孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  難航する連立協議 政治混乱に乗じたテロも

2010-07-28 23:29:21 | 国際情勢

(第1党となった世俗派政党連合「イラキーヤ」を率いるアラウィ元首相 “flickr”より By ZAMMILIAT ALNUSSIMIA ALSULTANIA
http://www.flickr.com/photos/a35m40/4392396179/)

【手間のかかる民主主義】
民主主義というものは、なかなか手間のかかる厄介な仕組みでもあります。
選挙で民意を問い、その民意を反映した政権が政治を行う・・・ということですが、国民の考え・立場もさまざまですので、支持が分散し、ひとつの政治勢力・政党だけでは政権が担えないことも、ごく普通に出現します。

そこで「連立」ということになるのですが、これが厄介です。
オランダ語圏とフランス語圏に分裂したベルギーでは、4月に連立内閣が崩壊。6月に総選挙が行われましたが、連立交渉が難航しており、新政権は10月中旬まで成立しない可能性があります。当面は、4月に崩壊したルテルム政権が新政権が成立するまで暫定政権として存続する形になっています。
なお、ベルギーは今年後半はEU議長国となっていますが、EU大統領はファンロンパイ前ベルギー首相であることもあって、暫定政権でも支障はないようです。【7月13日 オックスフォード・アナリティカより】

6月の総選挙で右派の自由民主党が初めて第1党に躍進したオランダでも連立協議が難航し、新政権発足のめどが立たない状況に陥っています。連立合意の障害になっているのが、第3党に急伸した極右政党・自由党です。第1党の自由民主党と第3党の自由党だけでは過半数に達しませんが、他の主な政党は、イスラム移民排斥などを主張している自由党との連立を拒否しています。
そこで、自由党をはずした連立も模索されていますが、これも政策の違いでなかなか進展していません。
一方、第3党に躍進しながら政権の枠組みから外されそうな自由党・ウィルダース党首は「右翼外しは民意に反する」とこうした動きを牽制しています。【7月25日 朝日より】

ネパールでは、制憲議会で約4割を占める第1党・ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)主導の連立政権が09年5月に崩壊。その後、第3党の統一共産党出身のネパール氏が非毛派各党の毛派抜き連立を率いていました。
憲法制定には議会の3分の2の賛成が必要で、毛派の協力が不可欠ですが、毛派軍の国軍編入などをめぐり毛派と他政党の溝が埋まっていません。
今年5月、主要与党は毛派との間で、任期切れとなる制憲議会の任期延長の見返りに、ネパール氏を辞任させることで合意。(ネパール氏本人はこれに反発していましたが、最終的には辞任に同意しました。)
後任首相については、毛派のダハル書記長と、ネパール会議派のパウデル副総裁による決選投票が実施されましたが、両候補とも当選要件の過半数を得票できず、8月2日に再び投票が行われます。
次期首相が決まるまで、ネパール氏が暫定的に執務を続けます。【6月30日 朝日より】

組閣はできていても、タイのタクシン派反政府勢力と反タクシン派・現政権との対立が根深く、政治が機能マヒに陥っている事例もあります。
こうした事例を眺めていると、日本の衆参のねじれ現象などは、まだ対処しやすい方ではないかとも思えます。

【カギを握るサドル師、第1党「イラキーヤ」と会談】
選挙は行われたものの、その後の組閣ができないもうひとつの事例がイラクです。
3月に行われた国民議会選挙で、マリキ首相率いる与党は、あらうぃ元首相率いる世俗派政党連合「イラキーヤ」に及びませんでした。しかしマリキ首相は連立工作で政権維持をはかっています。
そのマリキ首相の連立工作も、「イラキーヤ」による政権構想も問題が多く、いつ果てるともしれない連立協議が延々と続いています。

****イラク第一党のアラウィ元首相と会談 サドル師、次期政権のカギ****
イラクのイスラム教シーア派指導者、ムクタダ・サドル師は19日、シリアの首都ダマスカスで、イラクの世俗派政党連合「イラキーヤ」を率いるアラウィ元首相と会談した。3月のイラク国民議会(国会、325議席)選挙で、イラキーヤは第一党となる91議席を、サドル師派は第三党となるシーア派統一会派「イラク国民同盟(INA)」70議席中39議席を占めた。
同議会は、6月14日の初招集後、30日以内に大統領と国会議長の選出を求める憲法の規定を守れなかった。憲法では、大統領を選出後、大統領が第一会派から首相を指名し、組閣を要請することになっている。
再選を目指すマリキ首相の宗派横断的政党連合「法治国家連合」は国民議会選で第二党となる89議席を獲得。INAと統一会派を組むことで合意したが、過半数の163議席に4議席足りない。また、INAに属するサドル師はマリキ首相の続投に反対し、別の次期首相候補を立てるよう求めている。
サドル師が表だって次期政権交渉をアラウィ元首相と行ったのは今回が初めて。サドル師の関与で、マリキ首相の再選は難しくなり、イラキーヤが何からのかたちで新政権に加わる可能性が高まった。【7月23日 オックスフォード・アナリティカ】
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会談するなら選挙直後に行えばいいのに・・・せっかちな日本人としては、そんな感じもします。

【イラク:政治的混乱に乗じたテロ攻撃】
どの国も、政権がすぐに成立しなくてもいい・・・ということはありませんが、とりわけイラクは本来そんな余裕はない国です。
復興に向けた課題は山積していますし、何より、一時の宗派対立・内戦状態は脱して安定してきたとは言え、いまだにテロが横行し、宗派対立に火がつく危険も残っている国です。
アルカイダなど反政府勢力も、こうした政治の混乱を狙って、テロ攻撃をしかけてきています。
“イラク全土における今年5月のテロ事件は595件だった。2007年5月の3930件、08年5月の2335件、09年5月の1040件から大幅に改善しているが、今年は1月から4月まで、それぞれ618件、576件、810件、637件とほぼ横ばいだ。”【7月10日 オックスフォード・アナリティカ】

最近の主な事件だけでも、首都バグダッド南西部で7月18日朝、イラク政府に協力してアルカイダとの戦いを進めるイスラム教スンニ派の治安組織「覚せい評議会」メンバーらを狙ったとみられる自爆テロがあり、少なくとも39人が死亡しました。

7月22日には、イラク中部・ディヤラ州バクバのイスラム教シーア派モスク近くで自動車爆弾が爆発し、30人が死亡しています。
****イラク中部でテロ、30人が死亡 自動車爆弾が爆発*****
イラク中部・ディヤラ州バクバのイスラム教シーア派モスク近くで21日、自動車爆弾が爆発し、AFP通信によると周囲にいた30人が死亡した。シーア派住民を狙ったスンニ派過激派のテロとみられる。警察が現場周辺でさらに爆弾を2発見つけ、処理したという。
また、イラク駐留米軍は同日、ディヤラ州内で米軍車両が爆弾攻撃を受け、米兵1人が死亡したと発表した。詳しい地点などは明らかにしていない。ディヤラ州ではシーア派とスンニ派の間で争いが続き、米軍とアルカイダ系過激派との衝突も起きている。【7月22日 朝日】
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更に、26日にはイラク中部のカルバラやバグダッドで爆弾テロが相次いでいます。
****イラク:爆弾テロが相次ぎ 31人が死亡*****
イラク中部のカルバラやバグダッドで26日、爆弾テロが相次ぎ、AFP通信によると計31人が死亡した。8月末の駐留米軍戦闘部隊の撤退を前に、イラク治安部隊の能力に改めて疑問符が付いている。
カルバラでは、シーア派の宗教行事のため集まった巡礼者の近くで車爆弾2発が爆発し25人が死亡、68人が負傷した。同派と対立するイスラム教スンニ派の過激派による犯行との情報もある。
一方、バグダッドでは中東の衛星テレビ、アルアラビーヤの支局付近で小型バスを使った自爆テロが発生し警備員や女性職員ら6人が犠牲になった。自爆犯は少なくともイラク治安部隊が設けた2カ所の検問所を通過していた。バグダッドの治安当局者は「(国際テロ組織)アルカイダ系の犯行」との見方を示した。【7月27日 毎日】
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米軍の取り組み、国際社会の関心はアフガニスタンに移り、イラク問題は終わったかのようにも受けとめられていますが、現在のような政治混乱が続くほどに、不安定要素が増していきます。
選挙当時から予想された事態とは言え、撤退を控えたアメリカも早期の組閣を呼び掛けています。

****組閣遅れ「イラクに危機招く」 米副大統領、訪問し警告*****
イラク訪問中のバイデン米副大統領は4日、バグダッドで同国のマリキ首相やアラウィ元首相らと会談し、3月の国民議会選挙後に難航する組閣交渉を早期に終えるよう要請した。AP通信によると、バイデン氏はマリキ氏に対し、組閣の遅れは「イラクに危機を招く」と警告したという。
国民議会選挙ではアラウィ氏率いる「イラク国民運動」が325議席中91議席を獲得。マリキ首相の「法治国家連合」の89議席を上回る最大勢力となったが、連立協議は難航している。組閣は9月にずれ込む可能性もあるが、バイデン氏は駐留米軍の戦闘任務を8月末に終え、駐留規模を5万人に縮小する計画を予定通り進める考えも示した。【7月5日 朝日】
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