孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  EU離脱を問う国民投票に向けて動き始めた情勢

2015-05-29 23:12:25 | 欧州情勢

(イギリス上院で施政方針を読み上げるエリザベス女王 この中で、「政府はEUの関係について再交渉し、全ての加盟国が恩恵を受けられるようEUの改革を追求する」とし、「同時にEU離脱に関する国民投票を2017年末までに実施するための法案をできるだけ早期に提出する」と述べています。【5月27日 ロイター】

本人の意思とは関係なく、政府の用意した施政方針を発表する立場の女王も、ときには「どうして私がこんなことを言わなきゃいけないの!」と思うこともあるのでは)

どちらも起こりうるイギリスのEU離脱(Brexit)とスコットランドのイギリス離脱(Scexit?)】
5月7日に行われたイギリス総選挙は、大方の予想を裏切って、キャメロン首相率いる保守党が単独過半数を制する勝利を収めました。

一方で、スコットランド独立運動を牽引してきたスコットランド民族党(SNP)がスコットランドに割り当てられた議席をほぼ独占する驚異的な躍進を実現しました。

反EU路線を掲げる民族主義的な傾向が強いイギリス独立党(UKIP)は、小選挙区制のもとで獲得議席は1議席にとどまりましたが、得票率は全国で13%に達しています。

保守党の勝利、キャメロン首相の続投は、首相が公約していているEU離脱を問う国民投票が現実の政治課題となることを意味し、その動向は住民投票によって決着したかに思われたスコットランド独立の動きを再燃させかねないものがあります。

****総選挙後の英国、いよいよ脆くなった連合 予想を裏切り、保守党単独政権が誕生****
保守党の選挙戦略のツケ
イングランドが保守党に投票した理由はたくさんある。特に大きな理由は、労働党のエド・ミリバンド党首が描いた社会主義の国家像だろう。

だが、保守党のストラテジストらは、英国独立党(UKIP)を無力化し、投票先をまだ決めていない人たちの間で労働党政権はスコットランドに「身売りする」という不安を煽るために、臆面もなくイングランドのナショナリズムの名残を呼び覚ました。

ひとたび解き放たれると、そのような勢力を抑えるのは難しい。欧州大陸各地でのポピュリスト的なアイデンティティー政治の復活を見ればいい。

とうの昔に英国は欧州連合(EU)から脱退しなければならないと決めたイングランドの保守党議員は、スコットランドとの連合に大きな愛着を抱いていない。彼らは選挙でのUKIPの成績に勇気づけられ、その狭いナショナリズムを増すことだろう。

UKIPはウエストミンスターで1議席しか獲得しなかったが、英国全体で得票率が13%に達したことは、保守党を右寄りに引っ張り続けることになる。

分権の地雷原を通り抜け、スコットランドの自治への願望と、英国全土における権限と資源の公正な分配に対するイングランドの関心の折り合いがつく場所へ至る道筋はあるかもしれない。

その場所は恐らく、伝統的な連邦主義と、過去数世紀にわたり英国を統治してきた雑多な取り決めの間のどこかにある。整然さや絶対的な平等は誰も期待すべきではない。

ただし、キャメロン氏は2つの交渉に携わることになる。1つは、手ごわいSNP前党首、アレックス・サモンド氏が率いるウエストミンスターの民族主義ブロックとの交渉だ。

そして、もう1つは、スコットランドに対するいかなる譲歩にもイングランド自治に向けた同等の対策を講じることを要求する保守党の一般議員との交渉だ。この道の先には連合の解体がある。(後略)【5月9/10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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イギリスのEU離脱(Brexit)とスコットランドのイギリス離脱(Scexit?)は、どちらも起こり得るとも見られています。

イングランドとスコットランドの関係は、“イギリス”という国家イメージしかない部外者にはよく理解できないものがあります。

「アウトランダー」というアメリカで人気のTVドラマがあります。
“1945年、第2次大戦の従軍看護師の既婚女性が1743年に謎のタイプスリップを遂げる。そこではイングランド軍とスコットランドの戦士たちが戦いを繰り広げていた・・・”という内容のドラマですが、こうしたドラマを観ていると「なるほど、やはりふたつは別の国なんだね・・・」という感もあります。

キャメロン首相は選挙後も「再度の住民投票はない」と明言しつつ、SNPのスタージョン党首との会談で、徴税権や支出でスコットランド自治政府への一層の権限移譲を行う用意があるとも表明してスコットラン住民の理解を求め、連合の統一を維持・強化していく姿勢ですが、スコットランドでは、イギリスがEUから離脱する場合、新たな展開だとして独立を問う住民投票を再び実施すべきだとの声が高まっています。

社会保障の給付制限と失業者の国外退去強制で移民流入を抑制
で、問題のEU離脱あるいは残留を問う国民投票です。

“2017年末までに”とされている実施時期については、政権基盤が安定しているうちにEUとの交渉を進め、前倒しして国民投票を行おう・・・という動きがあるようです。

****EU離脱めぐる国民投票、早期実施も キャメロン英首相意向****
キャメロン英首相が欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票に関し、EUとの交渉がまとまり次第、早期に実施する意向であることが明らかになった。首相報道官が12日、ロイター通信に語った。

2017年末までに国民投票の実施を約束していた首相は、7日の総選挙で18年ぶりの保守党単独政権を発足させて勢いに乗っており、政権基盤が安定しているうちにEUとの交渉を進めたい思惑があるとみられる。

報道官は「(首相は)国民投票をできるなら早期に実施したいと考えている」と語った。首相としては、改革後のEUに残留することを望んでいるが、離脱しても落胆はせず、「EUの基本条約が変わることを望んでいる」と強調した。(後略)【5月14日 産経】
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また、国民投票によるEU離脱の不安・不透明感を早く解消したい産業界も、早期実施を求めていいます。

****英製造業団体、EU離脱問う国民投票の前倒しを政府に求める****
英製造業団体のEEF(旧称:エンジニアリング事業者連盟)は、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を早期に実施するよう政府に求めた。長期の不透明感を回避するためとしている。(中略)

EEFのチーフ・エグゼクティブ、テリー・スコーラー氏によると、英製造業者の85%は主要輸出相手であるEUに英国が残留することを支持している。【5月26日 ロイター】
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キャメロン首相も個人的にはEU残留希望ですが、強まる反EU感情、イギリス独立党の台頭に刺激された党内右派への対策から、EUとの制度改正交渉を行ったうえで、その成果を国民投票に問う・・・という流れになっています。

最大の課題は移民流入の制限です。

****英首相 EU移民への社会保障の制限強調****
イギリスのキャメロン首相は21日、今月の総選挙で争点となったEUの国々から流入する移民の問題について、移民に給付する社会保障を制限することで流入に歯止めをかけられるよう、EU側と交渉する姿勢を改めて強調しました。

イギリスでは、急増する移民への対応が今月行われた総選挙でも争点となり、特にEU=ヨーロッパ連合の国々からの移民は、「移動の自由」が原則なため抑制できず、去年は過去最も多い26万人余りに上ったことが21日、明らかになりました。

この問題について、EUと交渉すると公約し選挙で勝利したキャメロン首相は「移動の自由の原則の下で、社会保障制度が図らずも移民を増やす要因になっている」と述べ、移民に対し失業手当や子育て支援など、社会保障の給付を制限することが必要だという認識を示しました。

そのうえでキャメロン首相は「移民を抑えるため社会保障を見直すことは、私がEUと行う交渉では欠かせない要件だ」と述べ、公約の実現に向けてEUや加盟国と交渉に臨む姿勢を改めて強調しました。

移民問題などへの国民の懸念を踏まえ、キャメロン首相は2017年末までに、イギリスのEU離脱の賛否を国民投票で問う方針で、EUとの交渉で十分な成果を得られるかが世論の動向を左右するカギとなっています。【5月22日 NHK】
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上記の社会保障給付制限のほか、半年以上職を得られないEU移民を強制的に国外退去できるようにすることも、イギリスは求めていくようです。

厳しい反応が予想されるなかで、対EU交渉スタート
キャメロン英首相は欧州5カ国を訪れ、近く公表するイギリスのEU改革案への支持を求めています。

****<英首相>欧州諸国を歴訪 EU改革案への同意取り付け図る*****
キャメロン英首相が、欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の実施を前に、英国のEU改革案への同意を取り付けるため欧州諸国を歴訪している。

28日に同志とみなすオランダのルッテ首相を訪ね、パリではオランド仏大統領と会談。29日はEUの盟主的立場のメルケル独首相らと会った。

英国側は「今のままでは国民投票に勝てない」と、EUの憲法にあたる「基本条約」の改正を要求するが、仏政府が批判するなど、EUの根本原則を巡り鋭く対立している。

英政府は2017年末までに実施する国民投票について「英国はEUの加盟国にとどまるべきか」との質問を確定。YES=残留、NO=離脱の明確な選択肢を用意する。

キャメロン首相はEUの現状についてパリで「現状維持は十分ではない」と主張。英国のEU改革案に他の加盟国が「柔軟」に対応するよう要求した。オランド大統領は「英国のEU残留が双方の利益になる」と訴えた。

キャメロン首相は6月25日に開くEU首脳会議で改革案の詳細を示す見通しだが、英メディアによると、EUからの移民の福祉制度の利用制限のほか、半年たてば英政府が追放できる権利を持つ改革を求めているという。

ハモンド英外相も28日、基本条約の改正を主張。「他の加盟国が改革に協力しなければ、何らの選択肢も排除しない」と離脱を示唆して他の加盟国に迫った。ファビウス仏外相は英国の動きを「非常に危険だ」と批判した。

一方、オランダのルッテ首相は、キャメロン首相とEU加盟国の力を強める改革の必要性で一致。ただ、現行基本条約の枠内での改革を主張している。

キャメロン首相は29日、EUからの移民の最大グループであるポーランドのコパチ首相とも会談。移民制限を巡りポーランドとは激しい議論となった可能性がある。【5月29日 毎日】
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キャメロン首相が求めるような答えがEU側から得られるかどうかについては、厳しい見方がなされています。

“ただ、条約の変更にはEU加盟全28カ国の賛同と、各国議会での批准が必要だ。国によっては国民投票が必要な場合もある。フランスなどはEU懐疑派の伸長を恐れ、EUの制度改革に消極的との見方もある。”【5月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

“ただ、EUとの交渉は難航が予想される。社会保障の給付制限などには移民を送り出す側の東欧諸国が反発しており、西欧諸国も「まずは提案を持ってくるべきだ」(オランド大統領)と英国の特別扱いに慎重な姿勢だ。”【5月23日 毎日】

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ただ、英議会の中にはキャメロン首相が具体的に何を変えようとしているのか分からないとの声も上がっている。

首相はEUの公式な目的である「かつてない強固な連合」から英国を切り離し、英国の福祉を目当てにしたEUからの移民を規制したいとしているが、そのことはEUの基本条約の見直しを意味する。フランスなどが反対することは必至だ。

ロイターが入手した仏独作成の文書によると、両国は現存する条約を維持した上で、ユーロ圏19カ国の協力関係を強化するための計画に同意している。計画にはユーロ圏首脳会議の開催回数を増やすことや、ユーロ圏財務相会合の役割を強化することが含まれている。

英国はユーロ圏に加盟していないが、キャメロン首相にとっては政治的な挫折となり得る。【5月27日 ロイター】
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各国議会での批准ですら容易ではないでしょうし、ましてや、イギリスのために国民投票までして条約改正を行う・・・あまり考えられない道筋です。

EUとの交渉を行った結果、望んでいたものが得られなかった・・・・となると、イギリス国内の反EU感情が更に高まりそうな感もあります。

“調査会社YouGovが2月に実施した世論調査によれば、EU残留の支持率は45%と離脱支持(35%)を上回り、足元で上昇傾向にある。昨今の景気回復が残留支持率上昇に貢献している模様だ。また、もし何らかの権限回復に英国が成功した場合は、残留を支持するだろうとの回答が57%となっている。

しかし、国民投票が実施される時点での経済環境は分からないうえ、世論はテレビ討論ひとつで変わり得る。さらに、事前の調査結果が必ずしも正しい訳ではないことは、今回の総選挙が証明したことでもあろう。”【5月11日 東洋経済online】

スコットランド独立を問う住民投票でも、当初は大差で独立は否定されるとキャメロン首相は考えていましたが、投票日が近づくにつれ状況は一変しました。

非常に不透明な雲の中に突っ込むような国民投票ですが、国民投票の設問などを定める関連法案も28日、イギリス下院に提案されました。
イギリス中央銀行も、イギリスがEUを離脱した場合の経済的な影響調査を開始したと報じられています。

すでに事態は動き始めています。
コメント (1)
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