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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  「ヌスラ戦線」を中核とする反体制派の巻き返し アサド政権を支えてきたイランの今後

2015-05-13 22:29:05 | 中東情勢

(ダマスカス 逃げ惑う子供たち “flickr”より By Jordi Bernabeu Farrús https://www.flickr.com/photos/jordibernabeu/17490069302/in/photolist-sbeGHD-rBmXRx-swFAiq-sAVErg-rb7YK5-rRQuod-sy9VCF-sgAJ2Q-sdkX86-rxZqNk-suNvVi-suLxZP-sdQsH5-s95dBA-ryBomV-rRQBzC-s9gsn5-rRPcws-rRQCs9-sDxbg1-rRPbU5-scHPLS-sqQXhv-s9gw5q-rRXCMn-rRQDiY-rRPn6s-rcpD41-s9pDx8-s9mwcZ-rcpBa1-rcBe6g-rQ5EtK-rRQvCh-rRPgYU-rQ5BN4-rQ5Bhe-rRQsV3-rRQsff-rQ5z7c-s9ptM6-s9mms8-s2PoTz-s2PsNP-rN8XQ5-sdm5NB-suNwB8-sdQsSy-sdQsMJ-rUi3uz)

アサド政権側に危機感
シリア情勢については、3月15日ブログ“シリア内戦、5年目に IS台頭で浮上するアサド政権容認を前提とした「安定」の模索”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150315)で、イスラム過激派ISの活動が続く中で、アサド政権は権力基盤を強化し、国際社会で「アサド政権との協力は不可欠」との考えが目立ってきていることを取り上げました。

また、4月15日ブログ“混迷の度を深めるイラク・シリア情勢 アルカイダ系「ヌスラ戦線」の台頭など”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150415)では、アルカイダ系イスラム過激派「ヌスラ戦線」が反アサド勢力を取りまとめる形で、アサド政権支配地域を攻略し始めたことを取り上げました。


たまたまですが、ほぼ1か月おきにシリア情勢を取り上げているような形になっていますが、今日の話は前回ブログの続きみたいな話になります。

これまではISの存在によって、反体制派とISが争い、国際社会の関心もISに移るなかで、アサド政権は漁夫の利を得るような形で、戦局的にも、国際的にも存在感を強めてきました。

しかし、アルカイダ系「ヌスラ戦線」を中心とした反アサド勢力の糾合によって、アサド政権は苦しい立場に、一方、今度はISが漁夫の利を得るような立場に立ってきている・・・とのことです。

****<シリア>反体制派が巻き返し ISに「漁夫の利」も****
内戦が続くシリアで、反体制派が国際テロ組織アルカイダ系「ヌスラ戦線」と連携し、北西部イドリブ県や南部ダルアー県でアサド政権への攻勢を強めている。

政権優位の戦況を覆したいサウジアラビアやトルコが、反体制派のてこ入れを図ったとの見方が強い。一方、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)にとっては、「漁夫の利」を得やすい状況になっている。

「戦争には勝利もあれば敗北もある。必要な時は撤退することもある」。シリアのアサド大統領は今月6日、内戦で死亡した政府軍兵士の遺族らと面会し、こう述べた。イドリブ県ジスルシュグルの病院で反体制派勢力の攻撃を受けている部隊にも言及し、「間もなく援軍が着くはずだ」とも述べた。

アサド大統領が個別の戦況に言及するのは異例だ。海外メディアで政府軍の劣勢が伝えられていることを念頭に、「(現況に)不満を持つことは敗北の始まりになる。精神的な敗北は命取りになる」と支持者を鼓舞した。

政権側が危機感を抱く背景には、3月以降の反体制派の躍進がある。イドリブ県では、欧米と距離を置くイスラム主義勢力主体の「ファトフ(征服)軍」が3月に結成され、県都イドリブを政権側から奪取。ヌスラ戦線や、親欧米の反体制派武装組織「自由シリア軍」なども協力し、大統領一族の出身地ラタキア県への進攻を図る。

ダルアー県でも4月、親米反体制派勢力を結集した「南部戦線」やヌスラ戦線がヨルダン国境のナシブ検問所を制圧した。同検問所は政権側が保持するヨルダンとの唯一の主要ルートだっただけに大きな戦果となった。

これまで反体制派は組織が乱立し、統一した指揮系統がないため、ISや政権側に対して劣勢だった。ファトフ軍や南部戦線は、有力組織が結束すれば政権側に対抗できることを実証した。

反体制派の糾合を後押ししたとみられるのが、サウジとトルコだ。両国は反体制派の主要支援国だが、サウジは世俗派、トルコはイスラム勢力と近く、支援国の違いが反体制派内の派閥争いを生む一因となってきた。

1月に即位したサウジのサルマン国王は、アサド政権を支援するイスラム教シーア派国家イランや、既存の支配体制を否定するISとの対決を念頭に、穏健なスンニ派が主流の中東諸国との連携を重視している模様。3月にはトルコのエルドアン大統領と会談するなど、連携強化を図っているとみられる。

一方、シリアの西側でアサド政権と反体制派の攻防が激化しているのに乗じて、東側を支配するISは勢力拡大を狙っている。4月に首都ダマスカス近郊のヤルムーク地区の一部を制圧し、政権中枢近くで軍事作戦を展開する力を見せた。ヨルダン国境の南部スウェイダ県でも攻勢に出ている。

エジプトのシンクタンク・アハラム政治戦略研究所のヨスリ・エズバウィ氏は「サウジの新体制は、親イラン勢力との対決を優先課題に据えている。トルコと連携したシリア反体制派への支援強化もその一環だ」と指摘している。【5月10日 毎日】
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アサド大統領も言及したシリア北西部ジスルシュグルでは、政府軍部隊と「ヌスラ戦線」を中心とした反体制派武装勢力の間で激しい戦闘が行われたようです。

****北西部交戦で72人死亡=シリア****
シリア北西部ジスルシュグルで10~11日、政府軍部隊と反体制派武装勢力が衝突し、双方合わせて少なくとも72人が死亡した。AFP通信が在英のシリア人権監視団の情報として伝えた。

ジスルシュグルは2週間ほど前に国際テロ組織アルカイダ系の反体制派「ヌスラ戦線」などが制圧した。ただ、一部区画にアサド政権支持派が取り残されており、政府軍が救出を図ったところ、反体制派側と激しい交戦になったという。【5月11日 時事】 
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政府軍は“救出作戦”ということで、“奪還作戦”ではないようです。

イランにとってアサド大統領は“お荷物”?】
穏健派・世俗派をサウジアラビアが、イスラム勢力・過激派をトルコが支援するのに対し、アサド政権を支援するのがイランで、一時劣勢にあったアサド政権が、イランと、やはりイランに後押しされるヒズボラの支援で選挙区を有利に立て直してきたのは周知のところです。

そのアサド政権とイラン・ヒズボラの関係がどうなっているのか・・・については、あまり言及したものがありませんでしたが、下記記事はその点に触れて興味深いものになっています。

****シリアの命運を左右する アサド政権の団結力とイランの支援****
4月4日 -10日号の英エコノミスト誌は、イランの支援にもかかわらず、シリアのアサド政権は弱体化しつつある、と報じています。

すなわち、3月28日、シリアでは、長い攻防の末、反政府勢力が北部の都市、イドリブを制圧した。内戦になって4年、反政府側が手中にした2つ目の主要都市だ。1つ目のラッカは、「イスラム国」(IS)が獲得し、カリフ国の「首都」にしている。

反政府側が勢いづいていることは、アサド側の弱体化を示唆する。アサド、そしてイランとヒズボラは、西側の注意がISとの戦いに向けられているにも拘らず、今の支配領域を維持するのに苦労している。

政府軍は、ヒズボラのおかげで西部では地歩を固めつつあるが、支配領域の東側はISに侵食され、南部では、イランやヒズボラがダマスカス周辺の防衛に注力しているため、穏健反政府勢力が徐々に優勢になりつつある。

しかし、こうした反政府側の勝利が、米国による反政府派への支援強化につながることはなさそうだ。特に、アルカイダ系過激武装組織、ヌスラ戦線がいるイドリブへの支援はないだろう。

シリアの命運は、アサド政権の団結力とイランの支援に、ますます左右されることになりそうだ。
しかし、シリア兵はイランやヒズボラが検問所を設けて自分たちを統制することに苛立っている。また、シリア兵と反政府勢力は以前から気脈を通じており、弾薬の売買や、戦わない約束をしたりしている。

このように、アサドの立場は空洞化が進み、軍事的主導権はイランが握りつつある。こうした状況は交渉への道を開くかもしれない。

なぜなら、今に至っても、軍事的決着はつきそうにないからだ。何が何でも権力にしがみつきたいアサドと違い、イランはより現実的で、アサドをお荷物と見ている気配がある。

また、イラン核協議が上手くいけば、シリアでも事態は解決へと動き出すのではないかとの期待も一部にはある。ヒズボラのある司令官は、「いずれアサドはお払い箱だ。イランは適切な時機を待っているだけだろう」と言っている、と報じています。(後略)【5月13日 WEDGE】
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イランも、核開発問題での欧米との交渉、イエメンでのフーシ派支援など多忙で、いつまでもシリア・アサド政権の面倒をみている訳にもいかない・・・・というところもあるのかも。

自国の影響力確保にかかわるイランはまだしも、イランに動員されたレバノンのヒズボラは、本来の敵はイスラエルであり、シリアで多大な犠牲を払い続けることは組織的な問題を起こすことも考えられます。

反体制派勢力の軍事訓練を始めたアメリカも、アサド政権が崩壊して、結果、イスラム過激派「ヌスラ戦線」やISが実権を握るような形は望まないはずです。

現実問題としても、支援する反体制派がシリアで優勢を確保するのは困難、あるいは無理な情勢にあり、アサド政権を交渉相手とするほかないとも言えます。

****シリア情勢】米軍がシリア反体制派へ訓練開始、アサド政権を「容認」せざるを得ないジレンマ****
・・・・米政府は、イラクでは政府を支援して掃討作戦を展開しているが、シリアではアサド政権と敵対している。そのため、訓練によって強化される反体制派の掃討作戦を、空爆で支援する計画を立てている。

ただ、穏健派が短期間でイスラム国やアサド政権に対して優勢を確保するのは困難とみられている。

米軍の制服組トップであるデンプシー統合参謀本部議長は記者会見で、「シリア情勢がより複雑化する可能性がある」と予測し、政権側に和平交渉のテーブルに着くよう促した。

掃討作戦が「3年以内に完了するとは確約できない」(カーター氏)と見込まれる中、イスラム国打倒のため、当面はアサド政権を交渉当事者とみなし、自制を促すしかないのが実情だ。【5月10日 産経】
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もし、英エコノミスト誌が報じたように、イランがアサド大統領続投にこだわらない姿勢を見せれば、アメリカとイランの妥協、アサド抜きの政府側と反政府勢力の合意という形も現実味を増します。
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