孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  労使交渉に関する包括的な法規、不動産税導入 社会の変質を追う法整備

2010-07-23 22:09:32 | 世相

(先富論の先頭を疾走する上海  その街角に目をやれば、ホームレスも物乞いも売春婦もいます。
“flickr”より By cuellar
http://www.flickr.com/photos/cuellar/4404260837/)

【スト権】
中国で最近多発する労働争議については、7月11日ブログ“中国 労働争議多発 「ルイスの転換点」 内需主導経済への転換”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100711)でも取り上げました。
こうした労働市場の需給関係変化に伴う賃金上昇を求める動きは、中国国内の購買力・内需拡大に資するものではありますが、一方で政権にとっては社会不安をもたらすものともなりかねません。
そうした危機感もあってか、労働関係の法律整備が進められているようです。

****労使交渉条例案を審議=採択なら中国初―広東省****
新華社電によると、中国・広東省は21日、ストなど労働争議や労使交渉の在り方などを定めた「広東省企業民主管理条例」案をめぐり審議した。採択されれば、労使交渉に関する包括的な法規としては中国初となる。
条例案の83条項のうち、25条項は賃金交渉に関するもので、交渉は全従業員の5分の1以上の要求に基づき、少数の代表のみが参加できると規定。経営側が交渉を拒否した場合、スト権が与えられる。また、経営側はスト参加を理由に従業員を解雇できないことなども盛り込まれた。【7月22日 時事】
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労働者階級の国でありながら労働者の権利がきちんと定められてこなかったことは、外部の人間には非常に奇異に映りますが、労働者階級の社会なのだから欧米のような労働争議などは本来ありえない・・・という前提に立てば、労使交渉に関する法律など必要なかったのでしょう。
しかし、実態は欧米・日本同様の、あるいはもっと劣悪な労働環境での企業活動が行われている訳ですから、実態に即して考えれば、遅きに失した法整備でしょう。
政権側としては、労使関係のトラブルが拡大して社会不安につながるのを阻止したいという思惑でもあるのでしょう。

【資産家層 やがて大地主も】
もうひとつ、中国社会の実態に即した法整備の動きが報じられています。
****中国、2012年に不動産税を導入へ=地元紙****
中国の毎日経済新聞は、中国政府が2012年に不動産税の課税を開始すると報じた。まず一部の都市で試験的に導入するという。
財政省のセミナーに出席した関係筋の話として報じた。
全国一斉に課税するのは難しいため、一部の都市で先行導入するという。
先行導入する都市の名前は不明だが、上海市は先月、不動産税の導入計画を中央政府に提出している。
中国政府は、不動産市場の過熱を抑制するため、規制の強化を進めている。【7月22日 ロイター】
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この「不動産税」については、これまでも次のように報じられています。
****一部都市で不動産税を試験導入へ―中国*****
2010年3月29日、中国国土資源部・土地利用司の冷宏志副司長は国務院新聞弁公室主催の会見で、中国の一部都市で近く「物業税」(不動産税)を試験的に導入すると述べた。
同税は、土地・家屋などに課税するもので、現行の土地の所有・賃貸に絡む「房産税」、不動産譲渡益に課する「土地増値税」、土地使用権の使用料に対する「土地出譲金」を一本化する。固定資産税のように不動産の価額によって決められる。不動産購入時の税負担が増すことから、不動産市況コントロールの「特効薬」と期待される。【4月2日 Record China】
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****不動産引き締め策近く発表 、不動産税を導入へ―上海市****
2010年5月12日、上海市政府が今月中にも、不動産税の導入を中心とした市況の引き締め細則を発表する見通しであることを、中国各メディアが伝えた。
複数の住宅を保有する資産家層を対象に、自己居住用ではない物件に不動産税を導入。営利目的で保有されている住宅に関して、基準価格の1000分の8相当の税率が適用される見込み。不動産価格が上昇すれば課税額も上がるので、投資目的の不動産購入者に大きな影響を与えそうだ。
課税対象地区は、市況の高騰が目立つ浦東区、閔行区、宝山区、松江区、青浦区、金山区に限定されるとみられる。【5月14日 Record China】
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不動産に関する課税が現行全くない訳ではなく、バラバラに存在する各種税を整備一本化するもののようです。
また、対象は資産家層の営利目的の物件のようです。
それにしても、営利目的の不動産を多数保有できる「資産家層」が存在すること自体が、毛沢東時代の中国では考えられないことですが、「向銭看」というか、拝金主義というか、中国の現実です。
より実態に沿った改革を進めるなら、次は貧富の差拡大を防止するための「相続税導入」でしょうか。

そもそも社会主義国中国で不動産売買がどこまで認められているのかよく知りませんが、94年の「住房制度改革」で住宅について建築購入が認められ、その後の改正で、国家の土地所有権以外についてはどんどん自由化されているようです。
また、都市・農村の格差是正策の一環として、08年には「農民の土地使用権に関する売買を認め、使用権を抵当とした融資も可能とする」ことを認める方向が、党の中央委員会全体会議で決議されたそうです。(遠藤誉氏「拝金主義 中国」より)

このことは、「農地の私有化」「大地主の発生」にもつながる改革です。
中国社会は、欧米・日本的資本主義社会に類似した社会に向けて、その変質を加速させているように見えます。
なお、こうした変化のスタートとなった、改革開放を進めた小平の先富論「先に富むことができる人と地域が先に富め」という言葉には後段があって、「先富人たちが、まだ富んでいない人たちと地域を牽引していき、共に富んでいこう」という「共富論」を説いているそうです。
今は先富論だけが独走しているようにも見えますが、経済効果は必ず波及しますので、他の人・地域のレベルも上がってくることでしょう。格差拡大はその過程での一過性の現象・・・でしょうか?

【「高官の家族は殴ってはならないが、一般市民なら殴っていいのか」】
中国社会の「独自性」を伝える記事も。
****治安担当高官の夫人を袋だたき=警官6人、陳情者と勘違い―中国*****
22日付の香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストなどによると、中国湖北省の省都・武漢市で、治安問題を担当する地元高官の夫人が警官6人に陳情者と勘違いされて殴るけるの暴行を受け、重傷を負う事件があった。
事件が起きたのは6月23日。警察、検察などを管轄する省共産党政法委員会幹部(副局長級)の妻(58)が省党委本部を訪れ、警備員に「政法委に行く」と言って正門から入ろうとしたところ、いきなり私服警官に囲まれ、袋だたきに遭った。
警察当局は6人を停職にし、「誤解だった。高官の夫人だとは知らなかった」と謝罪。これに対し、インターネット上では「高官の家族は殴ってはならないが、一般市民なら殴っていいのか」などと批判の声が出ている。【7月22日 時事】
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「高官の家族は殴ってはならないが、一般市民なら殴っていいのか」・・・・しごくまっとうな指摘です。



コメント (1)
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