孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・ケリー国務長官のロシア訪問 関係国への影響力低下も見える両国

2015-05-12 22:08:54 | 国際情勢

(対独戦勝70周年記念式典でモスクワでの軍事パレードに参加するプーチン大統領と習近平主席 左はカザフスタンのナザルバエフ大統領 習近平主席は以前、安倍首相と握手した際の無表情が話題になりましたが、この日のつまらなさそうな表情はたまたまと言うか、地顔なのでしょう。【写真:5月11日 廣瀬陽子氏 WEDGE】)

和解へ向けた第一歩となるのは難しい情勢
ロシアのプーチン大統領はロシアのソチで12日にアメリカのケリー国務長官と会談し、ウクライナ問題で緊張が続く中、重要な協議を行うとみられています。

アメリカ側はケリー氏のソチ訪問について、「ロシア高官との直接的な対話ルートを維持し、わが国の見解を明確に伝達していく継続的努力の一環として行う」と説明。

一方ロシア外務省は、「ケリー米国務長官のロシア訪問が、世界の安定を大きく左右する露米二国間関係の正常化に寄与してくれることを期待している」とコメント。

“ロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナ東部の分離独立派への支援を開始したことを受けて米露関係は崩壊したが、緊張状態も1年が過ぎ、ロシアと欧米の双方で雪解けを目指していく準備が整ってきた兆しが見え始めている。”【5月12日 AFP】との期待もありますが、両者の溝は深く、直ちに事態が動く状況にはありません。

****<ロシア>米国務長官の訪問…プーチン政権雪解けはまだ先か****
ロシアがケリー米国務長官の訪問を受け入れたのは、ウクライナ問題でロシアが孤立を深める中、米国との関係改善を図りたいためとみられる。

だが、今回の会談でプーチン政権は「対露制裁(緩和)についてロシア側から持ちかけるつもりはない」(ペスコフ露大統領報道官)と強気の姿勢を維持しており、ケリー氏の訪露が和解へ向けた第一歩となるのは難しい情勢だ。

一方で、対露強硬路線の先頭に立っていた米国の国務長官が訪露したことで、過去1年間訪露を避けていた岸田文雄外相を含め、ロシアとの関係改善を探る動きが各国で活発化する可能性もある。

プーチン政権は9日の対独戦勝70周年記念式典で、中国の習近平国家主席ら友好国20カ国の首脳を招き、欧米への対抗姿勢を明確にした。会場の赤の広場にはロシア軍の「勝利」を祝う市民約50万人がデモ行進して結集し、国民のプーチン大統領への支持と団結ぶりもアピールしたばかり。愛国心が高揚している今、ロシア側が欧米への妥協姿勢を見せられる状況にない。

ロシア外務省は11日、米露外相会談の実施を発表した論評の中で、オバマ米政権について「ウクライナ危機への根拠なき責任をロシアに押し付け、わが国を国際社会の中で孤立させてきた」と激しく非難した。

また、北大西洋条約機構(NATO)が東欧などでの部隊配置を拡大しているうえ、クリミア半島のある黒海で米艦船が頻繁に航行していると指摘。ロシアと欧米の軍事的な対立を米国側があおっているとのロシア側の主張を改めて示した。強気で米側と向き合う姿勢だ。(後略)【5月12日 毎日】
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ロシア周辺国で強まる反ロシア意識
そのロシア・アメリカ双方とも、関係国のとの間では微妙なズレが目につき始めています。

ロシアは9日の対独戦勝70周年記念式典で“国民のプーチン大統領への支持と団結ぶりもアピールした”訳ですが、ドイツ・メルケル首相が翌日10日にプーチン大統領とモスクワの無名戦士の墓を訪問するなどのロシアへの一定の配慮は示してはいますが、記念式典には欧米主要国や日本や韓国など主要国の欠席が目立ち、出席は20カ国にとどまりました。

その一方で、存在感を示したのが中国の習近平国家主席で、良好な関係を世界にアピールする形となっています。

“プーチン・習両氏は式典前日の8日に首脳会談を行い、ともに第2次世界大戦の戦勝国として、歴史のわい曲を許さないという立場を再確認したほか、ロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」と、中国が陸と海に新たなシルクロードをつくる「一帯一路」構想を連携して進めることでも一致した。”【5月11日 廣瀬陽子氏 WEDGE】

もっとも、習近平主席はロシア訪問の前後にロシアにとって重要国であるカザフスタンとベラルーシを訪問することで、“ロシアの勢力圏、しかも「盟友」に足を踏み入れる中国の動きがロシアにとっては面白くないことは間違いない”【同上】とも。

****中国、旧ソ連・カザフスタンに接近 ロシアの影響力低下か****
旧ソ連・カザフスタンに中国が接近している。中国西部と国境を接し、豊富な資源を有するカザフは、中国が提唱する新シルクロード経済圏構想で重要な位置を占める。

ロシアは旧ソ連諸国への中国の影響力浸透を警戒しているが、中国の存在感の高まりに対抗しがたいのが実情のようだ。(中略)

加盟でお墨付き
中国の習近平国家主席はカザフを訪れた13年9月、シルクロード構想を打ち出した。カザフの対中輸出額は過去数年で倍増しており、中国による旧ソ連諸国への直接投資の大半はカザフの資源開発向けとされる。(中略)

カザフも中国と歩調を合わせる。ナザルバエフ大統領は14年12月、シルクロード構想に対する全面的な支持を表明。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も真っ先に決めた。

アルマトイのビジネスコンサルタント、イブラギム氏(44)は、AIIB加盟により、カザフ政府はあらゆる開発計画に中国が積極的に参加するという“お墨付き”を得た、と考えていると分析する。

ロシアの低迷
カザフは旧ソ連諸国の連合体により発展を目指す青写真を描いていた。ロシアなどと発足させた「ユーラシア経済連合」がそれだ。

しかしウクライナ問題を背景に中心となるロシアの経済が失速。将来的な政治連合への発展をもくろむとされるロシアのプーチン大統領と、主権侵害を懸念するナザルバエフ氏の対立も指摘されている。

ただ、アルファラビ・カザフ国立大東洋学部のサパノフ教授(52)は、ロシアなどとの経済連合からの離脱は「最悪のシナリオ」だと警告する。

ロシア系住民が多数居住しているカザフ北部で、ウクライナ東部のように「(中央政府からの)分離独立を求める動きが強まりかねない」からだ。

同氏は、「ロシアの指導部次第だ」とも述べ、ロシアがそうした動きをたきつける危険性を示唆した。

しかし、そのロシアも3月末、AIIBへの参加を表明。露財務省幹部はインタファクス通信に「東部(極東)開発に融資を活用するためだ」と明かした。

ロシアの顔色をうかがいつつ、中国との関係を深めるカザフ。ロシアの影響力低下により、旧ソ連圏に対する中国の浸透がさらに加速しそうだ。【5月8日 産経】
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欧米諸国との溝、中国との蜜月アピール・・・このあたりは想定内の話ですが、本来ロシアが“勢力圏”あるいは“盟友”と頼む国々で「ロシア離れ」の動きも見えているのが、ロシアにとっては気がかりなところでしょう。

****ロシアの戦勝70周年記念日 したたかな習近平と親欧米国にとどまらないロシア離れ****
進むロシア離れ
他方、今回の戦勝記念日はロシア周辺国の反露意識が目立ったという特徴もある。主だった例をあげる。

まず、ポーランドは7日夜に、ナチス・ドイツが1939年9月 1日の第2次大戦開戦時に攻撃した北部グダニスクで、終戦70年の記念式典を開催した。

これまで、記念日はロシアと同じ9日だったが、ウクライナ危機で反露意識が高まったため、西欧諸国と同じ8日に今年から変更し、関連行事を7日から始めたのである。式典にはウクライナのポロシェンコ大統領や国連の潘事務総長も出席した。

また、ウクライナも今年から対独戦勝記念日を9日から8日に変更した。さらに、それまでは対独戦を「大祖国戦争」と呼んでいたが、それがソ連風・ロシア風であるため、今年の4月に「第二次大戦」と呼称を変えることが決まっていた。

そしてポロシェンコ大統領は、ヒトラーとスターリンが欧州分断を企て、流血の第二次大戦が始まったとして、元々は自らも所属していたソ連の戦争責任を激しく批判した。

加えて、ロシアとはもっとも緊密な関係にあると言って良いベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシアの式典への欠席を早々に表明したこともロシアにとっては許しがたい状況であったと思われる。

式典欠席の理由としては「首都ミンスクで同様の式典があるため」だと主張しているが、ロシアとベラルーシは密な関係を持っているとはいえ、時に接近と離反を繰り返してきた経緯があり、ベラルーシとしては、欧米の反応をも加味して欠席に踏み切ったと考えられる。

だが、カザフスタン、アルメニアはもとより、ロシアとの関係が若干微妙なアゼルバイジャンですら、首相が式典に参加していることを考えると、ルカシェンコの欠席はやはり目立つのである。

さらに、旧ソ連地域全体として、「ロシア的」な戦勝記念日からの逃避が目立っているように思われる。
たとえば、今年から旧ソ連地域の多くで、冒頭で触れた「セント・ジョージ」のリボンを避け始めるという現象が目立つようになった。

ウクライナは、同国の旗の色(水色・黄色)のリボンとケシの花をモチーフにしたシンボルを用いた。

ベラルーシのルカシェンコも「セント・ジョージ」に代わるシンボルを作るよう明示、リンゴの花とベラルーシの旗の色(赤・緑)のリボンで新しいシンボルが作られた。

また、国内に親ロシア的な未承認国家(「未承認国家」については筆者のインタビュー参照)・沿ドニエストルを抱えるモルドヴァは、「セント・ジョージ」のシンボルを用いた場合、個人であれば最大120ドル、公職にあるものであれば最大250ドルの罰金を課すという法案が提出された。

モルドヴァ人にとって、「セント・ジョージ」は沿ドニエストルのシンボル、すなわち分離独立、無法、混乱、損失のシンボルとしてインプットされているようである。

親欧米路線でない国々でもロシア離れが
極端な親欧米路線でない国々にもロシア離れの傾向が目出つ。

カザフスタンは金・青のモチーフの新しい勝利の日のリボンを作成した。
キルギスも国旗の色である赤と黄色のモチーフを作成して主要都市での記念行事に臨んだ。
タジキスタンの若者や知識人は、非公式なロシアの影響力拡大を阻止するために、セント・ジョージリボンを禁止する方向で議論が勧められている。
ウズベキスタンも、緑をモチーフに記念行事の準備が進められた。
アルメニアも忘れな草をモチーフとした2015年のアルメニア大虐殺の100周年記念のためのシンボルを利用した。

このように、ロシアの戦勝記念日をめぐっては、ロシアの国内・国際政治のみならず、多くの国々で様々なドラマがあった。

「大祖国戦争」はソ連の国威高揚には大きな意味を持ったが、自分たちの独自のナショナリズムの構築を未だに進めているソ連からの独立国にとっては、「大祖国戦争」をロシア的に祝うことに大きな抵抗感があることもよくわかる。他方、その式典が、世界の諸国の構造の縮図となっていたこともまた興味深い。

依然としてウクライナ情勢は不透明であり、ロシアと欧米の間の緊張も当面は続くが、戦勝記念日およびそれをめぐる動きにおける各国の振る舞い、対応は今後を読み解くうえでの一つの鍵となるだろう。【5月11日 廣瀬陽子氏 WEDGE】
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サウジアラビア 異例の「ドタキャン」】
一方のアメリカも、イスラエル・ネタニヤフ首相との関係悪化に続いて、サウジアラビアとの関係など中東での立ち位置が微妙になっています。

13、14日に米ワシントンなどで開かれる湾岸協力会議(GCC、ペルシャ湾岸6カ国で構成)首脳会議に、最重要国サウジアラビアなど4カ国首脳が欠席して代理を出席させる・・・ということで、アメリカへの不満を示しています。

****<湾岸協力会議>4首脳欠席「アラブの肘鉄砲」 米メディア****
オバマ米大統領肝煎りの湾岸協力会議(GCC、ペルシャ湾岸6カ国で構成)首脳会議に、筆頭格サウジアラビアなど4カ国が首脳以外の代理出席となったことで、複数の米主要メディアや中東専門家は11日、「オバマ政権の中東政策に不満なアラブ首脳らが肘鉄砲を食わせた」との見方を示した。

これに対しホワイトハウスや国務省の報道官は会見で「適切な人物が出席する」「首脳出席は期待していなかった」との主張を展開、打撃は少ないとの演出を図った。

ホワイトハウスによると、サウジのサルマン国王は同日、オバマ大統領に電話で欠席をわび、治安や国防を担当する正副皇太子が代わりに出席すると伝達。GCCが地域の脅威に共同で対処する能力の必要性で合意した。

サウジ国王欠席について米戦略国際研究所(CSIS)のジョン・アルターマン上級副所長兼中東部長は「(米)大統領に盾突いても問題ないと考える人々」の事例の一つだとして、米議会演説でオバマ政権のイラン核交渉を批判したイスラエルのネタニヤフ首相になぞらえた。

米ブルッキングス研究所のブルース・リーデル上級フェロー(中東担当)は、サウジは「米国の中東政策に対する信頼の欠如を示す明確なシグナル」を送ったと見る。

特に、核問題でのイランとの「和解」を求める姿勢や、イエメン、シリア情勢での対応に不満を募らせていると分析した。

アーネスト報道官はGCC首脳会議の事前調整でも懸念の表明はなかったと説明。代理出席の諸国からはオバマ氏と会談経験のある治安や国防の責任者らが出席するとして、米国との安保協力の深化、近代化を協議する上で問題はないと主張した。国務省のハーフ報道官代行は「全首脳の出席は期待していなかった」と述べた。【5月12日 毎日】
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サウジアラビアの他、バーレーンも皇太子が代理出席すると発表していますが、理由は明示されていません。
また、首脳が健康問題を抱えるアラブ首長国連邦(UAE)とオマーンも代理出席になり、首脳の出席はクウェートのサバハ首長とカタールのタミム首長のみとなりました。

****<湾岸協力会議>サウジなど4首脳欠席 米政権に不信感****
・・・・GCC筆頭格のサウジは近年、イランを巡る対応で、米国への不信感を強めてきた。

2013年に米国は親イランのシリア・アサド政権への軍事行動を直前で回避。反体制派を支援するサウジは失望したとされる。

米欧など6カ国とイランとの核協議でも4月、イランの核開発凍結と対イラン制裁緩和など解決の方向性を定めた枠組み合意に達し、6月末を期限に最終合意を目指している。

サウジなどはイランの核開発を完全に阻止することを求め、経済制裁緩和などで安易な妥協をしないよう強く求めている。

ヨルダン大学戦略研究所のムーサ・シュテイウィー所長(国際政治)は「湾岸諸国には、イランが核武装や中東での影響力拡大といった野心を抱いているとの疑いが強い。単に米国が対イラン政策を説明し、湾岸諸国に納得を求めるだけなら、国王自ら行くまでもないと判断した可能性がある」と指摘している。【5月12日 毎日】
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もちろん、イエメンでの空爆停止期間(12日から5日間)が始まるといった国内事情はあるにしても、異例の「ドタキャン」には強い不満がこめられているように思われます。

ロシア・アメリカ、それぞれの指導力の低下、中国の台頭・・・という国際状況を受けて行われるケリー米国務長官のロシア訪問です。
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