでの暴動について、海外の組織とつながりを持ち、分離主義を掲げるイスラム教徒のテロリストによるものだと断定。人権団体は、暴動の背景には当局による文化的、宗教的な抑圧があるとしている。【5月1日 AFP】
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****中国、新疆で「テロ集団」181人を拘束=新華社****
新華社は25日、中国当局が西部の新疆ウイグル自治区で「テロ集団」181人を拘束したと報じた。

新華社によると、昨年5月、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの市場で爆発が起き39人が死亡した事件をきっかけに、中国当局は同地域で過激派の掃討を進めている。

同自治区ではイスラム教徒のウイグル族が独立運動を続けているが、政府はこうした運動を「過激派」によるものとして締め付けを強めている。

ウイグルからの亡命者や人権擁護団体などは、中国政府による抑圧的な政策が同地域の治安を悪化させていると批判しているが、中国政府は否定している。【5月25日 ロイター】
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(なお、【5月25日 毎日】では、人民日報海外版情報として“181の「テロ組織」”となっています)

忍び込む暴力による過激な考え
中国当局による厳しい抑圧政策、過激な鎮圧行動の結果、イスラム過激派の影響が強まっているという側面もあります。

そうした過激派的な一般市民を巻き込む事件を受けて、当局のウイグル族への対応はますます「テロ」を前提としたものに傾斜していく・・・という悪循環もあります。

****いま、中国・ウイグル自治区で****
隅俊之 外信部(前上海支局)

◇後戻りできぬ事態を憂慮
昨夏、中国新疆ウイグル自治区のある村を訪ねた。イスラム教徒のウイグル族によるとされる「テロ事件」の容疑者の家族を取材するためだった。

家の門をたたくと、年老いた父親とみられる男性が姿を見せ、記者だと名乗ると「よく来た」と招き入れてくれた。だが、すぐに表情は一変し、黙り込んだ。離れたところで地元当局者2人が見ているのに気づいたからだった。私は30分ほどの厳しい尋問を受け、村を離れるしかなかった。

2013年10月、ウイグル族が乗ったとみられる車が北京の天安門近くに突入し、40人以上が死傷する事件が起きた。これ以降、新疆ウイグル自治区や雲南省で爆発物などを使った無差別殺傷事件が相次いだ。

ウイグル族が関わったとされる事件はこれまで、警察署などの政府系機関を襲うケースが多かった。だが、最近は無差別に市民を巻き込む傾向が強くなっている。

◇過激な思想、徐々に浸透
中国当局は一連の事件を「組織的なテロ」と断定し、新疆ウイグル自治区の分離・独立を主張する組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の関与や指示があると強調。

昨年5月から自治区を中心にテロ撲滅作戦を展開し、取り締まりをさらに強化してきた。昨年5月末には約7000人の民衆を集め、テロに加担したとされる55人に対する見せしめの「公開裁判」まで開いている。

これまで、私を含む「西側メディア」は、中国当局の言う「テロ」という言葉に懐疑的だった。新疆ウイグル自治区で起きる問題には、ウイグル族への抑圧に対する抵抗運動の側面があり、今もその要素が多分にあるからだ。

中国当局の発表を検証するために容疑者などの周辺取材を試みても、取材を制限して裏付けさえ取らせないことも疑問に拍車をかけている。

ただ、一般市民を無差別に巻き込み暴力に訴える行為は明らかにテロであり、人権や民主的な制度を求める抵抗運動の延長とは言えなくなってくる。

中国政府はテロ撲滅作戦を始めて以降、容疑者らがETIMなどのテロ組織による聖戦を呼びかける動画を見て、事件を計画したと主張してきた。(中略)

国際テロ組織に詳しい外交筋は「監視が厳しい中国国内ほど(テロ組織の)活動が難しい地域はない」として、組織的なテロだとする中国当局の主張には懐疑的だ。

ただ、ガソリンなどを入手すれば爆発物も簡単に作れるため、「動画などで感化された一匹オオカミ型のテロが起きていることは否めない」と指摘する。

私も、組織的で直接的な関与はないにせよ、暴力による過激な考えが新疆ウイグル自治区の中に忍び込み始めていると感じる。

◇宗教・経済的差別、置き去りを懸念
だが、新疆ウイグル自治区の問題は、もともとは中国政府によるウイグル族への抑圧が根本にある。

今、自治区では女性がスカーフで頭部や顔を覆うことが禁止されたり、イスラム教徒にとって大切なラマダン(断食月)の禁止が一部では伝えられたりするなど、尊重されるべき宗教的な習慣までが否定されるケースが目立つ。

敬虔(けいけん)なイスラム教徒が多い自治区南部で出会ったウイグル族の男性は「道ばたで多数で話しているだけで解散するよう要求され、抵抗すれば射殺される」と訴えていた。

テロ撲滅の大合唱の中で、「ウイグル族はテロリストだ」などという間違った考えが広まり、宗教・経済的な差別という本来の問題が忘れ去られていく。

私はそのことを強く懸念している。これまでに出会った多くのウイグル族の人々が、こう言っていたことが忘れられない。「どこかに逃れたい。だが、パスポートもなく、行く場所もない」

自治区の将来について、私は悲観的だ。中国政府は現在の少数民族政策を見直すべきだと思うが、市民が無差別に巻き込まれるようなテロがまた起きれば、中国政府の姿勢が変わることは望めない。

一方で、現地を取材すると、中国政府に対するウイグル族の反発は強まっていると感じることが多く、暴力に訴える過激な思想がさらに浸透する恐れがある。

そうなってしまえば、来た道を戻ることさえできなくなる。この問題はいま、大きな岐路にさしかかっているのではないかと思う。【5月8日 毎日】
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【「最前線の歩兵」としての漢民族移住を奨励
中国当局は厳しいウイグル族への対応と同時に、戸籍制度や産児制限などを通じて、この地域の漢化政策を推進しています。

****ウイグル自治区にもっと漢民族を、中国戸籍制度改革の裏の意図****
新疆ウイグル自治区南部ホータンのホテルに受付係として就職したばかりの20代の漢民族女性、ファン・リーファさんは、イスラム教徒が多数派を占める自治区の人口動態を左右する「最前線の歩兵」だ。中国政府は今、同自治区への漢民族移住を積極的に奨励している。

中国最西端にある資源豊かな新疆ウイグル自治区には、1000万人を超えるウイグル人が暮らす。イスラム教を信仰するトルコ系少数民族のウイグル人は、文化的には、漢民族が多数を占める中国よりも中央アジア諸国とつながりが深い。

自治区内では近年、散発的な暴力事件が激しさを増しており、自治区外にも拡大しつつある。中国当局は一連の事件について、中国からの分離独立を主張するイスラム過激派の犯行だと非難している。

新疆ウイグル自治区では、相次ぐ漢民族の大量流入により、1949年に6%だった漢民族の比率が、11年には38%にまで増加した。そして中国政府は現在、国内で最も進歩的な戸籍制度の導入によって、新たな漢民族流入の波を引き起こそうとしている。

ファンさんも、半年前に中国政府が発表したこの戸籍制度改革を使用した1人。建築作業員の夫とともに古都・西安から電車で3時間揺られ、タクラマカン砂漠に接するオアシス都市ホータンに移住してきた。

■戸籍制度改革の裏の意図
中国では、都市部への移住が厳格に制限されている。農村と都市の戸籍は区別され、都市戸籍を取得しなければ教育や医療、社会保障などの公共サービスが得られないが、移住者が都市戸籍を取得するのは難しく、数年を要する。

大都市になると、上級学位や専門技術を有していることや、国営企業か当局にコネがある企業の社員であることなどが戸籍取得の条件とされている。

だが、戸籍制度改革により、新疆ウイグル自治区南部では教育や技能が戸籍取得の要件でなくなった。
戸籍制度改革そのものは中国全土が対象で、中国経済のさらなる発展のカギとなる新型都市計画の一環として推進されているものだ。

しかし、その改革の中でも最も自由化された制度がウイグル人の多い新疆ウイグル自治区を選んで導入されたという事実は、特筆すべき点だ。

「この戸籍制度改革の実態は、自治区南部への漢民族移住を奨励するものだ」と、中国の少数民族問題に詳しい豪ラトローブ大学のジェームズ・リーボールド氏は指摘する。

「その裏には、民族融合を推し進め、願わくは漢民族をもっと流入させることで、自治区南部の質と文明を向上させたいという意図がある」

戸籍制度改革と同時に、中国政府は少数民族の人口増加に歯止めを掛ける政策も実施している。中国のいわゆる一人っ子政策は少数民族には適用されないが、ホータンでは「産む子どもの数を減らして手っ取り早く金持ちになる」ことがプロパガンダで奨励され、第3子を持たないと決めた夫婦には3000元(約5万9000円)が支給される。

■漢民族のための治安維持
新疆ウイグル自治区では、漢民族とウイグル人はほぼ別々の地域に暮らしている。ウイグル人が大半を占める市場では、移住してくる人々の増加による物価上昇を批判する声が聞かれた。

「政府の資金は潤沢だが、われわれに割り当てられている助成金は役人が横取りしてしまう。でも、どうすることもできない。ウイグル人には発言権も、権力もない」

AFPはホータンに住む漢民族24人を取材したが、ウイグル語を話す人はほとんどいなかった。

「政策によってホータンなどの地方都市に漢民族を移住させることはできても、彼らが融合するとは限らない」とリーボールド氏は言う。

「彼ら(漢民族)は民族別に住み分けされたコミュニティーで、人民解放軍に守られて暮らす。真に団結した社会をつくるためには、何よりもまず信頼が必要だ。そして、異なる民族間での信頼は、圧倒的に不足している」

人口30万人以上のホータンの市街地は、夜にはゴーストタウンと化す。漢民族は日没後は外出したがらず、市中央の広場で開かれるダンスイベントは武装警察によって警備されている。

随所に警察官の姿が目に付く中、ウイグル人の多くも夜間の外出を控える。身分証のチェックや職務質問などでハラスメントを受けるからだ。

「警察、検問所、銃。全て、漢民族を安心させるためのものだ」と、匿名で取材に応じたウイグル人男性は語った。【5月25日 AFP】
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記事に“古都・西安から電車で3時間揺られ”とあるのは“3日間”の間違いではないでしょうか。(9月に西安旅行を予定していますが、「エッ!ホータンは西安から3時間で行けるの?それなら・・・」と思わず調べてしまいました。)

鉄道はトルファン、カシュガルを経由して大きく回り込む路線が2011年にようやく開通して中国中央部とつながりましたが、西安からは数日かかります。車だと約3600km、54時間とされています。

それだけ、漢族にとっては“異郷の地”であるとも言えます。玉門関・陽関の遥か西方、「西の方陽関を出づれば故人無からん」「古来征戦幾人か回る」と詠まれた地域です。

厳しい当局の抑圧、浸食するように増加する漢族、民族間の不信感、過激思想の流入・・・・“自治区の将来について、私は悲観的だ”【前出 毎日】というのが正直なところです。

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1 コメント

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『イスラム風俗の禁止の手本は西ヨーロッパ』 (ローレライ)
2015-05-27 12:26:28
『イスラム風俗の禁止』はフランス、ベルギーなど西ヨーロッパが『先輩』だが『反面教師』である。
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