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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  新憲法案を国民投票に 総選挙は先送り 進まない「国民和解」

2015-05-21 21:35:37 | 東南アジア

(19日、タイ・バンコクの最高裁に到着したインラック前首相 【5月19日 時事】)

軍政が長期化するとの見方が強まりつつある
プラユット暫定首相率いる軍政が続くタイでは、民政移管の一里塚と位置付けられる新憲法が論議されているものの、その内容は単独巨大政党の出現を阻止し、非議員の首相就任を可能にする、選挙によって選ばれない国会議員の割合を増やすなど、大衆に支持されたタクシン派の復活を阻止するために、一部の“権威”が政治を指導監督していくべきだという発に基づき、大幅に民主主義を制約したものになっています。

(4月28日ブログ「タイの新憲法草案 “権威”の指導監督によって、選挙による民主主義を制約する方向」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150428

プラユット暫定首相は19日、新憲法の正当性を明らかにすべく、新憲法案を国民投票にかける方針を表明しました。
ウィサヌ副首相は、国民投票を来年1月に行い、賛成多数となった場合は、「8月か9月」に新憲法の下で総選挙を行うとしています。

もし、新憲法案が否決された場合は、憲法制定作業が一からやり直しということで、民政移管は大幅にずれこむことにもなります。

****総選挙先送り、軍政長期化か=「国民和解」進まず―クーデターから1年・タイ****
2014年5月にタイで軍事クーデターが起きてから22日で1年となる。

軍事政権が敷いた強権的な体制下で大きな混乱はなく、比較的安定した治安が保たれる一方、民政移管に向けて16年に予定されている総選挙が17年以降に先送りされ、軍政が長期化するとの見方が強まりつつある。

プラユット暫定首相率いる軍政は今年4月、戒厳令を解除したが、軍政の治安権限を強化する内容の新たな命令を発令。5人以上の政治集会を引き続き禁止するなど、タクシン元首相派ら軍政に批判的な勢力の動きを徹底して抑え込んできた。

軍政は治安を回復させたことで国民の一定の支持を得ているが、プラユット氏がクーデター後に掲げた「国民和解」はほとんど進んでいない。

チュラロンコン大学政治学部のシリパン准教授は「問題を先送りしただけで、実際に対立を解消し、平和を取り戻したわけではない」と指摘する。

プラユット氏は来年総選挙を実施すると公言してきた。総選挙を行うには新憲法を制定する必要があるが、憲法起草委員会がまとめた新憲法草案に非議員の首相就任容認や、非民選議員中心の上院の権限強化などが盛り込まれたことに対し、タクシン派だけでなく反タクシン派からも批判が続出。憲法草案への賛否を問う国民投票が実施された場合、「否決される公算が大きい」(観測筋)との見方が強い。

憲法草案が否決されると憲法制定作業は振り出しに戻り、軍政が続くことになる。
憲法草案を審議する国家改革評議会(NRC)の一部有力メンバーから、改革実行のため軍政にさらに2年間の続投を求める声も出ている。

シリパン准教授は「来年総選挙がないのは間違いない」と予想する。【5月20日 時事】
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今後のスケジュールは“軍政は6月にも、国民投票の実施に必要な暫定憲法の改正案を暫定議会に提出する。暫定議会はその後、15日間以内に可否を採択する見込み。暫定議会は軍政が指名したメンバーで構成され、改正案が否決される可能性は低い。”【5月20日 毎日】とのことです。

新憲法案は、標的とされているタクシン派だけでなく、反タクシン派勢力などからも「政党の影響力を弱めようとしている」(反タクシン派組織「人民民主改革委員会(PDRC)」幹部)といった批判が強いものの、一方で、秩序と安定をとりもどした軍主導の暫定政府への国民の支持は高いとも言われています。

国民投票を行った場合の結果については、前出【時事】では“「否決される公算が大きい」(観測筋)との見方が強い”とのことですが、どうでしょうか?

内容は受け入れ難いものがある一方で、新憲法案が否決されれば民政移管の目途がはっきりしなくなる・・・ということで悩ましいところですが、新憲法によって選挙に基づく民主主義が大きく制約される枠組みが出来てしまうと、これを是正することは将来的にも難しくなります。

そういうことからすれば、新憲法案を否決して軍事政権にその意思をはっきりと伝えるのがやはり本筋ではないかと個人的には考えます。

【「バラマキ」政策の責任を問われるインラック前首相 経済状況次第では軍政自身も・・・
一方、タクシン元首相の妹、インラック前首相の初公判が19日に開かれました。

****インラック前首相、無罪主張=コメ融資制度めぐり初公判―タイ****
タイのインラック前政権時代に実施されたコメ担保融資制度をめぐり、職務怠慢の罪に問われたインラック前首相(47)の初公判が19日、最高裁で開かれた。

前首相は罪状認否で「私に対する全ての疑惑を否定する」と述べ、無罪を主張した。

コメ担保融資制度は、政府がコメ農家からコメを事実上買い取る仕組み。買い取り価格が市場価格を大きく上回ったことで、5000億バーツ(約1兆8000億円)を超える損失を出すなどの損害を国に与えたとされる。

出廷に先立ちインラック氏は、記者団に「私は無実だと確信している。公正な裁きを望む」と訴えた。
前首相の弁護士によると、インラック氏は保釈金3000万バーツ(約1億円)で保釈された。

裁判は2年程度かかる可能性があるという。【5月19日 時事】
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すでにインラック前首相は今年1月、コメ買い上げ問題で、軍政の影響下にある暫定議会に弾劾され、政治活動が5年間禁止されています。

今回裁判で有罪になれば、最長10年の実刑判決が出る可能性があります。
次回公判は7月21日が予定されています。

“裁判は2年程度かかる可能性がある”とのことですが、ここ1~2年で政治状況が変化するかどうかは、新憲法の国民投票なども絡んできます。

ただ、いずれにしてもタイ司法勢力は反タクシン派の牙城でもあり、その点ではインラック前首相には厳しいところです。

インラック前首相は“バラマキ政策”によって国に損失を与えたことが問われている訳ですが、現在のタイ経済は、政治の混乱とインラック前政権の景気刺激策の反動減から低迷が続き、雇用環境は悪化しています。

****タイGDP、1~3月3%成長 通年予想を下方修正 ****
タイの国家経済社会開発委員会(NESDB)が18日発表した2015年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は、前年同期比3%の伸びとなった。

景気が底を打ったのは確かだが、回復のペースは鈍い。輸出と消費がともに振るわず、NESDBは15年通年のGDP予想を前年比3~4%増に下方修正した。

14年1~3月期は国内の政情不安で経済活動が停滞していた。その反動で成長率が高くなった側面もあり「1~3月期の勢いは長続きしない」(英調査会社キャピタル・エコノミクス)といった慎重な見方もある。

輸出の伸びは1%にとどまった。農産物価格の下落や中国の景気減速が響いた。民間消費の伸び率は2.4%だった。年間予想の下方修正幅は0.5ポイント。NESDBは主な理由として輸出の下振れを挙げた。

タイ中央銀行は3月と4月に連続利下げに踏み切った。18日に記者会見したアーコムNESDB長官は「金融政策で景気を永遠に刺激できるわけではない。(輸出増へ)製造業の競争力を高める必要がある」と話した。【5月18日 日経】
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アーコムNESDB長官は「政策金利の引き下げが消費者の信頼回復につながっているものの、市民が金を使わなければ、経済は回復しない。また、政府が金を使わなければ民間部門は投資せず、消費者の信頼は失われる」【5月19日 バンコク週報】とも語っています。

要するに政府の出動を要請している訳で、景気が低迷し“国民の不満が高まれば、軍政はタクシン政権が批判を受けた「バラマキ」政策の再現に踏み切らざるを得なくなる事態も予想される”【5月19日 産経】という状況です。

金権体質が批判されているタクシン元首相の政治ですが、それまでの既得権益層から無視されてきた農民・貧困層に目を向けた政治を行ったという見方もできます。(そこに政治的支持基盤を求めて、資金をばら撒いた・・・とも言えますが)

****タイのクーデターから1年 和解遠く 軍政長期化も****
・・・タイの古都チェンマイ県の中心地から車で約1時間のサンカンペーン郡は、タクシン氏の故郷だ。元警察官僚で通信事業の成功により巨万の富を築いたタクシン氏は、2001年の総選挙で大勝。同郡など地方の貧しい農村が大票田となり、政権を支えてきた。

ある支持者男性は、「国から見向きもされなかった私たちに、タクシン氏は初めて手を差し伸べてくれた」と強調。タクシン政権が導入してきた医療政策で「病気になれば借金まみれになる恐怖からも解放された」と功績を評価した。

妹のインラック前首相が導入したコメ買い上げ制度がなくなり、「農業収入だけでは生活できなくなった」とも語る。以前は見つかった副業も失った。「軍政の下でタクシン氏の復権は絶望的だ。一部の富裕層しか守られない国に戻った」と落胆する。(後略)【5月19日 産経】
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経済状況次第では、インラック前首相を「バラマキ」政策で罪に問いながら、軍政自身も「バラマキ」政策を再現する・・・ということにもなりかねません。

【「国民和解」とは
なお、タイ政治・社会の最大の安定装置でもあるプミポン国王は長く入院生活が続いていましたが、5月10日、バンコクの病院を7か月ぶりに退院し、近年住まいとしてきた中部ホアヒンのクライカンウォン宮殿に戻っています。

しかし、高齢な国王の健康状態を考えると、国王に多くを期待することは難しい状況ですし、タイにとっても、国王頼みの政治社会体質を脱するときでしょう。

もっとも、そこに関しても既得権益層とタクシン元首相では差異があり、国王を頂点する既存秩序に挑戦した形のタクシン元首相に対して、既得権益層は王室軽視・不敬との批判を行っています。

タクシン元首相自身は国外での逃亡生活を余儀なくされていますが、それでも“タクシン派”勢力が存続し続けているということは、王室周辺・官界・司法・軍部・財界などの既得権益層に対して異議申し立てを行う勢力が存在するということであり、今後も存在し続けると思われます。

「国民和解」ということに関しては、意見・立場を異にする勢力が存在するということはやむを得ないことであり、「和解」というのはそれらが変にもたれ合うことではなく、選挙というルールのもとで、国民の多数から支持された方が政権を主導することを認め、いたずらに、あるいは不法に妨害行動などに走らないことを認めるということではないでしょうか。
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ロヒンギャ難民の海上漂流問題で一定の前進 抜本的な対策は望めないながらも、注目される29日の会合

2015-05-20 22:01:16 | 難民・移民

(タイ南部リペ島近くのアンダマン海で、密航船に乗って漂流するロヒンギャ族を尋問するタイ海軍当局者=タイ海軍提供(EPA=時事)【5月20日 時事】)

現在もおよそ4000人が海上で漂流
ロヒンギャ難民については、5月16日ブログ“漂流するロヒンギャ難民 アンダマン海で繰り広げられる「人間ピンポン」ゲーム”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150516)で取り上げたように、市民権を認めないミャンマーやバングラデシュから密航業者の手引きで海上に脱出したものの、タイ・マレーシア・インドネシアなど周辺国は受け入れを拒否して船を領海外に追い返すという、「人間ピンポン」とも形容される悲惨な状況にあります。

****ロヒンギャの人たち“4000人が漂流****
ミャンマーの少数民族のロヒンギャの人たちなどを乗せた船がインドネシアやマレーシアの沖合にたどり着いたものの受け入れを拒まれ行き場を失っている問題で、国連は、現在もおよそ4000人が海上で漂流しているとして早急な対応を求めています。

ミャンマーで抑圧されているイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの人たちなどを乗せた船は、今月、相次いでインドネシアやマレーシアの沖合にたどり着いたものの受け入れを拒まれ、多くが行き場を失って海上で漂流しています。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は、19日、ことしに入って、船でミャンマーなどから逃れようとしたロヒンギャなどの人たちはおよそ2万5000人に上り、このうち少なくとも300人が海への転落や飢えによって死亡したことを明らかにしました。

また、現在もおよそ4000人が行き場を失って海上で漂流し、なかには40日以上にわたって漂流している船もあるということです。

国連やIOM=国際移住機関などは共同声明を発表し、インドネシアやマレーシア、タイなどの周辺国に対して人間としての尊厳を守るため上陸を認めるよう求めました。(後略)【5月20日 NHK】
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当然ながら、船内は筆舌に尽くしがたい状況です。

“衛生状態は劣悪で、数百メートル離れた海上まで異臭が漂っていた”【5月18日 読売】

“ミャンマーを出てから3か月間、海上をさまよったという35歳のロヒンギャの男性は「人々はすし詰めで身動きは取れず、トイレにも行けなかった」と船の中の過酷な状況を説明しました。

そして、「食料がほとんどなくなり、一緒に乗っていたバングラデシュ人との間で争いになった。殴られ、海に突き落とされ、私の友人も亡くなった」と述べ、涙を流していました。”【5月20日 NHK】

上記の争いでは100人が死亡したとも。狭い船内で100人が死亡する争いというのは想像しがたい生き地獄です。

****インドネシア沖で沈没した難民船で水や食料をめぐる死闘、少なくとも100人死亡****
インドネシア沖で沈没した船の上で14日、ミャンマーで迫害を受けている少数民族ロヒンギャ人とバングラデシュ人の難民の間で水や食料をめぐる激しい戦闘が発生していた。

斧やナイフ、金属棒などで戦い、少なくとも100人が死亡した。生存者が明らかにした。両陣営ともに相手側が先に攻撃を仕掛けたと主張している。(後略)【5月20日 AFP】
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【「時間切れが迫っている」 高まる国際批判
迫害が続くミャンマーの状況にしても、周辺国の難民受入問題にしても、政治的には難しい問題ではありますが、まずは現在漂流している数千人の命をなんとか救うことが最優先課題です。

****漂流者の救命優先を=ロヒンギャ密航急増で警告―国際機関****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は19日、女性や子供を含む約2000人が密航船5隻に分乗し、ミャンマー・バングラデシュ沖合の洋上を40日以上も漂流しているとして、周辺の東南アジア諸国が早期救助に着手するよう呼び掛けた。

他の密航者を加えるとこの海域での漂流者は計4000人に上ると推定され、船内の水や食料の蓄えが欠乏する中、UNHCRは「時間切れが迫っている」と警告している。

アンダマン海やベンガル湾では、迫害や貧困から逃れようと密航を企てたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ族やバングラデシュ人を乗せた船が最近、相次いで発見されている。

周辺各国は水や食料などの支援物資を提供するが、大半は接岸を拒んで追い返している。
UNHCR報道官は「物資が少なくなると密航者の間で小競り合いが起き、死亡したり、船外に投げ出されたりする人もいるとの未確認情報がある」と述べ、劣悪な環境下で命懸けの航海が長期化することに懸念を示した。

UNHCRと国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国際移住機構(IOM)などは19日、インドネシア、マレーシア、タイ3カ国の指導者に対し、漂流を続ける密航者の安全な入国や救命活動、人間としての尊厳の尊重などを最優先するよう求める共同声明を発表した。【5月20日 時事】 
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この問題では、対応策を話し合うため29日にバンコクで関係国会合が開催される予定ですが、そこまで何もせずに待つことは許されない状況です。

インドネシアとマレーシアが一時収容施設を設置
そうした「時間切れが迫っている」状況、「人間ピンポン」ゲームへの高まる国際批判を受けて、タイ・マレーシア・インドネシアが当面の救済策を明らかにしています。

****漂流難民、一時収容所設置へ=ロヒンギャ族、追い返さず―3カ国が会合・マレーシア****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ族ら密航者多数を乗せた船が海上で漂流している問題をめぐり、マレーシア、タイ、インドネシア3カ国の外相は20日、マレーシアのプトラジャヤで会合を開き対応策を協議した。

共同声明によれば、当面の対策として、現在海上にいるとみられる約7000人の一時収容所をインドネシアとマレーシアが設置。1年以内に本国送還か本国以外への移住を進めることなどで合意した。

アンダマン海やベンガル湾を漂流する密航船に対し、周辺各国はこれまで水や食料などを提供するものの、大半は接岸を拒んでいた。

一時収容施設の設置で、従来の「追い返し政策」を転換することになる。
ただ、ミャンマー政府はロヒンギャ族を自国民とは認めておらず、送還を受け入れるかどうか不透明だ。【5月20日 時事】
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一時収容所をインドネシアとマレーシアが設置ということ、また、“協議に参加したタイのタナサック・パティマパコーン外相は共同会見には出席しなかった。”【5月20日 AFP】ということで、かねてより難民発生源となっているミャンマー政府の責任を強く主張しているタイと、ロヒンギャと同じイスラム教徒が多いインドネシア・マレーシアとでは、温度差があったのでしょうか。

もちろん今回対策は、“1年以内に本国送還か本国以外への移住を進める”という前提の一時的な対応ですが、とにもかくにも一定の前進でしょう。

ただ、1年後のどうなるのか・・・という問題は残りますが。
“本国以外への移住”ということでは、日本も無関係ではないのですが・・・・人道問題にせよ、経済問題にせよ、難民・移民を受け入れる寛容さは今の日本には望めません。

ミャンマーも“態度を軟化”】
最大の責任を有しているミャンマーはロヒンギャを自国民として認めておらず、国内に強い反ロヒンギャ感情がありますので、難民の流出を防ぐ、あるいは帰国を促す抜本的な解決策は現在のところ望めません。

そうしたなかにあって、さすがにミャンマー政府も国際批判への一定の配慮は示しています。

****海上難民に「人道支援の用意」=ミャンマー政府が表明****
ミャンマーから周辺国を目指すイスラム系少数民族ロヒンギャ族ら多数の密航者を乗せた船が漂流している問題で、ミャンマー外務省は20日、国営メディアを通じて声明を発表し、海上難民に「人道支援を提供する用意がある」と表明した。

ロヒンギャ族を自国民と認めていないミャンマー政府は当初、この問題への対応策を話し合うため29日にバンコクで開催される関係国会合をボイコットする可能性を示唆するなど、強硬姿勢を示していた。

しかし、ミャンマー政府に対する国際社会の反発が強まっているのを受け、態度を軟化させたとみられる。【5月20日 時事】 
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ミャンマーはこれまで29日の会合について、「(地域の国際犯罪としての)人身取引問題の協議であるなら出席する」が「“ロヒンギャ”がテーマなら参加はしない」という頑なな姿勢で、「根本的な原因は人身売買の増加だ」と、「賄賂により長年、人身売買を黙認してきた」(AP)とされるタイ政府を批判していました。

今回明らかにした「人道支援を提供する用意がある」というのが、どういう内容なのかは知りませんが、“態度を軟化させたとみられる”ということであれば、それも一定の前進でしょう。

【“内政不干渉”では済まされない問題
これまでASEAN加盟の東南アジア諸国は、他国の人道問題などに関して“内政不干渉”を原則とすることで“波風を立てずに”やってきましたが、ロヒンギャの問題は他国の政策のつけが自国にまわってくるという問題でもあります。

29日の関係国会議で、“ミャンマーがロヒンギャを自国民として認めて、今後の生活の安全を保障する・・・・”といったことはありえませんが、現状改善に資する何らかの対応がとられることを強く期待します。
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イラク  ラマディ敗退で、シーア派民兵投入へ戦略変更 混乱防止で問われるアバディ首相の指導力

2015-05-19 23:34:42 | 中東情勢

(攻略後のティクリートにおけるシーア派民兵 【4月6日 ロイター】)

イラク正規軍の力不足が再び露呈 戦略ミスの指摘も
モスル奪還を目指すイラク政府とイスラム過激派IS(イスラム国)の戦闘は一進一退の状況ですが、ここのところは、北部バイジにあるイラク最大級の製油所の大部分がISに占拠されたのに続き、西部アンバル県の県都ラマディのほぼ全域がISに制圧されるなど、IS側の攻勢、イラク政府側の後退が目だっています。

特に、スンニ派居住地域にある要衝ラマディの攻防ではアメリカからの要請もあって、ティクリート攻略で中心的な役割を果たしたものの、イランの影響力が強く、宗派間の問題を起こしやすいシーア派民兵を投入せず、イラク政府軍が作戦にあたっていましたが、ISに奪われるという結果を受けて戦略の見直しを求める声も上がっています。

****劣勢一転、ISが制圧 イラク州都ラマディ****
イラクで過激派組織「イスラム国」(IS)が勢いを増している。

イラク最大のアンバル州の州都ラマディを17日に制圧。今年に入って政府軍の攻勢を受けていたが一転、首都バグダッドや南部への侵攻も視野に入れる。政府は増援部隊を急きょ派遣したが、戦略ミスも指摘されている。

ISは昨年1月にアンバル州のファルージャを占拠。同年6月にはモスルやキルクークなど北部の広い範囲を制圧し、一時はバグダッドに迫った。

これに対し、政府軍はその後、米軍など連合軍の空爆による支援を受け形勢を盛り返し、今年3月には首都と北部をつなぐ要衝ティクリートをISから奪還。イラクでのISの最大拠点となっているモスルに迫る勢いを見せていた。さらに、同月にはISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が、空爆で重傷を負ったとの情報も出ていた。

そんななかISは4月に入って一転、ラマディへの集中攻撃を始めた。厳しい状況を打開しようと、政府側の態勢が手薄な地域を狙ったとみられる。今月15日にはラマディ中心部の州合同庁舎を占拠し、17日には軍の作戦本部やほかの政府庁舎を制圧した。

政府の治安部隊の一部は西側に撤退したものの、ISの戦闘部隊に包囲されているという。アンバル州知事はロイター通信に対し、ラマディでの戦闘で約500人が死亡したと話した。

 ■イラク軍、部隊派遣「ミス
政府にとって痛いのは、昨年6月にモスルが陥落した時と同様に、イラク正規軍の力不足を再びさらしたことだ。ラマディで防衛任務にあたっていた部隊の一部は、IS側が拡声機を使って投降を呼びかけると、武器を置いて逃走したと報じられている。

実は、今年3月にティクリートを奪還した際、イラク軍で主力を担ったのは正規軍ではなく、イスラム教シーア派の宗教指導者に忠誠を誓う民兵部隊だった。だが、その際にスンニ派が多数を占める住民から民兵らが略奪を繰り返したとして、宗派対立の新たな火種になっていた。

こうした経緯から、米国はスンニ派が多数を占めるアンバル州にシーア派民兵を派遣しないようイラク政府に要請していたとされる。

イラク国民議会(国会)のハキム・ザミリ防衛安全保障委員長は今月、地元テレビの取材に、「シーア派民兵部隊をアンバルに送らなかったのは、(イラクと米政府の)戦略ミスだ」と批判していた。

イラクのアバディ首相は17日、民兵部隊のアンバル州への派遣を急きょ決定。部隊の一部はすでに到着した。

ただ、ラマディ防衛に失敗したことで求心力の低下は避けられない。政府内には、米国よりもイランとの連携を優先するよう求める意見も出ている。【5月19日 朝日】
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ティクリート攻略ではシーア派民兵の略奪・報復も
イランの支援を受けるシーア派民兵が主力となったティクリートの攻防では、当初からシーア派民兵によるスンニ派住民への報復が懸念されていたにもかかわらず、略奪が横行するなどの混乱が起きました。

ティクリートはスンニ派主導の独裁体制をしいたフセイン元大統領の出身地でることもあって、フセイン政権下で虐げられたと感じるシーア派の復讐心が噴出したとも思われます。

****奪還後のティクリートで略奪横行、民兵や治安部隊員が関与か****
イラク政府軍がイスラム過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」から奪還した中部の都市ティクリートで、ISISの退却後に放火や略奪が相次いだことが分かった。同国の治安当局者がCNNに語った。

同当局者によると、ティクリートでは少なくとも20棟の住宅が放火され、50店以上の店舗が略奪されたり破壊、放火されたりした。略奪品を載せて走り去るトラックを、治安部隊は止めることができなかったという。

「ティクリートは手に負えない状態に陥った。ISISから奪還した後の計画が全く立っていなかった」と、同当局者は指摘する。

ティクリートは昨年6月以降ISISに占拠されていたが、イラク治安部隊が1日までに奪還した。作戦はイランの支援を受けるイスラム教シーア派民兵と共同で実施された。

ティクリートはスンニ派の住民が多数を占める。イラク治安当局の高官によると、略奪などの不法行為にはシーア派民兵や、治安部隊の一部隊員が関与しているとみられる。警察が捜査チームを設けてティクリートへ送り込み、情報収集に当たっているという。

アバディ首相は3日、ティクリートの治安要員らに不法行為への対応を求め、容疑者の拘束と市内の治安確保を命じた。

一方、シーア派民兵の報道担当者は同日、民兵らがティクリートの治安回復をイラク治安部隊に一任し、同市から引き揚げるとの見通しを示した。【4月5日 CNN】
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別報道では、略奪の状況は“少なくとも数百軒の商店や住宅に押し入り、衣類や日用品、家財道具を奪って建物に放火した。壁や窓にシーア派民兵組織の名称を落書きする例もあった”【4月6日 毎日】とも報じられています。


また、シーア派民兵はイラン・イラク戦争を戦ったイランの支援を受けていますが、「民兵たちはイランとの戦争を主導した元イラク軍将校の名簿を持ち、その家を狙っていた」といった話も出ているようです。【4月8日 朝日より】

フセイン後に主導権を握った多数派シーア派と、フセイン政権時代に優遇されたとされるスンニ派の確執をどのように治めて融和を実現していくか・・・というのは、イラクの抱える最大の問題です。

ISが急速に勢力を拡大したのは、極端なシーア派優遇に走ったとされるマリキ前政権下の両派の確執・混乱の間隙を突いたことによると見られています。

ティクリートのような混乱が再現されれば、シーア派・スンニ派の不信・確執が更に大きくなり、イラク再建を危うくするという判断から、アメリカはスンニ派が多数を占めるアンバル州にシーア派民兵を派遣しないようイラク政府に要請していたとされます。

****米大統領、イランの介入けん制=イラク首相「全軍を指揮下に」―「イスラム国」掃討****
オバマ米大統領は14日、ホワイトハウスで行ったイラクのアバディ首相との会談で、過激派組織「イスラム国」掃討を目的としたイラク国内でのイランの活動などをめぐり意見交換した。

大統領は会談後、「外国の支援は全てイラク政府を通じたものでなければならない」と述べ、イランの介入をけん制した。

イスラム教シーア派を国教とするイランは、イラクのシーア派民兵に軍事支援を提供したり、精鋭部隊をイラクに送り込んだりしているとされる。

大統領はこれを念頭に、外部の支援は「イラク政府の指揮命令系統」を通すべきだと指摘。同組織掃討の過程で激化する恐れもあるシーア派とスンニ派の対立を抑えるためにも、宗派的な報復行為に手を染めた勢力の責任をアバディ首相が直接追及できる体制を整えることが重要だと訴えた。

アバディ首相も「全ての戦闘員を軍司令官の指揮下に置きたい。介入や主権の侵害は、いかなるものであれ容認しない」と表明。さらにシーア派民兵らによる略奪などが伝えられていることを踏まえ「人権侵害は絶対に許さない」と強調した。【4月15日 時事】 
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問題はあるもののシーア派民兵の投入を決定
ただ、すでにこの時点で戦況は“イラク西部アンバル州の議会幹部は15日、イスラム過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が数時間以内に同市を完全に制圧する可能性があると述べ、中央政府や米軍に助けを求めた。”【4月15日 CNN】という状況でした。

結果的に、イラク政府軍ではどうにもならないということが明らかになり、アバディ首相も17日、シーア派民兵に対して援軍を要請するところとなっています。

****<イラク>ISがラマディ全域制圧 政府、シーア派援軍要請****
イスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)は17日、イラク西部アンバル県の県都ラマディで政府軍基地を制圧し、ラマディ全域をほぼ制圧した。中東の衛星テレビ局アルジャジーラが報じた。

イラク政府は劣勢挽回のため、親政府のイスラム教シーア派民兵をアンバル県に投入すると決めた。だが、アンバル県の多数派を占めるスンニ派住民にはシーア派民兵への嫌悪感が強く、政府側が住民の協力を得にくくなる恐れもある。

アルジャジーラによると、ISは17日、ラマディ西端にある軍基地に迫撃砲弾を撃ち込むなど攻勢を強め、政府側の特殊部隊を撤退させた。政府軍などはラマディ東郊で態勢の立て直しを図っている。

ISは今年3月ごろからラマディへの攻撃を本格化させ、今月15日には中心部の行政庁舎を制圧していた。
アンバル県は2003年のイラク戦争以降、駐留米軍やシーア派主導の中央政府への抵抗拠点となった。IS幹部にもアンバル県出身者が多いとされる。ラマディはバグダッド西方約100キロに位置する戦略上の要衝。

ISの攻勢を受けて、アバディ首相の報道官は17日、シーア派民兵に対して、援軍を要請したことを明らかにした。アバディ首相はこれまで、シーア派への敵対心が強い住民感情に配慮し、アンバル県での軍事作戦にシーア派民兵を関与させるのを避けていた。

しかし、政府軍と警察、スンニ派部族兵だけでは兵員を十分に確保できないことから、北部ティクリート奪還で主力を担ったシーア派民兵の投入を決めたとみられる。

ただ、スンニ派の部族には、シーア派民兵を「(シーア派国家)イランの手先」ととらえる見方が強い。IS掃討作戦には地元部族の協力が欠かせないが、シーア派民兵の投入がアバディ政権と地元部族との信頼醸成を阻む可能性もある。

アバディ政権は今年3月に北部ティクリートを奪還した後、ラマディなどアンバル県でのIS掃討を最優先に掲げていたが、補給路を確保できないなど苦戦している。【5月18日 毎日】
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当然ながら、スンニ派部族にはシーア派民兵への敵対心が強く、地元部族が政府側に協力しない展開も予想されます。

“シーア派民兵は2006〜07年の内戦期にもスンニ派に対して残虐行為を行った疑惑が多数ある。現地で宗派対立が激化すれば、スンニ派部族を自陣に取り込みたいISの思うつぼになる。”【5月19日 毎日】という問題もあります。

また、“シーア派民兵は、隣国のシーア派国家イランの強い影響下にあるとされる。イランと緊張関係にある米国が懸念を強める可能性もある”【同上】とも。

そうは言っても、シーア派民兵に頼らなければラマディ奪還は進まず、100キロしか離れていない首都バグダッドにISの手が伸びかねない・・・という状況では、背に腹は代えられずというところでしょう。

「全ての戦闘員を軍司令官の指揮下に置きたい。介入や主権の侵害は、いかなるものであれ容認しない」「人権侵害は絶対に許さない」というアバディ首相の指導力がどこまで発揮できるか注目されています。

ティクリートでシーア派民兵の略奪を止められず、ラマディでイラク正規軍の力不足が露呈し、再度シーア派民兵に頼ったあげく、また略奪・暴行・・・ということになると、アバディ首相の求心力低下は避けられません。

なお、スンニ派・シーア派の「宗派対立」については、“イラク、「宗派的に見える」ことが問題 - 酒井啓子 中東徒然日記”【5月19日 Newsweek】(http://www.newsweekjapan.jp/column/sakai/2015/05/post-927.php)において、下記のような指摘もあります。

“シーア派もスンナ派も、どちらも自分たちの行動を宗派主義的だとは決して思っていないからだ。それどころか、自分たちこそが「正しくイラク人として行動している」と考えている”

“ここにあるのは宗派の対立ではなく、ある特定の、政治的に優位にある宗派なり集団が、自分たちが当然でしょと考える考えは他の集団にとっても当然であるべきだ、と考えることの問題である。そして、政治的に劣位におかれた集団にとっては、優位におかれた集団がやることなすこと、それがいかに合理的であっても自分たちをないがしろにしている、と感じることだ。”

“いいかえれば、そう(宗派の対立に)見えてしまうことが問題なのであって、宗派が違うこと自体が問題ではないということだ。”

“ことの始めから、宗派は対立していたわけではない。だが、いったんすべての差異が宗派のせいに見えてしまった後は、それをどう「見えなくする」ことができるのか。それが問題だ。”

歴史認識をめぐる国家間の対立についても、同様のことが言えそうです。

米「戦争においては珍しいことではない」】
ISがラマディを掌握したことについて、アメリカのシュルツ副報道官は18日、「これが後退であることは否定しない」としながらも、「計画中の新たな戦略は何もない」と語り、地上部隊の派遣を重ねて否定し、有志連合による空爆や、米軍による訓練を通じてイラク側を支援する戦略を継続するとしています。

また、米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長も「深刻な後退」と指摘しながらも、戦争においては珍しいことではないとの認識を示しています。

今後は、いったん退却した政府軍の部隊に加え、これまでに4500人の民兵がラマディ近郊に集結しており、政府軍とシーア派民兵組織はラマディ奪還に向けた作戦に近く乗り出すものとみられています。
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アメリカ・カリフォルニア  深刻化する水不足 もし来年も雨が降らなかったら・・・・

2015-05-18 21:36:37 | アメリカ

(米カリフォルニア州で水位が下がった湖(3月24日) 【4月23日 日経産業新聞】)

世界銀行報告書:「地球は、さらに乾く」】
将来的に「水」が、エネルギー資源や食糧と同等、あるいはそれ以上に貴重な資源となるであろうこと、また、やがて「水」をめぐる熾烈な国際紛争がぼっ発するであろうことは、多くの場で指摘されていることです。

現在でも、メコン川上流国のダム建設をめぐる中国と流域国、チベットのダム建設をめぐる中国・インド、ナイル川の水利用を巡るエジプトなど既得権益国とその他の国々・・・などで不協和音が出ています。

メコンやチベットについて言えば、そもそも水源であるヒマラヤの氷河が急速に減少しています。全体量が減少すれば、「奪い合い」も激化します。

****<安全な飲み水>世界で8億人分不足 国際会議に4万人参加****
日本では水道の蛇口をひねれば安全な水が出るが、世界では8億人以上が安全な飲み水を手に入れられないという。深刻な水問題を解決するため、今月韓国で国際会議「世界水フォーラム」が開かれた。そこでは、国によって大きく異なる水事情が浮かび上がった。

 ◇温暖化で加速
世界水フォーラムには168カ国から4万人以上が参加した。バングラデシュ代表は「海面上昇に加え、水源となるヒマラヤ山脈の氷河減少で水不足が懸念されている」と、地球温暖化がもたらした異なる窮状を訴えた。

カタール代表は「他地域より水不足に直面している。海水の淡水化が急務」と強調。エジプト代表は、ナイル川水源が他国にあり「我々の水は大半は外国に依存している」と危機意識をのぞかせた。

閣僚宣言は「水問題解決に向け官民など国際協力が必要」とした上で、「温暖化への対応が重要」と盛り込んだ。

「水の惑星」と呼ばれる地球だが、水の大半は海水で淡水は2.5%。しかも、その多くは南極などの氷として存在し、川や湖といった利用しやすい水は0.01%程度にとどまる。

世界保健機関(WHO)などによると、安全な水を入手できる人口の割合はソマリアは29%、パプアニューギニアは40%、エチオピアは44%しかない。

干ばつに直面する国が多いが、パプアニューギニアは熱帯雨林が広がる。雨が降っても上下水道の整備が遅れ、トイレなどの衛生施設が乏しければ、安全な水が手に入らないという。

国連などは、2050年には人口増と経済活動で水不足に直面する人は現在の5倍に増えると予測する。
温暖化に伴う豪雨や干ばつで水事情は悪化し、世界銀行は報告書で「地球は、さらに乾く」と懸念した。

国際協力機構(JICA)は途上国を中心に、04~13年度に上下水道の専門家ら延べ8554人を派遣し、約2万人の研修生を受け入れた。

 ◇日本も海外依存
日本も対岸の火事で済まない。急峻(きゅうしゅん)な地形のため、河川の水量は雨が降ると急増し、やむとすぐに減少する。東京都水道局は「日本は季節で流量が変わり、水利用の上で不利な状況にある」とし、歯みがき時などの水使用量を公表し、有効利用を呼びかけている。

日本の食料自給率は約40%と輸入に頼る。環境省などの試算では、輸入食料の生産に使われた水は約800億立方メートル。国内の年間使用量に匹敵し、多くの水を海外の水に依存する。

JICAは「世界の水環境悪化は人ごとではない」として、水問題が深刻なアフリカを重視して「1000万人に安全な水を届けるとともに、衛生施設を整備したい」としている。【4月29日 毎日】
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中国:「南水北調」事業・・・・長江の水にも陰り
安全な水が入手できない地域は、現在はサハラ以南のアフリカ諸国や島嶼部のパプア・ニューギニア、あるいは紛争国のアフガニスタンなどですが、現在入手できても将来的には問題が起こる地域も少なくないでしょう。

中国も水に不安を抱える国です。中国水利省によると、中国の水資源の約8割は、降水量の多い長江流域など南部に集中しており、北京など黄河流域を中心とした北部は水不足に悩まされてきました。

****北京に長江流域から送水=「南水北調」中央ルート完成―中国****
新華社電によると、中国の長江流域から北京など水不足に悩む北部に水を引く「南水北調」事業のうち、中央ルートの1432キロが完成し、12日から正式通水が始まった。

2003年の着工から11年。総投資額2013億元(約3兆8000億円)の大事業で、水は15日前後で北京に届く。

ただ、中国では河川などの汚染が深刻で、水質に懸念が残る。コストや水源地域で干ばつになった場合の問題も指摘されている。【2014年12月12日 時事】 
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ただ、水源とする長江の水にも陰りが見え始めており、「南水北調」で問題が解決する訳でもなさそうです。

カリフォルニアで流行る「芝生スプレー」】
アメリカ・カリフォルニア州も、ここ4年間干ばつが続いており、水不足が深刻化しています。

****深刻な水不足の米カリフォルニア州、水使用量平均25%削減へ****
カリフォルニア州水資源管理委員会はこのほど、都市部の水使用量を平均25%削減するというジェリー・ブラウン同州知事の緊急干ばつ対策案を承認した。

都市部の各自治体と水資源の管理当局はそれぞれ、水の使用量に応じて8~36%の削減を求められる。同州では2012年から、深刻な水不足が続いている。【5月7日 AFP】
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州全域で節水が義務付けられるのは初めてで、ブラウン知事は「歴史的な干ばつには前例のない行動が必要だ」と州民に理解を求めています。

カリフォルニアと言えば、郊外の家々の青々とした芝生の庭が思い浮かびますが、それも様変わりしているようです。

****枯れた芝生を緑色に塗る人続出、大干ばつの米カリフォルニア州****
4年連続で記録的な干ばつに見舞われている米カリフォルニア州で、給水制限のため黄色く枯れてしまった自宅の庭の芝生をスプレーで緑色に「化粧直し」する住民が増えている。

息詰まるほどの暑さと乾燥が続く中、カリフォルニア州では4月に史上初めて州全域に給水制限が発令され、スプリンクラーが自由に使えなくなった。

そこで注目されているのが、干し草のようになってしまった芝を緑色に塗ってカリフォルニアっ子自慢の庭の美観を保つ「芝生スプレー」だ。

天然色素を使用した無害な塗料を枯れた芝に塗布している地元の会社「ローンリフト」の売り上げは、「干ばつ景気」により昨年3月からの1年間で倍増した。一度塗布すれば、12週間は色落ちしないという。(中略)

こざっぱりした住宅の前庭に青々とした芝生が広がる光景は、伝統的な米国文化の1つだ。全米の都市郊外ならどこでも見られる。この前庭の手入れが行き届いていれば「きちんとした」住人だと思われ、家を売る際の価格にも影響する。

しかし、カリフォルニアでは干ばつのせいで、住宅所有者の多くがこの伝統の芝生をあきらめて、サボテンやアガベなど水まきが不要な砂漠の植物に植え替えている。

ロサンゼルスなど節水できる庭への改修を奨励する助成金を出している自治体もある。サンフランシスコでは、乾燥に強い地元の植物を使った庭の出来を競う「最も醜い庭(Ugliest Yard)」コンテストが開催されている。【5月18日 AFP】
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セレブたちの豪邸の庭もやり玉にあがっているようです。

****干ばつ深刻化のカリフォルニア、セレブの水の使いすぎでさらなる危機に****
深刻な干ばつに見舞われるカリフォルニア。セレブたちが彼らの豪邸の庭や芝生をメンテナスするために大量の水を使い続けていることをニューヨークポストのゴシップ誌「Page six」やデイリーメール紙が指摘している。

専門家によると、カリフォルニアの貯水は1年分の飲み水も確保できないぐらいの量しか残されていないという。町の水を確保するよう、緊急的に法律も作られた。水道事業会社のラス・バージーンズ・ウォーター・ディストリクトは、来月から4週間36パーセントもの水の使用量を制限する予定だ。

このような危機の最中にあるカリフォルニアで、セレブたちがいかに水を無駄遣いしているのかが航空写真によって暴かれた。

特に非難の的となっているのが、リアリティースターのキム・カーダシアン。彼女が夫でラッパーのカニエ・ウェストと暮らしている家は、横を通ると芝生の庭がかなり強く匂うらしく、大量の水を使用していることが伺える。

そのため、彼らの近所に住む人たちも怒っているとか。また、歌手のジェニファー・ロペスも、近隣の人から水の使い方を非難されているらしい。

彼女の家の芝生は、明らかに大量の水を使わなければ維持できないような青さであることが航空写真から見て取れる。その問題について近所の人と口論になった際も、「お金を払うんだから、問題はないでしょ?」という態度だったとか。(後略)【5月11日 ハリウッドニュース 】
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経済活動への影響も 干ばつは西部全域に拡大
まあ、このあたりは笑い話の類ですが、当然ながら経済活動は大きな影響を受けます。

****金融にも影響か 米加州の干ばつ、節水命令の事態に ****
米カリフォルニア州の深刻な水不足の影響に懸念が高まっている。ブラウン州知事は4月1日に、向こう9カ月間で25%の節水を義務付ける行政命令を発令した。

大学キャンパスやゴルフ場、墓地など敷地面積が大きな施設での水使用制限のほか、新築住宅や住宅団地での水道水を使った散水をはじめ芝生や道路中央分離帯への散水自体が禁止された。

カリフォルニア州は過去にも干ばつに見舞われているが、この4年間にわたる状況の深刻度は群を抜く。知事は昨年1月にも干ばつによる非常事態を宣言したが、今年は初めて同州全域で節水を義務付ける行政命令を出すところまで追い詰められた。

米国農務省自然資源保全局(USDA/NRCS)が4月10日に発表した調査結果では、西部山岳地域の4月1日時点の残雪量は極端に小さい。

気温上昇と乾燥により雪塊の融解スピードが速まった結果で、この先、貯水池の水路に流れ込む雪解け水の量はほとんど期待できないという。

シエラネバダ山脈の雪塊量は2011年には平年の171%あったが、12年は52%、13年は42%、そして14年は過去最低水準の25%まで落ち込んだという指摘もある。

カリフォルニア州では春から秋にかけてが乾季だ。気温上昇、乾燥、水不足の相乗作用が今後、様々な影響を引き起こすと予想される。

まず農業である。州内の農地の大半はかんがいの対象となっており、少雨への対策は講じられているが、かんがい水が減少してしまえば生産が大きく左右されることは必至だろう。

野菜や果物、アーモンドの主要産地である同州の生産減少は米国全体の農産品輸出余地を減らし、日本に影響が及ぶ可能性もある。

また、雇用への影響もある。カリフォルニア大学の推計では、14年の干ばつでは1万7100人の季節農業労働者の雇用機会が失われたという。今年は、より影響が大きくなるとも言われている。

次に製造業への影響がある。今後、家庭が節水義務や供給削減の対象となる可能性も十分にある。そうなると世論の厳しい目は工場の水消費や節水対策の巧拙に向くだろう。既に日系現地工場でも、こうした圧力を受けている例があると聞く。

各工場では生産工程の見直しや排水再利用システム導入などの対策が求められよう。こうした事前の対策を怠れば、ある日突然に水供給の上限値が設定されて、工場操業が完全に制約される事態に陥ってしまう。

さらに、金融への影響を指摘する声もある。この数年、カリフォルニア州では大規模な山火事が起きている。今月初めにもサンバーナーディーノで発生、一時は24万平方メートルに延焼したと伝えられた。水不足は消火活動をも困難にして事態を一層深刻化させるのである。

2000年前後から米国では年金基金などが資産運用を行う際に、森林が有力な投資対象となってきた。木材資源供給を収益の原資にするとともに、環境保全にも貢献できる観点から注目され、株式や債券の価格との逆相関性も相まって普及が進んだ。しかし森林火災が頻発、投資対象のリスクが一気に高まる事態になっている。

今年1月のダボス会議で、向こう10年間で最も影響が重大なリスクとして世界の約900人の専門家が選んだのは「水資源の危機」だった。

カリフォルニア州の現実はそれを実際に物語っている。気候変動のインパクトは、もはや将来ではなく、現在の目の前にある。【4月23日 日本総合研究所理事 足達英一郎氏 日経産業新聞】
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干ばつはカリフォルニアだけでなく、西部全域に拡大しています。

****米干ばつ、カリフォルニア州境界線越え拡大-西部の乾燥進む****
米カリフォルニア州に被害を及ぼしている記録的な干ばつは地図上の境界線内にとどまっていない。降水量の減少による乾燥は西部全域に拡大している。

ワイン用ブドウとビール原料ホップの産地として知られるワシントン州ヤキマバレーでは11日から3週間、当局による給水制限のため農家約1700戸への水供給が止まる。ラスベガスの東方にあるミード湖の水位は貯水が始まった1937年以降で最低となっている。

米海洋大気局(NOAA)の全米統合干ばつ情報システムのディレクター、ロジャー・プルウォーティー氏は「カリフォルニア州が注目されているのは当然だ」と指摘した上で、「西部の大半の地域で乾燥状態が続く見通しだ」と述べた。

干ばつは米西部では珍しくないが、気候変動の影響でここ数年、水不足は一段と長期にわたり頻度も増えている。米航空宇宙局(NASA)によると、1880年以降で最も気温の高かった10年のうち9年が2000年以降に集中。カリフォルニア州とネバダ州にまたがるシエラネバダ山脈など山間部では雪塊が減少している。これらの雪塊は米西部への主要水源となっている。

米中部の人口の西部への移動が徐々に進む中、この変化は将来、永続的に乾燥が進むことを示唆している。このため、政策立案者らは太平洋からの脱塩水の抽出を検討しており、米最大の農業地帯である西部の農家は他の場所に移ったり、地下水をくみ上げるためより深い井戸を掘ったりすることを余儀なくされている。

米干ばつモニターによると、西部の約40%が厳しい干ばつに見舞われている。【5月12日 ブルームバーグ】
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【「もし来年もカリフォルニア州に雨が降らなかった場合、一体どういうことが起きるか」】
海水からの脱塩水の抽出では、3900万人もの人口を抱えるカリフォルニア州全体の水不足を解決するための抜本的な解決策にはなり得ない・・・ということで、水のパイプライン建設の話もあるとか。

****ウィリアム・シャトナー氏、カリフォルニアの干ばつ対策として水パイプライン構想を立ち上げ****
スタートレックのカーク船長役を務めたことで知られている俳優のウィリアム・シャトナー氏は18日、カリフォルニア州で生じている干ばつによる水不足を解決するための手段として、ワシントン州とカリフォルニア州の間に水供給用のパイプラインを敷設するための資金募集を近くKickstarterを通じて開始することをYahoo! Techのインタビューを通じて発表した。

シャトナー氏はワシントン州=カリフォルニア州間の水パイプラインの敷設費用は300億ドル(3兆6000億円)と見積もっており、その全額をKickstarterを通じて集めたいとしている。(後略)【4月19日 businessnewsline】
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“シエラネバダ山脈の雪塊量は14年は過去最低水準の25%まで落ち込んだ”“専門家によると、カリフォルニアの貯水は1年分の飲み水も確保できないぐらいの量しか残されていない”・・・という状況で、“シャトナー氏は「300億ドルは非現実的だと思うかもしれないが、しかし、もし来年もカリフォルニア州に雨が降らなかった場合、一体どういうことが起きるか」と、これまで誰も口にはしてこなかったことは真正面から捉えた議論を進めている。”【同上】とのことです。

“1880年以降で最も気温の高かった10年のうち9年が2000年以降に集中”という状況を考えると、‟もし来年もカリフォルニア州に雨が降らなかった場合・・・・”というのは、十分に起こりうる想定です。

従来、気候変動・温暖化問題に消極的だったアメリカが、最近やや前向きになりだした背景には、オバマ大統領の選好だけでなく、その影響が現実の問題になりつつあることが少なからずあるのではないでしょうか。

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エジプト  ムバラク釈放、モルシ死刑で更に鮮明になる「ムバラク以前への回帰」 安定を支持する国民

2015-05-17 21:19:58 | 北アフリカ

(写真は【5月17日 AFP】)

モルシ氏死刑:軍主導の政権の意をくんだ「政治裁判」との批判
エジプトでは、2013年7月の軍事クーデターで失脚したムスリム同胞団出身のモルシ元大統領に、2011年当時収監されていた北部の刑務所からの脱獄に関与したとして「死刑」の判決が言い渡されました。

形式的には政治から独立した司法判断という形ではありますが、実質的にはクーデター後に実権を握った軍主導のシシ政権の意をくんだ「政治裁判」との批判がなされています。

****<エジプト>モルシ元大統領に死刑判断 同胞団脱獄関与の罪*****
エジプトの刑事裁判所は16日、2013年7月の軍事クーデターで失脚したモルシ元大統領(63)に対して、11年の革命時に出身母体のイスラム組織ムスリム同胞団メンバーらの脱獄に関与した罪で、死刑判断を示した。

大ムフティ(最高イスラム法官)が死刑判断の是非について裁判所に意見を答申した後、6月2日に1審判決が下される。同胞団支持者らが死刑判断に反発するのは必至で、テロなど暴力が増加する恐れもある。

政府系紙アルアハラム(電子版)によると、モルシ氏は同胞団メンバーらと共謀し、11年1月に北部ワディ・ナトゥラン刑務所を武装勢力に襲撃させ、囚人を脱獄させた罪で死刑判断を受けた。

脱獄事件に関与した同胞団幹部ら105人にも死刑判断が示された。また、別のスパイ事件で、同胞団ナンバー2のシャーテル氏ら16人にも死刑判断が下された。

エジプトの司法制度では、死刑判断が出た場合、大ムフティが死刑の是非に関する意見を裁判所に答申した後に判決が下される。裁判は2審制で、検察側、弁護側とも上訴できる。上訴が認められれば、再び1審の審理を行う可能性もある。

モルシ氏ら同胞団幹部の裁判を巡っては、クーデター後に実権を握った軍主導の政権の意をくんだ「政治裁判」との批判が強い。ロイター通信によると、トルコに亡命中の同胞団幹部のダラグ氏は「(死刑判断は)殺人にも相当する。国際社会は容認すべきでない」と裁判所を非難した。

ただ、国防相としてクーデターを主導したシシ大統領が同胞団を「テロ組織」と決めつけて徹底的に弾圧した結果、同胞団の動員力は大幅に低下しており、国内で大規模な抗議活動が起きる可能性は低い。

一方で、同胞団に同情的なイスラム過激派が軍や警察、司法当局を標的にしたテロを起こしており、今回の死刑判断を受けて、テロが増加する恐れもある。

エジプトのシンクタンク・アハラム政治戦略研究所のヨスリ・エズバウィ氏は「イスラム勢力が過激化するのは必至で、テロの増加は避けられない。シシ政権と同胞団の和解はますます遠のいた」と指摘している。

モルシ氏は今年4月、在任中に反モルシ政権デモ隊への暴行に関与した罪で禁錮20年を言い渡された。同胞団を支援していたカタールのためにスパイ行為を働いた罪や裁判官への侮辱罪でも起訴されている。【5月16日 毎日】
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検察は、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム過激派ハマスのメンバーがパレスチナからエジプトに潜入して刑務所数カ所を襲い、ムルシ氏らムスリム同胞団の指導者を含む約2万人を脱獄させ、刑務所警備員数人を殺害したと主張しており、モルシ氏はこれに首謀的に関与したとされています。

ムバラク氏釈放:薄れた国内での関心
モルシ元大統領に死刑判決が下る一方で、「アラブの春」で失脚し、デモ参加者を殺害した罪や公金横領の罪で逮捕・拘束されていたムバラク元大統領は、殺人罪では事実上の無罪、横領罪では刑期満で釈放されることになっています。

****ムバラク元大統領に禁錮3年の判決 刑期満了で釈放へ*****
エジプトのムバラク元大統領(87)が在任中に公金を横領した罪に問われた裁判で、首都カイロの裁判所は9日、改めて禁錮3年の判決を言い渡した。

国営メディアの報道によると、元大統領はすでに3年以上拘束されているため、裁判所は刑期が満了しているとして身柄の釈放を命じた。元大統領がいつ、どこで釈放されるのかは明らかでない。

同国では2011年の民主化運動「アラブの春」でムバラク元大統領が政権を追われ、12年に初の民主的選挙でムルシ前大統領が就任。元大統領はデモ参加者を殺害した罪や公金横領の罪に問われ、12年に終身刑を言い渡された。

ムルシ氏は元大統領を死刑にするべきだと主張したが、13年の軍事クーデターで同氏自身が失脚した。

元大統領には昨年5月、横領罪で禁錮3年の刑が言い渡された。昨年11月、殺人罪の再審判決では事実上無罪となったが、横領罪については今年1月、裁判所が審理のやり直しを命じていた。

元大統領の息子2人も同様の横領罪で禁錮4年を言い渡されていたが、今回の判決で減刑となり、釈放される見通しとなった。元大統領と息子らには一方で多額の罰金も科せられた。

元大統領の裁判が長引くにつれ、国内での関心は薄れている。判決を受けて大規模な抗議デモが起きる気配はないようだ。ただ裁判のやり直しや新たな罪状などにより、元大統領の法廷での闘いは今後も続く可能性がある。【5月11日 CNN】
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当然ながら、ムバラク元大統領の裁判にも、ムバラク氏と同様に軍部を背景とするシシ現政権の意向が反映されていると推察されます。

いかにも対照的な二人の元大統領に関する裁判ですが、ムスリム同胞団などイスラム主義を徹底的に弾圧し、ムバラク以前に回帰しているとも言われるシシ現政権にあってはいずれも予想されたことでもあります。

一括死刑判決:「近年の歴史で前代未聞」(国連)】
なお、シシ政権下のムスリム同胞団の糾弾は熾烈で、今回判決のように百人単位での一括死刑判決がこれまでにも出されています。

****13年の警察署襲撃で183人の死刑確定、エジプト****
2013年8月にエジプトの首都カイロ近郊の村で警察署が襲撃され、警察官13人が死亡した事件の裁判で2日、183人に対して言い渡されていた死刑判決が確定した。

2013年8月14日にカイロ近郊のケルダサ村で起きた警察署襲撃事件に関与した罪で、12月に188人に死刑判決が言い渡されたが、エジプトの死刑判決に必要なイスラム教の最高権威ムフティー(イスラム法学者)の承認を得て、2日に183人の刑が確定した。

また2人は無罪になり、1人には禁錮10年が言い渡され、2人は死亡していたことが判明し起訴が取り下げられた。

この事件が起きたのと同じ日には、カイロでムハンマド・モルシ前大統領支持派の大規模なデモ拠点を治安部隊が強制排除し、衝突によって少なくとも数百人が死亡した。

13年7月3日にモルシ氏が軍によって解任されて以降、抗議行動に対する警察の弾圧によって少なくとも1400人のモルシ氏支持者が死亡し、さらに数百人に死刑判決が言い渡されている。【2月2日 AFP】
**********************

今回の105人とか、上記の188人とか、まとめて死刑というのは裁判という形式はとってはいますが、実質的には政治的処刑と言えます。

“これまで同胞団指導者ら1千人以上に死刑判決が出ている。16日の判決は同胞団に対して厳罰を科す現在の司法の流れを踏襲した形となった。裁判では被告が不在のまま死刑が言い渡されるケースも相次いでおり、裁判の正当性に国際社会から批判が出ている。実際に死刑が執行されたのは1人とみられる。”【5月17日 朝日】

こうした徹底した弾圧でムスリム同胞団の活動は極めて制約されており、また、すでに同胞団はシシ現政権との対決姿勢を明確にしていますので、今回のモルシ元大統領への判決が直ちに政治情勢に大きな変化を与えることはないとも見られています。

ただ、イスラム過激派によるテロ活動は更に強まることも予想されます。

****シナイ半島で裁判官ら4人射殺=元大統領「死刑」に反発か―エジプト****
エジプトのシナイ半島北部アリーシュで16日、武装グループが裁判官らが乗った車を銃撃し、少なくとも4人が死亡、2人が負傷した。地元メディアが伝えた。裁判官らは公判に出席するため、車で移動中だった。

カイロの裁判所はこの日、モルシ元大統領に対する裁判で死刑に処すべきだとの判断を下した。エジプトの過激派は元大統領が失脚した2013年7月以降、軍や警察などへの襲撃を繰り返しており、司法判断に反発して事件を起こした可能性もある。【5月16日 時事】 
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シナイ半島では、イスラム過激派組織ISに忠誠を誓う「アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)」が活動し、これまでも治安部隊にも多数の死傷者が出ています。 

なお、シシ現政権の締め付けはムスリム同胞団・イスラム主義勢力だけでなく、反政府的な世俗派にも及んでいます。

2月4日には、ムバラク元大統領に対する2011年の大衆蜂起(いわゆる「アラブの春」)に参加した世俗派活動家230人に対して終身刑が言い渡されています。

こうしたムスリム同胞団や反政府世俗派活動家への一括した死刑判決や終身刑判決に関し、国連は「近年の歴史で前代未聞」と批判しています。

シシ政権を批判するトルコ、支持するサウジ、軌道修正?アメリカ
今回のモルシ元大統領やムスリム同胞団メンバーに対する厳しい判決に関しても、トルコのエルドアン大統領は「古代エジプトに回帰している」と批判しています。
トルコの与党・公正発展党(AKP)は、ムスリム同胞団に類似したイスラム主義を掲げています。

一方、シシ政権のムスリム同胞団弾圧を強く支持しているのは、そのイスラム主義の国内波及を警戒するサウジアラビアです。

アメリカは軍事クーデターにより実権を奪取したシシ政権の強権姿勢を批判してきましたが、サウジアラビアとアメリカの間で深まる溝のひとつの原因ともなっています。

ただ、そのアメリカも軌道修正しつつあるようです。

****米政権、対エジプト大型兵器供与を再開 F16など***
オバマ米政権は3月31日、エジプトで2013年7月に起きたクーデターを受け凍結していたF16戦闘機など大型兵器の供与凍結を解除すると発表した。年間13億ドル(約1560億円)の対外軍事資金供与(FMF)も再開する。

米国は13年7月、軍出身のシーシー現大統領が主導したクーデターを受け、同年10月、民政移行を促すため、それまで続けてきた大型の武器供与や資金提供を凍結した。ただ、「イスラム国」の台頭を受けて昨年6月に一部を解除していた。

凍結解除の背景には、隣国リビアでイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」などが活動を活発化させていることや、エジプトがサウジアラビア主導のイエメンへの軍事介入参加がある。

米国家安全保障会議(NSC)のミーハン報道官は31日、「軍事支援を進めることは米国の国家安全保障上の利益に資する」とする声明を発表した。

供与を決めたのは12機のF16、対艦ミサイル・ハープーン20発、M1A1エーブラムズ戦車125両分の部品。

オバマ米大統領は31日、シーシー氏と電話協議し、大型武器供与やFMF再開の決定を伝達。リビア、イエメンを含む地域情勢について意見交換した。

その一方で、オバマ氏はシーシー政権が非暴力の活動家に対する拘束を続けているとして「懸念」を表明し、言論の自由を尊重するよう促した。【4月1日 産経】
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国民は安定第一
肝心のエジプト一般国民は・・・・“ただ、こうした(現政権への)失望感や(モルシ氏の)裁判への疑問は、反政権運動には結びついていない。国民が期待するのは「治安と経済の安定」であり、人権や民主化は二の次だからだ。”ということです。
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漂流するロヒンギャ難民  アンダマン海で繰り広げられる「人間ピンポン」ゲーム

2015-05-16 22:26:26 | 東南アジア

(タイ軍ヘリが投下した食料を海に飛び込んで受け取り、船で待つ人々に手渡すロヒンギャ難民 【5月15日 AFP】)

【「食料などの物資を提供したうえで立ち去ってもらった」】
ミャンマー西部のラカイン州に多くが暮らすイスラム教徒ロヒンギャが、バングラデシュからの不法移民としてミャンマー政府から市民権を認められておらず、国内多数派仏教徒から迫害を受けるなど、「世界で最も迫害を受けている少数民族」(国連のキンタナ特別報告者)という状況に置かれていることは、このブログでも繰り返し取り上げてきました。

1週間前の5月9日ブログ“「世界で最も迫害を受けている少数民族」ロヒンギャ イスラム過激派の浸透 人身売買の犠牲 進む民族浄化”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150509)では、ミャンマーでも暮らせず、他国に避難することもできないロヒンギャが、人身売買という形で売られていく実態が、タイ南部で発見された「集団墓地」で明らかになってきていることを取り上げました。

こうした悲惨な結末が現実のものとならない限り、国際世論も高まらず、関係国も動かないというのは悲しいことでもあります。

それどころか、悲惨な現実を目の当たりにしても、自国とは関係ないとして、これを敢えて無視しようというのが現実政治でもあるようです。

今、ミャンマー、タイ、マレーシア、インドネシア沖合のアンダマン海では、ロヒンギャ難民を乗せた船6隻ほど、人数で6000人ほどが、行く当てもなく漂流していると報じられています。

****追い返されるロヒンギャ族 インドネシア・タイ、難民流入警戒****
ミャンマーで民族対立から追い詰められたイスラム教徒のロヒンギャ族などが乗った船が周辺国に漂着している問題で、マレーシアやタイなどが船の追い返しを始めた。

難民の大量流入を警戒する措置だが、海上には6千人が漂流しているとの推計もあり、懸念の声が上がっている。

 ■「6000人漂流」国連懸念
マレーシア政府は10日にタイ国境に近いランカウィ島に漂着したロヒンギャ族やバングラデシュ人ら1158人を保護し、施設に一時収容した。だが、同時に沿岸警備当局や海軍がマラッカ海峡沖合に船舶約10隻を展開し、密航船の排除に乗り出した。

ロヒンギャ族らがマレーシアをめざすのは、難民認定に比較的寛容で、かつイスラム教徒が多い国であるためだ。だが、増える難民や不法移民に国内では治安面などで不安が高まりつつある。収容施設はすでにほぼ満杯で、予算の制約もある。

タイ海軍も14日、マレーシアと国境を接する最南部サトゥーン県沖で約300人が乗った船に退去を指示、領海外に押し出した。

タイ政府報道官は14日、「乗船者の目的地がマレーシアなどだったため、食料などの物資を提供したうえで立ち去ってもらった」と説明した。

10日に582人が漂着したインドネシア北西部アチェ州ロクスコン。移民局幹部は朝日新聞の取材に、「早く出て行ってほしいし、もう来ないでほしい」と話した。海軍は11日、約400人乗りの木造船を領海外へ追い出した。

だが、14日夜には南東へ約100キロの沖合で計6隻の木造船が地元漁師に発見された。地元の救難当局によると乗っていた約800人が救助された。

ザイド国連人権高等弁務官は15日、ロヒンギャ族ら約6千人がいまだ海上に漂っているとの推計を示し、マレーシア、タイ、インドネシアの行為が「避けられるはずの多くの死をもたらす」と批判した。【5月16日 朝日】
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「もう来ないでほしい」と言われても、どこへ行けばいいのか?
「食料などの物資を提供したうえで立ち去ってもらった」・・・・軍のヘリが難民船近くに食料を空から投下し、それを難民が海に飛び込んで取りに行き、船べりにつかまりながらむさぼっている姿がTVで報じられていましたが、そのことでしょうか?

【「人間ピンポン」ゲーム
“厄介者”を追い払おうとする各国の対応に、「人間ピンポン」ゲームに興じているとの批判も出ています。

****マレーシア、難民船の領海入りを拒否 多数の難民に生命の危機****
マレーシア当局は13日、難民数百人が乗った船2隻の受け入れを拒否した。匿名の当局者が明らかにした。翌14日タイ沖で1隻の難民船が発見され、前日にマレーシア領海から追い返された船である可能性が浮上している。

東南アジア諸国政府に対しては、絶望的な窮地に立たされた難民の命で「人間ピンポン」ゲームに興じていると、非難が集中している。
 14日、ミャンマーで迫害を受けているイスラム系少数民族ロヒンギャ人が多数乗った船がタイ沖で漂流しているのが見つかった。

日没頃には、見るからに痩せ細った男性らが海中に飛び込み、タイ海軍のヘリコプターが投下した食料品の袋を泳いで取りに行っていた。あるAFP記者は、拾った生のインスタント麺を、船に泳ぎ帰る前に海中でむさぼる男性の姿も目撃したという。

難民の一人は報道陣の船に対しロヒンギャ語で、「航海中に10人ほど死んだ。遺体は海に捨てた」と叫んだ。「海をさまよって2か月になる。マレーシアに行きたいが、まだ到着できていない」

アンダマン海に浮かぶタイ南部のリペ島付近で見つかったその木造船上にいた衰弱した様子の難民たちの中には、幼い子どもの姿も多数見受けられたという。

ある当局者が匿名を条件に語ったところによると、マレーシアの巡視船が13日遅く、同国北部のペナン島とランカウイ島沖で難民船2隻の航行を阻止。両船には合わせて600人が乗っていたという。

この当局者は、「昨夜、ペナン島沖でマレーシア領海に入った1隻が追い返され、ランカウイ沖で別の1隻が領海内への侵入を阻止された」と明かした。

このランカウイ沖で阻止された船が、翌14日にタイ沖で見つかった船と同一のものである可能性が指摘されている。

マレーシアとインドネシアは、東南アジアに流入するミャンマーとバングラデシュからの難民を乗せた船舶の受け入れ拒否を公言している。

また人権団体の指摘によると、この問題について協議するため今月29日に地域会合の開催を呼び掛けたタイも、難民船の停泊を許可しない方針を示しているという。

国連(UN)の潘基文(バン・キムン)事務総長や複数の人権団体は、関係各国が強硬姿勢を貫けば各国が果たすべき国際的な義務が守られず、数千人の命が危険にさらされる恐れがあると警告している。【5月15日 AFP】
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マレーシアによって追い払われた船がタイ沖に現れ、タイは「乗船者の目的地がマレーシアなどだったため、食料などの物資を提供したうえで立ち去ってもらった」・・・・まさに「人間ピンポン」と言わざるを得ない所業です。

マレーシア、タイだけでなくインドネシアも同様です。

****インドネシア海軍、難民約400人が乗った船を領海外にえい航****
インドネシア海軍は12日、11日朝に約400人の難民を乗せて同国アチェ(Aceh)州沖で漂流しているところを発見された船に燃料を提供し、インドネシア領海外までえい航したと発表した。

この船はマレーシアを目指していたとみられているが、インドネシア海軍の報道官は「われわれはマレーシアに行けとも、オーストラリアに行けとも言わなかった。この船の目的地がインドネシアでない以上、われわれの関知するところではない」と述べた。(後略)【5月12日 AFP】
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ASEANとしての共同体意識も、イスラムの連帯も、何もないようです。

【「どうせ死ぬなら、外国へ脱出したかった」】
4月には、リビアなど北アフリカから、イタリアなど欧州を目指して地中海を船で渡ろうとする難民船の事故が相次いで国際問題ともなりました。

今回のアンダマン海では、地中海のような大規模遭難事故は報じられていませんが、犠牲者は少なからず出ているでしょうし、船内の状況は悲惨です。

****漂流ロヒンギャ、苦難の道 迫害逃れ、過酷な船旅****
インドネシア・スマトラ島アチェ沖で10日、ミャンマーのイスラム教少数民族ロヒンギャら約600人を乗せた木造の老朽船が見つかった。

多数派の仏教徒の迫害から逃れるため故郷を去り、密航業者の手引きによる過酷な長旅の果てだった。「望みはただ一つ。平穏な生活だけだ」。ロヒンギャは苦難の道のりを振り返り、国際社会の支援を切々と訴えた。

ロヒンギャたちは、仮設キャンプになった北アチェ県ラパンの魚市場で取材に答えた。イスラム帽をかぶった男性ムハンマド・エリアスさん(23)。援助団体の炊き出しをむさぼるように食べ終え、ミャンマー出発から3カ月近くにわたった航海を語り始めた。

2月下旬、故郷ラカイン州を近所の人と一緒にボートで脱出し、沖でタイ人の密航業者が仕切る中型船に乗り込んだ。

灼熱 (しゃくねつ) の太陽が照りつける甲板に200人以上がぎゅうぎゅう詰めに座らされ、立つことは許されない。ふん尿は垂れ流し。「業者は逆らった者を容赦なく殴りつけた」

船は低速で航行しながらタイの領海へ入ったが、同国艦船に 拿捕 (だほ) された。密航業者は拿捕直前に仲間のスピードボートで逃走。船は洋上で約1カ月間、停泊した後、領海から追い出される形で解放された。

エリアスさんたちは自力でエンジンを動かしたが、燃料切れで漂流。食料と水は底を突いて海水で飢えをしのいだが、子どもを含む15人が亡くなった。

「衰弱死した幼子の遺体を布きれにくるんで、海に投げおろした。助けてやれなかった。やり切れない」。エリアスさんの唇は震え、大粒の涙がほおを伝った。

ミャンマーから海外へ逃れたロヒンギャは10万人以上と推計される。危険を承知で船旅に出る者が後を絶たない。なぜなのか。

ラカイン州出身の男性ジャマル・フサインさん(18)は両親を故郷に残してきた。家族で野菜を栽培してほそぼそと暮らしていたが、仏教徒の村人から暴力を振るわれたり、畑を荒らされたりする嫌がらせが相次いだ。

兄は食料買い出しのため村の外に出た後、消息を絶った。「兄は仏教徒に殺されたのだと思う。自分も殺されるかもしれない。どうせ死ぬなら、外国へ脱出したかった」とフサインさん。少数民族への迫害や暴力、差別は解消する兆しもなかったという。

ロヒンギャは今後、アチェで難民申請をして定住先を探す。だがインドネシアなど周辺国は、収容施設の不足、職業経験や技能が乏しいロヒンギャの受け入れに消極的。

キャンプを慰問に訪れた、インドネシア在住20年のロヒンギャの男性難民、アブドゥルラヒムさん(34)はいまだ国籍もなく、子どもも学校に通えない。「私たちの苦しみはいつ終わるのか。国際社会はロヒンギャの窮状を知り、難民をもっと受け入れ、支援してほしい」と語気を強めた。【5月16日 共同】
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“インドネシアなど周辺国は、収容施設の不足、職業経験や技能が乏しいロヒンギャの受け入れに消極的”という現状はわからないではないですが、さりとて「人間ピンポン」が許されていいことにもなりません。

月末にロヒンギャ対策会合開催 関与を認めないミャンマー政府
ロヒンギャの問題は今に始まったことではありませんが、ここにきて難民船が集中しているように思われるのは何故でしょうか?

ロヒンギャ難民は通常、タイを経由して周辺国を目指すとされています。
タイ南部で密入国したミャンマー人やバングラデシュ人のものとみられる集団墓地が見つかったことから、タイ当局は密航業者の取り締まりを強化していることが、現在の事態に関係しているとも思われます。

当然ながら、難民の発生源であるミャンマー政府の対応が求められます。

今回事態に関するミャンマー政府の見解はあまり多くは報じられていませんが、今朝のTVでミャンマー政府高官が「ロヒンギャ難民と言われている人々は、自分が住んでいたとされるミャンマーの地名、村の名前さえ答えられない。彼らはミャンマーではなく、バングラデシュから人身売買として出国した人々である・・・」といった主旨の発言をしていました。

****ロヒンギャ問題、ミャンマーが反発 「差別ない****
ミャンマーに住むイスラム教徒のロヒンギャ族らが乗った船が周辺国に漂着している問題で、ミャンマーのイェートゥ情報相は16日、朝日新聞の取材に「これは難民問題ではなく、周辺国との間で起きている違法な人身取引の問題だ」と語った。ミャンマー政府はロヒンギャを迫害しているとの批判に反発している。

マレーシアやインドネシアに漂着した船にはロヒンギャ族と民族的特徴が近いバングラデシュ人も乗っていたとされる。ミャンマー政府はロヒンギャ族を自国民とは認めず、バングラデシュ人移民とみなしており、イェートゥ氏は「漂着者らが『ミャンマーから来た』と言うだけでは、彼らの主張を受け入れられない」と述べた。

また、イェートゥ氏は今月29日にタイが主催するロヒンギャ問題への対応を話し合うための関係国会合に関しても、「(地域の国際犯罪としての)人身取引問題の協議であるなら出席する」と言及。大統領府幹部も朝日新聞の取材に「『ロヒンギャ』がテーマなら参加はしない」と断言した。

同幹部は「移民らは他国への移住を試みてはミャンマー政府に迫害されたと主張する。だが、政府がいかなる人々も差別していないのは明らかだ」と述べた。【5月16日 朝日】
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ただ主張はどうあれ、「『ロヒンギャ』がテーマなら参加はしない」では済まされないでしょう。

****ロヒンギャ対策会合開催へ 29日、バンコクで15カ国****
ミャンマーから避難したイスラム教徒少数民族ロヒンギャがタイ南部で多数見つかった問題を受け、タイ外務省は12日、関係国と対策を話し合う高官級の会合を首都バンコクで29日に開くと発表した。

ミャンマーと隣国バングラデシュのほか、ロヒンギャの最終的な避難先であるマレーシアやインドネシアなど計15カ国が参加する。

ロヒンギャをめぐっては、タイ南部で今月に入り集団墓地が見つかったほか、衰弱した人たちも保護されている。組織的な人身売買や虐待の可能性があるとして、暫定政権のプラユット首相が対応を検討していた。【5月13日 産経ニュース】
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TVでもコメントしていましたが、29日に会合を開くとして、今現在漂流している6000人とも言われる難民をどうするのか?という問題は残ります。まさか29日まで「人間ピンポン」ゲームを続けるつもりでもないでしょう。

まずは救済したうえで、今後の対応を話し合うべきでしょう。

難民「割当制」を発表したEU 東南アジア各国は?】
難民受け入れで苦慮するのは欧州各国も同じですが、地中海を「巨大な墓地」としかねない事態に、EUは難民受入を各国に義務付ける「割当制」の指針を発表していますが、反対の声も出ています。

****EU、難民「割当制」 各国に義務づけ指針 英など拒否****
地中海で密航船の事故が相次ぐ中、欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は13日、移民に関する指針を発表した。

紛争や迫害を逃れた難民を毎年2万人受け入れるほか、欧州に入った難民申請者の一時受け入れのため、各国への割り当ての義務づけを目指す。だが移民規制の強化を求める英国などは「割当制」への拒否を示している。(後略)
【5月14日 朝日】
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アンダマン海のロヒンギャ難民が地中海と異なるのは、難民の発生元がASEAN加盟国のミャンマー(あるいは域外のバングラデシュ)と特定されていることです。

従って、ミャンマーなりバングラデシュなりが対応に協力すれば、難民発生を抑える効果的対策も可能になります。
逆に、協力が得られなければ、周辺国は「難民発生源の国が対応しないのなら、自分たちも何もする義務はない」ということにもなります。

ミャンマー政府のこれまでのロヒンギャ対応を見ると、ロヒンギャ迫害を認めることにもなる難民流出対策を表立ってとることは考えられません。
ミャンマー政府の「核心的利益」に直接触れない形で、裏から何か実質的対応を促すか・・・。

今年末までには、ASEAN域内で「ヒト・モノ・カネ」の移動を自由にして経済発展を実現しようという「ASEAN経済共同体」が発足する予定です。

一方で、ASEANはEUとは異なり多様な政治体制・宗教の国々の集合体であり、内政不干渉が原則となっています。

ASEAN加盟国とも重なる関係国が今回の難民問題にどのように対応できるのか?
今後のASEANの方向を占う試金石でもあります。

とにもかくにも、まずは今漂流している6000人の救出が先決です。
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イスラエル  エチオピア系ユダヤ人、差別へ抗議デモ

2015-05-15 22:16:35 | 中東情勢

(警官による「人種差別」などに抗議し、デモを行うエチオピア系市民ら=テルアビブで2015年5月3日、ロイター 【5月5日 毎日】)

【「焦土作戦」で勝利したネタニヤフ首相による右派連立政権発足
イスラエルでは、3月17日の総選挙で大勝したネタニヤフ首相率いる右派リクードを中核とする連立政権が発足しました。

****イスラエル>ネタニヤフ新連立政権が始動****
イスラエルで14日夜、右派系を中心とする計5党(61議席)からなる新連立政権が発足した。

国会定数(120)の半数をわずかに上回る議席で、1人でも欠ければ過半数は維持できない。政権維持のため、ネタニヤフ首相は対パレスチナ、イラン問題で従来以上に強硬姿勢を強める可能性がある。

首相は15日朝の閣議で「イスラエル国民への貢献に集中して取り組む必要がある」と語り、3月の総選挙により高まった政党間の対立を解消するよう呼びかけた。

新政権はネタニヤフ首相率いる右派リクード(30議席)、中道右派クラヌ(みんなの党、10議席)、宗教系極右「ユダヤの家」(8議席)などで構成する。【5月15日 毎日】
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選挙前、一時劣勢が伝えられたネタニヤフ首相は、パレスチナ問題やイラン核問題など安全保障面の「脅威」に争点を絞り、アメリカ議会でオバマ大統領のイラン政策を批判し、更に、「右派政権は危機に直面している。アラブ系の投票者らが群れをなして投票所に向かっている!」といった国民の恐怖心をかき立てる戦術を取りました。

そうした“禁じ手”とも言える戦術で手にした勝利ですが、結果として、アメリカ・オバマ政権との溝は深まり、欧州諸国のパレスチナ国家承認の流れも加速させそうです。

****イスラエル首相再選の大きな代償 「焦土作戦」で勝利したネタニヤフ首相、国際的な孤立に拍車****
激しい戦いとなったイスラエルの総選挙は、不人気な首相が連続3期目の任期を獲得するうえで不安を煽る政治がそれなりに奏功することを裏付けたように見える。だが、ベンヤミン・ネタニヤフ氏の勝利は大きな代償を伴う。

今回の勝利はすでに、明らかに焦土作戦の勝利だ。ネタニヤフ氏はこの作戦において、イスラエルと外国をつなぐ橋を次々と燃やし、極右の仲間を出し抜いてきた。

さらに、イスラエルがその領土を占領しているパレスチナ人と解決策を交渉するかもしれないという残された希望を打ち砕き、すでに疎外されているイスラエル国内の少数派アラブ人にイスラエル市民以下の存在という汚名を着せた。(後略)【3月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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そのあたりの話は、3月20日ブログ“イスラエル・ネタニヤフ首相の「2国家共存」否定にアメリカが強い不快感 アラブ系政党が第3党へ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150320)で取り上げたところです。

ネタニヤフ首相の連立交渉は期限を延長するなど難航したようですが、国際的にも孤立し、パレスチナ対応でも強硬姿勢をとる右派政権ということで、中東和平については期待できないというのが一般的な見方です。

****<イスラエル>右派連立政権発足へ 和平進展は期待できず****
・・・・過半数ぎりぎりの連立で、当面は薄氷を踏む政権運営となる。中東和平に積極的な政党は加わっておらず、和平進展は期待できそうにない。(中略)

パレスチナとの中東和平に積極的な政党は参加していないため、昨年春に頓挫した和平交渉が再開される可能性は低い。ユダヤ人入植地建設をさらに拡大させればパレスチナ側の反発は必至で、治安の悪化も懸念される。

当初は右派系6党(計67議席)が連立に加わる見込みだったが、4日になって世俗派極右「わが家イスラエル」(6議席)を率いるリーベルマン氏が連立への参加拒否を表明した。宗教系右派との対立や閣僚ポスト配分への不満が、背景にあったとされている。

連立合意した政党の中でも、中道右派のクラヌは、宗教系3党との間で対立する点を多く抱えている。ネタニヤフ首相は、双方の間で難しいかじ取りを迫られそうだ。

ただ、首相は6日深夜の会見で「61から始まる。やるべきことは山積している」と語り、野党勢力の取り込み工作を続ける考えを示唆した。

地元メディアによると、リーベルマン氏や「わが家イスラエル」の議員らを説得しようとする可能性がある。また、中道系政党との連携を模索する動きもあると伝えられている。

イスラエル総選挙は3月17日に実施され、6日が連立合意の期限だった。【5月7日 毎日】
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およそ和平は期待できないようにも見えるネタ二ヤフ首相ですが、国会演説では「私たちは治安を守り、平和を追求する」と強調しています。どんな政治家でも「平和」を口にします。たとえ、やっていることが「平和」とは逆方向でもあっても。

差別されるエチオピア系ユダヤ人
イスラエルが抱える国内問題としては、当然ながら、今回選挙でも敵対勢力扱いをした少数派アラブ系市民との関係がありますが、それ以外にもイスラエル社会には“差別”問題があるようです。

今朝のTVで、エチオピア系ユダヤ人差別の問題を取り上げていました。
例によって、出勤準備をしながらのチラ見で内容はわかりませんが、10日ほど前に報じられていた件かと思われます。

****<イスラエル>エチオピア系市民ら「人種差別」抗議デモ****
イスラエル最大の商業都市テルアビブで3日夜、「人種差別」などに抗議するエチオピア系市民らによる数千人規模のデモがあり、一部が治安当局と衝突、地元メディアによると60人以上が負傷し、40人余りが逮捕された。

4月末にエチオピア系兵士が路上で明確な理由もなく警官の暴行を受け逮捕されたことが引き金で、背景には「二級市民」のような差別を受けてきたとするエチオピア系市民の強い不満がある。

テルアビブで当局に対する大規模な抗議運動が起きるのは異例。ネタニヤフ首相は3日夜、声明を出し、事態沈静化を呼びかけた。

地元メディアによると、デモ隊の一部は投石したり商店を破壊したりし、治安当局は催涙弾や放水で鎮圧した。

デモ参加者の大半は1970年代以降にエチオピアから移り住んだ移民の第2世代。「我々は黒人でも白人でもない。人間だ」と訴え、「暴力警官こそ逮捕されるべきだ」と主張した。警察は兵士を暴行した警官を解雇する方針。【5月5日 毎日】
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エチオピア系ユダヤ人・・・あまり馴染みがない人々です。【ウィキペディア】では以下のように説明されています。

****ベタ・イスラエル****
ベタ・イスラエル(Beta Israel)とはエチオピアに住むユダヤ人の呼称。エチオピアの非ユダヤ人からはファラシャと呼ばれるが、ゲエズ語では「流浪民」・「異邦人」の意味で、ベタ・イスラエルからはファラシャという呼称は「侮蔑的である」として忌避される。

エチオピア国内のベタ・イスラエルの85%以上にあたる110,700人を越える人々が帰還法によってイスラエルに移住した。帰還法は、ユダヤ人を両親や祖父母に持ち、或いはユダヤ人の子孫である者はイスラエルに居住でき市民権を得られる、という法律である。

イスラエル政府は1984年のモーゼ作戦や1991年のソロモン作戦などを実施し、内戦下のエチオピアで飢餓やデルグ政権下の中央革命捜査局による迫害に苦しんでいたベタ・イスラエルをイスラエル国内に移住させた。ベタ・イスラエルのイスラエルへの移住は少数ながら現在でも続いている。【ウィキペディア】
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そもそも、「シバの女王」にさかのぼるエチオピアの国の成り立ちが、古代イスラエルのソロモン王に結びついています。

****シバの女王****
シバの女王はシバ王国の支配者で、ソロモンの知恵を噂で伝え聞き、自身の抱える悩みを解決するために遠方の国家からエルサレムのソロモン王の元を訪れたとされる。(中略)

その統治期間はソロモン王とほぼ同時期の紀元前10世紀頃と推定される。シバ王国の所在については有力視される2つの説があり、エチオピア説によればその名をマケダ(あるいはマーキダ)と呼び、イエメン説によればビルキス(あるいはバルキス)と呼ぶ。ただし、両説ともこれを裏付ける考古学的発見は未だ皆無である。

ヘブライの神話では、ソロモン王とシバの女王からネブカドネザルが生まれたと伝えられる。エチオピア説ではさらに、ソロモン王とマケダの間に生まれた子をエチオピア帝国の始祖メネリク1世であると位置づける。しかもソロモン王がシバ王国を訪問したとされた。【ウィキペディア】
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ただ、エチオピアで信仰されてきた「ユダヤ教」は、一般的な「ユダヤ教」とは異なる部分も大きいようです。

****エチオピアの「ユダヤ人」の「人権問題」?****
エチオピアには古代キリスト教の文化習慣が色濃く残っていると言われるが、それはその地域のキリスト教への集団的「改宗」以前の「ユダヤ教」と通底するものとされている。だが、はたしてそれはいわゆる「ユダヤ教」と言えるのかどうか。

ユダヤ教は、何をさしおいても、バビロニア・タルムードを抜きには語れない。神殿崩壊と捕囚、そのディアスポラの地において編纂された聖典タルムード(律法に対するラビたちによる膨大な解釈文書群)こそが、ユダヤ教文化を形作ってきたと言える。そのタルムードが成立したのは6世紀頃と言われている。

それ以前にキリスト教化したエチオピアにおいて、現在でも「ユダヤ人」が残っている/いたとしても、彼らが信奉しているのは、「トーラー」(モーセ五書:旧約聖書の最初の五書)であって、タルムードは一切受容されていない。

それゆえに、イスラエルのラビたちの多くは、「ファラシャ」と呼ばれるエチオピアの「ユダヤ人たち」を認めていない。また、ユダヤ教徒を自任する者とキリスト教への改宗者を自任する者との線引きも限りなく曖昧にならざるをえない。

そうした中で、イスラエルは過去二度に渡り、大規模なファラシャのイスラエルへの移送作戦を実行している。1982~84年にかけての「モーセ作戦」と、1991年の「ソロモン作戦」として知られているが、それらはいずれも、エチオピアの貧困や政治混乱の中から「ユダヤ人を救い出す」という名目の「人権問題」として対外的には位置づけられていた。

それぞれの作戦で、約1万人と約1万4千人が「救出=移送」されたことで、ほぼすべてのファラシャ=「ユダヤ人」がイスラエルに移住をし、エチオピアにはもう「ユダヤ人」は残っていないとされた。

そして、イスラエルに「救出」をされたファラシャたちは、他のユダヤ人移民と比べて格段に厚遇をされて、イスラエル社会への適応を促されている、と公式見解では言われる。だが、、、(後略)【2005年12月6日 早尾貴紀氏 パレスチナ情報センター】http://palestine-heiwa.org/note2/200512061758.htm
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肌の色が違うだけでなく、信仰内容も異なるとなると、容易に“差別”がにじみ出てきます。

今朝のTVでも、エチオピアから“救出”された人々が、実際は人を避けるような入植地に追いやられているとか、今回の抗議デモでも、アラブ系住民の暴動鎮圧と同じような催涙弾などが使用されている・・・といったことが取り上げられていたようです。

“一つには、イスラエル社会の中でのファラシャへの根深い差別の問題だ。住居や進学、就職などなど、生活のあらゆる場面において、エチオピア出自のユダヤ人たちは差別を受けていると感じており、ときには国会前や首相公邸前などでデモや集会を持つ。”【同上】

エチオピア系ユダヤ人に対する差別の問題は、以前からずっと存在していたようで、ネット検索すると過去のいろんな問題が出てきます。

****イスラエル社会の最下層を構成する エチオピア系ユダヤ人****
  
●1996年1月末、エチオピア系ユダヤ人はエイズ・ウイルス感染の危険性が高いとして、「イスラエル血液銀行」が同ユダヤ人の献血した血液だけを秘密裏に全面破棄していたことが発覚した。
更にイスラエル保健相が、「彼らのエイズ感染率は平均の50倍」と破棄措置を正当化した。

●これに対して、エチオピア系ユダヤ人たちは、「エイズ感染の危険性は他の献血にも存在する。我々のみ全面破棄とは人種差別ではないか!」と猛反発。
怒り狂ったエチオピア系ユダヤ人数千人は、定期閣議が行なわれていた首相府にデモをかけ、警官隊と激しく衝突した。

イスラエル国内は騒然とした。あるユダヤ人たちは言った。
「この騒ぎは、かつてのアラブ人たちによるインティファーダ(蜂起)に匹敵するほどのものであった」と。(中略)

●『読売新聞』(1996年1月30日)は、「ユダヤ内部差別露呈」として、このことを詳しく掲載した。

「今回の事件は、歴史的、世界的に差別を受けてきたユダヤ人の国家イスラエルに内部差別が存在することを改めて浮き彫りにした。イスラエルヘの移民は1970年代に始まり、エチオピアに飢饉が起きた1984年から翌年にかけて、イスラエルが『モーセ作戦』と呼ばれる極秘空輸を実施。1991年の第二次空輸作戦と合わせ、計約6万人が移民した。

だが、他のイスラエル人は通常、エチオピア系ユダヤ人を呼ぶのに差別的な用語『ファラシャ(外国人)』を使用。

エチオピア系ユダヤ人の宗教指導者ケシムは、国家主任ラビ庁から宗教的権威を認められず、子供たちは『再ユダヤ人化教育』のため宗教学校に通うことが義務づけられている。

住居も粗末なトレーラーハウスに住むことが多くオフィス勤めなどホワイトカラーは少数に過ぎない。同ユダヤ人はイスラエル社会の最下層を構成している。」

「ヘブライ大学のシャルバ・ワイル教授は『とりわけ若者にとって、よい職業や住居を得ること以上に、イスラエル社会に受け入れられることが重要だ』と、怒りが爆発した動機を分析する。

デモ参加者は『イスラエルは白人国家か』『アパルトヘイトをやめよ』と叫んだ。『エチオピア系ユダヤ人組織連合』のシュロモ・モラ氏は『血はシンボル。真の問題は白人・黒人の問題だ』と述べ、同系ユダヤ人の置かれている状況は『黒人差別』によるとの見方を示した。」
 
●『毎日新聞』は次のように書いた。

「ユダヤ人は東欧系のアシュケナジーム、スペイン系のスファラディム、北アフリカ・中東のユダヤ社会出身のオリエント・東方系に大別され、全世界のユダヤ人人口ではアシュケナジームが過半数を占めている。

イスラエルではスファラディム、オリエント・東方系が多いが、少数派のアシュケナジームが政治の中枢を握っている。」

「エチオピア系ユダヤ人は、イスラエル軍内部でエチオピア系兵士の自殺や不審な死亡が多いと指摘するなど、イスラエル社会での差別に苦情を呈してきた。たまっていた不満に献血事件が火をつけた格好だ。」(後略)http://inri.client.jp/hexagon/floorA1F/a1f1303.html
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2013年1月には、イスラエル政府が5年前からエチオピア系のユダヤ人女性らに予防接種だと偽るなどして避妊薬を強要していたことを初めて認めた、結果的にエチオピア系ユダヤ人の社会では、過去10年間で出生率が50%も減少した・・・・といったことが話題になっています。

上記の避妊薬強要の実態・真偽は知りませんが、そういう話が出ること自体がエチオピア系ユダヤ人の置かれている社会的地位を物語るものでしょう。

迫害を逃れて建国したはずのイスラエルで、一部の人々への差別・迫害が起きるという悲しい現実・・・TVではそんんなコメントもあったような。
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アフリカ中部ブルンジ  大統領選挙の混乱からクーデター 成否は未確認 懸念される混乱拡大

2015-05-14 21:16:22 | アフリカ

(ブルンジの首都ブジュンブラで、ピエール・ヌクルンジザ大統領が追放されたとのラジオ放送を受け、通りに出て祝う人々(2015年5月13日撮影)【5月14日 AFP】)

アフリカ中部のブルンジで、大統領選挙をめぐる混乱で不穏な情勢になっていることは、4月27日ブログ「アフリカ中部ブルンジ 大統領選挙を巡る混乱 蘇る虐殺・内戦の記憶」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150427)で取り上げましたが、事態は一部軍部によるクーデターの様相を呈しているようです。

****ブルンジ軍、暫定政権樹立宣言 大統領側は否定****
アフリカ中部ブルンジで3期目の大統領選に立候補表明したヌクルンジザ大統領に対し、軍幹部は13日のラジオ放送で、大統領を政権から追放したと演説。「国家の団結を取り戻す」として暫定政権の樹立を宣言した。

一方、大統領側は「クーデターは失敗した」と主張しており、不透明な状況が続いている。AFP通信などが伝えた。

軍幹部は「(クーデターは)多くの軍や警察の高官の支持を得ている」と主張。暫定政権を設立し、「公平で平和的な選挙の実施を目指す」と述べた。

現地からの報道によると、すでに首都ブジュンブラの空港や周辺国との国境は、クーデター軍によって占拠・閉鎖されている模様。

一方、大統領府を含む主要政府機関は大統領を擁護する軍部隊で守られているという情報もある。【5月14日 朝日】
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混乱のきっかけは、前回ブログでも触れたように、現在2期目のヌクルンジザ大統領が3期目の大統領選に立候補表明したことです。

****ブルンジ大統領、3選へ出馬表明 混乱が拡大****
アフリカ中部ブルンジのヌクルンジザ大統領は6日、テレビ演説で、「信任が得られるのであれば、私の最後の任期になる」と述べ、3期目の大統領選に立候補する意思を表明した。AP通信などが伝えた。

ブルンジの憲法は大統領の再選を1度と定めている。しかし政権与党は「同氏は1期目は議会に選出されたため、民選大統領としてはもう1期可能だ」と主張。

「3期目への立候補は憲法違反だ」と反発するデモ隊と警官隊との衝突により、少なくとも10人が死亡。約3万人が混乱の拡大を恐れて隣国のルワンダなどに避難している。

同国の憲法裁判所は5日、「同氏の立候補は憲法に違反しない」との見解を示したが、副長官が「私は憲法や和平合意に反することはできない」と反対してルワンダに逃げたため、市民らは「政治的な圧力で、憲法の解釈を変えるべきではない」と裁判所の見解に強く反発。混乱が拡大している。【5月8日 朝日】
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一部軍部によるクーデターが成功したのかどうかについては情報が錯綜しており、現段階では判然としません。

****ブルンジ軍参謀長、クーデター失敗と発表 軍分裂か****
アフリカ中部ブルンジで軍高官がピエール・ヌクルンジザ大統領政権の転覆を宣言した問題で、国軍のプライム・ニヨンガボ参謀長は14日未明、クーデターの企ては失敗に終わったと発表した。
ただ、反大統領派はこの発表を否定している。

ブルンジではヌクルンジザ大統領の3選立候補に抗議する激しいデモが数週間にわたって続いていた。こうした中、大統領の任期延長に反対して今年2月に解任されていた前情報機関長官のゴドフロア・ニヨンバレ少将が13日、クーデターを宣言。首都の空港と国境の閉鎖を命じる一方、「多数」の軍や警察高官の支援を受けていると主張した。

しかし、ニヨンガボ参謀長は国営ラジオで「ニヨンバレ少将によるクーデターの試みは阻止された」と表明。大統領と大統領府は大統領派の管理下にあると明言し、「反逆者に投降を呼び掛けている」と述べた。

だが、反大統領派のベノン・ヌダバネゼ警視総監の報道官は、ニヨンガボ参謀長の主張は虚偽だと反論するとともに、首都の空港をはじめとする複数の施設を反大統領派が掌握していると主張している。

ヌクルンジザ大統領は、クーデター宣言後に周辺国首脳との会談のため訪問していたタンザニアから帰国しようとしたが、空港が反大統領派に掌握されていたため着陸できないまま、現在所在が分からなくなっている。【5月14日 AFP】
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多くのクーデターは権力者が国外に出ているときに起きていますが、今回の“クーデター”もヌクルンジザ大統領が東アフリカ首脳会議に出席するためタンザニア訪問中に起きています。
首脳会議を欠席することで政情不安を内外にさらすことを恐れたのでしょうが・・・・。

“AFP特派員と複数の目撃者によると、大統領官邸と国営放送局を含む主要施設は現在も同大統領支持派の部隊の管理下にあるという。同大統領支持派の部隊は警告射撃を行い、デモの参加者らがテレビ・ラジオ放送局の建物に向かうのを阻止した。”【5月14日 AFP】

このまま行くと、大統領派と反大統領派の間で武力衝突が起きそうな情勢ですが、更に懸念されるのは、その混乱に住民同士が関与するような事態です。

ブルンジには、隣国ルワンダ同様に、ツチ・フツの対立などを背景にした内戦・虐殺の歴史があり、しかも、その混乱がおちついてまだ数年しかたっていません。

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“1972年、少数民族のツチ族による支配に不満をもつフツ族の反乱で、1万人のツチ族を殺害されると、その報復として同年、4月から10月にかけてツチ族系の軍隊がフツ族10万人を殺害するという事件につながった”【ウィキペディア】

その後も、ツチ・フツの報復合戦、更にはフツ内部の抗争が絶えず、ヌクルンジザ大統領(フツ系)の政権とフツ系の旧反政府組織の民族解放軍の停戦合意が実現したのが2006年3月、正式和平と権力分担で合意がなされたのが2008年12月ということで、それほど昔の話ではありません。【4月27日ブログより再録】
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それだけに、情勢が注目されていたのですが・・・・

ヌクルンジザ大統領は元々フツ系武装組織の指導者で、“93~05年の間、両民族の対立から内戦に陥り、約30万人が死亡したとされる”【5月13日 毎日】とも。

今回の大統領派・反大統領派の抗争と、過去の内戦・対立がどのようにリンクしているのか、あるいは、新たな対立なのか・・・そのあたりはよくわかりません。

よくわかりませんが、大量の火薬の上での火遊びのように危険なものを感じます。
混乱が軍部内部の争いにとどまり、速やかに決着することを願います。

追記
****クーデター発生のブルンジ、首都で兵士らが激しい戦闘****
軍高官がクーデターを宣言したアフリカ中部ブルンジの首都ブジュンブラで14日、ピエール・ヌクルンジザ大統領支持派とクーデター派の部隊との間で激しい戦闘が起きた。

軍関係筋と目撃者の情報によると、大統領支持派の部隊は、国営テレビ・ラジオ局の複合施設に対する攻撃に応戦している。隣国タンザニアの当局者によると、13日のクーデター発生時に同国を訪問中だったヌクルンジザ大統領は現在、ダルエスサラーム市内の非公表の場所に滞在している。

ブジュンブラのAFP記者によると、市内では自動小銃の音や爆発音が夜通し鳴り響き、明け方にかけて激化した。市街から民間人の姿はほぼ消え、市の各地から散発的に戦闘の音が聞こえ、煙が上った。

クーデター派のスポークスマン、ベノン・ヌダバネゼ氏は、戦闘が中断した朝方にAFPの取材に応じ、「われわれは実質的に市全体を掌握している。動員されている兵士らはわれわれの側についている」と語った。

大統領支持派もまた、同市の独立系放送局に攻撃を行っており、ブルンジで影響力の大きいラジオ局「アフリカ公共ラジオ」の建物はロケット弾で砲撃され炎上した。【5月14日 AFP】
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シリア  「ヌスラ戦線」を中核とする反体制派の巻き返し アサド政権を支えてきたイランの今後

2015-05-13 22:29:05 | 中東情勢

(ダマスカス 逃げ惑う子供たち “flickr”より By Jordi Bernabeu Farrús https://www.flickr.com/photos/jordibernabeu/17490069302/in/photolist-sbeGHD-rBmXRx-swFAiq-sAVErg-rb7YK5-rRQuod-sy9VCF-sgAJ2Q-sdkX86-rxZqNk-suNvVi-suLxZP-sdQsH5-s95dBA-ryBomV-rRQBzC-s9gsn5-rRPcws-rRQCs9-sDxbg1-rRPbU5-scHPLS-sqQXhv-s9gw5q-rRXCMn-rRQDiY-rRPn6s-rcpD41-s9pDx8-s9mwcZ-rcpBa1-rcBe6g-rQ5EtK-rRQvCh-rRPgYU-rQ5BN4-rQ5Bhe-rRQsV3-rRQsff-rQ5z7c-s9ptM6-s9mms8-s2PoTz-s2PsNP-rN8XQ5-sdm5NB-suNwB8-sdQsSy-sdQsMJ-rUi3uz)

アサド政権側に危機感
シリア情勢については、3月15日ブログ“シリア内戦、5年目に IS台頭で浮上するアサド政権容認を前提とした「安定」の模索”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150315)で、イスラム過激派ISの活動が続く中で、アサド政権は権力基盤を強化し、国際社会で「アサド政権との協力は不可欠」との考えが目立ってきていることを取り上げました。

また、4月15日ブログ“混迷の度を深めるイラク・シリア情勢 アルカイダ系「ヌスラ戦線」の台頭など”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150415)では、アルカイダ系イスラム過激派「ヌスラ戦線」が反アサド勢力を取りまとめる形で、アサド政権支配地域を攻略し始めたことを取り上げました。


たまたまですが、ほぼ1か月おきにシリア情勢を取り上げているような形になっていますが、今日の話は前回ブログの続きみたいな話になります。

これまではISの存在によって、反体制派とISが争い、国際社会の関心もISに移るなかで、アサド政権は漁夫の利を得るような形で、戦局的にも、国際的にも存在感を強めてきました。

しかし、アルカイダ系「ヌスラ戦線」を中心とした反アサド勢力の糾合によって、アサド政権は苦しい立場に、一方、今度はISが漁夫の利を得るような立場に立ってきている・・・とのことです。

****<シリア>反体制派が巻き返し ISに「漁夫の利」も****
内戦が続くシリアで、反体制派が国際テロ組織アルカイダ系「ヌスラ戦線」と連携し、北西部イドリブ県や南部ダルアー県でアサド政権への攻勢を強めている。

政権優位の戦況を覆したいサウジアラビアやトルコが、反体制派のてこ入れを図ったとの見方が強い。一方、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)にとっては、「漁夫の利」を得やすい状況になっている。

「戦争には勝利もあれば敗北もある。必要な時は撤退することもある」。シリアのアサド大統領は今月6日、内戦で死亡した政府軍兵士の遺族らと面会し、こう述べた。イドリブ県ジスルシュグルの病院で反体制派勢力の攻撃を受けている部隊にも言及し、「間もなく援軍が着くはずだ」とも述べた。

アサド大統領が個別の戦況に言及するのは異例だ。海外メディアで政府軍の劣勢が伝えられていることを念頭に、「(現況に)不満を持つことは敗北の始まりになる。精神的な敗北は命取りになる」と支持者を鼓舞した。

政権側が危機感を抱く背景には、3月以降の反体制派の躍進がある。イドリブ県では、欧米と距離を置くイスラム主義勢力主体の「ファトフ(征服)軍」が3月に結成され、県都イドリブを政権側から奪取。ヌスラ戦線や、親欧米の反体制派武装組織「自由シリア軍」なども協力し、大統領一族の出身地ラタキア県への進攻を図る。

ダルアー県でも4月、親米反体制派勢力を結集した「南部戦線」やヌスラ戦線がヨルダン国境のナシブ検問所を制圧した。同検問所は政権側が保持するヨルダンとの唯一の主要ルートだっただけに大きな戦果となった。

これまで反体制派は組織が乱立し、統一した指揮系統がないため、ISや政権側に対して劣勢だった。ファトフ軍や南部戦線は、有力組織が結束すれば政権側に対抗できることを実証した。

反体制派の糾合を後押ししたとみられるのが、サウジとトルコだ。両国は反体制派の主要支援国だが、サウジは世俗派、トルコはイスラム勢力と近く、支援国の違いが反体制派内の派閥争いを生む一因となってきた。

1月に即位したサウジのサルマン国王は、アサド政権を支援するイスラム教シーア派国家イランや、既存の支配体制を否定するISとの対決を念頭に、穏健なスンニ派が主流の中東諸国との連携を重視している模様。3月にはトルコのエルドアン大統領と会談するなど、連携強化を図っているとみられる。

一方、シリアの西側でアサド政権と反体制派の攻防が激化しているのに乗じて、東側を支配するISは勢力拡大を狙っている。4月に首都ダマスカス近郊のヤルムーク地区の一部を制圧し、政権中枢近くで軍事作戦を展開する力を見せた。ヨルダン国境の南部スウェイダ県でも攻勢に出ている。

エジプトのシンクタンク・アハラム政治戦略研究所のヨスリ・エズバウィ氏は「サウジの新体制は、親イラン勢力との対決を優先課題に据えている。トルコと連携したシリア反体制派への支援強化もその一環だ」と指摘している。【5月10日 毎日】
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アサド大統領も言及したシリア北西部ジスルシュグルでは、政府軍部隊と「ヌスラ戦線」を中心とした反体制派武装勢力の間で激しい戦闘が行われたようです。

****北西部交戦で72人死亡=シリア****
シリア北西部ジスルシュグルで10~11日、政府軍部隊と反体制派武装勢力が衝突し、双方合わせて少なくとも72人が死亡した。AFP通信が在英のシリア人権監視団の情報として伝えた。

ジスルシュグルは2週間ほど前に国際テロ組織アルカイダ系の反体制派「ヌスラ戦線」などが制圧した。ただ、一部区画にアサド政権支持派が取り残されており、政府軍が救出を図ったところ、反体制派側と激しい交戦になったという。【5月11日 時事】 
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政府軍は“救出作戦”ということで、“奪還作戦”ではないようです。

イランにとってアサド大統領は“お荷物”?】
穏健派・世俗派をサウジアラビアが、イスラム勢力・過激派をトルコが支援するのに対し、アサド政権を支援するのがイランで、一時劣勢にあったアサド政権が、イランと、やはりイランに後押しされるヒズボラの支援で選挙区を有利に立て直してきたのは周知のところです。

そのアサド政権とイラン・ヒズボラの関係がどうなっているのか・・・については、あまり言及したものがありませんでしたが、下記記事はその点に触れて興味深いものになっています。

****シリアの命運を左右する アサド政権の団結力とイランの支援****
4月4日 -10日号の英エコノミスト誌は、イランの支援にもかかわらず、シリアのアサド政権は弱体化しつつある、と報じています。

すなわち、3月28日、シリアでは、長い攻防の末、反政府勢力が北部の都市、イドリブを制圧した。内戦になって4年、反政府側が手中にした2つ目の主要都市だ。1つ目のラッカは、「イスラム国」(IS)が獲得し、カリフ国の「首都」にしている。

反政府側が勢いづいていることは、アサド側の弱体化を示唆する。アサド、そしてイランとヒズボラは、西側の注意がISとの戦いに向けられているにも拘らず、今の支配領域を維持するのに苦労している。

政府軍は、ヒズボラのおかげで西部では地歩を固めつつあるが、支配領域の東側はISに侵食され、南部では、イランやヒズボラがダマスカス周辺の防衛に注力しているため、穏健反政府勢力が徐々に優勢になりつつある。

しかし、こうした反政府側の勝利が、米国による反政府派への支援強化につながることはなさそうだ。特に、アルカイダ系過激武装組織、ヌスラ戦線がいるイドリブへの支援はないだろう。

シリアの命運は、アサド政権の団結力とイランの支援に、ますます左右されることになりそうだ。
しかし、シリア兵はイランやヒズボラが検問所を設けて自分たちを統制することに苛立っている。また、シリア兵と反政府勢力は以前から気脈を通じており、弾薬の売買や、戦わない約束をしたりしている。

このように、アサドの立場は空洞化が進み、軍事的主導権はイランが握りつつある。こうした状況は交渉への道を開くかもしれない。

なぜなら、今に至っても、軍事的決着はつきそうにないからだ。何が何でも権力にしがみつきたいアサドと違い、イランはより現実的で、アサドをお荷物と見ている気配がある。

また、イラン核協議が上手くいけば、シリアでも事態は解決へと動き出すのではないかとの期待も一部にはある。ヒズボラのある司令官は、「いずれアサドはお払い箱だ。イランは適切な時機を待っているだけだろう」と言っている、と報じています。(後略)【5月13日 WEDGE】
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イランも、核開発問題での欧米との交渉、イエメンでのフーシ派支援など多忙で、いつまでもシリア・アサド政権の面倒をみている訳にもいかない・・・・というところもあるのかも。

自国の影響力確保にかかわるイランはまだしも、イランに動員されたレバノンのヒズボラは、本来の敵はイスラエルであり、シリアで多大な犠牲を払い続けることは組織的な問題を起こすことも考えられます。

反体制派勢力の軍事訓練を始めたアメリカも、アサド政権が崩壊して、結果、イスラム過激派「ヌスラ戦線」やISが実権を握るような形は望まないはずです。

現実問題としても、支援する反体制派がシリアで優勢を確保するのは困難、あるいは無理な情勢にあり、アサド政権を交渉相手とするほかないとも言えます。

****シリア情勢】米軍がシリア反体制派へ訓練開始、アサド政権を「容認」せざるを得ないジレンマ****
・・・・米政府は、イラクでは政府を支援して掃討作戦を展開しているが、シリアではアサド政権と敵対している。そのため、訓練によって強化される反体制派の掃討作戦を、空爆で支援する計画を立てている。

ただ、穏健派が短期間でイスラム国やアサド政権に対して優勢を確保するのは困難とみられている。

米軍の制服組トップであるデンプシー統合参謀本部議長は記者会見で、「シリア情勢がより複雑化する可能性がある」と予測し、政権側に和平交渉のテーブルに着くよう促した。

掃討作戦が「3年以内に完了するとは確約できない」(カーター氏)と見込まれる中、イスラム国打倒のため、当面はアサド政権を交渉当事者とみなし、自制を促すしかないのが実情だ。【5月10日 産経】
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もし、英エコノミスト誌が報じたように、イランがアサド大統領続投にこだわらない姿勢を見せれば、アメリカとイランの妥協、アサド抜きの政府側と反政府勢力の合意という形も現実味を増します。
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アメリカ・ケリー国務長官のロシア訪問 関係国への影響力低下も見える両国

2015-05-12 22:08:54 | 国際情勢

(対独戦勝70周年記念式典でモスクワでの軍事パレードに参加するプーチン大統領と習近平主席 左はカザフスタンのナザルバエフ大統領 習近平主席は以前、安倍首相と握手した際の無表情が話題になりましたが、この日のつまらなさそうな表情はたまたまと言うか、地顔なのでしょう。【写真:5月11日 廣瀬陽子氏 WEDGE】)

和解へ向けた第一歩となるのは難しい情勢
ロシアのプーチン大統領はロシアのソチで12日にアメリカのケリー国務長官と会談し、ウクライナ問題で緊張が続く中、重要な協議を行うとみられています。

アメリカ側はケリー氏のソチ訪問について、「ロシア高官との直接的な対話ルートを維持し、わが国の見解を明確に伝達していく継続的努力の一環として行う」と説明。

一方ロシア外務省は、「ケリー米国務長官のロシア訪問が、世界の安定を大きく左右する露米二国間関係の正常化に寄与してくれることを期待している」とコメント。

“ロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナ東部の分離独立派への支援を開始したことを受けて米露関係は崩壊したが、緊張状態も1年が過ぎ、ロシアと欧米の双方で雪解けを目指していく準備が整ってきた兆しが見え始めている。”【5月12日 AFP】との期待もありますが、両者の溝は深く、直ちに事態が動く状況にはありません。

****<ロシア>米国務長官の訪問…プーチン政権雪解けはまだ先か****
ロシアがケリー米国務長官の訪問を受け入れたのは、ウクライナ問題でロシアが孤立を深める中、米国との関係改善を図りたいためとみられる。

だが、今回の会談でプーチン政権は「対露制裁(緩和)についてロシア側から持ちかけるつもりはない」(ペスコフ露大統領報道官)と強気の姿勢を維持しており、ケリー氏の訪露が和解へ向けた第一歩となるのは難しい情勢だ。

一方で、対露強硬路線の先頭に立っていた米国の国務長官が訪露したことで、過去1年間訪露を避けていた岸田文雄外相を含め、ロシアとの関係改善を探る動きが各国で活発化する可能性もある。

プーチン政権は9日の対独戦勝70周年記念式典で、中国の習近平国家主席ら友好国20カ国の首脳を招き、欧米への対抗姿勢を明確にした。会場の赤の広場にはロシア軍の「勝利」を祝う市民約50万人がデモ行進して結集し、国民のプーチン大統領への支持と団結ぶりもアピールしたばかり。愛国心が高揚している今、ロシア側が欧米への妥協姿勢を見せられる状況にない。

ロシア外務省は11日、米露外相会談の実施を発表した論評の中で、オバマ米政権について「ウクライナ危機への根拠なき責任をロシアに押し付け、わが国を国際社会の中で孤立させてきた」と激しく非難した。

また、北大西洋条約機構(NATO)が東欧などでの部隊配置を拡大しているうえ、クリミア半島のある黒海で米艦船が頻繁に航行していると指摘。ロシアと欧米の軍事的な対立を米国側があおっているとのロシア側の主張を改めて示した。強気で米側と向き合う姿勢だ。(後略)【5月12日 毎日】
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ロシア周辺国で強まる反ロシア意識
そのロシア・アメリカ双方とも、関係国のとの間では微妙なズレが目につき始めています。

ロシアは9日の対独戦勝70周年記念式典で“国民のプーチン大統領への支持と団結ぶりもアピールした”訳ですが、ドイツ・メルケル首相が翌日10日にプーチン大統領とモスクワの無名戦士の墓を訪問するなどのロシアへの一定の配慮は示してはいますが、記念式典には欧米主要国や日本や韓国など主要国の欠席が目立ち、出席は20カ国にとどまりました。

その一方で、存在感を示したのが中国の習近平国家主席で、良好な関係を世界にアピールする形となっています。

“プーチン・習両氏は式典前日の8日に首脳会談を行い、ともに第2次世界大戦の戦勝国として、歴史のわい曲を許さないという立場を再確認したほか、ロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」と、中国が陸と海に新たなシルクロードをつくる「一帯一路」構想を連携して進めることでも一致した。”【5月11日 廣瀬陽子氏 WEDGE】

もっとも、習近平主席はロシア訪問の前後にロシアにとって重要国であるカザフスタンとベラルーシを訪問することで、“ロシアの勢力圏、しかも「盟友」に足を踏み入れる中国の動きがロシアにとっては面白くないことは間違いない”【同上】とも。

****中国、旧ソ連・カザフスタンに接近 ロシアの影響力低下か****
旧ソ連・カザフスタンに中国が接近している。中国西部と国境を接し、豊富な資源を有するカザフは、中国が提唱する新シルクロード経済圏構想で重要な位置を占める。

ロシアは旧ソ連諸国への中国の影響力浸透を警戒しているが、中国の存在感の高まりに対抗しがたいのが実情のようだ。(中略)

加盟でお墨付き
中国の習近平国家主席はカザフを訪れた13年9月、シルクロード構想を打ち出した。カザフの対中輸出額は過去数年で倍増しており、中国による旧ソ連諸国への直接投資の大半はカザフの資源開発向けとされる。(中略)

カザフも中国と歩調を合わせる。ナザルバエフ大統領は14年12月、シルクロード構想に対する全面的な支持を表明。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も真っ先に決めた。

アルマトイのビジネスコンサルタント、イブラギム氏(44)は、AIIB加盟により、カザフ政府はあらゆる開発計画に中国が積極的に参加するという“お墨付き”を得た、と考えていると分析する。

ロシアの低迷
カザフは旧ソ連諸国の連合体により発展を目指す青写真を描いていた。ロシアなどと発足させた「ユーラシア経済連合」がそれだ。

しかしウクライナ問題を背景に中心となるロシアの経済が失速。将来的な政治連合への発展をもくろむとされるロシアのプーチン大統領と、主権侵害を懸念するナザルバエフ氏の対立も指摘されている。

ただ、アルファラビ・カザフ国立大東洋学部のサパノフ教授(52)は、ロシアなどとの経済連合からの離脱は「最悪のシナリオ」だと警告する。

ロシア系住民が多数居住しているカザフ北部で、ウクライナ東部のように「(中央政府からの)分離独立を求める動きが強まりかねない」からだ。

同氏は、「ロシアの指導部次第だ」とも述べ、ロシアがそうした動きをたきつける危険性を示唆した。

しかし、そのロシアも3月末、AIIBへの参加を表明。露財務省幹部はインタファクス通信に「東部(極東)開発に融資を活用するためだ」と明かした。

ロシアの顔色をうかがいつつ、中国との関係を深めるカザフ。ロシアの影響力低下により、旧ソ連圏に対する中国の浸透がさらに加速しそうだ。【5月8日 産経】
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欧米諸国との溝、中国との蜜月アピール・・・このあたりは想定内の話ですが、本来ロシアが“勢力圏”あるいは“盟友”と頼む国々で「ロシア離れ」の動きも見えているのが、ロシアにとっては気がかりなところでしょう。

****ロシアの戦勝70周年記念日 したたかな習近平と親欧米国にとどまらないロシア離れ****
進むロシア離れ
他方、今回の戦勝記念日はロシア周辺国の反露意識が目立ったという特徴もある。主だった例をあげる。

まず、ポーランドは7日夜に、ナチス・ドイツが1939年9月 1日の第2次大戦開戦時に攻撃した北部グダニスクで、終戦70年の記念式典を開催した。

これまで、記念日はロシアと同じ9日だったが、ウクライナ危機で反露意識が高まったため、西欧諸国と同じ8日に今年から変更し、関連行事を7日から始めたのである。式典にはウクライナのポロシェンコ大統領や国連の潘事務総長も出席した。

また、ウクライナも今年から対独戦勝記念日を9日から8日に変更した。さらに、それまでは対独戦を「大祖国戦争」と呼んでいたが、それがソ連風・ロシア風であるため、今年の4月に「第二次大戦」と呼称を変えることが決まっていた。

そしてポロシェンコ大統領は、ヒトラーとスターリンが欧州分断を企て、流血の第二次大戦が始まったとして、元々は自らも所属していたソ連の戦争責任を激しく批判した。

加えて、ロシアとはもっとも緊密な関係にあると言って良いベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシアの式典への欠席を早々に表明したこともロシアにとっては許しがたい状況であったと思われる。

式典欠席の理由としては「首都ミンスクで同様の式典があるため」だと主張しているが、ロシアとベラルーシは密な関係を持っているとはいえ、時に接近と離反を繰り返してきた経緯があり、ベラルーシとしては、欧米の反応をも加味して欠席に踏み切ったと考えられる。

だが、カザフスタン、アルメニアはもとより、ロシアとの関係が若干微妙なアゼルバイジャンですら、首相が式典に参加していることを考えると、ルカシェンコの欠席はやはり目立つのである。

さらに、旧ソ連地域全体として、「ロシア的」な戦勝記念日からの逃避が目立っているように思われる。
たとえば、今年から旧ソ連地域の多くで、冒頭で触れた「セント・ジョージ」のリボンを避け始めるという現象が目立つようになった。

ウクライナは、同国の旗の色(水色・黄色)のリボンとケシの花をモチーフにしたシンボルを用いた。

ベラルーシのルカシェンコも「セント・ジョージ」に代わるシンボルを作るよう明示、リンゴの花とベラルーシの旗の色(赤・緑)のリボンで新しいシンボルが作られた。

また、国内に親ロシア的な未承認国家(「未承認国家」については筆者のインタビュー参照)・沿ドニエストルを抱えるモルドヴァは、「セント・ジョージ」のシンボルを用いた場合、個人であれば最大120ドル、公職にあるものであれば最大250ドルの罰金を課すという法案が提出された。

モルドヴァ人にとって、「セント・ジョージ」は沿ドニエストルのシンボル、すなわち分離独立、無法、混乱、損失のシンボルとしてインプットされているようである。

親欧米路線でない国々でもロシア離れが
極端な親欧米路線でない国々にもロシア離れの傾向が目出つ。

カザフスタンは金・青のモチーフの新しい勝利の日のリボンを作成した。
キルギスも国旗の色である赤と黄色のモチーフを作成して主要都市での記念行事に臨んだ。
タジキスタンの若者や知識人は、非公式なロシアの影響力拡大を阻止するために、セント・ジョージリボンを禁止する方向で議論が勧められている。
ウズベキスタンも、緑をモチーフに記念行事の準備が進められた。
アルメニアも忘れな草をモチーフとした2015年のアルメニア大虐殺の100周年記念のためのシンボルを利用した。

このように、ロシアの戦勝記念日をめぐっては、ロシアの国内・国際政治のみならず、多くの国々で様々なドラマがあった。

「大祖国戦争」はソ連の国威高揚には大きな意味を持ったが、自分たちの独自のナショナリズムの構築を未だに進めているソ連からの独立国にとっては、「大祖国戦争」をロシア的に祝うことに大きな抵抗感があることもよくわかる。他方、その式典が、世界の諸国の構造の縮図となっていたこともまた興味深い。

依然としてウクライナ情勢は不透明であり、ロシアと欧米の間の緊張も当面は続くが、戦勝記念日およびそれをめぐる動きにおける各国の振る舞い、対応は今後を読み解くうえでの一つの鍵となるだろう。【5月11日 廣瀬陽子氏 WEDGE】
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サウジアラビア 異例の「ドタキャン」】
一方のアメリカも、イスラエル・ネタニヤフ首相との関係悪化に続いて、サウジアラビアとの関係など中東での立ち位置が微妙になっています。

13、14日に米ワシントンなどで開かれる湾岸協力会議(GCC、ペルシャ湾岸6カ国で構成)首脳会議に、最重要国サウジアラビアなど4カ国首脳が欠席して代理を出席させる・・・ということで、アメリカへの不満を示しています。

****<湾岸協力会議>4首脳欠席「アラブの肘鉄砲」 米メディア****
オバマ米大統領肝煎りの湾岸協力会議(GCC、ペルシャ湾岸6カ国で構成)首脳会議に、筆頭格サウジアラビアなど4カ国が首脳以外の代理出席となったことで、複数の米主要メディアや中東専門家は11日、「オバマ政権の中東政策に不満なアラブ首脳らが肘鉄砲を食わせた」との見方を示した。

これに対しホワイトハウスや国務省の報道官は会見で「適切な人物が出席する」「首脳出席は期待していなかった」との主張を展開、打撃は少ないとの演出を図った。

ホワイトハウスによると、サウジのサルマン国王は同日、オバマ大統領に電話で欠席をわび、治安や国防を担当する正副皇太子が代わりに出席すると伝達。GCCが地域の脅威に共同で対処する能力の必要性で合意した。

サウジ国王欠席について米戦略国際研究所(CSIS)のジョン・アルターマン上級副所長兼中東部長は「(米)大統領に盾突いても問題ないと考える人々」の事例の一つだとして、米議会演説でオバマ政権のイラン核交渉を批判したイスラエルのネタニヤフ首相になぞらえた。

米ブルッキングス研究所のブルース・リーデル上級フェロー(中東担当)は、サウジは「米国の中東政策に対する信頼の欠如を示す明確なシグナル」を送ったと見る。

特に、核問題でのイランとの「和解」を求める姿勢や、イエメン、シリア情勢での対応に不満を募らせていると分析した。

アーネスト報道官はGCC首脳会議の事前調整でも懸念の表明はなかったと説明。代理出席の諸国からはオバマ氏と会談経験のある治安や国防の責任者らが出席するとして、米国との安保協力の深化、近代化を協議する上で問題はないと主張した。国務省のハーフ報道官代行は「全首脳の出席は期待していなかった」と述べた。【5月12日 毎日】
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サウジアラビアの他、バーレーンも皇太子が代理出席すると発表していますが、理由は明示されていません。
また、首脳が健康問題を抱えるアラブ首長国連邦(UAE)とオマーンも代理出席になり、首脳の出席はクウェートのサバハ首長とカタールのタミム首長のみとなりました。

****<湾岸協力会議>サウジなど4首脳欠席 米政権に不信感****
・・・・GCC筆頭格のサウジは近年、イランを巡る対応で、米国への不信感を強めてきた。

2013年に米国は親イランのシリア・アサド政権への軍事行動を直前で回避。反体制派を支援するサウジは失望したとされる。

米欧など6カ国とイランとの核協議でも4月、イランの核開発凍結と対イラン制裁緩和など解決の方向性を定めた枠組み合意に達し、6月末を期限に最終合意を目指している。

サウジなどはイランの核開発を完全に阻止することを求め、経済制裁緩和などで安易な妥協をしないよう強く求めている。

ヨルダン大学戦略研究所のムーサ・シュテイウィー所長(国際政治)は「湾岸諸国には、イランが核武装や中東での影響力拡大といった野心を抱いているとの疑いが強い。単に米国が対イラン政策を説明し、湾岸諸国に納得を求めるだけなら、国王自ら行くまでもないと判断した可能性がある」と指摘している。【5月12日 毎日】
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もちろん、イエメンでの空爆停止期間(12日から5日間)が始まるといった国内事情はあるにしても、異例の「ドタキャン」には強い不満がこめられているように思われます。

ロシア・アメリカ、それぞれの指導力の低下、中国の台頭・・・という国際状況を受けて行われるケリー米国務長官のロシア訪問です。
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