
(リベリア内戦時の少年兵を描いた映画「ジョニー・マッドドッグ」(2008年フランス映画) 実際に元少年兵だった子供たちを使って撮影されたものですが、盲目的に殺戮に身を投じるその内容は衝撃的です。)
【忘れ去られた人道危機】
文字通りアフリカ大陸中部に位置する中央アフリカでは、一昨年来、イスラム武装武装勢力と政府軍の戦闘、フランス軍の介入、キリスト教系女性大統領の誕生、キリスト教民兵による報復・・・といった内戦による混乱が続いていますが、一応、昨年7月に戦闘を続けていたイスラム教徒とキリスト教徒の武装勢力が停戦に合意した形にはなっています。
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今回の紛争は2013年3月、主にイスラム教徒からなる武装勢力連合「セレカ」が首都バンギを制圧し、フランソワ・ボジゼ大統領(当時)を失脚させたことが始まりだ。
これに対し、キリスト教徒を中心としたボジゼ氏支持派の「反バラカ」と呼ばれる民兵組織が台頭し、イスラム教徒に復讐。以降、双方が虐殺、レイプ、略奪と血みどろの報復合戦を繰り広げた。
セレカはおおむね中央アフリカの北部と東部の出身者と、隣国のスーダンとチャドからやって来た主にイスラム教徒の戦闘員から構成されている。
一方の反バラカは、主にボジゼ氏の出身部族で、中央アフリカの中部と南部出身のムバヤ人から構成されている。
しかしセレカ、反バラカのいずれも、お守りや魔除けを使うなど精霊信仰が強く、専門家たちはお互いの憎悪は宗教ではなくもっと何か深いものに根差していると考えている。【7月29日 AFP】
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内戦の混乱は、必ずしも宗教対立という訳ではなく、その根底には「悪いガバナンス、民主主義の軽視、腐敗、人権侵害」がるという指摘(これは、中央アフリカに限らず、どのような宗教対立と言われている事態にも言えることですが)があること、国際的な関心が低下するなかで、多くの子供たちが武装勢力に少年兵や使用人として使われていることなどは、2014年12月27日ブログ「中央アフリカ 停戦後も続く混乱 “宗教対立”の背後にあるもの すべての子供たちに教育機会を」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141227 でも取り上げました。
前回(昨年末)ブログ段階でも、すでに国際的には忘れ去られた紛争の感がありましたが、最近はまったくメディアで中央アフリカ情勢が報じられることはありません。
しかし、混乱がおさまった訳でもないようです。
****忘れ去られた人道危機:中央アフリカ共和国****
2013年12月に中央アフリカ共和国で戦闘が勃発してから、これまでに約90万人が家を追われた。周辺国に逃れた難民は46万人、中央アフリカ国内で避難している人数は43万6000人である。さらに中央アフリカ国内では270万人が人道支援を必要としている。
中央アフリカ国内と周辺地域への支援計画は大幅な資金不足に陥っており、中央アフリカ国内での支援は必要額の14%、周辺地域への支援は 必要額の9%しか集まっていない。
クレル・ブルジョア緊急援助調整官は「中央アフリカで起きている危機を、世界から忘れ去られたままにしてはならないのです。現在集まっている資金では避難している人々を保護し、必要最低限の支援を行なうことさえままなりません」と訴えた。
中央アフリカの中部での武装勢力同士の衝突により、多くの人が家に帰れない状態が続いている。
政治的移行期にあたる中央アフリカでは、法改正や秩序回復への取り組みが行われており、これによって帰還出来た人もいる。
UNHCRとパートナー団体は、中央アフリカ周辺4ヶ国(カメルーン、チャド、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国)に避難している難民に必要最低限の支援物資を届けるために苦戦している。
UNHCRは難民登録、安全な場所への難民の移送、難民の保護活動、緊急支援物資の配布などを行っている。しかし、資金不足により教育支援といった重要な支援活動は出来ていない。
リズ・アフアUNHCR難民問題地域調整官は「国際社会は中央アフリカで起きている危機を忘れてはならない。これまでに既に多くの取り組みがなされており、資金不足を理由にこれらの活動を中断するのは難しい」と述べた。
今後中央アフリカでは、平和構築のプロセスおいて重要な会合と選挙が控えている。5月に開催される「和解についてのバンギフォーラム(Bangui Forum on National Reconciliation)」では全ての政党が一同に介し、政治的な議案や治安の回復について話し合われる予定だ。
また8月には総選挙が行われるが、国内避難民、難民がいかにこの選挙に参加するかが重要課題である。
ブルジョア緊急援助調整官は「緊急人道支援に従事する一方で、パートナー団体にも協力を仰ぎ、避難している家族の生活再建にも力を入れている。また、今後犯罪を罰するための法整備強化もパートナー団体と共に行っていく」と述べた。【4月27日 UNHCR】
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【少年兵解放で合意】
こうした混乱が尾を引く状況で、駐留フラン軍兵士による食料と引き換えにした児童性的虐待という忌まわしい事件が報じられています。
****中央アフリカ、児童性的虐待の仏兵士に「法的措置」へ****
中央アフリカ共和国は、同国内の避難民キャンプで、食料と引き換えに子どもたちを性的に虐待した疑いが持たれているフランス軍の兵士らに対し、法的措置を取ることを決めた。同国司法相が6日、発表した。
アリスティド・ソカンビ司法相は、「法的措置が追求される。これらは、極めて重大な行為だ」と述べた。また、対象はフランスではなく、個々の兵士だと強調した。
最年少者はわずか9歳を含む数人の子どもたちの訴えによると、同国に平和維持部隊として派遣された兵士の14人が、食料と引き換えに、子どもたちに性的虐待を加えたという。
内戦によって引き起こされた武装勢力同士の衝突を受け、中央アフリカでの秩序回復にあたるアフリカ連合の平和維持活動部隊を援助するため、仏軍部隊は2013年12月から、同国で展開している。【5月7日 AFP】
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“中央アフリカに平和維持活動の部隊を送った国連が、国連児童基金(ユニセフ)の協力も得て現地で聞き取り調査をしたことで判明した。内部情報を得たという英紙ガーディアンによると、被害を受けたとされる児童には孤児が含まれ、10歳に満たない子どももいる模様だ。”【4月30日 朝日】とも。
当然ながら許しがたい犯罪行為であり、厳しく追及されるべき事件です。
ただ、児童問題という点では、中央アフリカには遥かに大きな問題が存在しています。
少年兵や使用人、あるいは性的奴隷として武装勢力に利用されている多数の子供たちが未だに解放されずにいるという問題です。
これを放置して、児童性的虐待を云々しても偽善でしかありません。
その少年兵問題についても、ようやく動きが報じられています。
****中央アフリカで少年兵解放へ 最大1万人か****
武装勢力どうしの戦闘が続く中央アフリカで、主な8つの勢力が少年兵などとして利用してきた子どもたちをすべて解放することで合意し、その数は最大で1万人に上るとみられています。
中央アフリカでは、イスラム教徒とキリスト教徒との対立を背景に多くの武装勢力が激しい戦闘を続けています。
こうしたなか、戦闘の停止を目指して首都バンギで開かれた会議で、5日、主な8つの主要な武装勢力はそれぞれの支配下に置いてきた子どもたちをすべて解放することで合意し、その数は6000人から1万人に上るとみられています。
子どもたちは少年兵として戦うことを強制されたり使用人として働かされたり、さらには性的な虐待を受けていたということです。
各武装勢力はこれから子どもたちの解放に向けて具体的な日程を決めることになり、ユニセフ=国連児童基金は肉体的にも精神的にも傷ついた子どもたちが社会に復帰できるよう国際的な支援を呼びかけています。
中央アフリカでは長引く戦闘によって460万人の人口のおよそ半数が深刻な貧困状態にあるとみられていますが、国際的な関心は低く、国連が各国に資金援助を求めてきたものの十分に集まっていません。【5月6日 NHK】
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“本当にすべての子どもたちが解放されるかは、不透明さが残る”【5月6日 朝日】とも。
【低い国際的関心】
もちろん、国際的な支援を必要としている人々は世界中にあふれています。
****世界の国内避難民3800万人に 前年比470万人増****
国際NGO「ノルウェー難民評議会(NRC)」は6日、紛争などで自宅を追われた国内避難民(IDP)の数が、2014年に世界で3800万人に達したとする報告書を発表した。「ロンドンとニューヨークと北京の人口を足し合わせた規模」だという。
最も多いのはシリアで、人口の4割相当の760万人。続いて、南米コロンビア(604万4200人)、イラク(337万6千人)、スーダン(310万人)、コンゴ民主共和国(275万6600人)、パキスタン(190万人)、南スーダン(149万8200人)、ソマリア(110万6800人)、ナイジェリア(107万5300人)、トルコ(95万3700人)が上位を占めた。東部で紛争の続くウクライナは「少なくとも64万6500人」とした。
前年比では470万人増えた。最多は220万人増のイラクで、南スーダン、シリアが続いた。
NRCのヤン・エグランド事務局長は国境を超えて活動する過激派組織「イスラム国」(IS)などの活動を挙げ、「一国の問題から地域の問題になるというとても危険な傾向がある」と述べ、国際的な取り組みを求めた。
報告書は、NRCが中心となり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や欧米の国々などの支援を受けて作成された。【5月7日 朝日】
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しかし、支援の対象が多いから・・・というのは、中央アフリカのような国が“忘れ去られて”いい理由にはなりません。
より恵まれた状況にある国々は、余った資金で慈善を施すのではなく、身を削ってでも同じ時代を生きる人々への支援の手を差し出す必要があり、政治家はそのことを自国民に理解してもらう努力をすべきでしょう。